111 風の如き者、偉大なる者
更新おくれてすいません!色々あったもので!
111 英雄の狂宴
「ーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
遥か海の底から復活したオケアノス神。声にならない絶叫を上げ、自らの復活を歓喜していた。オケアノス神が叫ぶだけでオケアノス島の電子機具が全て破壊された。
人々が逃げ惑う中、黄金の王は友と一緒にその巨人を見上げていた。
「なんとも耳障りな声だ。聞くだけで耳が穢れる。」
王の右手に握られた紅い螺旋剣が紅く点滅する。友は憤りを感じる王の横顔を見つめた。
「ギル、加減はしないと大陸まで吹っ飛ばしてしまうから気を付けて。」
「すまんな、エンキドゥ。アーサーから『加減はするな』と言われてな。我はこの時だけ慢心を捨てよう。」
螺旋剣の点滅が段々と早くなっていく。点滅から光へと変わり、螺旋剣は破滅を示すような紅い光を暗雲の空に放っていた。
王は螺旋剣を高く掲げる。螺旋剣から凄まじいエネルギーが放出され、沿岸の波が大きく波打った。
「幻想は混ざり。」
金色の王は威圧に満ちた表情を巨人に向けた。
「原初(混沌)となり。」
彼が放つは理を示し、大地を産む光。
「理を織り成す光を産む……。」
彼の今の思いはただ一つ。自らの故郷にある家族を守るため。
「始まりの光をッ!理織り成す開闢の光!!」
その光は放たれた。
始まりの光がオケアノスの海を赤く染めた。
「--------------------ッッッッッッ!!!!!!!!」
大怨帝は理解不能な叫びと上げた。大地が震え上がる。
「皆!行くぞッ!」
『応ッ!!!』
アーサーの掛け声で英雄達が大怨帝に向かって走り出す。
ジル・ド・レェは魔道書を掲げ、何かを唱える。
ヘラクレスは白き天馬ペガサスに跨り大怨帝へと翔る。
迅は物音一つ立てずに巨人へと風の如き速さで急接近。
「目障りだな、その体。」
が跳躍。大怨帝の巨大な脚を双剣で斬りつける。しかし傷一つ付かない。巨人の脚を蹴ってさらに跳躍。大怨帝の腕から肩へと跳躍。肩へと着地すると、双剣を振るう。しかし掠り傷が出来る程度で効果が見られない。
「一条!眼だ!」
同じように大怨帝の体を上ってきたディルムッド、真田。
三人で大怨帝の顔に付いた100の目を槍と双剣で攻撃する。やはり、傷一つ付かない。
「少し無理があるぞ。」
「仕方ない。我らで一つでも潰す!」
「親方様ァッ!見ていてくだされェッ!」
「闢乱殿、準備の方は大丈夫ですかな?」
「いつでも大丈夫だ。」
ジルは目の前で腕を組んで欠伸をする青年の背中に話しかけた。
「俺の『星の開拓者』は今、最高の力が出せる。今日は星が綺麗だからな。」
「それは良い。では、よろしくお願いします。バビロニアの人々の為に。」
闢乱はゆっくりと歩き出す。目の前にたつは大怨帝。一歩歩けば大地震が起きるほどの天災だ。ここで止めなければならない。
渕星闢乱は学生だ。日本が生まれで小さい頃から星を見るのが好きだった。
いつか沢山の人々に星を見てもらいたいのが彼の願いだ。
その人々が此処で消えてしまうのは、あまりにも可哀想だ。
星を見れぬまま死ぬなど、彼にとってはこれほど辛いことはない。
だからこそ、渕星闢乱は誓う。
『大怨帝には一歩も歩かせない』
「抉れ!死を穿つ魔の棘!」
蒼き槍騎士の赤い槍が大怨帝の心臓に突き立てられた。槍は鋼鉄をも貫き大怨帝の心臓に突き刺さった。
しかし、大怨帝は何事も無いかのように足を上げた。
「まずい!渕星!」
「届くか馬鹿!」
「大怨帝!テメェには一歩も歩かせねぇ!星の開拓者!!!」
闢乱の体に白銀の光が集う。地面を蹴った。光の速さのような一瞬で闢乱が大怨帝の真下に移動。踏み出された巨大な足を腕二本で受け止めた。凄まじい圧力が掛かるにも関わらず彼は涼しい顔をしている。右腕を動かす。その表情に怒気が満ちる。
「alalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalalala!!!!!!!」
右拳で巨人の足裏を打つ。さらに左拳でも打つ。そして連打。
渕星闢乱の能力、『星の開拓者』。それは星の光と宇宙上のありとあらゆる光と星を象徴する神々からのバックアップを受けられる。星がよく見えれば見えるほど、彼の能力は力を増し人間の常識を遥かに超越した力を生み出せる。まさに無限の力なのだ。
闢乱の拳によって巨人の足裏が凹み、浮く。
「てめーは、この俺が止めてやる。」
「アーサー!やれ!」
「分かってる。今こそ約束された救済を!」
アーサーが高く掲げた黄金の剣に光が集う。光が溜まっていくと、黄金の剣が巨大化する。
「ルーシャのもあれば倒せただろうけど、まぁいい。僕たちは止めるだけだ。」
アーサーが一歩踏み出した。光が揺れる。
「神聖剣エクスカリバァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
黄金の剣が振り下ろされ、放たれた光の群れが大怨帝を覆った。
オケアノス島
「チッ、しぶとい鉄人形だ。」
ギルガメッシュは肩膝を着いて、荒い息でオケアノス神を睨んだ。
全てを破戒する光を、あの巨人は寸前のところで高度な結界を張って防御したのだ。しかし無傷ではなかった。巨人の左腕が肩から消失していた。
「ギル!」
エンキドゥがギルガメッシュに肩を貸す。
「くっ、もう一度…………。」
「駄目だ!君の体が持たない!」
「アーサーとの約束を破るわけにはいかぬ!我は絶対の王!人類最古の王である!たかが鉄の巨人に、敗れてたまるものかァァッ!!」
エンキドゥを振り払い、再び紅い螺旋剣に光を溜める。尋常ではないほどの魔力を使用するため、理織り成す開闢の光を放つのは一回が限界だ。
「止めろ。」
ギルガメッシュとエンキドゥの背後から声がかけられた。ギルガメッシュは振り向こうとせず、螺旋剣に光を溜める。
「ギルガメッシュ、君のその思いは素晴らしい。とても制定者とは思えない家族思いだ。だが、此処は俺に任せろ。」
二人が振り向いたと思った時には背後に誰もないかった。ただ一陣の風が吹き荒れていた。
「風魔、小太郎…………。」
ギルガメッシュが呟いた。
「---------ッ!!!!!!」
ギルガメッシュの攻撃を喰らったことで怒ったオケアノス神は怒号を上げ、海岸に立つギルガメッシュとエンキドゥを100の目で睨みつけた。
オケアノス神が発動した結界が崩壊した。
瞬間、オケアノス神の右腕が切断された。
肩の付け根からスッパリと切断された。
何が起きたか理解できないオケアノス神の両脚が切断。
崩れ落ちるオケアノス神の体が真っ二つに切断。
状況を理解しようとしたオケアノス神の首が切断。
さらに100の眼が一気に破戒され視覚情報を奪われた。
叫ぼうとしたオケアノス神の頭が微塵に切断。
断末魔を上げる間もなく、龍神神話の大巨人はたった4秒で海に沈んだ。
誰に沈められたかも分からずに。
「ギル、一体……。」
「風の如き者だ……。」
「え…?」
「その者は風。誰にも捉えられることもなくただ、風となる。吹き荒れる嵐のように、安らぎを与えるそよ風のように、彼の者はただ風と歩む。名は、風魔小太郎。日本に伝わる伝説の忍……まさか、あれほどまでに強いのか……。」
オケアノス海の暗雲は一陣の風によって振り払われ、晴天を見せていた。
「…………ダンテより高度な結界、だと……。」
大怨帝は無傷だった。高度な結界が展開され、アーサーの奥義を防いだ。
「どうすんだ!」
ヘラクレスが天馬から降り立ち、アーサーに駆け寄る。
「まだだ…!まだ……僕たちは生きている……!!」
「双方、落ち着け。」
大怨帝とアーサー達の前に声が割り入った。
「大怨帝よ。怒りを沈めよ。」
割り入ったのは中年の男性だった。黒い外套に黒髪、不精ひげに口には煙草が咥えられている。
巨人を前にし、堂々と立つその姿はアーサーの憧れの人物を思い出させた。
男性は煙草の煙を吐きながら、大怨帝に大声で話しかけた。
「大怨帝、貴殿程の知恵者が今目覚める必要もあるまい?ここで引いてくれないか?」
「……貴様、何者。」
男性以外の全員が驚愕した。大怨帝が言葉を話したのだ。しかも全員が理解できる言葉で。
「どういうことでござるか?」
真田が大怨帝の体から下りて、問う。
「今の龍神言語しか存在していなかった龍神神話の巨人がどうやって私達の言葉を理解したかと言うことだ。こいつは見た目の割りに人間の以上の計算能力を持っている。この数分の私達の会話を聞いて瞬時に言葉を理解したんだろう。」
がそんなことも分からないのかと侮蔑の眼差しを向ける。
「俺は名乗るほどの者じゃないよ。大怨帝、貴殿があと三千年の眠りについてみろ。三千年後、俺たち人間が龍や神々を退けこの世界を支配しているという確率はどの程度だと思ってる?」
「…………。」
大怨帝の100の眼が点滅する。
計算しているのだ。三千年後のこの星の未来を。
「それでも退いてくんねぇなら、俺は全力を持ってアンタを止めるよ?」
男性は威圧を纏った漆黒の瞳で大怨帝を睨み付けた。大怨帝も巨大な100の眼で男性を見た。
「計算ではいくら時間が経とうがこの世界には人間が君臨している。人間共のしぶとさは侮れぬ!」
大怨帝が拳を男性に振り下ろした。男性はため息を吐いた。
「じゃあ、恵みになりな。」
男性が言った途端、大怨帝の動きが止まった。
足元から巨大な脚を大量の草木が絡みついていたのだ。
「大怨帝。アンタでも自然の恵みと生命力、繁殖力には勝てねぇ。だから、」
男性が煙草の灰を落とす。
「恵みになりな。」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
大怨帝に絡まる草木が肩までに成長し大怨帝の生命力を吸い取っていく。
足元から苔が生え、木になっていく。
「アンタは此処で国の人に恵みをもたらす大樹となる。オケアノス神もコタローがやったみたいだし、巨人大戦争は防げたな。」
男性は煙草の煙を吐いて、大怨帝の絶叫を眺める。
「おのれ!おのれェッ!人族ごときが、この我にッ!!!」
「アンタはその人族に負けたんだぜ。暴れるとさらに侵食が進むぜ?」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!」
大怨帝は鼓膜が張り裂けるような絶叫を上げ、
木となった。
英雄達は唖然としてその光景を見ていた。
大怨帝の体が木になり、腕は枝となり、足は根となっている。頭には大量の緑の葉や果実まで実っている。
「いやぁ、流石神様!林檎から葡萄まで実ってるねぇ!!」
あっはっはと豪快な笑い声を上げて、男性は煙草の吸殻を地面に投げた。地面に落ちた吸殻が小さな木の芽となる。
「おう!お前らお疲れさん!じゃあなっ!」
男性はアーサー達に軽く手を上げて、その場から愉快な鼻歌を歌って去っていった。
「何者なんだ…………。」
「恵みをもたらす賢者、ですかね?」
「いや、賢者にはみえねぇ。魔術師かなんかか?」
「……偉大なる者だよ。偉大なる者、天霧平良。風の如き者、風魔小太郎に並ぶ世界最強の人間……何故ここに……。」
アーサーは剣を杖にして立ち上がった。
アーサーのもとに皆が集まる。
「とりあえず、任務は完了か?」
「俺らなんもしてねぇ(笑」
「その笑いを止めろうざい。」
「ところで、渕星殿は?」
『あ』
闢乱、見事に大怨帝の足の下である。
「俺ならいるぞ。」
突然アーサーの後ろに学生服の青年が現れた。
「え、渕星殿っ!?」
「俺を舐めるな。星の光に不可能はねぇ。」
「な、何をしたのですか……?」
ジルがおそるおそる聞くと、青年は
「俺が時を止めた。その内に脱出した。」
さらりと言った。
「星の開拓者は常に進化する。星の光がある限りな。」
『…………………。』
この青年、なんでもありなのだ。
アーサーは朦朧とした意識の中で任務成功に笑みを零した。
皆、生きている。
結果はどうであれ、勝ったのだ。
あとは、ウィル……L、君達に任せたよ。