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アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ


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3/16

帰宅

真央の住む地域は過疎化と高齢化が進んでいる。

街灯だけがぽつぽつと灯り、夜道は薄暗い。

人影はほとんどなく、空気はひどく静かだった。


鎧が歩くたびにガチャガチャと音を立てる。

真央は街灯を避けながら、自宅へ向かって歩く。

時折、後ろを振り返る癖が抜けない。地下迷宮で身についた習慣だ。


「さすが、ウチの田舎は人がいないな。

向こうの世界の方が人いるよ・・・

誰にも見つからず帰れそうだ、まさに田舎様さまって感じだな!」


あまりの静けさに、思わず笑みがこぼれる。


国道から離れているため、車の音はほとんど届かない。

人の足音が響くほどの静けさで、闇に紛れるのは容易だった。


家々からは、ときおりテレビの音が漏れてくる。

耳の遠い老人が多く、どの家も音量が大きいのだ。


「1年しか経ってないけど、テレビの笑い声懐かしいな・・・」


――――――――――


無事に自宅へたどり着いた。

家の前をうろうろしながら外観を確認する。


「家の見た目は変わらないな・・・時間はそれほど経ってないはずだけど・・・

それより、問題はコレだよな・・・」


自分の鎧姿を見て、真央はあきれたようにため息をつく。


「はあ・・・とりあえず、脱いでどっかに隠すか・・・」


鎧を外し、向こうの世界で着ていた簡素な服だけになる。

鎧と武器は庭の木の陰に隠した。


「とりあえず、ここなら夜の間は大丈夫だろう・・・後で部屋に持ち込もう。」


ひとつ深呼吸してドアを開ける。


「ただいま~~~!」


ガチャーン!


ダイニングから何かが落ちる音がした。

開いていたドアから母親が顔を出す。


「ま、真央!?」


次の瞬間、顔をぐしゃぐしゃにして駆け寄り、抱きついてきた。


「あんた! 3年間もどこに行ってたの!!」


「え? 3年?」


「そうよ、3年の間大変だったのよ!!」


( 1年じゃなく、3年経ってるだって?? )


衝撃で頭が回らない。

そこへ父親が歩いてくる。

真央の顔を見ると表情が緩んだが、すぐに眉をひそめた。


「ちょっと真央! あんた、ものすごく臭い!

なに、その恰好は!? 汚いし!!」


母親は匂いに気づき、飛び退いた。


「え? 臭いかな?」


「臭いわよ!! 今すぐ風呂にはいりなさい!!」


母親は風呂場へ走り、お湯をためる音が響く。


真央は自分の肩に鼻を寄せるが、

自分の匂いなのでそこまで気にならない。


しかし、直前まで地下迷宮で三日以上戦い続け、

汗と返り血まみれだったことを思い出す。


(そりゃそうか・・・)


父親が鼻をつまみながらつぶやく。


「ホームレスのような匂いだ。」


「ええっ!? そんなに!?」


「その着ているモノも一緒に洗いなさいよ! 洗濯機に入れたら殺すからね! 絶対殺すからね!」


風呂場から母親の怒声。

父親は無言で頷く。


「どれぐらい酷いのか、よくわかりました・・・」


風呂に入ると、三回目のシャンプーまで泡立たなかった。

汚れのひどさに自分でも呆れる。


――――――――――――――


風呂から上がると、家中にコーヒーのいい香りが漂っていた。


ダイニングでは両親がコーヒーを飲んでいる。

真央の席にもマグカップが置かれていた。

二人は“座りなさい”という顔をしている。


(さて、困ったな・・・説明を求めてくるだろうけど・・・

話しても信じて貰えないだろうし・・・どう説明すべきかな・・・)


真央は座り、スティックシュガーを半分だけ入れて混ぜる。

母親が切り出した。


「色々聞きたいことあるんだけど・・・まず、今までどこに行っていたの?


知ってる?

あなた達の失踪は【神隠し事件】として、警察が探しているのよ?」


「は? 神隠し事件?」


「そうよ! あなたと彩乃さん、

授業中にみんながいる前で消えちゃったから、そう呼ばれるようになったのよ!」


父親は黙って頷く。


「で、どこに行ってたの!?

コータ君とかイチゴ君達も一緒だったの!?」


「ごめん・・・覚えてないんだ・・・

記憶がないって言うのかな・・・気が付いたら夜の教室にいて・・・」


「記憶ないって・・・何よそれ・・・」


母親は困惑し、父親を見る。

真央はその視線がつらくて、コーヒーを一口飲んだ。


「おいしい・・・」


久しぶりの甘いコーヒーが胸に染みて、涙があふれた。


「あ、あれ?」


慌てて涙を拭う真央を見て、母親が声を上げる。


「やっぱり、何かあったんでしょ!?

じゃなきゃ、コーヒー飲んだだけで泣いたりしないわよ!!」


「・・・・・・・。」


父親が母親の肩に手を置く。


「真央、3年ぶりに帰ってきたんだ。

まずはゆっくり休みなさい。


ただ、これだけは覚えておきなさい。

失踪したお前達だけの問題じゃないんだ。

関係する家族には精神的に参ってる人もいる。


被害者の会を支えるボランティアもいる。

そして、警察の方々・・・

大勢の人達のお世話になってるということをね。


だから、何か思い出したら絶対教えなさい。」


「う、うん・・・わかった・・・」


父親の言葉は静かだが重い。

その目は“話せることがあるなら話せ”と語っていた。


真央は席を立ち、自分の部屋へ向かう。


「良かったの?

絶対にあの子、何か隠してる気がするわ・・・」


「隠してても良いじゃないか、いつか話してくれると思うよ。

あの姿を見て、問い詰めるより休ませる方が大事だろ?」


「それも、そうね・・・何をやったらあんな汚れになるのかしら?」


「それより、明日から少し忙しくなるけど任せられるかな?

警察には僕から連絡しておくけど。」


「いいわよ。

家族会には私から報告しておくから。」


「またメディアが来るかもしれないけど・・・

出来るだけ早く仕事切り上げて帰ってくるから・・・」


真央は部屋に戻り、PCの電源に手を伸ばしたが、

押すのをやめてベッドに横たわった。

一年ぶりのベッドは洗濯された匂いがした。


「かあさん・・・ベッド整えてくれてたんだな・・・ありがとう・・・

あしたは・・・早起きして・・・」


母親の優しさに包まれながら、真央はすぐに眠りに落ちた。


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