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アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ


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17/20

契約

安永久美が真央のタブレットのロックを外した瞬間、頭に声が響いた。


(おめでとう…君はこれで神に一歩近づいたぞ…)


「え?」


久美は思わず周囲を見回した。

誰もいない。

静かな部屋の空気だけが、じっとりと肌にまとわりつく。


(驚くことはないよ…キミが“選ばれた”だけだ…)


「・・・選ばれた?」


(そう…キミは努力した…苦しんだ…誰よりも求めた…

だからこそ…扉が開いたんだ…)


久美の喉が乾く。

タブレットの画面は、淡い青白い光を放ち続けていた。


しかし、久美はタブレットの電源を切った。


「な、何をしてた? タブレットのロックを開けたところは覚えてるけど、

その後・・・記憶が曖昧だ・・・」


(まだ…早かったか…)


「早かった? 何が・・・?」


久美は怖くなり、ハローワークを走って飛び出した。

来た方向には向かわず、逃げるように反対方向へ走る。


交差点へと飛び込む。

カーブミラーに映る自分に気づき、視線を向けた瞬間――

後ろに“何者かの影”が映っていた。


「ひいっ!」


再び走り出す。

右側に見えてきた猛島神社の鳥居が不気味に感じ、逃げるように開けた海岸へ向かった。


「はっ…はっ…はっ…」


運動していない体が悲鳴を上げる。

息が続かず、腰を折り、手を膝についた。


「ヒューッ…! ヒューッ…! ヒューゥ…!」


息を乱したまま体を起こし、海岸の砂場へフラフラと降りていく。

怖いのにタブレットを見てしまう。

黒い画面に自分の顔が映っている。

その“後ろ側”が、ゆらゆらと揺れているように見えた。


「こ、こんな物!!」


久美はタブレットを振りかぶり、海へ投げ入れた。


パシャン!!


小さく水面に波が立ち、タブレットは海へ沈んでいく。


それを見届け、汗だくの顔を右腕の肘付近で荒く拭った。


ふーーーーっ。


大きく息を吐き、くるりと180度向きを変え、タブレットとは逆方向へ歩き出した。

来た道を戻って行く。


市役所のバス停に戻り、バスを待つ。

時間は夕方になり、仕事帰りの車が徐々に増え、交通量が増えていく。

周りでは、うつろな目をしたスーツ姿のサラリーマンや公務員の大人たちが通り過ぎていった。


ライトをつけた車がぽつりぽつりと増える頃、バスがやってくる。

バスの横腹には“邪神ちゃんドロップキック”のカラフルなラッピングがあった。


後ろのドアが開き、薄暗い車内の蛍光灯がゆらゆらと揺れている。

その動きが久美には恐ろしく感じ、一歩が出なかった。


その時、冷たい風が吹き、背中を押されるようにバスへ乗り込んだ。


――


バスの後ろから2列目の窓際に久美は座る。

車内の温かさと緩やかな揺れが、久美を眠りへと誘った。


「…さん……かい? ・・・お嬢さん。」


男の声で目を覚ます。

バスの運転手だった。


「お嬢さん、大丈夫かい?

もう終点だけど・・・降りる所はどこだったんだい?

ごめんね、後ろだったから、寝てるの気づかなくて・・・」


久美は窓の外を見る。

反対車線の向こうに小さな公園が見える。

その後ろにはコスモのガソリンスタンド。


久美は目を強く瞑った。

完全に乗り越していた。


「貝瀬橋…です。」


「ありゃりゃ、困ったね。どこから乗ったんだい?」


「島原の大手です。」


「ほぼ、まるまる乗っちゃったか~・・・

よし、このバスはこの後、口之津へ回送だから乗っていきな。

絶対内緒だぞ。」


運転手は白い手袋の人差し指を口元に当てながら言った。

久美はバス料金の精算を済ませる。


「じゃあ、その辺に座っときな。

ただ、車内は真っ暗だけど、許しておくれ。」


久美はコクリと頷き、運転手の後ろの席に座った。

バスの行先モニターが「加津佐海水浴場前」から「回送」へ切り替わり、バスが走り出す。


――


口之津のバス庫に停まったバスから、久美は軽く会釈して降りた。

運転手はまだ車内で精算機の終了処理をしている。


久美は、バス庫の入口に立つポルトガル船長の巨像を見上げた。

とても人間とは思えない顔をじっと見つめる。

色がとにかく不気味だった。

肌は不自然なほど白く、赤・緑・黄色の原色で塗られた服が、

久美の心に圧を加えてくる。


逃げるように国道へ出て、歩道を歩き始める。

もう真っ暗で、国道の少ない街灯が、久美の行く先を淡く照らしていた。


――


家に着くと、玄関の明りが点っていた。

外出していることに気づいた両親が戻ってくる久美の為に灯してくれていた。


「ただいま・・・」


玄関の引き戸を閉めながら、久美は疲れた声で言った。

久美の声に母親が台所から顔を出す。


「おかえり、どうしたの今日は?

勉強しないで外出してるなんて・・・」


「うん、ちょっと調べものに・・・」


「図書館かい?

この間倒れたんだから、あんまり無理するんじゃないよ。」


「うん・・・わかってる。」


「ご飯は?

いつも通り部屋で勉強しながら食べるかい?」


「そう・・・だね・・・お願い。」


久美はそう言って、自分の部屋へと進みドアを開ける。

うつむきながら部屋に入りドアを閉める。


ドアのすぐ横にある電灯のスイッチを入れ、顔を上げた瞬間――

ドッと汗が噴き出た。


机の上に、あのタブレットがあった。


「な・・・っ」


心臓の音が跳ね上がる。


「なんでそこにあるのよーーーっ!!」


久美は大声で叫んだ。

その声を聞いた母親が、ドタドタと廊下を走ってくる音がする。


ドンドン!!


「くぅーちゃん! どうかしたの!?」


(…はやく答えてあげなさい。)


喉の奥が乾き、一度唾をゴクリと飲む。

のどぼとけが上下に動いた。


「だっ、大丈夫…っ」


「ほんとなの?」


「大丈夫、ちょっとびっくりして大声出しただけ・・・」


「驚かさないでよ・・・もう・・・」


母親はそう言って、台所へ戻っていった。


久美の心臓は、ずっと大きく速く胸を叩いている。

その音が、耳の奥ではっきりと聞こえた。

逃げ出したいほど怖かった。


「・・・捨てたのに・・・」


(君はもう契約したんだ…この箱のロックを自分で開けただろう…?)


「け、契約・・・?」


(そうだ…君の願望を満たす契約だ…)


「願望・・・ほ、本当にそれだけ・・・?」


(願望以外も叶えられるぞ…お金が欲しいとか…彼氏が欲しいとか…)


「そんな物はいらないけど・・・」


(目標の大学に…入ることだけか…?)


「そう! それだけで十分よ!

で、何をすればいいの!?」


(心は…決まったようだな…)


タブレットが勝手に“ぼう”っと点灯した。


久美はふらふらと机に歩み、椅子に座って画面を見つめる。

画面には3人の名前があった。


【魔王 SAM】【彩乃 MAG】【イチゴ THI】


(まずは…消したい人間を入力してみろ…)


「篠原 直哉・・・これで良いの」


(ボーナス値を…パラメータに振る…)


「INTって知能だっけ? ここには入れないわ!」


久美はニヤニヤと笑った。


(職業を…選べば終わりだ…)


「あはは、盗賊っていいわね! あいつが盗賊って笑える!」


久美は【作成しますか?Y/N】の問いにYを押す。

しかし、【作成できませんでした。】というメッセージが表示された。


「なんだよ! ダメじゃない!」


(ちゃんと対象を…思い浮かべないとダメだ…)


「思い浮かべればいいの?」


久美は“篠原直哉”を頭に思い浮かべたまま、再びYを押した。

押した瞬間、部屋の天井の照明がふっと揺らぐ。


そして、画面に【作成されました。】と表示された。


「これで出来たの?」


(ああ…明日学校で確認してみろ…お前の希望通りになってるはずだ…)


「ああ~~~っ!! 明日が楽しみだわ~~~!!」


その笑い声は、部屋の外の闇へと静かに沈んでいった。


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