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俺と神様の異世界冒険記  作者: サイトゥー
天と地 運命の夜
111/113

我が憎悪、それは憤怒

そろそろ世界大戦編も終了だと、思います。

多分ですけど。


「奴の『我が憎悪、それは憤怒』は最大級の魔術だ。あれに対抗できるのは聖剣かお前の友達の炎だけだ。だが、今はその両方ともない。」


怒りを男に向け、十六夜はLの隣に並ぶ。彼はこれほどにない以上に怒っている。

大切な人に家族を殺させたからだ。


「ただ、俺の化学魔法にもいくつかあの泥を破るモノがある。発動に時間が掛かるのと、俺達が巻き込まれかねないデメリットがあるが、命中すればあいつは一撃で殺せる。」

「……発動にはどのくらい掛かりますか?」

「……一分。お前が奴の気を引け。発動したら即行でお前はグングニルを連れてここから逃げろ。」

「分かりました……お願いします」

「それと一つ。」

「なんですか?」

「絶対に自分を犠牲にするな。忌羅が魔術まで使って戦った理由を考えろ」

「…………はい」

「よし。行くぞッ!」


Lは腰の魔法剣ロキを鞘から抜刀する。十六夜は地面を蹴って男に接近する。


地面から黒い泥が飛び出し、十六夜に襲い掛かる。が、十六夜の隣を何かが通ると黒い泥はふっ飛ぶ。背後からLが魔法で援護してくれているのだ。


勢いが止まってしまった十六夜を抜かして、Lが男に接近。襲い掛かる泥を華麗に回避し、ロキを男に叩き落とす。

しかし、泥が刃へと変形しロキをLの手から弾き飛ばした。ロキは弧を描いて、泥の池の前に突き刺さった。

後退しようとするLに泥が襲い掛かるが、彼の背中を十六夜が引っ張り、泥の攻撃範囲から逃れる。引っ張られたLはおまけで手袋から魔法を発動。鋼鉄の槍が男に放たれる。

しかし、鋼鉄の槍は地面から現れた泥に掴まれると吸い込まれ、地面へと消えた。

十六夜がLの襟から手を離すと、Lはバク転し両手の手袋から再び鋼鉄の槍を数本放った。槍はまた、泥に掴まれると地面に沈んでいった。


「そろそろだ!離れるぞ!」


Lの合図で、十六夜はグングニルの元へと走り出そうとするが、足が動かない。足元に泥が絡み付いていた。しかも、その泥は背後から十六夜とLの足を掴んでいた。


「フフッ……風魔さん、足元がお留守ですよ。」

「グングニル!?」


グングニルの服の袖から泥となり二人の足を掴んでいた。


まずい。十六夜は能力で飛んでLとグングニルをこの場から離そうと考えるが、今度は腕をも拘束され、身動きが取れなくなってしまった。


「忘れたのか?グングニルは俺の命令で動く。グングニルを敵と見なさなかった貴様達のミスだな。」


男の嘲笑にも、Lは余裕の笑みで答える


「ミス?ハッ、ミスを犯したのはテメェだ。俺を誰だと思っている?次にお前は『俺がミスを犯すはずが無い。俺は完全なる神だ』と言う!」

「俺がミスを犯すはずが無い。俺は完全なる神だ……ハッ!?」


Lの笑みがさらに深くなる。男は僅かに動揺したようで、数歩引く。


「馬鹿が。完全なんてこの世にはねぇよ。お前が犯したミス、それはたった一つ!この俺は、最初から最後まで全ての行動を計算しているということだ!くらってくたばれ!」


泥に弾き飛ばされたロキが光を発し巨大な魔方陣を組み上げる。どうやら、間に合ったらしい。しかし。


「あの、俺達はどうやって逃げるんですか?」

「考えるな。信じろ」

「何をですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」


十六夜の叫びは、発動した化学魔法の轟音でかき消された。五感の全てが遮断された。











一帯を超爆発が覆った。付近の木々は吹き飛び、燃え、消えた。



一帯が灼熱地獄と化した山で、彼らは立っていた。


「し、しぬかと思った…………!!」

「だろ?我ながらよく魔方陣の構成を考えたと思う。作るのに三分掛かったぜ。」


十六夜とLはあれだけの爆発に巻き込まれながらも、無傷だった。

何故なら、二人の目の前には一人の男性が立っていたからだ。


金色の尾。それだけで分かった。

男性は振り向くと、忌羅そっくりの顔。紅蓮の瞳。

神己修羅がそこに立っていた。


「二人とも、怪我は無いか?」

「はい……!」

「おかげ様でな。助かったぜ。」


修羅はLの魔法が発動した瞬間、二人の前に立ち、何十もの結界を張り爆発を防いだのだ。


「L、お前は私が結界を張ってお前達を守ると分かっていたのか?」

「もちろん。そろそろ来ると思っていたからな。一つ、予想外だったのは俺の最強の部類に入る魔法がお前の結界を十枚しか破壊できなかったことだな」

「我が結界術は母上から受け継いだ最高の防御術。そう簡単には破れぬ」


爆発によって発生した熱波と爆煙が次第に晴れていく。

煙の中から、一つのシルエットが現れる。それを見たLは、動揺せず、舌打ちした。


「おかしいな。命中すればあらゆる物理障壁、防御は意味がない魔法をどうやって防いだ?」

「では私の結界はなんなのだ。」

「お前の結界は物理というモノには含まれない。神力による結界であらゆる魔法攻撃、物理攻撃を無効化する神だけが成せる技だ……」


Lの視線はまっすぐシルエットを見つめている。その表情には、十六夜同様の怒りが露になっていた。


「イチイバルがあればあのクズを地獄に叩き落してやるのによぉ……くそが。」


煙が晴れ、シルエットが露になった。

シルエットを見て、十六夜の怒りが最高潮に達した。血液が沸騰するぐらい熱く感じる。


そこに立っていたのは、ボロボロのグングニルだった。彼女の後ろには無傷の男が立っていた。


「神力で構成され膨大な魔力を誇る創界の鍵であるグングニルに、修羅と同じ結界を張らせて身を守ったか。強度は劣ったようで本人がダメージを受けた、ということだな。」

「テメェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!」


十六夜が消えた。

次の瞬間、一瞬で男の目の前に現れ拳を叩き落した。


男の体から泥が飛び出し、拳を受け止めた。が、泥が十六夜の拳に触れた瞬間ただの泥と化し、地面に染み込んでいった。


「ぁがっ……!?馬鹿なッ!」


反応が遅れたものの、体を僅かに逸らしたが拳は男の右肩を腕ごと削り取った。

泥を使って、高速で後退する男。それを逃さまいと、十六夜は再び一瞬で男の前に一瞬で移動し拳を叩き落す。

しかし、今度は十六夜の足に泥が絡みつき後ろに引きずる。拳は男に届くことなく、十六夜は泥に振り回され地面に叩き付けられた。


さらに泥が絡みつき、何度も地面に叩き付けられる十六夜。


「L!私がグングニルを抑える!十六夜を助けろ!」

「言われなくても分かってる!」


修羅の右手の服袖から黄金の鎖が飛び出し、グングニルの体を拘束する。

その内にLは魔法を放ち、十六夜を拘束する泥を狙う。そのうちの一発が十六夜の腕を拘束する泥をふっ飛ばす。しかし、再び別の泥が十六夜の腕を掴む。

高速で移動する泥を狙うのは困難と考えたのか、Lが魔法剣アマテラスを抜刀し、男に接近。襲い掛かる泥を回避し、魔法の射程距離内に入ろうと走る。


「目障りだ。神の知恵、貴様はここで溺れろ」


Lの足元から、泥の沼が湧き出した。沼から飛び出した手の形をした泥はLを泥の中へと引きずり込もうとする。Lが自らの体に魔法を発動し、彼の体中に防御魔法が発動。彼に触れる泥を弾き飛ばす。しかし、沼に入ってしまったLは沈んでいく。


「Lさん!」


なんとか、泥の拘束を解こうとする十六夜。


「十六夜!俺のことはいい!お前はお前の大切な人を守れ!かつての俺が出来なかったことをな!」

「でも……!!」


抵抗を諦めたLは泥の中へと沈んでいく。修羅が左手の服袖から鎖を出してLの腹に巻きつき、引っ張る。あまりの強さにLが悲鳴を上げる


「痛い痛い痛い痛い千切れる千切れる!!修羅お前も俺のことはいいから速くその鎖を解け俺の上半身と下半身が分離してあだ名が『キング・●ョー』になるからぁぁ!!」

「L!ここで諦めると言うのか!お前は何の為に戦っていたのだ!」

「ウルのために決まってんだろが馬鹿かお前は!」


ついには腰まで泥に沈んでしまったL。しかし、状況に反して彼は冷静だった。


「俺は、ウルに会うために洗っても落ちないぐらいにこの手を汚した!ウルは俺が彼女のために数え切れないほどの命を奪ったことを決して許さないだろう!それでも!俺はアイツを愛している!許されなくてもいい!ただ、もう一度アイツに会いたい!こんなところで死ねるか!俺を誰だと思っていやがるッ!不可能を可能にする男だぞ!」


Lの体がついに首まで沼に飲まれた。修羅の鎖もL自身が剣で切断してしまった。


「修羅!コイツの正体は魔神だ!天界と手を組んでる!目的は闇の皇を復活させることだ!」

「なに!?そういうことはもっと先に言うべきだぞ愚か者!」

「いいから聞けッ!忌羅は死んだ!お前達はこいつを倒せ!」


十六夜がなんとか、拘束を解きLに手を伸ばす。

しかし、Lは手を伸ばさない。


「十六夜!皆を救いたいなら、人間を超越した存在になるんだ!仮面とか着けるんじゃあないぞ!」

「Lさんッ!手を!」

「じゃあな!」


二人に親指を立て、笑むとLの体は完全に泥の沼の中へと沈んでしまった。


「最初から計算していただと?ハッ、馬鹿め。『我が憎悪、それは憤怒』の中で悶え苦しむのも計算なのか?」


男は高らかに笑う。すると、十六夜と修羅の周囲に泥沼が出現しそこから異型の人型の生物が出てきた。


「闇の眷属共よ!九尾を殺せ!」


闇の眷属たちが男の命令で修羅に飛び掛った。修羅はグングニルの拘束を解いて構える。


突如、眷属達が黒い炎に包まれた。

炎は瞬く間に眷属達を灰にした。


「間に合ったか!」


近くの林から紅汰が飛び出してきた。しかし、彼は以前とはまったく違う雰囲気だった。

顔立ちは幼さが薄れ、引き締まっている。

会っていなかったこの数時間の間に、彼にどんな変化があったのだろうか。


「紅汰!悪魔はこの戦争には関係のない話だぞ!」

「いえ、関係があります!魔界に天界が攻めてきました!しかもルシファーが我が憎悪、それは憤怒を使っていました!俺にはよく分からないけど、じいちゃんが関係あるっていうなら関係あります!」

「チッ、しくじったか。使えん悪魔だな。」


男が舌打ちし、紅汰に泥を飛ばす。しかし、紅汰が迎撃に放った炎に触れると蒸発した。


「……なんだと?」

「進化した俺の炎に、そんなものは効かない。よく分からんが、お前が敵でいいんだな」


紅汰が男へと走り出す。その右手には紅い剣が握られている。

地面から泥が紅汰に襲い掛かるが、彼の体から溢れ出す黒い炎に触れると瞬時に蒸発した。


紅汰には能力が効かないと判断した男は、泥を使って風魔を拘束した。


「それ以上来るとこいつを殺す!」


拘束した風魔の首元に、鋭い刃物へと形を変えた泥を突きつける。


「紅汰!定番の台詞だがここは俺に構うな!」

「馬鹿野郎!定番だけどお前を犠牲にできるか!」

「俺の能力なら大丈夫だろ!」

「あ、そっか!」


紅汰の手から巨大な炎が放たれ、風魔と男を包み込んだ。


「あっつぅぅぅ!!思ったより熱い!」

「ぐわぁぁぁぁぁ!?貴様正気かぁー!?」


風魔はなんとか炎から抜け出すも、男は火だるまになって苦しんでいた。

男が苦しんでいる間に、紅汰は接近する。


「くたばりやがれ!」


紅い剣、レーヴァテインが男に振り下ろされる。


「ま、待て!俺を殺せば、あの女も死ぬぞ!」


動きが止まった。あの女とは、グングニルのこと。

紅汰たちには男が嘘を言っているのか検討がつかない。

Lがいればなんとかなっただろうが、そのLも今はいない。


「俺を殺した瞬間、あの女の魂に入り込んでいる我が憎悪、それは憤怒アヴァ・ドゥンを爆発させ魂を粉々に砕けば、あの女は廃人となる!」


男の体を泥が包み込むと、炎に蒸発されることなく男を包む炎を消化した。

男の服が燃え、フードで隠れていた顔が露になった。

黒い髪。濁りきった目。炎で焼かれたにも関わらず、肌は無傷。

その顔は、誰かに似ていた。


「やはり……貴様だったか。」

「久しぶりだな。修羅?丁度良い、忌羅とは話が合わなかったんだ。俺の邪魔をしなければ、Lも返す。どうだ?」

「断る。我が兄弟を殺めた罪を償ってもらう。地獄ではなく、ここでな。」

「やはり、お前もあの寂しい狐のように俺とは分かり合えないようだな。」

「分かり合えぬ?ハッ、元々私は貴様の言葉などに聞く耳もたん。」


会話からして、修羅と男は知り合いらしい。修羅は殺気を男に向けている。


「どいつもこいつも。俺の思いが何故分からない?俺はただ、月詠に会いたいだけなのに。」

「貴様などに月詠は会いたくもないだろうに。失せろ」

「何故、コイツが母さんの名前を……?」


十六夜の疑問に、修羅は一瞬だけ哀しそうに目を伏せて言った。



「その男の名前はアーク…………お前の父親でもあり、月詠の夫だ。」



十六夜の息が止まった。その表情から驚きを隠しきれない。

男はゆっくりと立ち上がり、不気味に笑う。


「風魔のお父様!?」

「俺の、父親……?」

「フフフ……久しぶりだな、息子よ?最後にあったのは、お前がまだこんなに小さい時だったかな……。」

「なんで、だって……親父は、刹那さんが殺したはずじゃ…………」

「確かに、俺は刹那に瀕死の重傷を負わされた。だが、生きていた!俺は天界と手を組み、愚かなる人間共に復讐し闇の皇を復活させる!そして、皇の力で月詠を生き返らせるのだ!!」


男、アークは狂ったように笑う。十六夜に削り取られた右肩を泥が形取り、腕の形を作る。


「皇の復活には創界の鍵であるその女!そして、月詠の復活に必要なものは、十六夜!お前だッ!!!」

「なんだと……!?」

「そのようなこと、私がさせると思うか?」


十六夜の前に、修羅が立つ。修羅に続いて、紅汰も彼に並ぶ。


「アーク、貴様の真意は分かった。だが、貴様が月詠のために忌羅を殺したことだけは決して許さない。決してだ。」

「お前に許される気など元々ない。お前たちはここで死ね。」


アークの足元から泥が湧き上がる。修羅と紅汰も構える。


「風魔、おれたちがあの野郎をなんとかするからお前はグングニルは任せた。」

「へ?ど、どうやってだ?」

「その辺は任せた。」


紅汰が地面を蹴って走る。修羅も一瞬遅れて紅汰に続く。

二人に呆気をとられながらも、十六夜はグングニルの元へと走った。










その頃、Lは『我が憎悪、それは憤怒』の中にいた。


死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね


『我が憎悪、それは憤怒』の力、それはこの能力に飲まれた者たちの負の感情を形とすること。Lの頭の中に響くあらゆる負の言葉も飲まれた者たちの感情だった。

視界は暗黒に包まれている。ただ、五感は機能している。四肢も動く。


「……あーうっせぇなぁ」


指で耳に栓をする。しかし、言葉は止まない。


「うるせぇっつてんだろがっ!!弱者が!」


Lはこれらの言葉に呑まれることは決してなかった。


Lは、一人の女性のためにあらゆる世界を渡り歩いた。

なんでもやった。殺人も簡単にした。

それらは全て彼女のためと、常に自分に言い聞かせてきたからだ。

何処かでL自身もそれは間違いだと気付いている。何千、何億の命を奪って彼女に会っても彼女はLのしたことを決して許さない。

しかし、自分は間違っていると認めてはならない。

認めてしまえば、自分は絶対に彼女には会えない。諦めてしまう。


それでは、今まで奪った命になんと言えばいいのだろうか。


何もいえない。


だから、諦めるわけにはいかない。


ここで終わるわけにはいかない。


そう、終わってはいけない。


「ふざけんじゃねぇぞ!俺はウルに会うために生きてんだ!こんなところで、死ねるかってんだよぉぉぉぉぉッ!!!」



両手にはめた手袋から魔法を発動する。しかし、Lの視界は暗黒のままだ。


「俺に不可能はねぇんだよ!俺はロキ!不可能を可能にする男なんだよぉぉぉッ!!!!」


その時だった。


『流石だね。L』


誰かの声が聞こえた。


瞬間、視界が真っ白に染まった。






「グングニル!いいか!どうやったらお前のその成長期は止まるんだ!?」

「風魔さん、なんか悪意を感じます」

「んなことどうでもいいから!どうやったらお前はその泥から解放されるんだ!?」


十六夜は必死でグングニルを『我が憎悪、それは憤怒』から解放する手段を探していた。


「……私の魂の中にある『我が憎悪、それは憤怒』を破壊するしか……」

「で、それはどうすればいいんだ!?」


グングニルは黙っている。


「グングニル!答えろ!」

「……風魔さん、それでいいんですか?」


グングニルの細い手が、十六夜の頬を撫でる。


「なに?」

「私は忌羅さんを殺してしまったのですよ?しかも、私を助けるために修羅様や紅汰さんまで危険に晒して……私なんか、助ける必要はないんです。」


グングニルの腕を十六夜の手が掴んだ。

十六夜がニコッと笑むと、十六夜はグングニルに十字固めを決める。


「いたたたたたた!!?痛いです風魔さん!それ以上いけない」

「馬鹿が!忌羅さんを殺したのはお前じゃないし、俺や紅汰、修羅さんはお前が大切だから助けるんだよ!」


決め技を解くと、十六夜はグングニルの目をまっすぐ見つめる。


「お前が忌羅さんを殺したことに罪悪感を感じているなら、そいつは償わなくちゃならない!お前は忌羅さんの分まで生きて、俺と結婚して幸せになる必要があるんだよ!そんなことも分からないのか!?こんな当たり前のこともわからねぇのか?」

「おい風魔!さりげなくプロポーズしてんじゃねぇよ!」

「………………私の魂は、あの泥の池の中にあります。ただ、入ってしまったが最後『我が憎悪、それは憤怒』に飲まれて廃人になってしまいます……それでも、行くんですか?」



グングニルが言い終える前に、十六夜は池へと走り出していた。


「行かせるか!お前は月詠の糧となれ!」


アークの足元から泥が伸び、十六夜に襲い掛かる。しかし、見えない何かに防がれ、泥と化す。


「やらせはしない。あの子は、希望なのだから」


アークから、走る十六夜を守るように立ちはだかる修羅。

アークは笑みを作り、泥を修羅へと攻撃させる。

しかし、泥は修羅が張った結界によって弾かれる。


「邪魔を、するなぁぁぁぁぁぁ!!!」


アークの足元から大量の泥が湧き上がり鋭い刃となって、修羅に襲い掛かる。


「させるものかぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


修羅の目の前に何十もの結界が張られ、泥を防ぐ。

泥は幾度と弾かれ、ただの泥と化していくが連続攻撃で結界にひびが入る。

そしてついに結界が壊れた。アークの表情に歓喜が浮かび、泥が一斉に修羅へと襲い掛かる。

その泥は、修羅が新たに張った結界によって弾かれた。修羅の手元には大量の札が握られている。


修羅がアークを食い止めている内に、十六夜は『我が憎悪、それは憤怒』が渦巻く泥の池の中へと飛び込んでいくのであった。








泥の池の中は暗黒だった。しかも頭の中であらゆる負の言葉が叫ばれている。

今の十六夜にとってはただの雑音に過ぎないのだが。

泥の中だから視界も暗いだろうとは思っていたが、これはどう見ても泥の色のせいではない。

ただ、池の奥底に一つの光が見えた。

暗黒の中で小さく輝く光が。


十六夜はその光へと泳ぐ。泳ぎはあまり得意ではない。ぎりぎりで25mが泳げるぐらいだ。しかし、今は『限界突破オーバーロード』で足の筋力を上げ楽々と泳げる。


光のもとへと泳ぐのは簡単だった。数十秒掛かる程度だった。


近付くごとに光は輝きを弱めている。


そして、ついに光の前へと来た。


(!!)


光の中には、大人のグングニルが体を丸めて眠っていた。光を放っていたのはグングニルだったのだ。

時間が経つごとにグングニルが放つ光が小さくなっていく。『我が憎悪、それは憤怒』がグングニル魂を汚染し始めている証拠なのだろう。

そこで十六夜はグングニルが胸元に小さな黒い塊を抱いているのが見えた。

おそらくあの黒い塊がグングニルの魂の中にある『我が憎悪、それは憤怒』なのだろう。


速くグングニルを助けようと十六夜は光に触れた。


バチィッ!!


鋭い電流が走ると同時に、触れた右手の指が焦げた。

激痛にうずくまる。どうやらこの光は触れるとダメージを受けるらしい。


だからと言ってここで諦める十六夜ではない。


覚悟を決める。


今グングニルを救えるのは自分しかいない。

誰もやってはくれない。自分でやらなくては。


勢いをつけて、右手を光の中へと入れる。


先程のとは比べ物にならないぐらいの激痛がきた。

痛い。痛すぎる。いや、痛いというレベルではない。

しかし、弾かれない。

今度は左手を入れる。電流が走るような音と共に自分の両腕の皮膚が焼けていくのを生で感じる十六夜。

涙が滲む。それでも進む。


紅汰との戦い以来あまり使うことを躊躇していたが、グングニルの為だ。

十六夜は『限界突破』でありとあらゆる限界を超える。


髪は腰まで伸び、紅の色に染まる。


思い切って頭を光の中へと入れる。


今度は頭痛がするだけで皮膚が焼けるなどのグロテスクなことはなかった。

ただ、これも長くは持たない。四肢を動かして、前へと進む。


「グングニルッ!」


光の中で叫ぶ。

十六夜の声で眠っていたグングニルの目蓋が、少し開いた。


「グングニルッ!俺だ!」

「…………マス、ター……?」


グングニルが目を開き、十六夜を見た。彼女の目は闇に染まりきった目ではなく、普通の少女の目だった。


「グングニル!その黒いのをこっちに渡せ!速く!」

「…………出来ません。」


何故だ、と叫ぶ前にグングニルが言葉を紡ぐ。


「私は……忌羅さんを、貴方の大切な家族を……殺してしまった……もう、戻れない……」

「何言ってんだ!お前はそれを償う必要があるんだよ!生きろよ!」

「駄目です……私は、誰にも許されない……闇の皇は復活する。私は、世界を滅亡に導いた最悪の罪人です……。」

「俺が全部なんとかする!!お前が手を伸ばせば救われるんだ!グングニル!」


光の中心へと進むごとに痛みが増していく。このままでは能力が暴走してしまう。

手を伸ばす。しかし、グングニルは頬に涙を流したままで動かない。


「いいんです。マスターが私の分まで頑張る必要はありません。私が頑張って、あの男を殺して死にます。」


グングニルの口元に綺麗な笑み浮かぶ。それはいつも見る純粋な少女の笑顔。

恋する相手に向ける、とても眩しい笑顔だった。


「どうか……私のことは忘れて、幸せになってください。貴方には、帰る場所があります」

「………………。」


十六夜の動きがとまった。グングニルも、諦めてくれたと思い笑みが浮かぶ。

瞬間、十六夜の腕が凄まじいスピードでグングニルへと接近し、彼女の肩を掴んだ。

十六夜はなんとか光の中心までこれたが、両腕の皮膚が焼け爛れ肉が見えている。


グングニルの額に頭突きをかます。痛みに悶絶するグングニルの前で思いっきり叫ぶ。


「この馬鹿女ッ!」

「ふぇ!?」

「お前はそんな女だったのかグングニル!?いつも俺についてくる可愛らしい少女だったくせに、なんだその姿は!幼女体形から一気にたゆん女になってさぁ!」

「なっ……なにを言っているのですか!?私は貴方のためを思って……!」

「そんなもんいらんわ!お前がいない世界なんか愉しくない!お前がいて俺の世界があるんだよ!お前がいて皆の幸せがあるんだよ!」

「……それでも、私は許されない……」


十六夜の救いの言葉にもグングニルは何もしない。


彼女は諦めているのだろう。たとえ最愛の人が手を差し伸べてくれても。

いや、もしかしたら迷っているのかもしれない。自分のこの手を取ることに。


「……だったら……」


自分の手をとって、己の罪を償おうという気持ちがまだあるなら。

まだ、終わってない。


「……だったら…………」


自分のしたことが幾ら強制されたこととは言え、彼女は許されないと思っている。

彼女は知っている。命の重みを。


「……だったら………………」


そんな彼女だからこそ、あの笑顔を、あの姿を、あの心を。


俺は誰よりも愛したい。


「……だったら、俺がお前が許す」


世界中の人々が許さなくたっていい。


「世界中がお前を許さないと言っても、俺はお前を許す」


たとえ世界中を敵に回してもいい。定番な台詞だが、不器用な自分にはこれしか浮かばない。


「どんな敵でもお前を許さない、殺そうとするなら、俺はお前を守る」


感覚が失われた腕でグングニルを抱きしめる。


「だからさ、お前は笑っていいんだ。」


「……はいっ!!」




グングニルが抱いていた黒い塊が粉々に砕けた。グングニルの目が生気を取り戻し光となって消えた。上にいるグングニルが我が憎悪、それは憤怒から解放されたということだろう。

同時に、『限界突破』の限界が来た。体中の感覚が暴走を始める。


十六夜は精一杯の力で底を蹴った。


さらに暴走効果で背中から紅蓮の翼が飛び出す。


一気に上昇し、『我が憎悪、それは憤怒』の池から飛び出した。


翼を動かし、着地地点を池の近くに定める。最後の力を振り絞って、足から着地するように態勢を整える。

能力を解いて、着地。凄まじい痛みが足に掛かる。が、今は皮膚が焼けた腕のせいでそれどころではなかった。


「風魔!」

「やったか!」


声を掛ける紅汰と修羅に手を上げて生還を示す。

どれほど時間が経ったかは分からないが紅汰と修羅は特に目立つ傷がないようで安心した。


視界が歪む。受けたダメージと能力の使いすぎで相当な疲労とダメージがある。

着地したものの、ふらつき地面に倒れる。


「マスター!」


倒れる十六夜の体をグングニルが抱きかかえる。霞んであまり見えないが、グングニルの顔はいつも見る少女の顔。生気を取り戻している。大人体形は変わっていないようだが。


「ば、馬鹿な……我が憎悪、それは憤怒の中から汚染されずに脱出するだと……!?」


アークに驚きと同時に怒りが満ちる。目の前に立ちはだかる修羅を無視して、泥を十六夜とグングニルに全面的に攻撃させる。


「もう一度汚染されろ!十六夜、お前もだァァッ!!!」


あまりに突然のことで修羅も紅汰に反応が遅れた。修羅の結界も紅汰の炎も今使っても、十六夜かグングニル、どちらかが確実に攻撃される。


修羅は鎖で二人を引き寄せようとした瞬間、激痛。目の前に血飛沫が舞う。

何が起きたかは理解するまでもなく、泥が修羅の腹部を貫き、左腕をふっ飛ばしていた。

二人に気を取られているうちにアークが修羅の背後を狙ったのだ。

泥が貫いた腹部から体内に侵入。臓器や血管を破壊する。

抵抗すらできず、修羅は地面に膝を着く。


紅汰は修羅が攻撃されたことに気付かず、二人の前に炎の壁を作り出そうとした。

紅汰の体が泥に貫かれた。一瞬で泥に攻撃されたと理解すると全身に炎をまとわせ、泥を浄化。貫かれた傷も高速で再生する。


修羅と紅汰の動きが止まった隙に、泥が十六夜とグングニルに迫る。

十六夜は力を振り絞ってグングニルを後方に突き飛ばした。本当は投げ飛ばしたいが、今の十六夜に彼女の軽い体を投げる力は残っていない。華奢な彼女の体は少しだけ後ろによろめいた。それで充分。あとは自分の体を泥が貫く。

だが、それで死ぬわけにはいかない。まだやるべきことは沢山ある。


限界突破でなんとかしようと能力を発動させようとした瞬間だった。

十六夜の頭に大量の血飛沫がぶちまけられた。


おかしい。と思って、それを見ると十六夜の呼吸が止まった。



見たのは、自分の目の前に立ち、『我が憎悪、それは憤怒』の泥に全身を貫かれた神己忌羅だった。


「忌羅ァァぁァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」


修羅の声でハッとなり、十六夜は声を出す。


「き、忌羅さん!?」

「フフ……わ、たしはあの程度で、死なぬ……ッ!!」


忌羅の背後の空間が歪み、数本の剣が出現。回転しながらアークへと射出される。

回転した剣は泥の防御を突破し、アークの両肩を切断した。痛みにアークが狂い悶える。


「ァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?おのれェたかが狐ごときが俺にィィィッ!!!!」


それを見た忌羅の口元に笑みが浮かぶと、彼は後ろに倒れる。十六夜には彼を受け止める力がないので、忌羅の体は地面に倒れる。

彼の体は全身が泥に穿たれ、ボロボロだった。一部は骨まで抉れて見えている。

それでも、彼は最後の力で十六夜を守りアークに攻撃したのだ。


「忌羅さん!」


地面を這って忌羅の顔を覗き込む。

瀕死の重傷だというのに忌羅は邪悪な笑みを浮かべていた。

血塗れの右手が十六夜の肩を頬に触れる。十六夜もその手を握る。


「すまぬ……あとは、ま、かせ……た……」

「忌羅さん!駄目だ!忌羅さん!」

「……本当に、本当に……月詠に似ている……」


忌羅の目から銀色の涙が流れる。

忌羅の体は本当に剣だ。涙は鉛。骨は鋼。魂は黄金。

忌羅の手元に一本の大剣『孤高なる武神レギ』が出現する。


「そなたに、これを……こんなもの、しかくれてやれるが……我が誇り、だ」


十六夜がレギの柄を握る。

銀色の涙が流れる頬に、透明な液体が落ちた。


「悔いは、ない……私は、もう充分……成した」


目尻から大粒の涙を流す十六夜を見て、忌羅はある女性と重ねた。

何よりも美しく、気高く、そして強い彼女を。


「ただ、悔いがあ、るとすれ……ば……月詠、そなたに……も、う一度……会いたかった……」

「会えますよ!絶対会えます!だから頑張ってください!シーゼさんを呼んできます!」


もう一度、彼女に会ってこの思いを伝えたい。だが、それも今では叶わぬ願い。


「あぁ……そうか…………やっと、分かった……分かったぞ……母上。」


数千年の人生で探し続けた答えが見つかった。

まだ理解し切れてはいないがこれが『答え』。

神己忌羅が幼い頃に母親から言われたこと。



『あのね、忌羅ちゃんとかは時間が掛かっちゃうかもしれないけど、それが『愛』なのよ。私はあの人を愛しているの。だから、私は貴方達を愛しているの。あの人が何処かに行ってもこの思いは変わらないわ。貴方も、愛せる人を見つけなさい』


「……これが、『愛』なのだな……母上」


私は風魔月詠を愛した。誰よりも彼女の傍にいたいと願い、誰よりも彼女のことを想う。

それだけは、どれだけ時が過ぎようが変わることは決してない。


決して…………決して………………して……。


十六夜の頬に触れていた忌羅の手が地面に落ちた。

微かに聞こえていた呼吸音も、もう聞こえない。


ただ、彼の口元にはいつも通りの邪悪な笑みが作られていた。


「…………忌羅さん。」


彼の名前を呼んでみる。


もう、返事はない。


顔面に激痛がきた。後方に吹っ飛ばされる。


「このクソがァァァァァァァァァァ!!!テメェみてぇなクズを月詠が見ると思ってんのかぁぁぁッ!!?」


アークが怒りに任せて忌羅の遺体を蹴る。アークの両腕は泥で再び形成される。


「結局テメェは負け組みなんだよ!地獄の底で鬼と戯れてなァ!ハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!!!」


突如、その辺り一帯の地面から泥が湧き上がる。修羅や紅汰、十六夜の足元が泥に沈んでいく。グングニルはすかさず十六夜に抱きつく。


「テメェら全員『我が憎悪、それは憤怒』に飲まれなぁっ!」

「させるかァァァァァッ!!!」


修羅の叫びと共にふっ飛ばれた腕が高速で生えてくる。しかし、腹部の傷はさらに広まり、口から血の塊が吐き出される。

修羅の両手から鎖が伸び、紅汰と十六夜の体に絡みつく。


「天切紅汰ッ!風魔十六夜ッ!世界は、君達に託された!皆を頼むッ!!アークを殺せッ!」


忌羅が腕を振るって、紅汰と十六夜を空中へと投げ飛ばした。鎖の拘束を解く。

十六夜に抱きついたグングニルも十六夜が投げ飛ばされると、彼同様に空中に投げ飛ばされる。


紅汰が炎の翼を作り出し、二人を脇に抱える。


「修羅、さん…………」


十六夜の視界の中で、修羅の体が何十もの泥の刃に貫かれ、泥に沈んでいく。


「こうなったら、俺があの一帯を焼き払うしか……ないか」


紅汰が一帯を見つめると、舌打ちした。十六夜の霞む視界にもそれは見えていた。

林の中から九尾の女性が飛び出してきた。あれは刹那だろう。

しかし、出てくると同時に泥の中に入ってしまい沈んでいく。


「刹那、さん…………!?」


刹那の体が修羅や忌羅同様、泥に貫かれていく。刹那は血まみれになりながらもアークを睨みつけ、憎しみの叫びを上げる。


「こ、紅汰!下ろせ!刹那さんが、刹那さんがぁ……!!」

「馬鹿!駄目に決まってんだろ!行ったらお前まで飲まれるぞ!修羅さんの行動を無意味にするなって!」

「いいから速く下ろせぇッ!あの人は俺の家族なんだぞ!」

「…………」


紅汰の腕の中で暴れる十六夜だが、力が残っていないためにあまり効果はない。


「なんで、だよ……なんで、黙るんだよ…………!!」

「今行ったら、確実に俺達は殺される。いいか、風魔。お前は忌羅さんや修羅さんの意思を受け継いだんだ。俺もじいちゃんの力を受け継いだ。俺達は、まだ誰にも受け継いでいない。ここで死ぬわけにはいかない。俺達が継いだものは、次へと繋がなくてはいけないんだ。」

「なんだよ…………それ。俺には何も出来ないっていうのか……?」

「そうじゃない。重傷のお前や、グングニルを守りながら戦うのは俺でも難しいって行ってるんだよ…………ごめんな……」


刹那の体が泥の中へと消えていく。グングニルが小さな悲鳴を上げる。


「刹那さん!!!!!!!」


力いっぱいに叫ぶ。刹那は上空を見上げ、十六夜を見ると安心したように笑み、沈んだ。


「なんで……なんで……なんで、なんでなんでなんでなんでなんでッ!!!なんであの三人が死ななくちゃいけないんだッ!間違ってる!こんなのは絶対に間違ってる!あの人たちは、俺の…………家族なのに…………なんで…………なんで神様も誰も助けてくれないだよ!!?」

「それが、世界ってもんだ。俺達は逆らうことはできない。世界の流れだ。」


紅汰の言葉が紡がれるごとに、十六夜の髪が紅くなっていく。


「運命は変えられる。でも、世界は変えられない」

「ふっざけんなァァァァァァァッ!!!」


十六夜の背中から紅蓮の翼が再び出現する。出現の衝撃で紅汰とグングニルはふっ飛ぶ。

ふっ飛んだグングニルを十六夜が抱きかかえる。


「そんな世界も運命も俺は望まない!紅汰が世界を変える気がないなら、俺が!紅汰が帰ることのできる世界に変えてやる!」


グングニルを槍に変える。


十六夜の体中の傷が再生。髪も腰まで伸び、紅蓮に染まる。

瞳の色も忌羅のように真っ赤になる。

忌羅から受け取ったレギを握り締める。


「邪魔はするなよ?」

「するかよ。俺も気が変わった。今のお前なら俺の炎も効かないし、俺の炎はアークに効く。殺れる。」


紅汰の全身から黒い炎が燃え滾る。


お互いに武器を構える。


「最終決戦だッ!!」

今回はLに忌羅に修羅に刹那と色々な人物が消えてしまいましたが、まだ彼らの思いを受け継いだ風魔は生きています。

紅汰も祖父から受け取ったものをもっています。


彼らの戦いはそろそろ最終決戦へと。

そして、十六夜は自分の父親を殺せることができるのか?


次回をお楽しみに。


今回もありがとうございますした。

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