解き放たれたもの
夕刻、ダンジョンから戻った真央たちは、門番亭の窓際で食事をとっていた。
窓際の丸テーブルには大皿が並び、そこからそれぞれが自分の皿へ取り分けて食べている。
イチゴは、この世界で生き返って三度目の食事。
ガツガツと飯をかき込んでいる。
「昨日もっ・・・思ったけど・・・ここのぉ・・・飯はっ・・・サイコー!」
真央と彩乃は、その様子を見て苦笑した。
真央が口を開く。
「イチゴ、飯は逃げないんだから、ゆっくり食べろよ・・・」
イチゴはスプーンを止め、真央を見る。
「バカだな真央~、焦って食ってるんじゃない。
これは~、料理に対するリスペクトだよぉ~!!」
そう言って振り返り、
「ね~、コロナさん!!」
コロナに向けてスプーンを差し出す。
困ったように手を振るコロナ。
その時、窓の外の路地裏からガシャガシャと音がして、ウッディコが走ってきた。
真央が気づいて声をかける。
「ウッディコさん!!」
ウッディコは立ち止まり、窓際へ近づく。
「マオ! アヤノ! 迷宮探索は進んでるか?
ん?」
テーブルに三人いることに気づき、視線を向ける。
真央が答える。
「イチゴです。」
「イチゴ・・・マオとアヤノの前日に来ていた来訪者か?」
「そうです。 それで、何を急いでたんですか?」
「そうだ。 のんびり話してる暇はないんだ。
新しい来訪者が現れたらしいんで、教会裏に急いでるんだ!
じゃあな」
ウッディコはそう言うと、来た時と同じようにガシャガシャと走り去った。
「え・・・?」
真央はウッディコの言葉に固まった。
「どうかした?」
彩乃が尋ねる。
真央は眉をしかめ、言葉を探す。
「先日、エルミダさんと話したこと覚えてますか?」
彩乃が頷く。
「あの時・・・1本のゲームが渡り歩いてるって言ったでしょう?」
「そうね・・・」
「その前提が・・・今崩れようとしています。
ゲームはオレの自宅にあるはずなのに、来訪者が来てしまった。」
真央はテーブルに肘をつき、口を覆うように顎を乗せ目を閉じる。
額に汗が流れる。
彩乃も思い出しながら口を開く。
「ほら・・・そのゲームって渡り歩くんでしょ?
もう別の所に行ったってことじゃない?」
真央は目を開け、彩乃を見る。
「オレの前・・・慎吾さんの両親がゲームを捨てるまでに30年かかったんです。
ウチの両親が、もう整理したとは思えないですよ・・・」
「そうね・・・早すぎる・・・」
二人の話を食べながら聞いていたイチゴが、フォークを止めて入ってくる。
「ねえねえ~
それ、何の話してるの~?」
「あー、そう言えば、
あの時イチゴくんは、ガルシアさんに宝箱の罠を教えて貰ってたわね
エルミダさんとの話は聞いてないか・・・」
彩乃がエルミダとの会話の説明を終えると、イチゴがフォークを振りながら確認する。
「そのゲームが~、渡り歩いてこの世界に誘っているってこと~?」
「理由は分からないけどね・・・」
「で、さっきのウッディコさんの~、話につながるって訳か~」
黙って聞いていた真央が、つぶやくように口を開いた。
「・・・考えがまとまらない・・・な・・・
オレ達の世界にあるゲームと、このアクトリア・・・ノクサリウス・・・
そして、オレの部屋にあるはずのゲームが次の来訪者を送り込んだ・・・」
「でも、真央と柏木さんは学校からやってきたんだよね~?
それってどういうこと~?」
イチゴの問いに、真央は“ハッ”とした。
背中がゾクリと冷たくなる。
体が震え、冷たいのに汗がドッとあふれた。
(ヤバい! ヤバい! ヤバい!・・・・)
二人は固まった真央を見つめる。
彩乃は立ち上がり、右手を恐る恐る差し出す。
「・・・真央君・・・?
どうか・・・したの・・・?」
真央は両手で顔を覆い、天を仰いだ。
「やらかした・・・」
「え?」
「オレが・・・アクト・・・
――アクチュアリーをFDDから解き放ってしまったんだ・・・」
ガックリと肩を落とし、太ももに手をつく。
丸テーブルの足を凝視したまま、動かなくなった。
「え? なに?なに~?」
彩乃とイチゴは意味が分からず、
お互いを見ては真央を見る動作を繰り返した。
彩乃は立ち上がり、椅子を持って真央の横へ回り込んで座りなおした。
そして、真央の太ももにそっと手を添え、やさしく言う。
「ねえ・・・詳しく説明して・・・」
その声に、真央は顔を上げた。
彩乃を見て、イチゴを見る。
イチゴもうんうんと頷いている。
真央は、懺悔するように口を開いた。
「オレが手に入れたゲームは・・・1本しかないはずだったんだ・・・
たった1枚のFDDが世界を渡り歩き・・・少しずつ人を召喚していた・・・
それをオレは・・・いつでもどこでもプレイしたいがために・・・
インターネット上のサーバーにコピーしてしまった。」
「それが・・・なんなの・・・?」
彩乃の問いに、真央はゆっくりと顔を向ける。
「わからない・・・?
もし、FDDが・・・この召喚システムそのものだとしたら、
オレがコピーしたゲームは・・・召喚しないはずなんだ・・・
でも、ネットで動かしたゲームは・・・
オレたちを召喚した・・・」
二人に衝撃が走る。
彩乃は口を押さえ、イチゴは持っていたフォークをテーブルに落とした。
「そ・・・それって・・・」
真央は曲がった体をゆっくり起こし、二人に向けて指を二本立てた。
「考えられることは・・・二つ・・・」
一本の指を折り、眉をしかめながら続ける。
「一つは、オレのVPSがハッキングされた可能性。」
そして再び二本の指を立て、今度は真剣な顔で力強く言った。
「もう一つは・・・オレの机に残ったタブレットだ!」
「じゃあ、これからも〜来訪者が・・・?」
「来る! ――間違いなく来る!」




