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アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ


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タブレット

笹田はデスクでレコーダーを再生し、真央とのやり取りを確認していた。

しばらく聞き込んだあと、椅子を勢いよく引いて立ち上がり、対面の机に両手をついて田中に向き直る。


「確かに・・・14人のところで違和感ありますね。」


「だろ」


「これはどういうことなんでしょう。

彼は記憶がないって言ってるのに・・・

14人にはかすかに反応してますよね。」


笹田は目を泳がせ、頭の中で状況を組み立てようとしていた。

その様子を見て、田中が口を開く。


「何か知ってるのは、間違いねえな。」


笹田がすぐに返す。


「でも、素直に教えてくれますかね?」


「あの落ち着き方じゃ、簡単じゃねえな」


「では・・・」


「もう一回、資料を洗い直そう。

何かつながりがあるかもしれん。」


「はい! 資料、引っ張り出してきます。」


笹田は返事をすると、ファイル棚へ向かって歩き出した。

田中は椅子に深く腰を下ろし、腕を組んで考え込む。


(正直、尾行したいところだが・・・部長に言っても許可は出ねえだろう。

勝手にやるか・・・? いや、バレたら面倒だ・・・だが・・・)


笹田が大量の調書のファイルを両手に抱え帰ってくる。


「持ってきました。」


「ちょっと出てくる。」


「え? 洗い直しは・・・」


「お前がやっとけ!」


田中はそう言い捨ててドアを開け、そのまま出ていった。

パタンと閉まった扉をしばらく見つめ、笹田はファイルに視線を落としながらつぶやく。


「ウソでしょ・・・」


―――


真央はPCでVPSのログを確認していた。


「ああ、やっぱりか・・・」


画面には、タブレットからの接続履歴がずらりと並んでいた。


「ということは、アクチュアリーが他に存在するのではなく、

オレのタブレットが“来訪者”を送り続けているということか・・・」


自分がタブレットをVPSに自動ログイン設定していたことを、真央は深く後悔した。

ログを見る限り、9月までは真央の住むエリアからの接続だった。


だが、ここ最近の接続先は“京都エリア”に変わっていた。


「再びキャラを作り始めたのは、新しい場所で必要になった・・・そんな感じか・・・?」


真央はアクチュアリーを立ち上げ、彩乃やコータたちが無事かどうかを確認する。

名前が残っているのを見て、胸の奥が少しだけ軽くなった。


「迷宮には行ってないみたいだな・・・オレがいなくなって、迷宮攻略やめてるのか?」


その時、ゲーム画面のある部分に違和感を覚えた。


「んんっ? これって・・・

おいおい、マジか・・・

オレって・・・そういうことになってるのかよ」


―――


階段を下りていく真央。

キッチンでは、母親が洗い物をしていた。真央はその背中に声をかける。


「かあさん、高校に挨拶に行ってくる」


母親は振り返り、タオルで手を拭きながら釘をさしてくる。


「学校に?

事件は先生方も大変だったし、

いっぱいお世話になったから、キチンと謝っておくのよ。」


真央が両親から聞かされていたのは、行方不明当時、学校に毎日報道陣が押し寄せ、

無許可の生徒インタビューや隠し撮りが相次ぎ、先生たちが相当苦労したという話だった。


「分かってるよ。 行ってきます。」


母親は玄関先までついてきて、手を拭きながら何か言いかける。


「本当はおみやげ・・・」


真央は相手にせずドアを閉め、そのまま学校へ向かった。


帰還した日の夜に歩いた通学路は、昼の光の下ではまったく違って見える。

家々の輪郭がはっきりし、古い家が多いことや、屋根が少し沈んだ家もあることに気づく。


そんな時、背後にわずかな気配を感じた。


(ん? 誰か・・・)


真央は歩きながら、さりげなくカーブミラーを覗き込む。


(ああ、田中刑事か・・・やっぱり怪しんでるのか・・・)


カーブミラーの端に小さく映る田中刑事の姿。

普通の人間なら気づかない距離だが、迷宮で一年鍛えられた真央には造作もない。


(学校に行くだけだから、どうでも良いけど・・・

オレが帰ったあと学校に行かれても面倒くさいな・・・

先生にも悪いし・・・)


真央は曲がり角を曲がった瞬間、マーカーを発動し、自分の部屋へ一旦戻った。


「やべ! 土足だった!?」


慌てて靴を脱ぎ、階段を駆け下りて玄関へ向かう。


「行ってきま~す」


突然の足音と声に、母親が驚いたように振り返る。


「え? え?」


―――


田中刑事は、気づかれないよう距離を取って尾行していた。

真央が曲がった角をそっと覗き込む。


だが、そこには真央の姿はなく、国道へと続くまっすぐな道が伸びているだけだった。


「おいおい、ウソだろ?」


田中刑事は左右を見回しながら走り出し、国道の方へ向かった。


その様子を、真央は曲がり角の陰からそっと覗き込む。


「よし、うまく撒けたな」


真央は姿勢を戻し、再び学校へと歩き出した。


―――口加高校


口加高校は明治35年創立の「私立口之津女子手芸学校」を前身とする歴史ある学校だ。

太平洋戦争後の学制改革で男女共学となった。


校門をくぐり、体育館横の緩やかな坂を登っていく。

真央は周囲を見渡しながら歩いた。


「3年じゃ、全然変わってないな。」


校舎に入り、職員室へ続く廊下を進む。

後輩たちが元気よくあいさつしながら駆け抜けていく。


「こんにちは!」


見慣れない私服姿の先輩に、ひそひそと声を潜める女生徒たちもいた。


「あの人、どっかで見たことある・・・」

「あ、神隠し事件の・・・」

「――昨日ニュースで・・・」


真央にはすべて聞こえている。

なんだか照れくさい気分になった。


(結構、有名人なんだな・・・)


職員室のドアをガラリと開ける。


「失礼しま~す!」


中にいた先生たちが一斉にドアの方を見る。

その中で、体育の井上先生が大きな声を上げた。


「おーーーっ!! 立花じゃねえか!!

帰ってきたって聞いてたが、本当だったのか!!」


真央はその声の方へ歩み寄る。


「井上先生、相変わらずジャージなんですね。」


「わはは、これが一番楽なんだよ!

で、今日はどうした?

復学の手続きか?」


井上は体育教師らしく、声が大きく、よく笑う。

その問いに、真央は後頭部を掻きながら答えた。


「いや~~~

四つも下と一緒に授業はキツいっすよ。

認定試験でいいかなって。」


「まあ、お前ももう大人だしな。

自分の人生、好きにすりゃいいさ。」


井上は座っていた椅子を回し、真央と向き合う。

椅子がキィーと音を立てた。


「じゃあ、何しに来たんだ?」


「3年前のことで、聞きたいことがあって・・・」


「あーーー

あん時大変だったんだぞー」


「ご迷惑をおかけしました。」


真央は深々と頭を下げた。


顔を上げると、別の先生がこちらへ歩いてくる。

美術の幸田先生――真央の担任だった人だ。


幸田は変わらない柔らかい声で話しかけてきた。


「立花君、ニュースで見たわよ。

3年経ったのに、全然変わってないわね。」


真央は軽く会釈する。


「お久しぶりです。 先生もお変わりないですね。」


(1年しか経ってないってのは言えないなー)


真央が成長していない理由は、向こうの世界と現実の時系列のズレだ。

だが、もし他の連中が戻ってきたら――

その“ズレ”がもっと大きな問題になる気がして、背中に汗がにじむ。


「オレが消えた後にも、消えた人がいたって聞いたんですが・・・」


井上が答える。


「そうなんだよ。

しかも、成績の良い連中ばっかな。


大学の合格率が下がるって、

学校も職員連中もピリピリに当時はなって大変だったぞ


一人、なんとか京大に推薦が決まって・・・

先生たち全員頑張って補習しまくって、

他も何とか合格ラインまであげて――」


井上の口から出た「京大」に、真央はピクリと反応した。


「推薦って、いつ頃決まるんでしたっけ?」


「10月だな」


「だ、誰が・・・・・・推薦されたんですか?」


井上は腕を組み、眉を寄せて記憶を探る。


「うーー

3年前の京大の推薦は――

え~っと・・・」


幸田が助け舟を出す。


「安永久美さんですよ。」


「そー、そー、安永だ!」


真央は安永久美の顔を思い出す。


(影の薄い、がり勉女って記憶しかないな・・・

あの時、席はオレの後ろ・・・

オレが消えりゃ、机の中は丸見えか・・・


消えた事を考えれば教室は大騒ぎだっただろうし、

どさくさに紛れれば、抜き取れる場所だ・・・)


考えをまとめ、真央は先生たちに尋ねた。


「先生、オレの荷物なんですけど。

親に渡してくれた私物の中に、

タブレットだけ入ってなかったんですよ。知らないすか?」


「タブレット?」


「スマホはあったが、タブレットはなかったぞ」


「でも、オレが消えた後、

そのタブレットからサーバーにアクセスがあるんですよ。」


「クラスの誰かが持ってるってことか・・・

そりゃ、大問題だな・・・」


盗難の可能性に、井上は頭を掻いて困り顔になる。

そこで幸田が提案した。


「同級生に聞いてみたら?

同級生だけが集まるグループチャットがあるから確認できるわよ。」


「グループチャット?」


「担任やってたから、私も入っているの。

良かったら、招待しましょうか?」


「あ、お願いします。」


「ちょっと待って」


幸田は自分の机に戻り、スマホスタンドからスマホを取って戻ってくる。

画面を操作すると、真央のスマホがピロン!と音を鳴らした。


確認すると、同級生グループから招待の通知が届いていた。


「来ました。 じゃあ、ここで確認してみます。」


真央は職員室を後にした。


校舎を出たところで立ち止まり、スマホのグループメンバーを確認する。


「このグループに安永久美がいたら、入れない・・・

今、バレる訳にはいかない・・・」


安永久美は、性格なのか単に興味がないのか、グループには参加していなかった。

あとはテレビのニュースだが、ここは地方の片田舎。

“帰還”のニュースは3年が経過していた事もあり、全国規模ではそれほど大きく扱われなかったらしい。


「TVは見てないことを祈るだけだな・・・」

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