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アクチュアリー ―封印都市アクトリア―  作者: ブラックななこ


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12/16

禁断の箱

7月に入り、受験生たちは追い込みを始めている。

3-Cでも、成績上位の生徒を中心に進路面談が行われていた。


安永久美と担任の幸田が、二者面談の机を挟んで向かい合っている。


「安永さん、あなたの志望は“京都大学―薬学部”だけど、

残念ながら今の成績では推薦枠には入れそうにないわ。」


久美の指が、膝の上でぎゅっと握られる。


「・・・そんな・・・」


幸田はプリントを見せながら、淡々と続ける。


「もちろん、一般受験で狙えないわけじゃないのよ。

でも、あなたの最近の成績の落ち方を見ると・・・B判定になってるわ。」


久美の心臓が、ドクンと大きく跳ねた。


(・・・B判定・・・)


「体調も良くないみたいだし、まずはそこを整えないと。

このままじゃ、勉強どころじゃないでしょう?」


倒れたあの日から、久美の目の下にはクマが増え、頬も少しこけていた。

久美はうつむき、唇を噛む。


(・・・体調なんて言い訳じゃない・・・

絶対、上の連中、笑ってるに違いない・・・)


学校の上位の連中がほくそ笑むイメージが、久美の頭に浮かぶ。


幸田は優しい声で言う。


「安永さん、焦らなくていいのよ。あなたは十分頑張ってる。」


「頑張っても、結果がついてこなきゃ意味がないじゃない!!」


久美は机を揺らす勢いで立ち上がり、幸田の言葉に大声で反発した。


「・・・や、安永さん?」


久美はバッグを抱え、教室を走って飛び出していった。


「安永さん!!」


幸田の呼ぶ声は、久美には届かなかった。


―――


久美は学校から走って戻ってきた。

まるで、何かから逃げるように。


「はっ・・・はっ・・・はあ・・・はあ・・・」


玄関に入ると、誰もいない家には相変わらず“圧”があった。

だが、焦りが久美の背中を押す。


「べ、勉強しなきゃ!!」


部屋へ入り、机に向かう。

ガリガリとシャーペンを走らせる。

ノートに触れる手の側面は、炭であっという間に黒くなっていく。


「やらなきゃ、やらなきゃ、やらなきゃ・・・」


目を上下左右に動かし、必死にノートへまとめていく。


(…今のままでは無理だぞ…)


「分かってるわよ!」


(…そんなやり方じゃダメだ。)


「なんでダメなのよ!」


(…上の連中は…もっと勉強してるからだよ。)


「じゃあ、もっと勉強してやる!」


ペンを走らせる手に力が入りすぎて、シャーペンの芯がボキッと折れた。


「・・・・・・・・・・・・」


久美は呆然とした。

頬を伝って、ぽたりと涙が落ちる。


――今、誰と話していたのか分からない。


(…気づいたかい?)


久美はビクッとして、机の隣に並んでいるカラーボックス上のタブレットを見た。


(ああぁ〜…やっと…見てくれたね~…)


電源を入れていないはずのタブレットの画面が、ぼうっと光った。


(ふふふ…キミの願い…叶えてあげられるよ…)


その声に、久美の肩がピクッと跳ねる。


(…行きたい大学が…あるんだろう?)


声の主はわからない。

けれど――自分のことを、誰よりも理解してくれている気がした。


久美は立ち上がり、吸い寄せられるようにタブレットへ歩み寄る。


(ほら…手に取るといい…

そして――開けるんだ…)


タブレットの画面は、まるで呼吸するように淡く明滅していた。


久美はタブレットをそっと取り上げる。

指先が震えているのに、自分では止められなかった。


画面にはロック画面の数字が浮かんでいる。


「ロック解除できないわ・・・」


(これは…キミの力で開けなければいけない…

たった4つのキーだ…キミなら必ず見つけられる…)


「私の力・・・?」


(そう…

教えることもできるが…それでは力が弱くなる…

自分の力で“開けてこそ”…強力な力を得ることができるのだよ…)


久美の喉が、ごくりと鳴った。


「・・・強力な力・・・」


(そうだ…

キミが欲しいものを…手に入れるための力だ…

上の連中なんて…一瞬で追い越せる…)


久美の胸が、熱くなる。


「・・・そんな力が・・・本当に・・・?」


(あるとも…

さあ…開けるんだ…

キミの未来は…その4つの数字の向こう側にある…)


久美の顔から不安が消えた。

代わりに、目の奥がぎらりと光る。


「・・・そうよ・・・私なら・・・」


久美はノートパソコンを開き、猛烈な勢いで検索を始めた。


「立花真央・・・まず、真央を数字にできないか調べてみよう。」


キーボードを叩く指は震えているのに、動きは止まらない。


「数字は特にない・・・語呂合わせはどうだろう・・・」


“まお” → “00”

“たちばなまお” → “378700”


「上4桁と下4桁・・・どっちもダメ・・・」


焦りが増すほど、久美の呼吸は荒くなる。


「アスキーコード・・・!」


AIに尋ね、次々と数字を試す。


真 → 771F

央 → 592E


「違う・・・16進じゃ4桁にならない・・・英字・・・?」


次々と候補を試し、どれも失敗する。


「これも違う・・・ダメね・・・」


久美に何かが落ちてきた。


「・・・そういえば、タブレットの画面に残っていたキャラクター名“魔王”はどうかしら?」


語呂合わせ、画数、音読み・・・

ありとあらゆる数字化を試す。


どれもダメ。


「画角も・・・どれもダメね・・・深く考えすぎ・・・?」


久美はクラス表を取り出し、真央のページを開く。


出席番号16

生年月日 2006年8月19日

保護者名 立花正也


「生年月日・・・違う・・・」


久美の目が細くなる。


「・・・固定電話?・・・まさかね。

・・・でも、調べる価値はあるか。」


自宅にはもうハローページはない。


固定電話番号をどうやって調べるか、必死に考える。


ネットで検索すると、

“ハローページ端末”というものが存在することを知った。


「・・・端末・・・まだ見られる場所があるんだ・・・」


端末のある場所を調べる。

「・・・自治体、公立図書館・・・南島原・・・」


――ハローワーク島原――


「島原か・・・遠いけど行ってみよう・・・」


久美は立ち上がり、タブレットを握りしめたまま家を飛び出した。


バス停へ向かう足取りは、まるで“何かに引っ張られている”ようだった。


そして――

久美はバスに乗り込み、島原へ向かった。


―――ハローワーク島原


久美は、1時間以上“島鉄バス”に揺られ島原へたどり着く。

市役所前のバス停“大手駅”でバスを降りる。


島原市役所前の信号を渡り、踏切を越え、住宅地を抜けると――目的の建物が見えた。


駐車場入り口のそばに金属製の看板。

建物の白い壁に大きく書かれた「ハローワーク島原」の文字。


久美は自動ドアを抜け、中へ入った。


初めて来る場所。

本来、高校生が来るような場所ではない。

案内板に書かれた言葉も、意味がよくわからない。


きょろきょろしていると、受付の女性が声をかけてきた。


「なにか御用ですか?」


「あ、あの・・・はっ、ハローページ・・・

ハローページの端末はどれですか?」


緊張で舌がうまく回らない。


受付の女性は、端末のある方向を手のひらで示した。


「そちらの端末になります。」


「これは、自由に使っていいんですか?」


「いいですよ。

プリント等はできないので、必要ならメモしてくださいね。」


「ありがとうございます。」


久美は軽く頭を下げ、端末の前へ移動する。

画面をタップすると、

画面が明るく表示され、久美の顔を淡く照らした。


久美は震える手で端末を操作する。

検索欄に“立花正也”と打ち込む。


検索結果が3件表示される。

住所で絞り込む。


――あった。

“4361”


久美の呼吸が止まる。


震える指で、タブレットにその番号を入力する。


リターンを押した瞬間――

ロックが解除され、学校で見たあのゲーム画面が現れた。


その光は冷たく、久美の顔を不自然な青白さに染めた。


そして、久美は――

**禁断の箱を開けてしまった。**


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