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アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ


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13/15

蘇生

―――アクトリア


真央と彩乃がアクトリアに来て、10日目。

(迷宮に潜り始めて9日目)


二人は、ようやく迷宮探索の“型”を掴み始めていた。


当初から無理に深層へは行かず、

迷宮1階の階段付近で戦闘を繰り返してきた。


彩乃のMPが少なくなれば地上へ戻り、

宿で休んでからまた潜る――

そんな慎重なサイクルを続けてきた。


その積み重ねが、ようやく実を結ぶ。


徐々に経験値が溜まり、二人の体に変化が起きる。


「ねえ、真央くん・・・体が熱い・・・何かしら、コレ?」


「オレも同じだよ。 何か体から力があふれてくる・・・」


「これって、レベルアップ?」


「・・・アクトの世界では、レベルアップの予兆ってあるけど、

宿に戻って休むことでレベルアップするんだ・・・


だから、これはレベルアップの予兆な気がする・・・」


「じゃあ、地上に戻る?」


「そうだね・・・その方が良いと思う。

ここで死んだら意味ないから、慎重に戻ろう。」


真央はそう言うと、こぶしを彩乃に差し出す。


「うん。」


二人はこぶしをコツンと合わせた。


―――


迷宮の階段を登り、入り口のまばゆい外光に目がくらみそうになる。

何度潜っても、迷宮と地上は別世界だった。


迷宮の中は重い圧力が常にかかり、誰かに見られている雰囲気があった。

地上に戻ると、それらが全部消え失せ、生きているという実感がやってくる。


「ふう・・・ここまでは順調。 そろそろ、イチゴを蘇生させたい。」


「イチゴ君って、B組の一護かずもり君だっけ?」


「そう、山下一護。

イチゴの職種は「盗賊」なんだ・・・

これまで放置してきた宝箱の数を考えたら、盗賊は欲しいよね。」


「うん、そうだね。

お金を貯めていくなら、絶対必要。」


イチゴを含むコータたち五人の死体は、迷宮で見つけて教会へ運んでいた。


ゲームの世界だと、パーティ内の死んだキャラクターは

移動すれば勝手についてきていたが、


現実の世界だと、そうはいかない。

仲間の死体は、自分たちで地上まで引きずって運ばなければならなかった。


それは、想像以上に重く、冷たく、そして――つらい作業だった。


思い返すと、あの苦労が瞼の裏にこびりついている。


「絶対、蘇生させたら、アイツ等から金貰おう。」


「そうね・・・あの苦労は、やった人間にしかわからないわ。」


そうして、二人は教会へ向かった。


―――ナゼール教会


扉を押し開け、中へ入る。


このナゼール教会は、二人がアクトリアへ来た時、最初に目にした建物だ。

外観は荘厳で、まるで神の加護を象徴するようだったが――


中はまったく違う。


薄暗く、湿った空気がまとわりつき、

どこか鉄のような、腐敗のような匂いが鼻を刺す。


「・・・やっぱり、ここ苦手だな。」


真央が小声でつぶやく。


教会の地下には、迷宮で亡くなった人間の遺体が保管されている。

氷魔法で低温に保たれているため、冷気が階段を伝って一階まで上がってくる。


その冷気は、まるで“死”そのものが這い上がってくるようだった。


ここで神に祈るなんて、とてもじゃないが無理だ。

神聖さよりも、圧倒的な“死の気配”が勝っている。


「・・・行こう。」


彩乃が小さく頷き、二人は地下へ続く階段へ足を向けた。


冷気が、足元からじわりと這い上がってくる。


その時、階段の入口に立っていた教会の司祭が手を差し出し、

蘇生の為のお布施を求めてきた。

払わないと蘇生が行われないとはいえ、真央の胸に、じわりと不満が募る。


(城塞都市のために戦って死んだ人間に、さらに金を要求するのか・・・)


「・・・なんか、ムカつくな。」


現実世界の政治家と同じ匂いがした。

自分の人生は17年と短いけど、授業で習って理解はしていた。


“困っている人間から金を取る”という、あの嫌な感覚。


イラつきが、喉の奥でじわじわと膨らんでいく。


彩乃も、眉をひそめて小さくつぶやいた。


「・・・こういうところ、ほんと嫌い。」


二人は視線を交わし、無言のまま地下へ続く階段へ向かった。


冷気はさらに強くなり、まるで死者の手が足首を掴んでくるようだった。


―――


地下に降りると、イチゴの死体は祭壇の上に横たわっていた。


祭壇の天井には、四本の柱がアーチを描き、

その隙間には色ガラスで描かれた“神の姿”がステンドグラスとしてはめ込まれている。


地下だというのに、どこからか光が差し込み、

そのステンドグラスを透過した色の影が、祭壇の上にきらきらと落ちていた。


二人はイチゴ本人と確認し、司祭に蘇生を依頼する。


「お、お願いします・・・」


司祭は死体の前に立ち、錫杖をゆっくりと掲げた。


すると、天井のステンドグラスがふっと光を増し、

光の粒が天井からこぼれ落ちるように、イチゴの体へと降り注いでいく。


二人はその光景を黙って見つめた。

彩乃は、こみ上げるものを抑えるように口と鼻を両手で押さえる。


司祭は、その光がイチゴの体に吸い込まれていくのを確認すると、

低く、ゆっくりと唱え始めた。


囁き……詠唱……祈り……念じろ……


司祭の声に合わせるように、コータの体がかすかに光を帯びた。


蒼白だった肌が、ゆっくりと赤みを取り戻していく。

まるで、冷え切った肉に血が流れ込み始めたかのように。


次の瞬間――


コータの胸が、ひくりと動いた。


そして、呼吸を始める。


その様子を見て、二人は感動よりも違和感しか感じなかった。

「・・・マジか・・・」

「・・・・・・こんな、簡単なの?」


ただの単語を並べただけのような、簡素な呪式。

それでも、儀式はあっけなく終わった。


現代人の二人には、とても信じられない。

こんな簡単な言葉で、人間が生き返るなんて。


だが――


イチゴは目を開け、上半身を起こして辺りを見ると、

真央を見て、口をぱくりと開いた。


「あれ~、真央がいる!? なんでぇ~?」


イチゴは彩乃の姿を見つけ、目を一度細め、

そのあとゴシゴシと目をこする。


「えっ?・・・

な、なんで・・・柏木さんもぉ?」


確かにイチゴだった。

声も、顔も、調子の抜けた喋り方も。


・・・だけど。


真央の胸に、ざらりとした違和感が残った。


(本当に・・・これでいいのか?)


生き返ったことは本当に嬉しい。

でも、あまりにも簡単すぎる。

死と生の境界が、軽すぎる。


真央は、笑うイチゴを見つめながら、

その違和感を振り払えずにいた。


「オマエ、本当にイチゴだよな!?」


「え? イチゴはイチゴだよ。

真央は真央だろ?」


真央は下を向き、目を伏せる。

(・・・今はこれでいい・・・)


「おかえり、イチゴ。」

「おかえりなさい。」


祭壇に座ったままのイチゴの肩を、真央は軽く叩いた。


「え? オレってどうなってたのぉ?」


「普通に死んでただけだ。」

「そそ。」


イチゴはぽかんと口を開けたまま固まる。


アクトの難易度を知らないイチゴたちは、

きっと迷宮に潜ってすぐに即死だったのだろう。


その知識のなさが、

“殺された記憶がない”という結果になっているのだと、真央は思った。


「悪かったな・・・

飯でも食いながら説明するよ。」


「う~、門番亭のごはん早く食べたい~~」


彩乃が、曲げた両手を胸の前で小さく振りながら言った。

その仕草に、真央は思わず口元をゆるめる。


「でも、アイツの服と靴買わないと・・・」


彩乃は“あっ”とした顔をする。

真央がゲームでイチゴをキャラメイクしたのは深夜。

そのせいで、イチゴの恰好はスウェットにスリッパという有様だった。


真央は“いくぞ!”と左手を大きく上へと手招いた。


二人が地下室を出ていく姿を、

イチゴはあわてて祭壇から飛び降り、転びそうになりながら追いかけた。


―――


イチゴの服と靴を買ってやったあと、

三人は門番亭へとやってきた。


六人用のテーブルに向かい合って座る。


両サイドに長椅子があり、

片側には真央とイチゴが“少し距離を空けて”座り、

反対側の中央に彩乃が腰を下ろしていた。


三人の位置は、ゆるく三角形を描くように座っている。


食事をしながら、真央はイチゴへ説明を始める。


「下校の時、拾ったゲームあっただろ?」


「・・・ああ、ゴミ箱の?」


彩乃はもくもくと食事を続けながら、

ちらちらと二人の会話を見守っている。


「あのゲーム、キャラクターを作ると

この世界へ召喚されるみたいなんだ・・・」


「しょうかん?」


「仕組みは理解できてない・・・

ただ、そういう事実だから、イチゴもコージ達もここにいる。」


「ふ~ん・・・そっか。

で、柏木さんは、なんでいるのぉ?」


「え? あ、いや、なんとなく・・・?」


真央はとぼけるように首をかしげて答えた。


ゴン!!


テーブルの下で、彩乃が真央の脛を蹴った。


「あいたっ!

痛いよ、彩乃さん!」


「ふん!」


彩乃は答えず、食事を続ける。


二人のやり取りを見て、イチゴが首をかしげた。


「・・・ねぇ・・・二人はいつから付き合ってるの~?」


彩乃は口に運ぼうとしたスープを噴き出し、

慌てて口元を拭いてフォークを皿に置いた。


「まだよ!」


真央は耳まで真っ赤になり、両手で顔を覆う。


「はは~ん。」


イチゴはその様子を見て、

“真央がまだ告白していない”ことを一瞬で理解した。


「柏木さ~ん! 頑張ろうねぇ~!(絶対言わせよう)」


イチゴは彩乃に向かって、

両手で小さくガッツポーズをしてみせる。


「イチゴ君、一緒のクラスになったから知らなかったけど、

とってもいい人ぉ~! どっかの誰かと違うわ。」


そう言って、彩乃はイチゴの方へ、

ほんの少しだけ座る位置を寄せた。


「えっ!?」


彩乃とイチゴは、まるで示し合わせたように体を傾け、

寄り添うような角度でニヤニヤしている。


その空気を変えるために、真央はわざとらしく咳払いを一つして、

話をつづけた。


「んんっ!!

それで、まずはイチゴにこの世界の仕組みを覚えてほしいんだ。」


彩乃がイチゴに向かって、

“いつもこんな感じなのよ”という表情と手振りで伝える。


それを見て、イチゴは乾いた笑いを漏らした。


「二人とも聞いてる?」


真央が気づいて言う。


「きいてますよー」


彩乃は一本調子でそう答えると、

フォークを取り直して食事に戻った。


イチゴはその様子にくすっと笑い、

真央の方へ顔を向けて尋ねた。


「それで、世界の仕組みってなんだよ~?」


「この世界は、ほぼアクトってゲーム世界に類似してる。

設定は違うんだけど、システムが同じような感じなんだ。」


「ほうほ~う。」


「で、イチゴはオレがキャラクターを作る際に、

盗賊シーフとしてキャラクターを作ってる。


で、この世界は職業の転職ができるけど、

転職するとレベルが1に戻る。


出来れば、イチゴには盗賊としてやってほしいけど、

転職するならレベル1の今の方が別の道も選べると思う。


どうする?」


真央の問いに、イチゴは短く考えた。


「いいよ~盗賊で。」


真央はほっとした表情をした。


「そっか、よかった。


迷宮でモンスターと戦うと宝箱が出るんだけど、

その宝箱の罠は盗賊にしか解除できないんだ。


だから、今は宝箱が出ても捨ててる。」


「解除できないとどうなるん?」


「私みたいに毒矢を食らうわよ。」


「えっ?」


イチゴは彩乃を見る。

彩乃は食べながら、目線だけこちらに向けている。


「彩乃さん、罠に引っかかったの?」


彩乃はフォークを置き、両手を長椅子につきながら答えた。


「宝箱が初めて出た時、興味津々で触っちゃったのよ。

真央君が止めようとしたみたいだけど間に合わなくて・・・」


「で、どうなったの・・・?」


彩乃は少しうつむき、目線をイチゴに戻す。


「・・・死にかけた・・・

真央君が毒消しを見つけてくれなかったら死んでたわ。」


イチゴから笑いが消えた。


「オレの仕事・・・危険が伴うってことだね・・・」


真央が申し訳なさそうに口を開く。


「・・・ごめん・・・

宝箱を優先してるみたいで・・・マジで悪い・・・


でも、盗賊だけが宝箱の罠を高確率で見破って、解除できる。

問題は、レベルが低いと失敗する場合があるってこと・・・」


「それで、宝箱の罠はゲームではどうやって見破るの?」


「・・・ゲームでは・・・」


イチゴと彩乃は、ゴクリと喉を鳴らして真央の言葉を待つ。


「わ・・・」


「わ?」


二人は期待の目で真央を見る。


「わかんない・・・」


「――だよねぇ~」


イチゴが続けて笑った。

彩乃はあきれたように肩を落とす。


「あんたら、さっきのシリアス返せ!」


彩乃が真央にフォークを投げるふりをし、

イチゴが「まあまあ」と手を出して止める。


「だって、マジでわからないんだよ。

ゲームではそこはコマンド形式で、

“罠を調べる”“罠を解除する”ってのがあって、

調べると何の罠なのかが表示されて、解除するで解除になっちゃう感じ。」


「・・・・・・。」


二人は“それじゃわからなくて当然だ”という顔をした。


「じゃあ~、迷宮行って試してみようよ~」


「そうね。」


「その前に、ゲートウォッチ行って休憩。

レベルアップするはず。


あ、そういやイチゴ。

お前ら宿はどうしたんだ?」


「宿~?」


イチゴは上目遣いで考える。


「あ~、こっち来てすぐ迷宮行ったんだ。

“セージ”と“ユウジ”がスキルとかチートとか言い出して~」


「装備は?」


「何も持ってないよ。」


真央と彩乃は“そりゃ死ぬ”と同時に頭を押さえ、

真央がつぶやく。


「そういや“セージ”と“ユウジ”はアニメ好きだった・・・」


「だよね~」


イチゴは二人の反応に笑って言った。


「じゃあ、イチゴもゲートウォッチで宿を取ろう。

準備金も出るんだ。それで装備をそろえよう。」


そうして、三人は飯を終えると門番亭を出ていった。


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