田中の言うことは気にするな 50音順小説Part~た~
主人公は田中ではなく環です。
田中君という人が私のクラスにはいる。
田中君はいわゆる変人だ。
授業中空をボーッと見ていたかと思いきやいきなり窓を開けて二階から飛び降りたり
誰もいないはずの教室でブツブツ独り言を言ったり・・・・・・
とにかく変わっていてクラスメイトからは敬遠されている。
けれど私も人のことを言えない。
だって私は変人の田中君をストーカーする変人だからだ。
ストーカーこと私 環は奇妙な行動をする彼を初めて見た
三ヶ月前から田中君をストーキングしている。
私の完璧なカモフラージュのおかげで今のところ誰にも気づかれていない。
今日もまた帰り道をついていく。
田中君は道端にしゃがみ込み何もない空間をじっと見ている。
「はぅ~田中君、やっぱりいいわ。不思議すぎる~。」
彼の行動にいつもながら感嘆する。
私はこうやって朝と夕方の行き帰り彼を見守ってもちろん彼の日々の行動スケジュールも把握している。
休日もなるべく彼といるようにする。
四六時中田中君といれないのは残念だけど会えない時間が愛を育てるんだよね、きっと。
「田中君と話せたらな・・・」
「はぁ~~~。」
「どうしたの?環ここんところ元気ないじゃん。」
「ちょっとねぇ~。」
「何々?もしかして恋煩いとか?とうとう環にも春来ちゃったか。」
「もうそんなんじゃないよ。」
「そんなこと言っちゃって、目が恋する乙女の瞳だもん。」
「うふふ~。」
「ほらやっぱりそうじゃんか。」
もちろん友人も私が田中君のストーカーだということは知らない。
「あっ、環見てみなよ。また田中の奴何かしでかしたっぽいよ。」
言われた通り見てみると田中君がちょうど廊下で先生にお説教されているところだった。
「あいつ本当何なんだろうね。いっつもおかしなことばっかして。」
「まぁいいじゃん。クラスに一人くらいああいう人がいた方が学校生活楽しくなるよ。」
「妙に田中の肩持つね、環。」
「そんなことないよ。いつも通りだよ。」
彼の真横からの姿をうっとりと見つめながら友人の会話していると
気配を察知したのか田中君がこっちを向き、目が合った。
そのまま目をそらすのかと思ったらじーっと私を見ている。
私が視線を外せずにいると先生との話も半ばに田中君がこちらにやってくる。
「ちょっとあいつ確実にこっち来るよね。」
こっそり私に耳打ちする友人が「関わりたくないよ。」とつぶやいた。
けれど私はドキドキしていた、ついに田中君と話せるチャンス到来!
とうとう私の目の前に立った彼は私を見る。
だけど気付いた、彼は私ではなく私の後ろを見ていた。
「あの・・・・・・」
ふいに田中君が口を開いた。
「気をつけて。」
そう言って田中君は先程話していた先生に連れて行かれてしまった。
田中君が去った後、教室内の雰囲気はざわめきたった。
「きをつけて?」
「何それ?まるで環に何か起こるみたいな言い方じゃん。」
もしかして私の身を案じて・・・
「田中の言うことは気にしない方がいいよ。」
「あっ、うん・・・。」
けれど私はやっぱり田中君が言ったことが気になった。
気になったので今日の帰りの尾行は余計気合が入ってしまった。
「田中君、あなたが私に言ってくれた言葉は一体どういう意味なの?」
彼の後ろ姿を見ながら一人つぶやく。
彼が曲がり角で折れいつも通り私も後に続こうとすると
いきなり猛スピードで黒塗りの外車が飛び出てきた。
「きゃっ!!」
ぶつかるっと思わず目を閉じてそこで立ちすくんでしまった。
次の瞬間凄まじい痛みと衝撃に襲われるかと思いきやわずかなものでしかなかった。
おそるおそる目を開けると私の上に誰かが覆いかぶさっていた。
視覚だけでは分からなかったけど匂いを嗅いですぐに誰だか分かり顔が急に赤くなってしまった。
「たっ田中君!?」
「怪我してない?」
「あ・・・うん。かすり傷程度しかないから。」
起き上がりあたりの状況を見てみると外車は急に方向転換したせいで電柱にぶつかりかけ
私はどうやら田中君に助けられたらしかった。
「ありがとう・・・・・。」
「別に。」
きゃ~田中君と結構話しちゃってる!!こんなこと滅多にないんだからいっぱい話しとこう!
なんて思ってたら重大なことに気付いてしまった。
普通自分のすぐ後ろを歩いてる同級生って状況怪しむよね。
ストーキングまではバレないにしても何か勘付かれちゃった?
真っ赤から真っ青へと顔色が変わる私を田中君は不思議そうに見た。
「どうかしたの?」
「ふぇ!?ううん。何でもない、何でもない。」
あれ?この感じ気付いてないっぽい。よかったぁ。
ホッと安心したのも束の間
「ところで、いつまで俺の後ついてくつもり?」
あちゃー、勘付かれるどころか完全にバレてました。
「・・・・・えっと、いつから?」
「最初から。」
まさか私の尾行は完璧なはずなのに。
「やっぱり・・・・・」
「え?」
「あっ!何でもない、何でもない。」
ぼそっと独り言を言ったのを慌てて隠し次の言葉を探す。
だけどもすぐに出てこない。
「この季節はすぐ暗くなるから早く帰った方がいいよ。」
田中君はそれだけ言うと特に言及することなく私を置いてさっさと帰ってしまった。
「田中君・・・・・・・」
私はとうとう心に決めた。
田中君に言おう・・・・・・・私の気持ちを。
そして本日付で私、環は田中君のストーカーを卒業します。
翌日私は田中君を追い回すのでなく先回りして待ち伏せした。
「田中君っ!!」
昨日と同じ曲がり角急に声をかけた私に驚くこともなくただ見つめる。
「あの・・・私、前から・・・・・」
言え、言うんだ環っ!!自分を奮い立たせ彼の顔をしっかり見る。
「前から田中君の霊能力に興味もってました!!ぜひ私も仲間に入れてください!」
言った!とうとう言ってしまったよぉ~。
彼の顔を確認すると今まで見たことのない驚く顔をしていた。
「知ってたの?いつから?」
「最初から。薄々そうかなって。」
お互いの台詞を変えての昨日の応答の繰り返し。
田中君のあの奇怪な行動は霊能力があればこそ生まれたものだった。
実は私は大のオカルトマニアで家には今まで収集した物が山ほどある。
だけど今まで本物の霊能力者や心霊現象にあったことがない。
だから初めて会った時すぐに分かった、田中君には霊能力があること。
そして彼がその力で霊を助けていること。
「だからお願いっ!」
一生懸命手を合わせて頼み込む私に田中君はまたもや不思議そうな目を向けた。
「霊とか視える奴がすぐ近くにいるのって怖いとか思わないの?」
「全然、だってすごいじゃん!その力で人助けしてるのだって知ってるよ。
あ、でもこの場合霊助けっていうのかな?」
「そんなことまで・・・・・」
「ねっ!いいでしょ?私も迷える子羊を助けたいのです。」
うるうると目を潤ませ上目づかいで見上げる。
珍しい田中君の困った表情を下から見るのもなかなか悪くない。
「・・・わかった。」
ついに田中君が降参した。
「やったぁ~!!」
私は嬉しすぎて思わずジャンプして大喜び。
「けどこれだけは言っておく。俺があんたについてきてもいいと言った時だけにしてくれ。」
「えぇ・・・うん。まぁ、はーい。了解でーす。」
「胡散臭い。今の明らか嘘だよな。」
「田中君の言うことは気にしませんー。」
なんかぶつぶつ言っている田中君は無視してこれから始まる新しい日常に私はすでに目を向けていた。