友達
友達の定義ってなんだ?
どこからどこまでが友達なんだ?
一回話したら友達か?話の内容によるだろう。
じゃあ多く話したら?それも内容によるだろう。
しかし、話した、という時間は積み重なる。
でも友達になれる訳ではない。
一回遊んだら友達か?遊びの内容による。
それに人数にもよる。
じゃあ一人とだけ遊んだら?それも内容によるだろ。
決して友達になる訳ではない。
喧嘩したら友達か?それは特異な例だろう。
まあ、実際そうやって友達になれた奴は信頼関係が強いが。
相手に合わせたら友達か?それは友達と言えないだろう。
自分を押し付けたら友達か?受け入れられたらあるいは……。
「………などという事を昨日考えていた訳だが、どう思う?」
中学生の頃、とある友人とゲーセンで遊んでいた時に俺は自分の考えを話した。
で、答えがこれだ。
「お前は馬鹿だろ」
友人はやっていた格闘ゲームの画面から目を離さず言った。
「あん?」
「友達ってのは信頼関係を作った人だ。話すのも遊ぶのも喧嘩するのも自分を押し付けるのも全部信頼関係を作るためだ」
……なるほど、なんか納得出来た。
「……あー、じゃあ友達を無くすには?」
「はあ?」
「いや、ついでだ」
「……簡単だ、信頼関係を壊す、得るは難しく、壊すは容易いってな」
「じゃあお前はどうやったら俺と友達をやめる?」
「……今すぐやめてやろうか?」
「参考までに、だ」
「……犯罪でも犯したら即やめてやる」
それが十年前。
で、現在。
俺は刑務所に厄介になっている。
今いるのは……面会室だっけ?うん、面会できるとこにいる。
そんで、ここに居るって事は誰かが面会しに来た訳だ。
「よう」
「……おう」
俺の目の前にはガラス越しにあの時の友人が居た。
「……馬鹿な事したな」
「まあな」
俺は殺人事件を起こした。
まあ、馬鹿な事をした。
「おかげで会社はクビ、出所しても良い人生は送れねえ」
「……ま、状況から考えて相手に非もあるし、証言もあるから、少しでも罪軽くしてやるよ」
友人は弁護士になっていた。
こいつが俺の担当になったのは偶然だが、決まった時は驚いたもんだ。
弁護士になった事さえ知らなかった。
だからここに来れる訳だが。
「…なあ、覚えているか?」
「ん?」
友人は書類に目を通すのを中断した。
「お前言ったよな?俺が犯罪を犯したら即友達やめるって」
友人は少し考えて、
「覚えてねぇな、いつの話だ」
「中学生くらいかな?」
「んな昔の事覚えてるわけねぇよ」
「そうか」
俺は少し下を向く。
すると友人は溜め息を吐いて、
「……もしそんな事言ったんだったら訂正しよう」
「ん?」
「救いようのない犯罪を犯したら友達を即やめる」
「あん?」
「救いようがあるって言ってんだよ」
「…………」
「大体、刃物持ったキレた野郎ともみ合いになって相手刺したって、ドラマでも今時やんねえぞ」
「うるせえよ」
「しかも、それが見ず知らずの女を助けるためとかな……」
「……うるせえよ」
友人は何故か少し微笑んだ。
「……さて、色々準備もあるし、もう行くわ」
「……おう」
「またな」
友人は部屋から出ていった。
「……またな、か」
結局友人は友達のままでいた訳だ。
だが、俺が彼の言う『救いようのない』犯罪を犯したら彼は友達をやめていたのだろうか?
普通に考えたらやめてるだろう。
ま、やってもないからわからないが。
友人は言っていた、友達を無くすには信頼関係を壊せばいい、と。
俺は友人の信頼をもう裏切らない。
定かではないが絶対に。
……とにかく、友人は友達でいてくれた。
なんだか……今はそれで満足だ。