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アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ


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9/16

来訪者

教師の村田が戻ってきて怒鳴っている。


「自習はどうした? 自由時間じゃないんだぞ!!」


クラスの生徒たちは慌てて自分の席へ戻っていく。


「早く席につけ! 校長先生から話がある。」


校長が教室に入ってくる。

ぞろぞろと生徒たちは着席していった。


校長は教壇に立ち、話を始める。


「突然、生徒が消えるという事件が発生し、

我々も皆さんも同じように困惑していると思いますが・・・・・・どうか冷静に対応してください。


今後について話します。

まず、この一件は警察に通報しました。

警察の方からの依頼で、この教室はしばらく使えなくなります。

その為、今日から空いている“3-F”を使って授業を行います。――」


校長は長々と説明を続ける。

安永久美は背筋を伸ばして聞いてはいるが、頭では別のことを考えていた。


(・・・まったく時間の無駄。長々と話しやがって、ハゲ校長が・・・

てめえの話聞いてるぐらいなら単語の一つでも覚えてた方がましだ!!)


机の中に隠したタブレットへと、目線だけを落とす。


(画面が消える前に出てたゲーム画面・・・キャラクターの名前があった・・・

彩乃と魔王・・・消えた“柏木彩乃”と“立花真央”・・・・・・なにか関係があるのかしら?)


久美はそっと手を伸ばし、電源ボタンを押す。

指紋を認識できないというメッセージとともに、ロック画面が表示された。


「ちっ」


そんな時、久美の耳に、何かが“入り込んで”きた。


(……あ……け……ろ……)


首筋がぞわりと粟立つ。


「・・・なに?」


(……あ……け……ろ……)


再び声が響き、額に汗がにじむ。


(……あ……け)


タブレットのロック画面がふっと暗転し、

一瞬だけ、世界が“揺らいだ”ように見えた。


「な、なんなの・・・?」


久美は左右に目線を走らせ、周囲を確認する。

誰も異変に気づいていない。

校長の話はまだ続いていた。


「――また、皆さんは事件の目撃者となりますので、

あとで、一人ずつ警察の事情聴取を受ける事になります。協力をお願いします。」

そう言って、村田と話をする。


「警察が来る前に、保健医の三浦先生と一人ずつ面談してください。

消えたことでショックを受けている生徒がいる場合は、対処をお願いします。」


「わかりました。」


校長は教室を出ていく。

ドアの外には保健医の三浦が立ち、教室の様子を覗いていた。


「この後、一人ずつ面談するぞ。

出席番号順に空いてる3-Fの教室へ来るように。

じゃあ、まず相川から。」


村田は相川を手招きし、一緒に教室を出て行った。


―――アクトリア


ウッディコが厨房の方から戻ってきて、二人の様子を見て眉をひそめる。


「おい、なんだその空気。腹減ってんだろ?

もうすぐ料理が来るから、変な顔してんなよ。」


真央は火照った顔を手で覆い、彩乃は少し頬を膨らませていた。

ウッディコが近づいてきたので、二人は慌てて姿勢を正す。


店内には、煮込み料理の香りが漂っている。

木のテーブル、石壁、薄暗いランプの灯り。

外の路地裏の喧騒とは違い、門番亭の中はどこか温かかった。


コロナが食事を運んできた。


「お待ちどうさん! 門番亭名物の“石鍋シチュー”だよ!」


「これが熱々でうまいんだ。さあ、食え食え!」


ウッディコがおすすめするだけある。

野菜と大きな肉が長時間煮込まれ、いい香りを漂わせている。


「「いただきます。」」


二人はフォークとスプーンを手に取り、シチューを食べ始める。

真央はあまりの熱さに口へ運べず、ふ~ふ~と息を吹きかけて冷ましてから口に入れた。


真央と彩乃は思わず見つめ合う。


「どうだ?」


ウッディコが尋ねると、二人は同時に顔を上げて、


「うまい!」

「美味しいです!」


そう言って、また夢中で食べ始めた。


ウッディコが食べながら、“来訪者”のことを話し始める。


「この城塞都市では、来訪者は保護対象なんだ。」


「ぼご・・・たい・・・じょう?」


真央はシチューを口に含んだまま聞いた。


「お前さんたちは、どっか別の世界から来るんだろ?」


二人は頷いて答える。


「ずいぶん前から来訪者は現れていた。

一番多かったのは10年以上前だ。


なんでも、“げぇぇむ”とか言う物に名前を刻むと

ここへ来たんだとか・・・」


真央が咳き込む。


「そ、それ・・・来た人が・・・ら、来訪者が言ったんですか!?」


「ああ、そうだぞ。

それで、ここでの生活基盤のない来訪者を保護するって、

城主様が決定した。」


「ってことは、来訪者はこの都市のどこかに住んでるんですか?」


「いや、ほとんど迷宮に挑んで、戻って来なくなった。

最初のうちは戻って来るんだが、そのうち見なくなる。

みんなが止めるんだが、なぜか入っていく・・・」


「ほとんどってことは、何人かはいるんですか?」


「城で何人か働いてるそうだ。

お前たちの世界は、技術が進んでるんだろ?


城主がその技術を欲しがって、色々作ってもらってるとか・・・」


「その人とはどこかで会えますか?」


「オレは噂しか知らんから、よくわからんよ。」


真央がはっとして、ウッディコに聞いた。


「矢島・・・矢島慎吾って来訪者いませんでした?」


ウッディコは眉をひそめて考える。


「あー、シンゴ! 10年ほど前にそんなやついたな。

結構小太りで、眼鏡かけたやつだったか・・・」


真央が顔をしかめる。

彩乃がそれを見て尋ねた。


「真央君、その矢島って・・・知ってる人?」


「これはオレの勘なんですけど・・・

オレが手に入れた“アクト”は矢島さんのじゃないかと思うんです。」


「どういうこと?」


「昨日、近所のおばさんたちが世間話で話してたんです。

矢島さんの両親が“もう諦める”って・・・

その人、オレが生まれる前に行方不明になったらしいんです。」


「え? ウッディコさんは10年ほど前って言ったわよ。」


「え・・・あれ・・・?」


真央は再びウッディコに尋ねた。


「そのシンゴって人、本当に10年前ですか?」


「ああ、そんなもんだぞ。

その10年以上前は、ほとんど来訪者はいなかった。」


真央は考え込む。


「・・・・・・?

時間軸が違うから、こっちに現れるタイミングが違うとか・・・?」


答えが出ない。

真央は考えるのをやめた。


「やめよう。答え出ない。」


彩乃があきれたように笑った。

ウッディコが続けて説明する。


「お前たちの今後なんだが・・・

とりあえず、城塞都市の“ゲートウォッチ”って宿に自由に泊まれる。


メインストリートに出て右に曲がって、城壁沿いに左に行くとある。

飯食った後、案内しよう。


生活できるようになれば、宿を出て生活しても良いぞ。」


「お金ありませんよ。」


「来訪者の宿泊費はタダだ。

当面の金は生活費として支給される。

だが、最初だけだから働くしかない。


お前たちはどうする?

働きたいなら、オレが紹介するぞ。」


真央は彩乃を見る。

彩乃は頷く。それを見てウッディコに言う。


「オレ達は、元の世界に戻る道を探します。」


「それって迷宮か・・・?」


二人は頷く。

ウッディコの顔が曇る。


「・・・止めることはできないか・・・

確かに迷宮に潜れば金にもなるが・・・」


ウッディコは二人をじっと見て、力強く言った。


「最初の支給される金で、とにかく装備を整えろ!

絶対、死ぬんじゃないぞ!」


「はい。」


―――ゲートウォッチ


食事をすませると、三人は門番亭を後にした。

ウッディコが宿屋への道を先導する。


「ここが、お前たちが使える宿だ。」


ウッディコが“ゲートウォッチ”の扉の前で二人に言い、ドアを押し開けて中へと誘う。

真央と彩乃はその後ろをついて、宿の中へ足を踏み入れた。


宿は石組みで建てられており、組んだ石の隙間は石灰モルタルでしっかりと固められている。

外側の壁はモルタルで整形されていたが、内部は石がそのまま見えていて、

灰色と薄茶色が混ざった色合いが美しい。

通路へ続くアーチも石で組まれており、重厚なのにどこか温かい雰囲気があった。


「す、すごいね。中世の建物って感じ・・・」


彩乃はぐるりと宿の中を見回し、目を輝かせている。

そんな彩乃を見て、真央は目を細めた。


ウッディコが宿の主人に説明している。

宿を眺めている二人に“来い来い”と手招きした。

近くに行くと、ウッディコが主人に紹介する。


「この二人は来訪者のマオとアヤノだ。

10年ぶりだが、よろしく頼む。」


主人は頷き、二人に向き直る。


「はじめまして。私はこの宿を経営している“マーロウ”。

マオ、アヤノ、個室と相部屋どっちがいい?」


「へあっ!?」


真央はマーロウの問いに、慌てて変な声を出した。

彩乃は一瞬驚いたが、すぐに笑いがこぼれる。

真央が彩乃を見ると、その視線に合わせて彩乃がニヤリとした。


「いいわよ~。相部屋でも~。」


慌てて、真央がマーロウに答える。


「い、いやいや、こっ、個室でお願いします!」


マーロウとウッディコはぽかんとした顔で真央を見る。


「個室ね・・・」


マーロウはカウンターの下から鍵を二つ取り出し、カウンターに置いた。


「2階の5と6号室だ。 そして、これ。」


小袋を二つ、カウンターに置く。

チャラ・・・と金属がぶつかる音がした。


二人が手に取って中身を確認すると、金貨が三枚入っていた。


「・・・金貨?」


ウッディコが説明する。


「この城塞都市だと、金貨一枚で一か月は生活できる。

だが、迷宮に潜るための装備をそろえると、

三枚じゃ最低限の装備しか買えない・・・。


いいか、装備品をケチるな。

金より命を優先させろよ。」


ウッディコの迫力に、二人は思わず唾をのみ込んだ。


「じゃあ、オレは仕事に戻る。

保護対象ってだけで一日潰すと怒られるからな。


ここに来る途中に大きな門があっただろ?

あそこがオレの仕事場だ。

休みじゃなきゃ、昼間はそこにいるからいつでも来な。」


「わかりました。」

「色々ありがとうございました。」


ウッディコはゲートウォッチを出て行った。


「これから、どうする?」


彩乃が尋ねる。

真央は迷いなく答えた。


「靴買いに行きましょう。」


「え? 靴?」


真央が人差し指で“下下”と合図する。

彩乃は目線を落として笑った。


「確かに靴がいるわ。」


二人は上履きのままだった。


「この辺で靴屋ありますか?」


マーロウに尋ねると、彼は丁寧に教えてくれた。


「メインストリートを城に向かって登っていく途中に革製品の店があるよ。

靴は装備品になるやつを買った方がいい。

最初は革製品くらいしか用意できないだろうからな。

迷宮潜るならバッグも揃えた方がいい。


買い終わったら、城壁を登ってみたらどうだい?

この世界の“歪んだ形”がわかるよ。」


「わかりました。」


「鍵は宿に戻った時に渡そう。

出るときは、カウンターのこの穴に入れてくれ。」


「はい。」


二人は宿を出ていく。

不安もあったが、ワクワクが止まらなかった。


―――


彩乃は足首までの革靴を、真央は脛まで守るブーツを買った。

バッグも購入し、履いてた上履きはそこにしまった。


おすすめされた城壁を登る。

城壁はおよそ30メートルの高さ。

階段は幅1メートルほどで、地面から最上部までまっすぐ伸びている。

手すりは一切ない。


彩乃は10メートル付近で足がすくみ、動けなくなった。


風が吹くと、壁側にしがみつくように身体を寄せる。


「無理、無理・・・」


真央は彩乃の手を取った。


「オレの方見て。下は見ないように。」


彩乃は真央をじっと見つめ、動かない。


「どうしたの?」


「そういうことは言えるんだって思って・・・」


「なっ・・・の、登るよ!」


真央の耳は真っ赤になっている。

それを見て彩乃は笑いながら、階段を登り切った。


「すご・・・っ」


城壁の上に立つと、都市をぐるりと囲む巨大な構造が一望できた。


城壁は厚さ5メートルほど。

階段の途中にも入口があり、そこから内部に入れる。

中は部屋になっており、外敵に備えて矢を射るための細い穴がいくつも開いている。

その穴は外側が狭く、内側が広い形状だった。


要所には塔のような構造があり、そこから人や物資を上げるための

大きな滑車が吊られている。


城壁の外を見ると、さらに外側にもう一つ城壁があった。

その城壁の外側は低く下がっている。

ウッディコがアクトリアは丘に建ってるって言った意味がよくわかった。

そして、その城壁の外側には、ゆらゆらと薄い膜のようなものが張り巡らされている。

太陽の光を受けて、オーロラのように赤や緑と色が動いている。


薄い膜の向こうには景色があった。

膜のせいでぼやけているが、確かに“外の世界”が存在している。


膜の高さは50メートルほどで、その上には空が広がっていた。

太陽は傾き、膜の外側に沈んでいる。ぼやけて見えるが、その光は強く、

空の雲を赤く染めていた。


「これ・・・気球作って上がったら出れるんじゃないか?」


真央はそんなことを考えた。


「この時代はまだ気球なんてないから、やってみた人いないわよ。きっと・・・」


「でも、来訪者なら知ってるんじゃない?」


そう言って城壁内を見下ろすと、朱色の瓦屋根が所狭しと並んでいた。


「すごく、きれい・・・あ、あれ見て。」


彩乃が左手を指さす。

真央が目を向けると、朱色の屋根が途切れ、背の高い木々が生い茂り、

その奥に教会が見えた。


「あそこ・・・オレ達が現れた場所・・・」


「あの教会、あんなに大きかったんだね。」


「緊張で周り見えてなかったもんな〜。」


彩乃がふっと笑い、真央の方を見る。


「真央君、ここへ連れてきてくれてありがとう。」


「え・・・っ? どういう・・・」


「現実の世界にいたら、こんなすごい体験できなかったよ。」


「死んじゃうかもしれないんだよ?」


「ううん、きっと死なないよ。

だって、守ってくれるんでしょ?」


彩乃は満面の笑みで真央を指さした。


「つ・・・ッ! 当たり前でしょ!!」


「明日から頑張ろう!」


城壁の上で、真っ赤に染まった空と夕陽が二人を照らしていた。


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