表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/16

魔王

真央が彩乃のキャラメイクを決定した瞬間、教室がザワザワと騒ぎ始めた。


タブレット画面に集中していた真央は、何が起きたのかわからず顔を上げる。

黒板に向かっていた教師が振り返り、声を張った。


「こらー! うるさいぞ!」


「先生! 柏木さんが消えました」


「あのな・・・

人間は消えるような物じゃないんだぞ!!


ん? 柏木がいないな?

どこ行ったんだ?」


「だから! 消えたんだって!!」

生徒の一人が怒鳴るように言った。


真央の全身に電気が走る。


(えっ・・・?

彩乃さんが消えた・・・?)


教室のざわつきは収まる気配がない。


「異世界にでも呼ばれたんじゃないんすか~w」


「ちょっと男子!!

こんな時にふざけないでよ!!」


彩乃と仲のいい女生徒が怒鳴り返す。


真央は慎重に思い返した。


(オレが彩乃さんのキャラメイクしたタイミング・・・

まさか・・・ゲームの中に・・・?)


額に汗が滲む。

あまりに突飛すぎて、首を何度も振った。


(いやいや・・・

そんなことがある訳ないじゃないか・・・ラノベじゃあるまいし・・・)


教師は必死に教室を鎮めようとする。


「おい! みんな静まれ!

他の教室に迷惑だぞ!!」


だが、生徒たちの耳には届かない。


教室のドアが開き、隣のクラスで授業していた先生が入ってきた。


「村田先生、いったい何の騒ぎですか?」


ドアの所へ行き説明する。


「すいません、目黒先生。 うるさくして・・・

よくわからんのですが、女生徒が消えてしまったと・・・」


「誰ですか?」


「佐伯です。」


目黒先生は彩乃の席を確認する。


「確かにいませんね。

村田先生は見たんですか?」


「いえ・・・授業中にいたのは見たんですが・・・」


二人は消えた彩乃について話し続ける。


真央は、昨日コータ達を作ろうとした時のことを思い出していた。


(あのメッセージ・・・よく考えればおかしくないか?


ゲームの警告メッセージって

【同じ名前は作れません】とか

【同じ名前は使えません】が

普通だよな・・・


【同じ人間】って言うか?)


タブレットの画面を開き、キャラクター一覧を表示させる。

そこには『彩乃』の名前があった。


(昨日作ったコータ達は一覧にはいない・・・ってことは・・・

みんなでつるんで行動中・・・ってことか?)


再び画面に手を伸ばす。


(――アクトの難易度知らないアイツ等が、

あの世界でやっていけるのか?


他のキャラ作って接触・・・)


その瞬間、指が止まった。

同じことをすれば、また一人この世界から消える。


一つの考えが、真央の頭の中で何度も何度も反芻される。


(アクトってオフラインゲームだから、ログアウトがない・・・

そもそも、戻る方法はあるのか?)


額に汗が滲む。


(いや、オレが送り込んだんだ!!

オレが助けないで、誰が助けるって言うんだよ!!)


真央は自分のキャラクターを作り始めた。

キャラ名はオンラインゲームで使っている「魔王」。

真央をもじった名前だ。


ボーナスは幸運にも一発で『26』が出た。

26をパラメータに割り振り、クラスは“戦士”と“魔術師”を兼ねる“侍”を選ぶ。


【決定しますか?Y/N】


真央は大きく深呼吸し、Yキーをタップした。


目の前が真っ白になり、意識が飛ぶ。

座っていた椅子がガタガタと揺れた。


教室がさらにざわつく。


「先生! 今度は立花君が消えました!」


二人の教師が教室の後ろを見る。


「はああぁ!?」


―――――――


真っ白な空間が、ゆっくりと色と形を帯びていく。

視界がはっきりした時、そこに広がっていたのは見たこともない景色だった。


目の前には巨大な教会がそびえていた。

壁は削り出した石で作られ、装飾の施された窓がずらりと並ぶ。

中央には中世の建築を思わせる大きな丸窓が、重々しく構えている。


さらに壁の上部には、悪魔のような石像が規則正しく並んでいた。


「な、なんだここは・・・世界観が違うんじゃ・・・」


後ろを振り返る。

そこには巨大な城壁がそびえていた。

高さは30メートル近くある。


真央はアクトの設定を思い出す。


狂王と魔術師の争い、城のすぐそばに開いた巨大な穴――

だが、今目の前にある光景は、ゲームの設定とはまったく違っていた。


(どこだよ・・・ここ・・・)


足元は土。

気づけば履いているのは上履きのままだ。

周囲を見回すと、馬が何頭も柵につながれている。

フンが放置され、鼻をつく独特の匂いが漂っていた。


石積みの囲いのそばに、制服姿の彩乃が座り込んでいた。

体を抱え込むようにしてガタガタと震えている。


よく見ると、周囲の人々が真央と彩乃を見つめ、何やらひそひそと話していた。


真央は彩乃に駆け寄る。


「彩乃さん!!」


名前を呼ばれた彩乃は、びくりと肩を震わせて顔を上げた。


「ま、まおくん?」


制服のまま座り込み、体を抱え込んで震えている。

真央はそばまで行き、できるだけ落ち着いた声で問いかけた。


「大丈夫?」


彩乃は唇を震わせながら、必死に言葉を探しているようだった。

その目は涙で潤み、恐怖と混乱が入り混じっている。


周囲の視線が二人に集中していた。

石造りの建物の影から、革の鎧を着た男たちや、

ローブ姿の女性たちがひそひそと話している。

まるで“異物”を見るような目だ。


馬のいななきが響き、フンの匂いが風に乗って漂う。

土の地面、石壁、ガーゴイルの像――

どれも現実離れしていて、真央の心臓がドクンと跳ねた。


(アクトの世界観にこんな描写はない・・・ここは別世界だ・・・)


彩乃は震える声で言った。


「ここ・・・どこなの・・・?

わたし・・・授業受けてたはずなのに・・・気づいたら・・・」


言葉が途切れ、再び肩が震える。


真央は深く息を吸い、覚悟を決めたように彩乃の肩に手を置いた。


「大丈夫。オレがいるよ。

絶対に守るから」


その言葉に、彩乃の表情が少しだけ緩んだ。

だが、周囲の視線はますます強くなる。


石畳の向こうから、鎧を着た男がこちらへ歩いてきた。

腰には剣。

胸には紋章。

明らかに“この世界の住人”だ。


真央は無意識に身構えた。


「お前たち・・・来訪者だな?」


男が問いかけると、周囲の人々が輪を縮めるように近づいてきた。

二人はその言葉に驚いた。


「ら・・・来訪者?」


「ああ・・・あんたら来訪者は、“訳が分からず”が普通だったな。


ここ10年ぐらい、来訪者の来訪はなかったんだが・・・

昨日五人来て、今日はあんたら二人だ。

こりゃ、久しぶりに来る感じかな・・・」


男はそう言うと空を見上げた。

真央は男の言葉に反応した。


「き、昨日の五人・・・!? その五人は?」


「昨日の五人?」


輪の中の男が口を開く。


「ああ、昨日の五人なら迷宮に行ったぞ。

チートとかスキルとか、わけのわからない事ばかり言って、装備もちゃんとしないし、

迷宮をなめてる感じあったんで、止めたんだがな・・・」


真央の脳裏に衝撃が走った。


(確実に死んでる・・・)


青ざめる真央を見て、彩乃がそっと腕をつかむ。


「真央くん、どうしたの?」


真央は一度彩乃に視線を落とし、添えられた手に自分の手を重ねた。


「大丈夫・・・守るから・・・」


彩乃は真央の言葉の意味がわからず、ただ不安そうに見つめ返した。


男が再びしゃべりだす。


「よし! 今日来たお二人さん!

ついて来な。 飯でも食いながら、ここのこと教えてやる!」


そう言うと、男はくるりと背を向け、歩き出した。

真央と彩乃はその背中を見つめ、動けずにいた。


ついてこない二人に気づいたのか、男は振り返り、手をひらひらと振って四本の指で招いた。

その仕草は妙に慣れていて、まるで“迷子の子ども”を呼ぶようだった。


真央は彩乃の手をそっとつかむ。

彩乃は驚いたように目を瞬かせたが、拒むことなくその手を握り返した。


二人は男の後を追って歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ