110 闇の眷属と聖騎士
投稿が遅れましたすいません。しかし今週と再来週もテストなので更新は遅れます。ご了承ください
妖怪の山
Lとその相棒忌羅は修羅の報告で敵が入り込んだ場所へと向かったが見事に誘導にはまったらしい。囲まれた。
「これはまずいな。」
「Lよ、それが楽しいというものだ。」
Lと忌羅はお互い背を向けて、周囲の敵を睨みつけていた。
「だがおかしい。俺の肉声以外では絶対停止しないウイルスをどうやって消したんだ?」
「私に聞くな。集中しろ。」
二人を囲っているのは巨大な四足歩行ロボット、よく見るとライオンに見える。しかし、その身体は超合金で構成され、ありとあらゆる場所に機関銃やミサイルポッドが着いている。
テュポーン、それがこの兵器の名前だ。ギリシャ神話最強の怪物をモデルに作られた最強殲滅兵器だ。それが何十体と二人の周囲を包囲していた。
「フフ、久しぶりに心躍る戦いになりそうだ。」
忌羅は邪悪な笑みとともに孤高なる武神レギを構える。銀色の大剣が陽高を浴びて輝く。
「さっさと終わらすぞ。外の軍隊も相手する必要がある。」
Lも銃のマガジンが付いている短い剣、魔法剣ロキとリボルバー式の薬莢が入った剣、魔法剣アマテラスを構える。
「いざ、参る!!」
「死ぬなよ!糞武神!」
二人の戦士は同時に走り出した。Lの魔法剣の薬室から弾丸が排出され、剣の切っ先から超圧縮された高水圧の水が発射される。高水圧の水は二体のテュポーンの頭と胴をバラバラに切断した。爆発とともにテュポーンが倒れる。
「るるるぅぅうぁぁぁぁぁっっ!!!!!!」
怒号と共に大剣レギがテュポーンの首から腸まで一気に切り裂く。火花を散らしてテュポーンはたったまま機能が停止した。二人の動きに反応できなかったテュポーン達は僅かながら動きがとまった。二人はその隙を見逃さなかった。
「吹っ飛べ!!」
「神羅万剣!!」
アマテラスから薬莢が排出され、化学魔法が発動。鼓膜を揺るがすほどの大爆発がテュポーン達を巻き込む。
さらに忌羅の背後に出現した無数の剣が発射され、五体のテュポーンの脳を貫く。
二人は攻撃の手を止めない。Lはロキとアマテラスの引き金を引いてさらに魔法を発動。雷に匹敵する電気の槍がテュポーン達に殺到する。忌羅もさらに剣を発射する。
それでもテュポーン達はまだ二十体はいた。
「どうする?俺の化学魔法で吹っ飛ばすか?」
「止めておけ。こいつらは私達が体力を消耗するための捨て駒だ。何処かで人形使いが見ているであろう。」
「めんどくせ。」
「黙れ、くるぞ。」
二十体のテュポーンの前脚から機関銃が火を吹く。Lがとっさに鋼鉄の壁を発生させ、防ぐ。
しかし、壁に無数の凹みが出来る。
「もたねぇぞ、これ。」
Lは軽く舌打。そして懐から手榴弾を取り出すと起爆のピンを歯で抜いてテュポーン達に投げた。数秒後爆発。轟音とともにすさまじい閃光がテュポーン達の視覚機能を遮った。
Lと忌羅は壁から飛び出し、無数の剣と高水圧を発射する。先頭四体が爆発する。
そしてまた鋼鉄の壁を発生させ、隠れる。
「ちょっと、手詰まりかな。あいつらの尻尾、チェーンソーだった。これ切られるぞ。」
Lが言った矢先、二人の間の壁が電動チェーンソーに切断された。苦笑い。
「仕方あるまい、一気にやるぞ!」
「応!!」
機関銃の弾丸の嵐の中二人は飛び出した。
忌羅は大量の剣を出現させ、Lは引き金を引いて魔法を紡ぐ。
同時に攻撃が炸裂した。
合金をも切り裂く無数の剣と無数の高水圧がテュポーン達を殲滅した。
連続で最強の兵器は爆発し、崩れ落ちた。
世界最強の殲滅兵器はたった二人相手に全滅した。
「あっけない。」
「確かに。いくら二人でもこんなにあっけないと逆に怪しい。」
二人は呼吸を整えて数秒考える。
「やはりおかしい。俺が前戦ったテュポーンはもっと反応も速かったし人口知能にしては弱すぎる。だいたい、鋼鉄の壁だって体温センサーで俺達を切れたはずだ。」
「何かの意図か。私達の動きを見ているのか。」
「だろうな、この山に阿修羅以外の凄まじい禍々しさを持つ奴がいるのは確かだが。」
「そんな生物見たことがないが?」
「俺はある。確か黒魔だったか魔神とかが得意だったな、異界生物召喚。」
Lがボソッと言った瞬間、二人の目の前に何かが落ちてきた。衝撃で二人の髪がなびく。
「きたっぽいな。」
「兄上のように禍々しい殺気だな。」
衝撃で発生した砂煙が一瞬で晴れ、二人の男性が現れた。二人とも禍々しい漆黒の鎧を着た騎士だった。片方はボロボロのシルクハットを被り、もう一人は顔を灰色の布で覆っている。
「我ら、聖騎士より召喚されし悪鬼なり。我が名は闇の皇眷属第三位オキ・アレ。」
「愚かな人間共への復讐のため、参った。我が名は闇の皇眷属第四位クェ・ソア。」
二人の名前を聞いてLの額に汗が浮かぶ。
「闇の皇かよ……最悪だ、闇の皇は龍神神話に登場した最強の黒魔術師と呼ばれた最悪の魔術師のことだ……闇の皇は人間と異界の生物、幻獣を融合させ部下を作り出した。そいつらを闇の眷属と呼ぶ。階位が少ないほど凶悪な眷属なのだが、こいつらはその部下だ。しかも第三位と第四位がお出ましか……何の用だ?」
Lが剣の切っ先を向けて質問する。二人の騎士は淡々と、
「「我らは邪悪なる人間共に復讐を誓う聖騎士との契約により貴様らを惨殺する。」」
と言い放った。だが二人は動じない。
「おいおいおいおいおいおい、俺は人間じゃねぇし、此処は妖怪の山だ。人間なんざいねぇ。他当たれ。」
「貴様らは聖騎士の目的の妨げとなる。だから殺す。」
オキ・アレが十字槍を抜刀し、クェ・ソアが巨大な鉈を抜刀する。
「さて、問題です。この状況を安全に打破する方法は?」
「黒髪の魔法剣を持った男が特攻し、自爆する。」
「俺しかいねぇじゃん。」
忌羅の言葉に苦笑い。忌羅も不敵な笑みを浮かべる。
「相手が相手だが、死ぬことはあるまい。」
「その具体的な勝利の方程式を教えてくれ。俺が計算して誤りが無いか確認する。」
「簡単だ。『私>L>騎士共』だからだ。」
「お前の脳は機能停止どころかただの肉片なんじゃねぇか?」
「くくっ、元々計算など修羅のような者がする者だ、戦場は常に運と実力のある者が生き残る。それだけだ。」
「事実だ、一番肝心なのは運だけどな。」
「お喋りはそこまでにしろ。」
二人の会話をオキ・レアが遮断した。Lはオキ・アレの顔をじっと見つめた。
「なんだ、私の顔に何か付いているのか?
「鼻の右上と左耳のうずまき管の中に小石と砂がある。」
オキ・レアが指でLに言われた箇所を触ろうとした時、Lの魔法が炸裂。オキ・アレとクェ・ソアの身体が爆炎に包まれた。爆風が再び二人の髪を靡かせる。
「馬鹿が、俺の角度からどうやってうずまき管見えるんだっての。」
「なるほど、遠くから見ていたがこの程度か。人間共の知恵の結晶とやらも貧弱だな。」
爆炎が一瞬で晴れ、無傷の騎士達が現れる。流石のLも予想していなかったのか、唇が忌々しそうに歪む。
「高度の爆発魔法を無傷だと?高度魔法結界でも使ってるのか?」
「違う。一瞬、奴等の脚元から何か出てきて、爆炎を防いだ。呪いを使う騎士か。」
「我らは聖騎士によって召喚され、復讐の魔神によって力を与えられた。貴様等の使う呪いなど一切効かん。此処は刃と魂がぶつかる戦場。小細工しか使えぬ者はさっさと死ね。」
オキ・アレとクェ・ソアが一瞬で二人の視界から消えた。
「『加速する世界』、無限加速!!」
Lは能力を発動させ自らの全てを加速させる。瞬間、目の前にオキ・アレが現れ、十字槍を突き出す。右に回避するが、胸板をすこし掠り血が飛び出す。右手のアマテラスを水平に払い、頭を真っ二つにしようとするが、オキ・レアは一瞬で消えた。Lは直感で前方にジャンプした。脇腹に切り傷が出来る。地面を転がって後方を向くとオキ・レアが嘲笑していた。
「聖騎士がお前には極度の注意を払えと言っていたが、それほどでもないね。私の速さに付いて来ていない。」
「ハッ?速さ?嘘付け、闇の眷属は耐久力、攻撃力、知能が人間を遥かに超越しようとどうにもならない欠点がある。」
今度はLがオキ・レアを嘲笑した。
「それは、テメェ等闇の眷属は脚の筋肉が発達していないため魔術でそれを補っていることだ。筋肉が発達してねぇお前達は自分の体重を支えられない、だから走ることも出来ないんだよっ!つまり、お前は速いのではなくお前の足元のそれがお前を移動させている。」
Lの指摘どおり、オキ・レアの足元には黒い液体のようなモノがある。液体はオキ・レアの足を覆いつく、渦巻いている。
「……流石に知識だけは豊富のようだ。だがね、知識だけではどうにもならない事があるのだよ。」
「さて、どうだか?」
Lの口元がにやりと笑った瞬間、腕を引いた。オキ・レアには一瞬、見えない線が陽光を反射させ、輝いた。線はLの方に引かれると、蛸足仕組みになっていたのか大量の手榴弾のピンを引いた。同時に手榴弾が爆発しオキ・レアの身体を包んだ。
さらにLはアマテラスの引き金を引き、爆炎の中に無限の爆発を送り込んだ。
「てめぇは俺を見過ぎだ。足元に気を付けとけ。」
「ふむ、覚えておこう。」
爆炎の中から槍が飛び出しLの右肩を貫いた。Lの華奢な身体は後方へと吹っ飛ぶ。
「がっ!?」
「身体を瞬時に反らして直撃を免れたか。でも、その肩じゃ剣は振れないね。」
爆炎が瞬時に消滅し、火の粉を散らしてオキ・レアが現れる。その身体は傷一つ付いていない。
「君の頭脳は素晴らしいけど、神殺しの前では無力だよ。」
「糞が……。」
右肩を貫かれたLは空中で身を翻し、地面に着地する。オキ・レアはその姿を見て嘲笑うかのように、ゆっくりと歩いてくる。
「あの聖騎士の情報は確かだね、君は能力が凄い代わりに少し脆い。でもその脆さが弱点だとね。」
「聖騎士、か…あいつのことを名乗る奴でもいんのか。」
「聖騎士は魔神と契約し、全てを復讐すると誓っている。でも、我々の目的は別に復讐じゃない。」
「何?」
「それは君が知っても無意味だ、君は此処で死ぬからね。」
オキ・アレがその拳をLに振り下ろそうとした時、何故かLは不敵な笑みを浮かべていた。
オキ・レアの拳が寸前で止まる。
「何故、この状況で笑っていられる?」
「さぁ?何故でしょう?」
Lはオキ・アレを嘲笑うかのように、その拳に触れた。
「まさか、この状況で私に勝てる策があるとでも言うのかね?」
「もし、そうだったら?」
オキ・アレの拳が引かれる。
「……聖騎士の命令は絶対だが、いずれあの御方は復活する。少し遊んでもよいか……だが、貴様がこの状況で生き残るのは不可能だ……っ!?」
オキ・アレが危機を感じて後ろに下がった。Lは予想通りと言うかのように立ち上がり、勝利を確信したのかオキ・アレを嘲笑する。
「闇の眷属の知能は良いと聞いたが、やはり戦闘狂なのは間違いだったな!フルボッコにしてやんよっ!!」
Lが走りだし、ロキでオキ・アレの顔面を狙う。黒い液体がゼリーのように変形し受け止める。さらにLはバック転。爪先が黒い液体を削る。そして魔法発動。超高温を帯びた刃が液体にたたきつけられる。それでも、液体は蒸発すらしない。
今度は黒い液体が一部を槍のように尖らせ、Lの右頬を削り取った。しかし、Lは笑う。超高速で右頬が再生。完治した。驚愕したオキ・アレは液体全てを使ってLの全身を貫いた。
顔、首、肩、腹部、脚。流石のLも激痛に表情が歪むが、まったく、死ぬ気配がない。ロキの引き金が引かれ、無防備のオキ・アレに魔法が炸裂。超圧縮された水がオキ・アレの脳の一部を削り取った。オキ・アレのシルクハットが宙に舞う。さらにLは引き金を三回絞り、連続で魔法を発動させる。圧縮水と鋼鉄の砲弾、さらに高電圧の蛇がオキ・アレの脳を破壊する。それでも、まだLは一瞬たりとも瞬きせず、引き金を三回引いた。ロキのマガジンから三個の薬莢が排出され、超圧縮水、高電圧、超圧縮爆発、が一気にオキ・アレの首から上を完全に破壊した。
しかしLはそれでも引き金を二回引く。地獄の業火と全てを溶かす酸性水がオキ・アレの体を焼き尽くし、そして溶かす。そしてようやくLの魔法攻撃は止まった。
首だけ消え、異臭を放つオキ・アレの体が崩れ落ちた。
Lは地面に肩膝を付いて呼吸する。そして肩を貫いた槍を引き抜き投げ捨てる
黒い液体に貫かれた部分はオキ・アレの生命活動が停止したためか、水となって地面に染み込んでいった。徐々にLの傷が塞がり完治した。
そして忌羅
荒れ狂う戦場の中心で、金色の武神と復讐の悪鬼が魂と刃をぶつけ合う。
言葉など無用。そこにはお互いの技術と誇りを賭けた戦いがあった。
孤高なる武神レギの巨大な刃が振るわれる。クェ・ソアの巨大鉈は淡々と流す。
レギの刃が水平に薙ぎ払われる。クェ・ソアは跳躍し回避着地さまに鉈を忌羅に振り下ろした。忌羅は体を反らし、鉈から回避。拳でクェ・ソアの顔面を殴りつける。
クェ・ソアの体が吹っ飛び、何度が地面を転がると態勢を立て直す。その口には微量の血と自らを傷つけた武神に対しての賞賛があった。クェ・ソアは血を舐めると忌羅に接近。鉈を連続で振るう。忌羅は涼しい顔で受け流しては、反撃。鉈を大きく弾き足でクェ・ソアの腹を蹴り飛ばした。しかし、クェ・ソアは吹っ飛びはせず、弾かれた鉈を忌羅の右肩に振り下ろした。が、忌羅は右手で鉈の強靭な刃を掴んだ。忌羅の手から大量の血が流れるが切断はされず、レギの刃が切り上げでクェ・ソアの右肩の付け根を切断した。さらに忌羅の強靭な頭突きがクェ・ソアの額に直撃し血が飛び散った。クェ・ソアは右肩から大量の血を流すも同様すらせず、むしろ喜んでいるように見えた。包帯の隙間の目が歓喜の色に染まった。
「我に傷を付けたか……流石金色の武神よ。」
「戦場では名も名誉も地位も関係無い。あるのは血肉と殺戮の場だけ。ククッ、久しいな。貴様のような殺しがいのある猛者は。」
忌羅の美貌が邪悪に歪む。クェ・ソアも隠れているが表情は分からないがきっと忌羅同様笑っているだろう。そしてその表情が一気に引き締まる。
「いざ………。」
「来いッ!!!」
クェ・ソアが一瞬で視界から消えた。忌羅はレギを構え、不敵な笑みを浮かべた。クェ・ソアが目の前に現れる。神速の速さで鉈が振るわれる。忌羅の体が刻まれ、大量に血が噴出す。だが、忌羅の顔には勝利を確信した笑いがあった。クェ・ソアの鉈が忌羅の心臓を斬り裂く。真紅の血がクェ・ソアの体に飛び散る。瞬間、レギの刃がクェ・ソアの頭から股間下まで一気に切り裂いた。さらに忌羅の手が分かれようとするクェ・ソアの頭を掴み、握り潰した。まだ、終わらない。脳を破壊されても再生しようとするクェ・ソアの心臓を鷲掴み、力をこめて握り潰した。そして再生しかけた体は機能を停止し、クェ。ソアの体は血を流し、地面に崩れ落ちた。
「よぉ、生きてっか。」
Lはオキ・アレの生命活動停止を確認すると、忌羅に話しかけた。まったくの無傷である。
「久々の強敵だ、だがまだ私には到底届かぬ。」
忌羅もクェ・ソアの生命活動停止を確認し、レギを地面に突き立てる。切り裂かれた心臓や傷が自動的に回復し完治する。
Lは肩で呼吸、調子を整え、
「さてと、来ると思うか?」
「くるであろう。修羅と兄上の結界はもう修復された。出ることはできまい。」
「だよな、殺すのも可哀相だしなぁ……でも聖騎士だぜ?弱らせて罠で捕獲するか
。」
「私達は狩人ではない。加減が出来ると良いが、腕の一本三本は仕方ないと思え。」
「三本もねぇよ。だが、腕の一本程度は大目に見てもらいたいね。」
二人が意味の分からない会話を交わしている。突然、立ち上がった。
「やっぱ訂正。四肢吹っ飛んでも大目に見てくれ。」
「加減するな。死ぬぞ。」
二人が視線を向ける先には黒い塊があった。人間一人入りそうなほど巨大な。
その塊が花開く蕾のように開くと、中から漆黒の鎧をまとう騎士が現われた。
二人は剣を構える。騎士は右手に持った禍々しい大剣を地面に突き立てると不敵な笑みを浮かべた。
「あの二人はやられたか。流石に上手くはいかないな。」
騎士の周りには巨大な黒い液体が渦巻いている。おそらくオキ・アレ達が使っていたのと同じモノだろう。だが、あれは禍々しさが圧倒的に違う。
この騎士からは怨念、復讐、憎悪、これらが嫌というほど感じられた。
「我が名は悪鬼の騎士エリーナ。貴様らを懺滅する。」
「闇の眷属にはなっていないようだな。」
「なってたらもっと酷いな。」
騎士は大剣を抜くと、切っ先を二人に向けて構えた。唇から神父のような宣託ある響きの声が紡がれる。
「死ね。」
「死ぬのは貴様だ。女。」
「いや、できれば捕獲されてください。落とし穴あたりのトラップで。」
二人の軽口にもエリーナは反応せず、ゆっくりと距離を詰める。
「お前達は作戦の邪魔になる。神殺しの命令だ、故に私は逆らえぬ。」
「あっそ。でさ、いい加減演じるの止めたら?」
エリーナの眉が少し歪んだ。Lは続ける。
「演じなくても俺と忌羅は最初からあんたの正体は分かってるよ。エリーナ、いや…聖騎士ジャンヌ・ダルク。」
Lが指摘すると、エリーナは嘲笑した。
「馬鹿な。貴様も知っているだろう、ジャンヌ・ダルクは死んだではないか。人間共の裏切りによって処刑されたではないか。」
「そうだ、オキ・アレとクェ・ソアの二人は召喚者の事を聖騎士と呼んでいた。しかも一回も過去形を使っていない。この世界で聖騎士なんて呼ばれるのはジャンヌ・ダルクだけ。そして二人の召喚者であるお前がジャンヌ・ダルクなんだよ。」
Lの解説にもエリーナは一切表情を変えない。
「他にはな、声で分かる。あ、読者様はわかんないけどね。あとお前の話し方、妙な違和感がある。無理矢理変えているのがバレバレ。」
「……やはり、私には合いませんね。」
そう言ってエリーナは面兜を取る。息を呑む。そこには焼け爛れた金髪の女性の顔があった。
「驚きましたか?無理もないですね。久しぶりです、L。忌羅。」
「いや、驚いたのは何故お前が此処にいるかだ。顔なんかもっと酷いのを嫌と言うほど見た。」
「Lは相変わらずですね。優しいです。私がここにいるか、という質問ですが…確かに私は処刑され燃やされました。その時、誰かが私を助けたのです。その人の名前は知りません。彼は来るべき復讐の為に私を死の淵から救い、このような姿に私を変えました。おかげで今はただの機械ですよ。」
エリーナ、ジャンヌ・ダルクは苦笑いし、剣を地面に落とす。意味不明な行動に二人の警戒が高まる。
「L、忌羅。お願いです。私を殺してください。」
二人の目が見開かれた。流石の忌羅も驚いているようだった。しかし、二人とも横目で互いの意思表示をすると、口を揃えて
「「だが断る。」」
と言った。ジャンヌが何故、と言う前にLが先取りする。
「お前に俺達を殺す気があんなら殺してやるが、見た所お前はそんな気は無いだろ。」
「私もだ。刃を持たぬ者は斬らぬ。」
「何故ですか。私は彼に操られてしまう前に早く殺してください。私は何も怨んでいません。憎んでいません。なのに、何故…人を殺すのですか…神はこんな私を救世主にしたのですか…?」
ジャンヌの頬に二筋の液体が流れる。焼け爛れた頬を伝わり、地面に落ちた。Lが一瞬だけ、哀しそうな表所を見せ相棒に言った。
「忌羅、シーゼ呼んで来い。あいつならなんとかなんだろ。」
「何故私が貴様の使い走りにならなければならぬのだ。貴様が行け。」
「嫌だ。お前のほうが早いし。」
二人は剣の切っ先を向け合い、睨み合う。
「……ハッ!?携帯あんじゃん!!」
Lは懐から携帯電話を取り出し、シーゼに電話を掛かる。
「ぁっ、ダメだ。電波妨害されてやがる。」
忌々しそうに電話を切ると、Lはロキの切っ先をジャンヌに向けた。
「取り合えず眠っとけ。」
ロキの引き金を引き、魔法が発動。適度に調節させた麻酔液がジャンヌを眠らせる。と思った瞬間、ロキがLの右腕ごと吹っ飛んだ。
「ありゃー、これはまずい。」
右腕が吹っ飛ばされたにもかかわらずLは冷静だった。すると、Lの吹っ飛ばされた右腕が磁石のように腕の切断面に引き寄せられ傷痕もなくくっついた。
「aaaaaaaaaaa!!!!」
ジャンヌが突然、狂ったように叫びだし黒い塊を巨大な竜に変形させ攻撃してきた。
「間に合わなかったかっ!!」
「こうなっては仕方あるまい。」
忌羅の口元には獰猛な笑み。レギを構え、竜と対峙する。Lはロキがないのでアマテラスの弾層に弾を装填。瞬時に魔法発動。鋼鉄の槍が竜に殺到した。しかし、槍は竜の体に飲まれ消失した。
「えっ。」
「まずいな。触れたら呑まれる。」
忌羅がレギをしまい、非戦闘態勢に入った。
「おまっ、戦えよ!?」
「無理だ。あの竜には我が剣が効かぬ。」
その竜が黒い塊を吐いた。飛び退いて回避。すかさず、魔法を撃ち込むがやはり効かない。
二人が混乱している内にジャンヌはロキを拾いあげた。Lの表情が一変した。
「おい!馬鹿!いい子だからそれをこっちによこせっ!!」
Lの忠告は届くはずも無く、ジャンヌは引き金を引いた。
「どうするのだ?」
忌羅が問う。Lは頼もしい程の不敵な笑みを浮かべ、一指し指を立てた。
「安心しな、策はある!」
「何?」
忌羅の口元に笑みが浮かぶ。この状況でも策がある相棒に関心しているのだろう。
「いいか、息が止まるまでとことんやるぞ。」
「……よかろう、言ってみろ。」
Lは突然、竜に背を向けて走りだした。その顔には凄まじい焦りと混乱。
「逃げるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!忌羅ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「何ッ!?貴様、私に逃げろというのか!」
「うっせ馬鹿!早くしねぇと死ぬぞ!!」
Lは途中でバイクを出現させ、アクセル全開で走り出した。忌羅も仕方ないのか、Lのバイクに劣らぬ速さで逃げる。
「おい、逃げてなどいない!戦術的退散(逃げる)と言うのだ!!」
忌羅が誰かに向かって叫んだ瞬間、ジャンヌの頭が爆発した。脳や血、肉が飛び散る。
「ロキの次の弾は禁術魔法だったのかよぉぉぉぉぉ!!そりゃ死ぬわ!」
「どういうことだ?」
走りながらLは解説する。
「俺の化学魔法は発動するのに莫大な量の計算を必要とする。俺は天才だから一瞬で終わるけど、ジャンヌみたいななんの能力も持たない奴が発動すると情報量と計算量に耐えられなくなって、普通は廃人となるけどあれは禁忌の魔法だから……………。」
「なんだ?」
「本人の頭がバーンとなって、誤爆するぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
Lの叫びは凄まじい熱量と衝撃波、轟音と閃光によってかき消された。
二人の意識が途切れた。
えーとですね、Lの科学魔法は「L本人が一切使えない魔法を神々の知恵の結晶で厖大な量の計算にすることで発動可能にできる」というものです。
感想をマジでお待ちしております…愛読者の方がいるなら、何かお願いします…