114 光と影
気が付いたら一ヶ月以上空いてしまいました…すいません…
魔界
「くそっ…………。」
紅汰は自室の壁を蹴飛ばし、窓の外に目をみやった。
風魔たちが危ないと言うのに何もできない自分に腹が立っている。
確かに魔界神の言うことは正しい。これは妖怪と人間の問題であった悪魔である紅汰達が介入して良い話ではない。
いつものことならそんなことはお構いなしに妖怪の山に行くところなのだが、魔界神に言われてはもう仕方がない。妖怪の山に行こうにも自室の部屋には高度な結界らしきものが張られていて、あける事も破戒することもできない。
「風魔…………。」
「さて、ミカエル。どうするのだ?我々悪魔は人間と妖怪の戦争に介入しないのか?」
「このままさ。妖怪の山には修羅に刹那、忌羅と破壊神の子供達がいる。そう簡単にはやられはしないさ。」
「なんだ。この際人間共の大都市を占領してしまうという手もあるぞ?」
「大都市は人間達の最高政治経済都市だよ。占領してしまうと世界中の人間達が混乱する。」
「つまらないな。お前もたまには血を浴びたいだろう?」
「鉄臭くなるからいいよ。」
会議室で魔界神とルシファーによる対話が続いていた。二人の間にある妙な殺気に他の悪魔達は口出しできなかった。
「お前も臆病になったな?」
「そうだね。今は失いたくないものが増えたから。」
「………………。」
ルシファーの双眸が魔界神を捉える。明確な殺意が現れていた。
「ルシファー、貴様魔界神様にどんな目を向けている!」
七つ大罪の一人、ベルフェゴーレが席を立ちルシファーに怒鳴りつけた。
「黙れ。ベルフェゴーレ。俺達悪魔の本質はなんだ?奪い、殺し、与える。この魔王は今はそれらをしていない。ならば、そんな臆病魔王は必要あるまい?」
ルシファーが席を立つと同時に魔界神以外の全員が構えた。
「来い、ミカエル。貴様との決着をつけてやる。」
「やはりアフロディーテの予言は当たったか。ルシファー、君を殺す。裏切りの悪魔として。」
魔界神とルシファーが魔力を放出する。
「皆、ルシュを頼む。部屋の外で待っててくれ。レヴィ、ちょっと来てくれ。」
魔界神に呼ばれ、七つ大罪の嫉妬を司る水色の長髪の美女、『レヴィアダン』が魔界神に近付く。魔界神はレヴィアダンの耳元で囁いた。
「僕に万が一のことがあったら、紅汰に伝えてくれ。『君が僕の後を継げ。73代目魔王に君を任命する』と。」
レヴィアダンの眼が見開かれた。驚愕を隠せないのか、彼女の口元が震えた。しかし、すぐに震えが止まった。
「分かりました……ご武運を。」
一礼すると、レヴィアダンは部屋の隅に下がった
「ククッ、貴様を殺した後は魔界を私が統べる。安心して死ね。」
ルシファーの右手から黒い魔剣が出現した。
魔界神はそれを見て、席を立った。彼の目にはルシファーに対する明確な殺意が表れていた。
「72代目魔王、ミカエル。全力を持ってルシファー、君をこの世から消滅させる。」
魔界神の体に炎が灯る。次の瞬間、部屋全体を紅蓮の炎が囲んでいた。紅蓮のリングが二人の結党場となった。
「この紅蓮の炎はどちらかが死ぬまで消えない。他の者も手出しできない。」
「ククク……良いぞ……こいッ!!我が弟よッ!!!!」
会議室を熱波が襲った。魔界神の体から溢れ出す紫炎がルシファーに襲い掛かった。
「無駄だ」
突如ルシファーの足元から黒い液体が現れ、炎からルシファーを守った。
魔界神はその黒い液体を数秒ほど眺めると今度はリング全体を覆うほどの炎をルシファーに浴びせた。炎が彼の体を完全に包み込むと爆ぜた。ルシファーの体には黒い液体がまとわり付き、彼を炎から守っているのだ。
「やはり、それは『我が憎悪、それは憤怒』だね。ついには闇の眷属までにも魂を売ったか!ルシファー!」
「そうだ!貴様を倒すためなら私はどんな犠牲でも払ってみせる!」
ルシファーが床を蹴って魔界神に接近。彼の手には魔剣ティルフィング。幾多の英雄たちを死に至らしめた魔剣。
魔界神も両手に紫炎の剣を出して応戦。ルシファーが振るったティルフィングを受けとめ、軽々と流し片方の剣でルシファーの右肩を切り裂く。ルシファーは呻き声を上げ、魔界神と距離を取ろうとしたが、魔界神の炎が容赦なくルシファーの体を焼いた。
ルシファーも黒い液体で応戦しようとするが、黒い液体は魔界神の炎に触れ蒸発した。
「何ぃッ!?」
「残念ながらね。僕は闇の眷属たちとも嫌と言うほど戦ってる。『我が憎悪、それは憤怒』の対処法も知ってる。『我が憎悪、それは憤怒』の対処法は魔王の系譜が代々受け継ぐ『炎』だ。僕も様子見だったけど、もう終わりだ。」
ルシファーが歯軋りをする。ルシファーの体からあふれ出る黒い液体が魔界神に襲い掛かるが、魔界神の炎に触れ、すぐに蒸発してしまう。
「馬鹿なッ!?こんなはずでは!こんなはずではぁぁぁぁぁ!!」
ルシファーは血迷ったように黒い液体を飛ばしてくるが、炎に触れて蒸発してしまう。
その時だった。魔界神の体を巨大な影が覆った。
それは五体の竜だった。魔界神の紫炎によって構成された巨大な竜だった。
魔界神が軽く手を振ると、竜たちはルシファーに向かって灼熱の炎を吐いた。
黒い液体が壁となってルシファーを守る。
「ルシファー、終わりだ。」
魔界神の両手に巨大な炎が集う。それをルシファーに投げつけようとしたときだった。
ルシファーが突然笑い始めた
「クククク……ミカエル、それでいいのか?」
「良いよ」
「え」
ルシファーが何か言おうとした瞬間彼の顔面に巨大な紫の炎の塊が叩きつけられた。吹っ飛ばされたルシファーの体は一瞬で炎に包まれた。
「ミカエルゥゥゥッ!!!貴様人の話は最後までキケェェェェ!!!」
炎の中で悶え苦しむルシファーが叫んだ。ルシファーの体に更なる炎が投げつけられ、彼の炎はさらに巨大化した。ルシファーの悲鳴が次第に大きくなっていく。
「問答無用」
魔界神は冷たく切り捨てる。五体の炎の竜が灼熱の業火を吐き、ルシファーの体は真っ黒になっていく。それでもルシファーはもがく。魔界神は自らの兄が焼かれていく姿を殺気溢れる眼で見つめていた。
「馬鹿な!!こんな…全てを統べるはずの、この俺がァァァァァ!!!!認めない!認めてたまるかぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「認めなくて良いよ。君は灰になって消えるんだ。ルシファー。」
ルシファーの叫びが途切れた。もがいていた彼の体は動かなくなった。
そして、高慢なる悪魔は灰となって消滅した。
「残滅すべし、ルシファー。」
二人を囲っていた炎が消え、戦いを見守っていた大罪たちが駆け寄ってきた。
「お怪我はありませんか!?」
「ないよ。皆、心配掛けたね。」
ハハハ、と爽快に笑う魔界神の胸にルシェが飛び込んできた。
「馬鹿ぁ……何やってるのよぉ…」
涙を滲ませた瞳で見上げられ、苦笑い。彼女を安心させるために、頭を撫でる。
「誓っただろう?僕は一生君を守ると。」
「……心配したのよぉ…」
女性とは思えない力強さで抱きしめられ、苦笑いするしかなかった魔界神。
「!!」
突然、魔界神がルシェを突き飛ばした。突き飛ばされたルシェは大罪に受け止められた。
彼女の顔に赤い血が飛び散った。
「ぐっ……ぁっ!?」
魔界神の胸を黒い液体が貫いていた。
「魔界神様!?」
魔界神の胸を貫いた黒い液体はすぅっと引いていき、ルシファーの灰へと戻っていった。
「ぐぁ…っ…れ、レヴィアダン…!」
「魔界神様!!」
魔界神に名前を呼ばれた大罪レヴィアダンは魔界神が伸ばした手を握った。魔界神が笑むと彼女の手に紫の炎が付いた。
「その炎で、扉の結界を破れ…ッ!そして……伝えるんだ、紅汰に…ッ!!!」
「魔界神様!しっか「行けッ!!!行くんだッ!!!!」
後ろによろめく魔界神はレヴィアダンに怒鳴ると、後ろを振り向きルシファーの灰を見つめた。レヴィアダンは彼の背中に一礼し、紅汰がいる部屋へと駆け出した。
朦朧とする意識の中でゆっくりと魔界神はルシファーの灰へと近付いた。
七つ大罪の嫉妬を司る悪魔レヴィアダンは必死に走った。自らの主君の命を果たす為に。
その時、何故か昔のことを思い出した。普段嫉妬しかしない根暗な悪魔だと周りに言われていたころ、レヴィアダンは魔界神に聞いてみた。
「私は、いつも嫉妬してばかりで、暗い悪魔なのでしょうか?」
書類に判子を延々と押す作業をしていた魔界神は顔を上げ笑んだ。
「それも個性さ。嫉妬ができると言うことは嫉妬されている人は幸せなんだろうねぇ。君に嫉妬された人は幸せさ、レヴィ。」
あの時言われた言葉がどれだけ嬉しかったか彼女自身はずっと覚えている。魔界神は人を疑うことも貶すこともしない。プラス思考の彼にレヴィアダンはずっと妬いていた。
彼にも大切な人がいることも。
彼がいなくなってしまっては自分は大切な何かを失ってしまうだろう。
そんなことは絶対に嫌なのだ。レヴィアダンはやっとの思いで紅汰がいる部屋の前へと到着し、魔界神から受け取った紫の炎を扉に叩き付けた。
結界が壊れる音がした。扉を蹴飛ばし、レヴィアダンは部屋へと転がり込んだ。
「魔王様ッ!」
「レヴィさん!?どうしました!」
すぐ様駆け寄ってくる紅汰を抱き寄せ、半狂乱で叫んだ。
「魔界神様から伝言ですッ!貴方様を73代目魔界神に任命する、だそうですッ!」
「え!?どゆこと!?」
「魔界神様が今戦っております!お願いです!魔界神様を助けてください!!!!」
紅汰の表情が引き締まった。その顔は何処か魔界神に似ている。
「何処だ?」
「会議室です!」
レヴィアダンが答えると同時に紅汰は床を蹴って、走り出していた。彼の体には小さな黒炎が灯っている。レヴィアダンも、疲れ気味の足に力を籠めて紅汰同様床を蹴って走り出していた。
「ルシファー、僕たちが生まれた時の頃を覚えているかい?」
魔界神はゆっくりと語り始めた。
「一人の神が天界を統べる者が必要だと思い、僕を、大天使ミカエルを作り出した。でも、僕に影を感じた神が振り返ると、そこには君が、大天使ルシファーがいた……あの時、神は分かっていたのかもしれないね。僕たちがこうなる運命にあることを……」
「そうだろうな。俺達は光と影。光を消さなければ影は消えない。故に、俺は光であるお前を消さない限り光にはなれない。」
ルシファーの灰が黒い液体に包まれたかと思うと、そこにはルシファーが立っていた。
「お前がいなかったら俺はいなかった。だが、お前が今もいるから俺の支配者という野望が叶っていない。」
「そうだね。君が堕天するまでは僕たちは幼少期を共に過ごした。僕らは二人で一人なのかもしれないね。」
心臓を貫かれたにも関わらず、魔界神は優しげな目で目の前に立つルシファーを見ていた。
「俺が何故、闇の眷属なんて汚物共に頼ったと思う?」
「僕が創界の鍵の一つ、知恵を司る『ソロモンの指輪』を持っているからだろう?ソロモンの指輪を持つ限り、悪魔は持ち主に従わざるを得ない。つまり君は僕に攻撃できない。だから闇の眷属の力に頼った、だろう?」
「そうだ。ソロモンの指輪さえあれば俺は悪魔を統べ、天界との戦争ができる。」
魔界神は口から血の塊を吐き出し、ルシファーの赤い瞳を見つめた。
ルシファーも魔剣ティルフィングを捨て、魔界神を見つめ返した。
「終わりにしよう。ルシファー、光と影、どちらが生き残るか。」
「あぁ、終わりにする。ミカエル、どの道片方は死ぬ。当然貴様だが。」
「そうだろうね。さっき魔力を持ってかれた。今の僕では炎の竜を作り出すことすら出来ない。」
「では、死ね。」
ルシファーが一歩踏み出し、その手を黒い液体によって鋭い刃へと変えた。ときだった。魔界神がルシファーを抱きしめた。
「いいやルシファー。死ぬのは僕たち二人だ。」
突如、魔界神の体が燃え始めた。炎はすぐに彼の体を包み込み、ルシファーの体にまで着荷した。
「なに!?ミカエル貴様!正気か!!」
「ルシファー!君の力を僕が封じようッ!そして消えるんだ!!!」
ルシファーはもがくが、魔界神の力が強くて抜け出せない。黒い液体で再び魔界神の体を貫き、臓器を掻き混ぜるが魔界神の力は緩まずむしろ強くなっていった。
「あなた!!」
ルシェが叫んだ。魔界神は振り向き、最愛の妻に笑顔を見せた。
「ルシェ、大丈夫だよ…………愛してるよ」
魔界神たちを包み込んでいる炎が段々と激しくなっていった。ルシファーは抜け出そうと必死にもがく。
「おのれミカエル!!放せッ!放せェェェェッ!!!」
「終わりだ。また……縁があって君が高慢ではなく、普通の人として出会ったときは……また、一緒にお酒でも飲もうじゃないか。……さよなら……兄さん。」
暴れまわるルシファーの体を抱きしめ、魔界神は最後の魔力を注ぎ叫んだ。
「鳳凰炎還ッ!!!」
彼らを包み込んでいた炎が巨大化し、巨大な火柱を作り上げた。その炎はどんどん二人の体を焼き、消滅させていった。
(紅汰、あとは任せたよ…)
そして二人の姿は炎によって完全に見えなくなった。凄まじい熱波によって大罪やルシュ達は吹っ飛ばされた。と同時に紅汰が部屋のドアを開けて入って来た。
「じいちゃん!!」
紅汰にも熱波が襲い掛かる。しかしまったく熱く感じない紅汰は部屋の中心で燃える柱に向かって駆け出した。他の大罪が紅汰を引き戻そうとするが一足遅く、紅汰は炎の柱の目の前にまで行ってしまった。
「じいちゃん!」
紅汰は柱に触れることもできず、ただ見上げていた。
柱が消えた。火の粉を散らして突如。
柱があったところにいたのは大きな灰と、真っ黒になったルシファーだった。
ルシュがその場に崩れ落ちたのと同時に、紅汰の中で何かが切れた。
「…ルシファァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
紅汰の怒りに反応して、胸にぶら下げているレーヴァテインが巨大化し紅汰の右手に収まる。体中から黒い炎が溢れ出し目の前に立つ悪魔に熱気を浴びせる。
ルシファーの体がふらついたかと思うと、突然顔を上げ炎の柱によって穿たれた空を仰いだ。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハーーッ!!!!!!!」
ルシファーは紅汰を見た。その目は狂ったように歓喜に満ちている。
「どうだッ!これが俺の力だ!俺はついに!ミカエルをーーッ!!!!」
高笑いが止まらないルシファーに、紅汰は巨大化したレーヴァテインを叩き落した。
「な」
ルシファーが驚愕した。彼が避けようとしたときには遅く、彼の体はレーヴァテインが叩きつけられたとこによって発生した凄まじい破壊エネルギーによって跡形もなく消滅した。
レーヴァテインによるエネルギーはルシファーを消し去り、さらには背後の壁までもを吹っ飛ばした。
「…………。」
レーヴァテインが紅汰の意思を感じ取って縮小化し、彼の胸元へとペンダントとなって戻った。紅汰は背後を振り向き、魔界神であった灰の塊を見つめた。
「……。」
何も言えなかった。自分の祖父がこんな姿になってしまっては誰も何も言えないだろう。ルシュですら無言だった。
「……」
床に膝を付いて、灰を手のひらですくい上げた。
灰の山が僅かにゆれた。警戒して、紅汰は背後に飛び退く。
灰の山の揺れが大きくなると、そこから赤い髪の少年が飛び出てきた。
「は?」
少年は赤い長髪に赤い目。さらに背中には小さな羽。優しげで何処か紅汰に似ている顔立ち。少年は紅汰を見ると、背伸びをして笑んだ。
「んー、成功成功!!不死鳥ってこんな風に転生するんだねー!」
灰を蹴飛ばして紅汰の前に立つ少年。皆が唖然とした。その様子を見て少年は面白いのか、無邪気な笑みを見せた。
「ぼくだよ!ぼく!魔界神!」
『え』
一同が少年に駆け寄ってその姿をまじまじと見つめた。確かに魔界神に似ているには似ているが……。
「ぼくが使ったあれは鳳凰炎還と言う魔法でね。いわゆる転生術なんだ。」
「転生・・・?」
「そう。この魔法は不死鳥が転生するのと同じ仕組みでね。使用者はそれまでの肉体を燃やして、再び幼き肉体で蘇るのさ。ただし、成功確率が半々でね。いやぁ、失敗したらどうしようかと焦ったよ!」
あっはっはと笑う魔界神の小さな体にルシュが抱きついた。今度は無言で泣きながら彼を抱きしめている。さすがの魔界神も苦笑いだ。
「さてと、紅汰」
「は、はい。」
突然名前を呼ばれた。魔界神の目は真剣に彼の目を捉えている。
「いいかい。この第二次人妖戦争はぼくたち悪魔が関係していい戦争じゃあないのは分かってるね?」
「は、はい……」
「ルシファーと戦って事情が変わった。妖怪の山に闇の眷属達、天界の手が迫っている。」
「え!?」
「ルシファーが使っていたあの液体、能力名は『我が憎悪、それは憤怒』。闇の眷属と呼ばれる異界の生物達が使う負の力だ。そしてルシファーは闇の眷属に力を借りたと言っていた。普通は闇の眷属は僕たちの世界に干渉できないんだ。天界が彼らがこっちに入ってこれないように管理してる。でもルシファーはその力を持っている。これは明らかに天界になんらかの動きがあったと見て間違いない。」
「じゃあ、妖怪の山にも……?」
「あぁ。闇の眷属達が迫っているだろう。天界になんらかの動きがあったとすれば僕たち悪魔は見逃すわけにはいかない。いずれ、天界も魔界に攻めてくる。」
魔界神は紅汰に手を伸ばす。彼がその小さな手に触れると、彼の体の中で何かを制御していた何かが壊れた。
「今、君の魂の中にある邪神を解放した。」
「は!?」
状況がまったく飲み込めない紅汰。魔界神は淡々と説明をする。
「龍神神話最終戦争で君の父親、天切平良は混沌を司る邪神カオスを君の魂の中に封印した。分かるかい?」
「えぇと……俺の中には邪神とやらが封印されていると…?」
「そう。そのカオスは君の力となるだろう。いいかい、君は妖怪の山に向かえ。そこで月詠が消えたときの惨劇を防ぐんだ。これはこの世界、いや……君が元いた世界…あらゆる異世界に関係することだ。」
「ま、待って!どういうことなんですか!?」
「僕もあまり分からない……ただ言えるのは紅汰、天魔神拳の彼と、風魔十六夜と共に世界を守れ。これは僕でも平良でもコタローでもウィルでも出来ない。たった一つの世界線にしか存在しなかった天切紅汰と風魔十六夜、君達二人が出来ることなんだ。闇の眷属と戦い、天界の野望を阻止し世界を救うんだ!」
「な、なんで俺に!?」
「君達二人は選ばれた存在なんだ!風魔十六夜、彼は月詠の子供そして最強の天魔神拳の後継者にして創界の鍵の一つ、戦いを司る神鎚グングニルを所持する。天切紅汰、君は恵みの賢者天切平良の息子であり最強の邪神カオスの力を唯一制御できる。そして創界の鍵、破壊と破滅を司る壊神剣レーヴァテインとあらゆる英知を司るソロモンの指輪の所持者!きみたちにしかできないんだ!」
「ちょっと!俺ソロモンの指輪なんて持ってない!じいちゃんが持ってるんじゃ」
「あの指輪は僕が君の体内に隠した。君が思えばいつでも現れる。」
魔界神が穿たれた天井を見上げるとそこには神々しい光が差し込んでいた。
「天界の軍がきたらしいね。僕たちはここで迎え撃つ。紅汰、君は行け。世界は、君達の手に委ねられたよ。」
魔界神が指を鳴らすと紅汰の足元に転移の魔方陣が構成された。
「じいちゃん!?」
「修羅に伝えてくれ!神殺しの魔神と闇の皇を止めろって!」
紅汰が何か言おうとしたときには彼は妖怪の山へと転移した。
ルシュの頭を撫で、魔界神は幼くとも覇気を孕んだ声で大罪たちに叫んだ。
「皆!戦闘準備!住民は城へと避難!なんとしてでも天界の奴らを止めるんだ!!」
『了解!』
大罪たちは急いで部屋を飛び出し混じり混じりに部下達に叫んでいった。
「頼んだよ……紅汰。」
ペンドラゴン城 門前
「ガウェイン!どきなさい!」
「嫌です!」
「姫様!危険です!」
ペンドラゴン城門前ではルーシャとネロと藍の三人がガウェインとランスロットと口論していた。
「紅汰や風魔が危険なんですよ!見捨てろと!?あの二人には私も何度も救われたのですよ!」
「それは承知しておりますが万が一姫に何かあれば紅汰様や風魔様が悲しまれます!」
「そのために聖剣エクスカリバーがあるのでしょう!」
「私のグラムもありますよ!」
「余の『鎮魂歌』もあるのだぞ!」
「なんと言おうと私達は行かせませんよ!ルーシャ様に何かあったら我々はアーサー様へのお言葉がありません!」
「あのブラコン兄上には私から言っておきますから通しなさい!これは王の命令ですよ!」
「王の命令であろうと我々は聞きませんよ!」
埒の明かない口論が続く中、ついに痺れを切らした藍が創界の鍵、竜殺しグラムに話しかけた。
「グラムさん!久しぶりの出番ですよ!何か良い策はありませんか!」
藍が持つ2メートル級の銀の大剣が光るとそこにはボロボロの外套をまとう青年グラムが立っていた。しかし、ルーシャやガウェインたちは気にせず口論を続ける。
「主よ、君はまだ出会って間もなく惚れてしまったあの青年を助けるために何処まで掛けられる?」
自らの主に問いかけたグラム。藍はなんの迷いもなく、答えた。
「もちろん命まで掛けますよ!恋する乙女を舐めないでください!」
「……分かった。少々荒いが、時間も掛けられないだろう」
グラムは藍たちから少し離れ、外套や頭に巻いている布を取った。そこには銀髪の青年が立つ。
「主、俺の名前は性格にはグラムではない。俺の名は無い。遥か昔、勇者シグルスに討伐され魔剣グラムに魂を封印された名も無き古龍。それが俺だ。」
グラムの体が膨らんだ。彼の体全体が人間としての形を捨て、新たなる姿へと変わろうとする。彼の足が、腹が、胸が、腕が、頭が、竜へと変わっていく。
「主の家の地下室にグラムがあったのは、君は勇者シグルスの末裔だからだ。」
「ふぇ!?まさか私にも今更ながらの主人公設定が!」
「そうだ。君の一族は代々俺を使い、竜を倒す勇者だ。」
ついには刃のような強靭な尻尾。鋼鉄の輝きを放つ白銀の翼。
グラムは完全に白銀の古龍となっていた。
「さぁ、俺に乗れ!」
グラムの声で藍たちはハッとなって竜に飛び乗った。ルーシャをガウェインたちが引き戻そうとした瞬間に彼らの目の前に竜の爪が叩き落された。
「姫!!」
「ごめんなさい!皆!でも私は帰ってきますよ!心配しないでください!」
古龍が羽ばたいた。翼を動かし、遥か上空へと一気に上がった。
「さぁ、行くぞ!」
古龍は天高く響く、まるでハープのような高い音の咆哮を空向けて放つと一気に妖怪の山へと飛んでいく。ルーシャたちは古龍の背中にしがみつく。
上空を翔る白銀の古龍はまるで、一つの流れ星のようだった。
今回もご視聴ありがとうございました!
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