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アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ


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21/25

誰かの思惑

彩乃はテーブルに片手を置いて背を伸ばし、

立っていた篠原の頬を平手で打った。


パアァーーン!!


乾いた音が門番亭に響き、店内が一瞬で静まり返る。

さっきまで食事や酒を楽しんでいたアクトリアの住民たちが、

一斉に彩乃へ視線を向けた。


篠原は左手で叩かれた頬を押さえたまま、わずかに右へとよろけた。

彩乃は肩で息をしながら、ふーっ、ふーっと荒い呼吸を繰り返している。


真央が慌てて声を上げた。


「あ、彩乃さん・・・

オレはなんとも思ってないよ・・・落ち着いて・・・」


「なんで、あんなこと言われて平気なのよ!

私は我慢できないわ!!」


「ぼ、僕がなんで叩かれるんだ・・・

原因を作った立花に文句言う権利があるだろ!!」


テーブルに座ったままのイチゴが、困った顔して三人を見ている。


「とりあえず、落ち着いて~・・・

みんなが見てるから、座って話そうよ~」


篠原がドカッと椅子に腰を下ろした。

真央は彩乃の肩にそっと手を置き、座るように促す。


彩乃はキッと篠原を一度にらんでから、ゆっくりと腰を下ろした。

彩乃が座ったのを確認して、真央も席に着き沈黙が続く。


その様子を見ていた店内の客たちは、

自分たちのテーブルへと意識を戻し、再び話し声が広がり始めた。

真央は一度、深く息を吐き、静かに語り始めた。


「確かにオレが悪い・・・あのゲームを見つけなければ・・・

こんなことにはならなかったんだから・・・」




話は、数分前の出来事にさかのぼる。


アクトリアに寝間着とはだしの状態で現れた篠原に、

真央たちは服と靴を買い与え、そのまま門番亭へとやって来た。

ここがどこなのかを、彼に説明していた。


―――


「あら? さっき食事取ったのに、また来たの?

一人増えてるわね・・・お友達?」


コロナが店に入ってきた真央たちに声をかけた。


「ちょっと話がしたくて。

飲み物だけでいいですか?」


「もちろんいいわよ。

この時間帯は少しうるさいけど・・・

温かい飲み物がいい?」


「はい、お願いします。」


四人は店の奥の六人掛けのテーブルに座った。

真央と彩乃が同じ側に、対面に篠原とイチゴが座る。


「まず、ここは城塞都市アクトリア。

800年前から魔術師の呪いで封印されているらしい。」


真央が説明した。


「そんなことはどうでもいいよ。

僕のいた世界とここは別世界なんだろ?」


「ああ・・・そうだ。」


「キミたちは学校の授業中に消えた。そしてここにいる。」


篠原は真央と彩乃を指し、イチゴへ視線を移す。


「イチゴは家で居なくなったって、学校の先生が言ってたが・・・そうなのか?」


「そうだね~。

オレは家の自分の部屋にいる時、ここに来たね~」


「ふ~ん。」


篠原は真央と彩乃を、目を細めてじろじろと見ている。


「なに?」


その視線が気になって、彩乃が尋ねた。


「キミたち二人が落ち着いてるのが気になってね。」


篠原はテーブルに肘をつき、指先で真央と彩乃を交互に何度も刺した。


「どういうこと?」


「イチゴに比べて、ここに馴染んでないか?」


イチゴはここに来た直後に死んでいるので、生き返ってからで考えるとまだ数日だった。

それに比べ、真央と彩乃は二週間以上ここで生活していた。


「まあ、オレと彩乃さんはイチゴよりココが長いし・・・」


真央は素直に答えた。


「それって、おかしくないか?

キミたち二人とイチゴと他の四人は同日に消えてるんだぞ。

そういや、他の四人はどこだ?」


「コータとセージ、ユージ、タツヤは死んでる。」


「は? うそ・・・だろ・・・?」


「イチゴも死んでたんだよ~」


イチゴがあっけらかんと答える。

篠原は椅子を蹴るように立ち上がり、罵声を上げた。


「なんだそれ? お前ら頭おかしいんじゃないのか!?」


店内の視線が一斉にこちらへ向く。


「直ちゃ~ん、落ち着きなよ~。

説明するから座って話そうよ~」


イチゴの声に、篠原は三人をにらみつけながら、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。

店内の視線も、少しずつ元のテーブルへ戻っていく。


イチゴが、この世界に来て迷宮に潜り、死んだことを説明した。


「それで? 死んだイチゴがなんで生きてるわけ?」


「教会で蘇生してもらった。」真央が答える。


「はあ~? 蘇生って死んですぐだったわけ?」


「いや・・・仕組みはよくわからないけど、

・・・この世界では死体があれば生き返るんだ。」


「じゃあ、他の4人は?」


「いずれ・・・生き返らせる。」


篠原は信じられないって顔をする。


「この世界に死はないってことなのか?」


「それは違う・・・教会の蘇生は絶対ではないんだ。

2度失敗すると、消滅する・・・」


「なんだそれ? ゲームみたいな話・・・」


その言葉にイチゴが答える。


「そうだよ~。 真央が見つけた“ゲームの中”にオレ達はいるんだよ~」


篠原がイチゴの腕を力いっぱいつかみ、胸元へ押しつけた。


「それ、どういうことだ・・・!?

立花が見つけたゲームって、なんだ!?」


「え~っと・・・」


「オレが説明するよ。」


篠原が真央をにらむように見る。

真央は、拾ったゲームに名前を入れると、この世界に引き込まれることを説明した。


「じゃあ、なにか? 僕はキミのせいでここへ来たのか!?」


「原因で言えばオレだ・・・」


「元の世界へ戻れるのか!?」


「わからない・・・」


篠原は立ち上がり、真央の首根っこをつかんで引き上げた。


「お前、本当に反省してるのかよ!? ここへ連れてきた責任感あるのかよ!?」


「絶対・・・帰る方法を見つける・・・」


黙って聞いていた彩乃はうつむき、膝の上のこぶしをブルブルと震わせていた。


「お前のせいで、僕の人生はぐちゃぐちゃになったってことか!?

今まで、一生懸命勉強してきて、学年トップを維持してきたのに・・・

僕のこれまでの努力は全部無駄になってしまった!


お前、責任取れよ!!」


彩乃が机を叩いて立ち上がる。

そのまま乗り出し、篠原の頬を力いっぱい平手で叩いた。


パアァーーン!!




―――ここで冒頭の話に繋がる。


さっきの緊張がまだ残る中、四人は席に座り直し、重い沈黙が続いた。

真央がその空気を受け止めるように口を開いた。


「そうだ・・・オレがあのゲームを見つけなければ、こんなことにはならなかった・・・」


「そうだろ! 全部お前が悪いんだ!」


彩乃が立ち上がる。

その動きに、篠原はビクッと肩を震わせ、少しでも距離を取ろうとする。


その様子をカウンターのそばで見ていた門番亭の主人とコロナ。


「ん・・・!」


コロナは一つ息を吐く。


「そうだね。

他の客に迷惑だから、上に連れてくよ。」


テーブルに近づき、四人に伝える。


「あんたら・・・うるさいよ。

これ以上揉めごと続けるなら、上に行けってウチの旦那が言ってるから。」


「す、すいません。」


真央とイチゴがコロナに頭を下げる。

彩乃と篠原は、まだにらみ合ったままだった。


「ついて来なさい。」


コロナに案内され、四人は三階の上の屋上へと連れ出された。


―――


屋上には柵はなく、四方に小さな瓦屋根が張り出している。

床は二十センチほどくぼんでおり、周囲には雨水を流す排水口がいくつも設置されていた。

木で作られた棒が両サイドに建てられ、その棒には洗濯物を干す為の紐が張られている。


中央にはテーブルとイスが置かれていた。


「ここは、私たち夫婦が仕事終わりにくつろぐ場所だよ。

ココを貸してあげるから、好きなだけ喧嘩しな。


まあ、来訪者にも事情があるってのはみんな分かってるけど、

子供の喧嘩で楽しい時間を壊されるのは迷惑だから・・・わかるだろ?」


コロナは、最後に彩乃に向き合って言った。


「・・・・・・。」


彩乃はその言葉で落ち着きを取り戻した。


「好きなだけ、使っていいから。」


そう言うと、テーブルに飲み物を4つ置き、コロナは階段を下りていった。


世界は淡い灯りに包まれていた。

遠くに見える城壁も、迷宮の穴がある城も、すべてがぼんやりと浮かび上がっている。


「ここ・・・いい場所だな・・・」


真央がそう言うと、彩乃が両手で真央の右手をつかみ、深く頭を下げた。


「ごめん。 冷静じゃなかった・・・」


真央はニコリと笑みを浮かべ、彩乃の肩を左手で軽く叩いた。

彩乃は顔を上げて真央を見つめる。


「お前らは良いよな。 納得してここにいるんだから!」


その言葉に、彩乃の眉がわずかに動いた。


彩乃の中で再び火がともった。


「あんたがここに来たのは、

真央くんはまったく関係ないってのが分からないの!?


確かに、真央くんのタブレットが原因かもしれないけど、

タブレットを手に入れた誰かの恨みを!

篠原! あんたが受けてるってことでしょう!!」


「え? 恨まれてる??」


「だって、そうじゃない!!

タブレットは真央くん以外の誰かが手に入れた。


でも、その誰かがなんの意味もなく篠原! あんたをメイキングする!?」


篠原は彩乃の言葉に体を固めた。

その瞬間、胸の奥にストンと何かが落ちた。


何かの目的があるから、自分はこの世界に送り込まれた。


先に来ていた七人とは別の問題だということ。


篠原は頭を抱え、テーブルに肘をついた。


「そ、そうだ・・・柏木さんの言うとおりだ・・・

ぼ、僕は・・・誰かの思惑で・・・ここに送り込まれたんだ・・・」


篠原はそのまま固まって動かなくなった。


イチゴがそっと篠原の肩を叩いた。


「直ちゃ~ん、大丈夫~・・・オレ達は絶対に元の世界に戻るんだから~」


その声に、篠原の肩がわずかに揺れた。


「イチゴが言うと、あんまりその気になれないなあ~」


篠原がそう言うと、四人の間にふっと笑いが広がった。


そのあと四人は、しばらく言葉を交わさず、

街の喧騒に耳を澄ませながら、城塞都市の淡い明かりを眺め続けた。


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