41 超えすぎた限界
今回で決戦終了です。
前回よりも長く書いてみせる!!
「ガァァァ……。」
風魔は苦しそうにもがき、挙句の果てに大量の血を吐いている。
「……まずいな。」
観戦席で修羅が呟いた。
「十六夜………。」
刹那は十六夜の苦しむその姿を見ることしか出来なかった。
「ガァァァァァァァァァラァァッ!!!」
暴走した風魔が自らの速さの限界を超えて紅汰に急接近してくる。その速度は並の人間の目には止まりもしないだろう。
その姿は魔天結晶で自らを強化している紅汰には見えるが、状況が不利だ。
最初は同時に二つの結晶を発動した紅汰は一分遅れで二つの結晶を使った風魔との結晶強化の効果が切れる一分の差で勝負を決めようとしたが、風魔が暴走したため一変してしまった。
『魔神七炎』を発生させ、黒炎で攻撃しようとしても、風魔の拳が触れただけで、塵になってしまう。
必殺能力の『混沌世界』も暴走した風魔の前では通用しないはずだ。
ならどうやって勝つ?
『魔神七炎』は触れただけで塵となってしまう。
奥の手の結晶はあと五分で切れる。結晶を使っても不利だ。
防刃服は拳の前ではまったく効果がない。
『混沌世界』は風魔には何も効果を発動しない。
頼れるのは紅汰をお兄様と慕う武霊レーヴァテインだけ。
体力、速度、技術、攻撃力、能力、全てが暴走している風魔に超えられている。
いや…まて、超える?
風魔が使った究極紳士結晶は傷の回復と同時に風魔の能力のデメリットを消す効果があったはず。
だが、今の風魔には能力使用のデメリットの症状が明らかに現れている。
その能力とは?……手首を切断されても再生するありえない生命力と、対象者のステータス全てを超低下させる『混沌世界』の中でもステータスが超上昇する康太を上回る速さとパワーで圧倒し、通常の人間ならなら蒸発してもおかしくない炎を食らっても火傷一つ負うどころか熱がりすらもしないその耐久力、風魔の限界を超えている!
風魔がどんな修行をしたかはしらないが、矛盾しすぎている。
少なくとも能力が十以上あるとしか説明しようがない。
だが、魔界神の話では風魔は二つしか能力を覚醒させていない。
なら、人が超える超再生力と世界の創造主を超える力、圧倒的な耐久力、パワー、速さ、それらを全て可能にする能力とは……?
(風魔は自らの限界を超えている……?だからあらゆる限界を超えすぎて暴走した?ということは…)
紅汰はこの結論に二秒で達した。
(風魔の能力は…限界を超える能力!!)
だが、今更能力が分かっても状況は不利だ。
(いや、今の風魔には結晶を使っても限界を超えたデメリットが発生している。つまり、いずれ風魔自身の身体の限界が来る。そうなると、後々やばそうだ。そうなる前に風魔を倒す!!)
突然目の前に現れた紅い風魔の拳が紅汰に迫る。
「こんのぉッ!!」
レーヴァテインを振るい、また右手首を切断する。
そのおかげで風魔のバランスが崩れる。
ついでに黒炎の火球を飛ばし、風魔を十メートルほど吹っ飛ばす。
吹っ飛ばされた風魔は翼を使って空中で態勢を整え、地面に着地する。
切断された右手首が再生する。
さっき気付いたが、切断された手首は再生されると、砂となって消えた。
あれも能力のデメリット効果だろうか。
(お兄様、私に提案があるよ。)
頭の中に話し掛けてくるレーヴァテイン。
(何だ?)
(お兄様の混沌世界は、発動終了時に世界に入った者の出現場所が設定できるの。それをうまく使えば勝てるかもしれないよ。)
(…つまり、俺が一人で混沌世界に入って、即時終了させて俺が出現する場所を風魔の死角にすれば良いって事か?)
(さっすが!お兄様、その通りだよ。)
(なるほどな、ありがとう。いつもお前には助けてもらってばっかだな。今度何か奢ってやるよ。)
(ホント!?じゃあデートしようね!!)
嬉しいのか手元にある紅剣が輝きを増した。
ありがとう、と心の中で呟き、苦しそうに息切れしている風魔を睨み付ける。
「『混沌世界』発動!!」
三度目の世界が黒く染まった。
そして、再び世界を終了させる。
頭の中で想像する。風魔の背後。
目を開ける。紅汰の視界には風魔の背中が映った。
渾身の力を込めてレーヴァテインを振るう。
ザシュッ!!見事に紅剣は風魔の背中を斬った。
風魔の背中から血が噴出す。
風魔は振り向き、翼を使って飛翔した。
「『混沌世界』!!」
再び、世界が黒く染まり終焉を告げる。
頭の中で再び風魔の背後を創造する。
そしてまた風魔の背後にした。
だが、風魔は飛翔しているため、紅汰も当然空中にいる。
「おらぁ!!」
空中からレーヴァテインを叩きつける。
風魔は再生した背中を再び斬られ、地面に落下する。
そして混沌世界を発動させ、終了させる。
地面に落下し、立ち上がった風魔の前のに出現し、背中を斬る。
「ガァァァ!!」
背中を斬られた痛みに耐え、振り向いた風魔の裏拳。
背中を後ろに反らして回避する。
そのまま後ろに回り、距離をとる。
「ガァァ………ガァ…ガァァァァァァァァァァァァオァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」
風魔の咆哮が周囲の地面を削る。
だが、再生するはずの背中からは血が流れ、怪我のない腕や、額からも流血している。
(風魔はそろそろ限界か!行くぞ、レーヴァ!!)
(頑張って!!お兄様!!)
走り出す紅汰。
魔神七炎の炎をブースター代わりに使い、速度をあげる。
レーヴァテインの切っ先を風魔の胸目掛けて、向ける。
「おおおぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
二人の叫びが重なる。
紅汰は破滅の剣を
風魔は破壊の槍を
お互いの身体に向ける。
リーチの差では圧倒的に不利だろうが、やらなければならない。
親友の為に
そして
紅汰の破滅の剣が風魔の右胸を貫いていた。風魔の胸からさらなる血が流れ出す。
だが、
「なんで………………………何故だ、風魔!!!!」
風魔の破壊の槍は紅汰の身体の何所も貫いてはいなかった。
グングニルの切っ先は地面に向けられていた。
「やっぱり………お前をこの槍で貫くことなんて出来ない。俺を慕ってくれるこの槍で、お前を……貫くなんて…………………ぐぁっ。」
風魔は口から微量の血を吐き出し、紅汰に身体を預けた。
親友が愛用している真紅の槍が音を立てて、地面に落ちる。
紅汰も風魔の身体から紅蓮の剣を引き抜く。
風魔の細い身体が地面に倒れる。
同時に紅汰の意識も途切れた。
ただ最後に聞こえたのは倒れた二人を慕う二人の少女の声だった。
「さて………オペを始めますか。」
観戦席で二人が戦っていたのを見ていた灰色の髪の青年は隣の美女と頷き、彼らの元へと向かった。
「見る所危なそうですが、まぁ僕の『時間を手繰る者』なら、十秒もかかりませんね。あとは、失った血ですけど、魔界神様と魂狩りさんにでも提供してもらいましょう。」
「でもまぁ流石、ウィルさんが見込んだ以上の力がありますね。これは後が面白くなりそうです。フフフ。」