115 天の陰謀
今回は前回に比べて、早くできたかなーと思います。
グロ注意です。
あと、いくつかの話を削除しました。
短かったので、必要がないと思った話だけですが
とある平原
緑に染められたように深い緑の色の草が、風に揺れる平原は二つに分かれた大勢の人々によって埋め尽くされていた。
片方は串刺し公、ヴラド・ツェペシュⅢ世が率いる軍。
ヴラド・ツェペシュ、吸血鬼のモデルとなった人物。戦争で捕虜となった人間を串刺しにして殺したことから串刺し公と異名が付いた伝説の貴族である。
もう片方は狂皇が率いる軍。
狂皇とは龍神神話に登場した生まれつき狂っている皇である。彼が治める国の民はすべて狂ってしまうという伝説もある
しかし、狂皇はロキ神との戦争で彼の策略にはまり封印されてしまったのである。
その狂皇が長い眠りから目覚めたことにより彼の国は復活した。
この二つの国は人間の最高政治機関都市『フロンティア』に向けて進軍中だった。
理由はただ一つ。人間を殲滅するためだ。
幾度と無く戦争を起こし、数々の犠牲のを払ってきた人間。今回の第二次人妖戦争で彼らは人間に対して『愚か』と思ったのだ。
人間を超越した彼らの力の前では科学など無力。フロンティアはすぐに蹂躙される。
が、本来ならば彼はもうフロンティアに到着しているはずだった。
彼らがこの平原で立ち止まっているのは両軍の間に一人の男性が立っていたのだ。
もうすぐ夏だと言うのに長袖の紳士服とシルクハットを身に着け、その片手には紅茶のカップがある。そして彼らに威圧を与えるのが彼の服の色だ。
彼の紳士服は真っ赤だった。血のように紅い。
そしてハットから垂れ下がる真紅の長髪。顔はハットに隠れよく見えない。
その時、ハットから一瞬覗いた紅蓮に滾る瞳が両軍を一瞥した。
両軍の兵士が僅かに動じた。
真紅の紳士服に真っ赤な長髪。ハットの奥に滾る紅蓮の瞳。
その姿は龍神神話を知るものなら誰でも知っている。
敵の返り血で自らを紅く染め、血肉を喰らう最強の紳士。
『紅紳士』
彼はこう呼ばれていた。
龍神神話に登場する狂皇でさえも紅紳士と対峙したことは無いものの、自らのを封印したロキ神の『弟子』となれば簡単に手を出すわけにもいかなかった。
「…………今日も紅茶が美味い。」
紅紳士が紅茶を含みながら呟いた。
紅紳士が両軍の間に立ちはだかり、2時間。紅紳士の存在によってフロンティアへの進軍が予定より遥かに遅れていた。
そこでついに痺れを切らしたヴラド3世が紅紳士に向かって、槍を構えて突進した。
紅紳士はヴラド3世を横目で見やると、呆れのため息を吐き紅茶を飲んだ。
その動作に頭に血が上ったヴラド3世は紅紳士に何千人もの敵の体を串刺しにしてきた愛用の槍を突き出した。
鉄がぶつかるような音が平原に響くと、彼の槍は紅紳士の真ん前で停止していた。
槍は見えないなにかに押さえつけられているように少しも動かない。
「……串刺し公、そして狂皇よ。退け。領土が欲しいなら戦いが終わったときにでも、いくらでも手に入る。」
「……何故、戦いが終わったときなんだ?」
狂皇がヴラドの槍を下ろさせ、紅紳士に訊いた。
「……この戦争は、必ず人間に不利益な状況になり終結する。新天界、魔界、そして貴方達でこれからのことを決めることになる。そのときまで、待たれよ。」
紅茶を飲み干すと、紅紳士は懐から水筒を取り出しカップに、水を注いだ。
そして新しい紅茶のパックを取り出し、カップの中にいれ、片手を軽く振った。
すると、カップの中の水が一瞬でお湯へとなった。
「もし、ここで貴方たちが進軍すると言うのならば、私は全力で止めよう。いずれ、コタロー様や平良様も来るだろうが、その前に終わっているだろう。」
狂皇は、うーんと悩み紅紳士を見た。
顔がまったく見えず、しかもヴラド3世の槍を何もせずに止め、知恵の神ロキ神の弟子となれば相当頭が回るに違いない。
さらに、ここで軍が全滅、または半分以上の被害を食らうと、後々のフロンティア進軍に時間がかかってしまう。
「……我々、狂皇軍は退こう。ヴラド3世よ、お前はどうするのだ?」
「…………仕方あるまい。今回は退こう。伝説の紅紳士が相手ではわれらでも苦戦する。フロンティア進軍は、他の者共がフロンティアを落としわれらに利があるならば、それでよしとしよう。」
「そう言ってくれる助かる。では、戦争が終結次第、天界から連絡が来るであろう。その時まで待たれよ。」
両軍は頷き、それぞれ撤退の声を掛けると、さっさと撤退していった。
紅紳士は新しく入れた紅茶を口に含み、安堵のため息を吐いた。
「ふぅ…………師匠のデマ癖がついてて良かった……なんで伝説上の恵みの大賢者と風の如き者がこんな場所に来るんですかー馬鹿じゃないかー。」
ハハハハハ、と紅紳士の、両軍を嘲笑うかのような声が平原に響いた。
妖怪の山 上空
「主!山に結界が張ってあって入れない!」
「突っ込んでください!ルーシャさんのエクスカリバーでぶっ壊しちゃってください!」
妖怪の山に到着したルーシャたち。しかし、結界が張っているため、侵入できなかった。
「待て。今結界を壊しては外にいる人間共が山に殺到する!まずは人間をなんとかしなければならない!」
「じゃあ、グラムさん!焼き払ってください!」
「俺のブレスでは強すぎて結界まで壊してしまう!」
「えぇ!?じゃあ、破壊光線!」
「そんなものは出せない!」
「余に任せよ!」
と、グラムの背中から乗り出し、ネロが地上の人間を見下ろした。
「余がただの皇帝だと思うな!こう見えて能力者であるぞ!」
ネロはグラムの頭をゆっくりと上ると、竜の額を踏んづけた。
「ね、ネロさん?」
「安心せよ。加減はする!」
ネロはしっかりとした足取りで、上空という恐怖にも屈せず、覇気に満ちたオーラを放つ。
「聴くがよい!我が才!そして、万雷の喝采を!『鎮魂歌』!!」
ネロが瞼を閉じ、その口を開いた。
そして歌が始まった。
鎮魂歌、という能力に恥じぬ歌声が空に響き渡った。
その声は、まさに安らぎ。その歌は、安心をもたらす。
皇帝ネロ・クラウディウスの能力、『黄金の万雷』
その力は、いくつかの歌に分かれる。
『鎮魂歌』
その歌声を聴いた者は戦意を失い、一定時間鎮魂歌のことしか考えられなくなってしまう。
この歌の効果範囲はネロの任意で決まる。
『独奏曲』
その歌声を聴いた者は自分以外誰も見えなくなってしまう。
挙句の果て、孤独になり泣き喚く。
効果範囲はネロの任意
『狂詩曲』
この歌を聴いた者は、狂い、奇妙な行動を取ってしまう。
効果範囲はネロの任意。
『幻想曲』
その歌は、生物に意思を与え操る。そして無機物にも
草木に大地、海に川、空。全ての自然はこの幻想曲を歌うネロの思うがままに行動する。
無機物にも意思と生命を与え、ネロの思うがままに動かすことが出来る。
『二重奏』
この歌を聴いた、ネロが『仲間』と認識するものに『力』と『加護』を与える。
と、芸術家であるネロに相応しき能力なのだ。
ネロの歌声にルーシャや藍、そしてグラムまでもが聞き惚れてしまった。
すると、地上の人間達に変化が訪れた。上空からではよく分からないが、龍であるグラムには何が起きているのかが理解できた。
「人間達が武装を捨てている!いまだ!突っ込むぞ!」
グラムが妖怪の山へと急降下していく。
「ネロさん凄いです!ただの皇帝様かと思っていたけど凄い能力ですね!」
「うむ!余の能力はまさに芸術!グラムよ!さぁ、行くのだ!」
と、少し降下したところでグラムは結界に触れた。
特に拒絶されるなどの防御効果はなかったが、強固な見えない壁が山への侵入を阻止していた。
グラムの口から、白銀の吐息が漏れた。その吐息が結界に触れると、結界が溶けるように崩れていった。白銀の龍はそこから、山へと侵入していった。
「今行きますよ!紅汰…………!!」
「ん……っ、おはようございます…………って誰に言ってんだ俺。」
Lが目覚めた途端、彼の体に痛みが走った。
目を開け、体の節々を見てみるが大した傷もなく安心した。
「確か、ジャンヌが禁忌魔法を使ってどーんとなって…………。」
何故こうなったのかを思い出す。忌羅と共に聖騎士ジャンヌ・ダルクを救出しようとしたが、突然ジャンヌが暴れだし、Lの魔法剣を奪って禁忌魔法を発動したのだ。
「…………ッ。とりあえず、もどらねぇと。」
地面から起き上がり、体についた汚れを払い落とす。ウィルに電話しようとしたが、電波妨害されていることに気付き、携帯をしまう。
「忌羅、いんのか?」
相棒の名を呼ぶが、返事がない。爆発ではぐれたようだ。
「チッ……まだ闇の眷属がいるかもな……アマテラスしか剣がねぇ……」
付近を探して、愛用の剣「ロキ」を探すとすぐ後ろの木に突き刺さっていた。
あの爆発の中でも消滅せず、傷一つ付かないのはロキは神の英知の結晶だからだ。
手を伸ばして、ロキの柄を握り引き抜いた。
「いや、待て…………何故闇の眷属がここにいる?」
Lの頭に疑問が浮かんだ。
闇の眷属はこちら側の世界には入ってこれないように天界が管理しているはずだ。
それなのに、何故闇の眷属達はここにいる?
Lは忌羅と戦った、闇の眷属達の言葉を思い出す。
『聖騎士は魔神と契約し、全てを復讐すると誓っている』
『……聖騎士の命令は絶対だが、いずれあの御方は復活する』
『確かに私は処刑され燃やされました。その時、誰かが私を助けたのです。その人の名前は知りません。彼は来るべき復讐の為に私を死の淵から救い、このような姿に私を変えました』
『貴様らは聖騎士の目的の妨げとなる』
魔神?あの御方?
来るべき復讐?
Lの頭がこれまでのことを整理し、結果を導く。
ジャンヌを助けたその彼ってやつは何かに復讐したい。
そのために、ジャンヌを闇の眷属達と契約させた……?
だが、闇の眷属どもは天界の管理によってこちら側には入ってこれない。
ジャンヌを助けた奴は何故眷属達を使った?
眷属達がいう『あの御方』とは?
ジャンヌの目的?
…………。
『我らは聖騎士によって召喚され、復讐の魔神によって力を与えられた』
『神殺しの前では無力だよ』
復讐……神殺し……魔神……眷属が敬意を払う者……。
そのとき、昔ウィルがLにこんなことを話したことを思い出した。
「風魔月詠の夫はアーク。神殺しの魔神って呼ばれてるんだよ」
歯車が噛み合った。
「そういうことか…………風魔月詠……!闇の眷属……!魔神……!天魔神拳……!」
Lは全てを理解した。
闇の眷属の狙い、今回の戦争の狙い、聖騎士ジャンヌ・ダルクの目的。
「全てはクズの天界どもの策略か!!」
Lは怒りで爆発しそうだった。自分にとっては忌々しい存在である天界が関与していると分かれば、ウィルの求める『真実』は確定したようなものだ。
このことを早く修羅やウィルに伝えなければ!
と、そのときLの目の前に白銀の龍が下りてきた。
「こいつは……古龍!?」
魔法剣を構えかけたが、龍には敬意を払うべきと彼の体が告げ、即座に剣を鞘に収めた。
白銀の古龍。龍神神話に登場する破滅をもたらす最強の天災。
その息は大地を灰と化し、その咆哮は海をも割る。
しかし、白銀の古龍は勇者シグルスによって討伐され、創界の鍵である『龍殺しグラム』に封印されたはず。
その古龍が今目の前にいるということは…………。
「やっほー!Lさん!」
「アーサーんとこの妹にシグルスの末裔に、ローマ皇帝!?何故ここにいる!」
古龍は羽ばたきをやめると、地面に降り立った。
古龍の背中から三人の少女が現れる。
「私達は力になりたくてここに来ました!Lさん!紅汰が何処にいるかご存知ありませ「馬鹿野郎!!!」
Lの怒鳴り声が三人の少女を驚かせた。
「ルーシャ!テメェはここにいるべきじゃねぇ!アーサーがどれだけお前が大切なのか分かってんのか!ネロ・クラウディウス、シグルスの末裔、お前たちもだ!この戦争は人間が関与していいもんじゃねぇんだよ!」
「ロキさんだって人間じゃないですか!」
「俺は人間などではない!」
ロキが怒鳴ると、三人が黙った。
「俺の本当の名前はロキ!神の英知を管理する神!俺は大切な人を救うために、この戦争に干渉している!これは俺が何千年もの間待ち焦がれていたことだ!」
「Lさんが、神……?」
「そうだ。俺は大昔、天界で起きた大事件を調査していた時、何者かの策略によって地上に落とされ、大切な女を失った!俺がウィルに協力するのも、お前達を助けるのも、全部俺の大切な女にもう一度会うためだ!」
「私達だって、大切な人のために来たんですよ!」
「そうですよ!乙女の恋心はやばいですよ!」
「やばいのだ!」
三人の気迫にもLは押されず、睨みつける。
「だから、こいつはなんの関係もない人間が…………人間……創界の鍵……」
言いかけたLの言葉が止まった。彼は考え事を始め、何かぶつぶつと呟いていた。
「破壊のレーヴァテイン、神の威信グングニル、王の証エクスカリバー、英雄の証明龍殺しグラム、英知のソロモンの指輪、恵みのイチイバル、精神の氷結の邪眼、知恵の結晶賢者の石…………!!」
突如、何か思いついたのかLは忌々しげに空を見た。
「そういうことか……!分かったぞ!この最悪の戦争の幕切れが……!」
「どうしました?」
「テメェら!気が変わった!俺の言うことに従え!さもないと全員死ぬ!」
Lが三人にずかずかと近寄り、覇気ある目で睨む。
「俺を龍に乗せて修羅のところへ連れて行け!場所は俺が指示する!」
「え?何故、修羅さんのところに……?」
「説明は後だ!早くしないと全員死ぬ!」
「わ、分かりました!グラムさん!飛行準備!」
「とっくにしている。早くしてくれ」
Lの指示に三人が頷き、四人はグラムの背中に飛び乗った。
グラムは咆哮すると、飛び上がった。
「くそっ!となると、もう誰かは奴と戦ってる可能性が高い……おそらくは、忌羅か。」
「な、何がなんなんですか!?説明してくれませんか?」
「……話は、数千年前に溯る。」
Lは三人の前で語りだした。
「天界で児童大量惨殺事件が起きた。俺はその事件の矛盾を調べ、調査していたが、それがばれて、地上に落とされた。その時に最愛の女を失った。そしてだ、俺は仲間の情報でその児童惨殺事件の生き残りであるウィルと接触し、『真実』を探した。しかしだ二千年もの間探し続けたモノは見つからなかった。そこで、ウィルは世界線と呼ばれる世界の流れに一人しか存在しない『天切紅汰』と『風魔十六夜』をこの世界に呼んだ。」
「何故、紅汰と風魔が?」
「天切紅汰、龍神神話に登場する恵みの大賢者『天切平良』の子供であり、魔界神の孫。そして破壊を象徴するレーヴァテインと、英知を司るソロモンの指輪の保持者にして、邪神カオスの力を宿すもの。」
「な、なんだが……中二臭い設定ですねぇ……」
「黙れ。そして風魔十六夜、風の如き者『風魔小太郎』の孫であり、天魔神拳の後継者『風魔月詠』の子供。そして神々の威信を示す神鎚グングニルの保持者。こいつらは、たった一つの世界線にしか存在しなかった。ウィルはそこに目を付け、つれてきた。結果は大当たりだ。あいつら二人がいなければ、今の時間神己刹那と神己忌羅は存在していない。」
「そ、そうなんですか……ややこしいですねぇ…………」
「月詠の死に耐えられなくなった刹那が暴走。一ヶ月前に忌羅と戦って相打ちとなってる、はずなんだ。この世界を除く、全ての世界ではな。だが、現に二人は生きてる。こいつは完全に成功だ。そして今、第二次人妖戦争が始まった。俺はこのクソッタレな戦争の目的が理解できた。だが、打つべき手は打っておいた。あとは、あの二人次第だ。」
Lが眼差しを向けるその方向には、禍々しい何かが感じられた。
しかし、龍はその方向へは向かっていない。
「は、話はなんとなく理解できましたが、一つお聞きしてもいいですか?」
ルーシャが金髪をなびかせ、Lに訊く。
「なんだ。」
「紅汰と風魔は、どうなるのですか……?」
ルーシャの瞳とLの瞳が対峙した。Lの瞳は何を想っているのか、その瞳を受け止める。
「…………知るか。俺が英知を管理する神でも、そこまではしらねぇ。ただ、これだけは言えるぞ。あの二人がこの戦争を止める。止められなければ俺もお前達も全員死ぬ。」
グラムが飛行を中止すると、その真下には先ほど修羅と別れた高台があった。
「ここで俺は降りる。いいか、お前達は天狗の館に向かえ。そこで天魔に妖怪どもを避難させるように伝えろ。もちろん、俺からだとな。」
「ま、待ってください!最後にもう一つだけ!」
藍が下りようとするLを止めた。Lは半分切れ気味に答えた。
「なんだ!五文字以上二文字以内に言え!さもないと無視する!」
「Lさんの大切な女性って……誰ですか?」
「…………………………女神、ウル。じゃあな、恋する乙女ども!」
Lは手を振り、龍から飛び降りた。凄まじいスピードで落下すると彼は、腰の魔法剣から魔法を発動させ着地による衝撃を和らげた。
「修羅!」
着地の衝撃が意外と軽いことに驚き、Lはすぐさま修羅を呼んだ。
しかし、返事はなかった。
「チッ…………思い通りにかいかないか……」
腰の鞘から魔法剣ではなく、ナイフを抜刀した。さらにLの両手が光に包み込まれると、金属製のグローブが装着されている。
「出てこいよ。そこにいるんだろ?」
茂みにナイフを投げると、悲鳴と共に血が待った。眷族ではないらしい。
すると、それを合図にはしていないだろうが武装した四人が現れた。
能力で片手にナイフを出現させ、構える。
「なるほどな、やっぱり天界が絡んでたか。武装と人数から見ると、アークエンジェル(四代天子部隊)か。」
「我が主のため、貴様を殺す。覚悟!」
四人が一斉にLに、向かってきた。
まず一人、赤色の武装をした男が繰り出した両手剣を回避し足で、男の顎を蹴り上げる。蹴り上げの勢いから振り向いて、青の武装をした女性が突き出した槍を紙一重で回避。槍の柄を握り、引き寄せる。女性がLに引っ張られた瞬間、彼女の額にLの頭突きが炸裂。吹っ飛ぶ。後方に跳躍して、黄色の武装をした男性が叩き落す槌を回避。跳躍から、男性の背後に着地してすばやく、ナイフでその喉を掻っ切る。男性の死体を蹴り飛ばして、前方に倒れる青の女性にぶつける。
双剣を舞うように振るう、緑の武装をした男性が突進。双剣のたたき付けを右に回避。その片腕を掴んで、足を掛ける。柔道の勢いで緑の男性を投げ飛ばし、黄色の男性の死体をどけようと奮闘する青色の女性に叩き落とした。
向かってくる赤色の男性にナイフを投擲。ナイフは剣で弾かれる。
横なぎに振るわれた両手剣を後ろに転がって回避。今度は叩き落される両手剣を、両手手のひらで受け止め白刃取り。腕力で両手剣をへし折って、立ち上がる。
剣を失った赤い男性は、拳で勝負を仕掛ける。
まず、赤い男性の左ストレート。片手の手のひらで拳を受け止め、力任せに下方向へと捻った。すると、男性の左手首の骨が粉砕される音が響く。
激痛に一瞬動きが止まった隙をLは逃さず、すかさず脚で男性の股の間の宝玉を蹴り上げた。悶絶する赤い男性。地面に崩れ落ちる。さらにその顔面にLの膝蹴りが炸裂。
後方に吹っ飛び、青、黄、緑、赤の四人と重なる。
ここまでで、僅か三十秒。
「近接格闘術で俺に勝とうなんざ、百億年早い。一度、M●Sをやることをお勧めするぜ。」
Lは唾を吐き捨て、まず、一番上にいる赤い男性の髪を掴み上げた。
「答えろ。テメェらは天界の指示でここに来たな?」
「……き、きさまに答えてたま」
言いかけた男性の顔面にLの拳が直撃した。血が宙を舞う。
「テメェの意思なんざ聞いてねぇ。答えろ、尋問はすでに拷問へと変わっているんだぜ?」
殴ったほうのLの手のグローブから小さな光が迸った。
「このグローブに高圧電流を流した。ほんの一瞬だけ流れるが、目を潰すには充分だろう?」
赤の男性の顔色が青ざめた。それを見て、Lの表情が忌羅のように邪悪に笑む。
「言っておくが、テメェを殺すには脳を開いて、ゆっくりとこのグローブを入れるだけなんだぜ?生きたまま脳を開かれる感想聞かせてくれるなら、お望みどおり。それとも、俺の質問に素直に答えて、最後に殺されるか。さ、どれだ?拒否権聞いたらぶっ殺す。」
「ひっ……ひぃ……は、話したら……助けてくれんのか……!?」
「回答によるなぁ?どうする?賢い選択しないと死ぬより辛い真実に辿り着くぜ?良い回答をくれれば殺すのは最後にしてやる。」
「ひぃぃ……!!お、おれたちは……天界神様のご命令で……!」
「どういう命令だ?」
「お、お前と……九尾の兄弟を抹殺せよ、と……」
「ふぅん……で、他の情報は?」
青い電流が流れるグローブを、赤の男の顔面に近づける。それに比例して男の顔色が悪くなっていく。
「ひぃっ……あ、あと……創界の鍵を持ってこい、と……」
「やはり鍵か。で、闇の眷属を呼んだのは天界か?」
「け、眷属……?し、しらねぇよ!天界神様はお前と九尾の兄弟以外の戦闘は絶対に避けろ、とは申していたが……」
「他は?」
「し、しらねぇよっ!!これでいいだろ!助けてくれよぉぉっ!!」
男は泣きすがるようにLに助けを求める。Lがグローブを赤の男性の顔から遠ざけると、男の顔に安堵の色が浮かぶ。
「そういえば、お前は最後に殺すと言ったな?」
赤の男性が頷く。どの道殺されるというのに喜んでいる。
Lが邪悪に笑んだ。
「あれは嘘だ。」
男性の表情が凍りついた。今度はLのグローブから、蒸気が上がる。
「喰らってくたばれ。化学魔法『怪焔皇』」
Lの超高熱のグローブが赤の男性の顔面に叩きつけられた。
肉が焼ける音と、男性の絶叫が重なる。
「黙れ♪」
超高熱の拳が男性の脳天に叩き落され、再び絶叫が上がる前に、Lの拳が男の頭を粉砕した。嫌な臭いがする。血はすぐに蒸発した。
「はァーい、次ィの方の尋問開始~」
無惨な死体となった赤の男性を無視して、Lはその下に重なる緑の男性への尋問を開始した。
「…………。」
緑の男性は無表情で、Lを見ている。
「じゃあ、まず赤の野郎が喋った以外の情報はあるか?」
「…………。」
緑の男性は口を開かず、無言でLを見つめている。
と、その顔面をLの足が蹴り飛ばす。何本かの歯の破片と血が飛び散る。
「…………。」
それでも、男性は口を開かない。
「おーおー、痛みには屈しないってか。イイねぇ、そういう奴には拷問のプロとしての血が騒ぐぜ。」
今度は男性の頭を踏みつける。
「答えろ。二度目だが、尋問はすでに拷問へと変わっているんだぜ。」
「…………。」
男性はそれでも無言で、Lを睨みつけている。
「……なんだ?俺に情けなんてあると思ってんの?残念、俺はそんなもんお前達に掛けるなら、パンにかけるわ。時間が惜しいが今は情報が大切だ。と、言うわけでレッツ拷問ターイム♪」
そこから、Lの拷問が始まった。
拷問が始まって、僅か三分。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?ひゃ、ひゃなすからやめてくれっ!!」
自主規制なLの拷問方法は、無言を決めていた男性を三分で屈服させた。
「おー三分とはよく頑張ったもんだぜ。で、情報は?」
「さ、さっきウリエル……赤い奴は眷属を知らんと、言ったが……俺は聞いている!」
「おー。じゃあさっさと、な?」
Lの両手には血が付いたナイフ。男の顔は見るも無惨なモノに変わっている。
「け、眷属たちは……何らかの理由で動いている!俺たちは、邪魔はするなと……復活するのを待て、と……天界神様が……。」
「……復活するのを待て…………あの御方……この辺りで……昔……!!」
Lは緑の男性の言葉で、確信したのか。なるほど、という表情で山を見渡した。
とある方向にだけ、凄まじい、吐き気を催す邪悪を感じた。
「へぇ……まぁその辺りは予想できたわ。あ、一つ訊くぞ?」
一本のナイフを男性の肌に近づける。それだけで、男性は悲鳴を上げる。
「魔神、ってのは聞いてるか?」
「ま、魔神……?ま、魔神はとっくの昔に天界が全滅させたはず!生き残りがいるなんてありえない!」
「あっそ。じゃあ、化学魔法『お隣の神砂嵐山さん』
「それ今作っただろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっぉぉぉ!!!!?」
Lが左腕を関節ごと右回転、右腕をひじの関節ごと左回転!けっこう呑気してた緑の男性も、拳が一瞬巨大に見えるほどの回転圧力にはビビった!そのふたつの拳の間に生じる真空状態の圧倒的破壊空間はまさに歯車的小宇宙!
と、そんなことできるはずもなく、Lは普通にナイフで男の首を掻っ切った。
「あーやってみたいなぁ……まぁいいや。はい次。」
三人の死体に重なってまったく身動きが取れない青の武装をした女性に、視線を向けると女性は頑固なる意思が宿る瞳で、Lを睨みつけた。
「言っておくが、俺は紳士でも心優しいジェントルメーンでもない。いくら女であろうと腐った天界の刺客となれば容赦しない。さ、まだ俺がしらねぇ情報を吐きな。どの道死ぬけど。」
「…………誰が貴様などに喋るか。外道め。」
「おーおー勇敢だねぇ。それもいつまで……つ・づ・く・か・な?」
Lがナイフを構えても、女性は顔色一つ変えない。
「…………気が変わった。」
Lはナイフを死体の武装に擦りつけ、血を拭くと鞘に収める。
すると、懐から一つの指輪を取り出した。
「そ、それは……ソロモンの指輪!?」
「の原典だ。分かるか?俺の頭の中にはありとあらゆる英雄、神々、知恵の原典がつまってる。俺の能力『最終戦争』もその大半はそれらの『原典』だ。原典、というのはその元となったものだ。こいつは英知を司る『ソロモンの指輪』の原典。本物の指輪の数千倍の知識がこの中に入ってる。ただし、この原典の指輪は『王』または『神』にしか効果を発揮しない。それ以外がこの指輪を使うと、さてここで問題です。どうなるでしょーか?」
「………………。」
「……答えは、『あらゆる情報量に耐え切れなくなって廃人になる』でした。」
「ッ!?」
「言っておくが、この指輪の中にあるのは『知識』だけじゃない。『力』もあるんだよ。この指輪を対象以外が使用した場合『終わりがないのが終わり』を体験させるようにしてある。意味分かる?」
「…………。」
「それは永遠に真実に到達することは決してない。魂が壊れたことさえも無に戻ってしまうため、『廃人』という真実に到達できず、己の魂の中で何度でも繰り返し永遠に「魂の崩壊」を体験し続ける。その状態に陥ると何も出来ずに魂が崩壊し続けるため、永遠に魂の崩壊による、の苦しみと痛みを受け続け、ついには精神と魂が完全に破壊され廃人となる。それがこの原典が持つ唯一の『対抗』なのさ。」
「………………。」
「やっぱりよくわからないか。じゃ、体験してみな。」
Lは指輪を青の女性にかざした。すると、女性の顔色が急変した。
歯はガタガタと震え、目の焦点もどこに向いているのか分からない。
ついには口から泡を吹き出した。
「苦しいだろ?楽になりてぇなら話せ。」
女性の口は何かを言おうとするが舌が回らないのか、意味不明な言葉を話している。
「……駄目か。流石に駄目だったかなぁ。まぁ、いいや。」
Lは指輪をしまうと、ナイフを取り出し……
「楽にしてやる。」
それだけ言って、Lは女性の喉を掻っ切った。
「ま、あんた達から情報を得なくても充分だったがな。」
四人の死体をそのままにして、Lは修羅を探し始めた。
時間がない。Lは殺した五人に対してもなんの罪悪感も抱かずに、その場から走り去っていった。
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