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きらきらのルカ

作者: きだおさむ
掲載日:2025/12/17

その犬のなまえは、ルカといいました。

ルカには、いつもやっていることがありました。

それは毎日、じぶんの心をとり出して、きゅっきゅっとみがくことです。


ルカがまだ小さかったころ、だいすきだったお母さんがいいました。


「いいかい、ルカ。心というのは、ほうっておくとすぐにホコリがついたり、さびついたりしてしまうものなの。だから毎日、きれいにみがいて、いつもきらきらにしておくのよ」


お母さんはもうしんでしまいましたが、ルカはそのいいつけを守りつづけました。

うれしいことがあった日は、心はやわらかいピンク色にかがやきます。

そのときは、やさしくなでるようにみがきます。

かなしいことがあった日は、心は、すこしくもってつめたくなります。

そんなときは、あたたかい息をふきかけて、みがくのです。


「きゅっきゅっ。きゅっきゅっ。きらきらになあれ」


そうやって心をみがいていると、ルカはとてもよい犬になれたような気がして、ほこらしい気持ちになるのでした。


けれど、ルカが生きているこの世界は、きれいなことばかりではありませんでした。


あるさむい冬の日のことです。

ルカが庭にいると、奥でうずくまっている一匹のネコにあいました。

ネコはガタガタとふるえて、今にもきえ入りそうな声でないています。


「おなかがすいて、もううごけないニャ…」


ルカはかわいようにおもい、とっておいた干し肉を、ぜんぶネコにあげました。


「さあ、これをおたべ。げんきにおなり」


ネコはよろこんで肉をたべました。


しかしそのあと、ルカは路地のうらで、あのネコが、ほかのネコたちとはなしているのをきいてしまいました。


「いやあ、あの犬はほんとうに、おひとよしだニャア。ちょっとふるえるフリをしただけで、ごちそうをぜんぶよこしたよ」


ネコたちは、いじわるくケラケラとわらっていました。


ルカの胸が、ズキンといたみました。

その夜、心をとり出してみると、そこにはベッタリと泥のようなよごれがついていました。


「かなしいなあ。ボクはただ、たすけたかっただけなのに」


ルカは泣きながら、そのよごれをふきとりました。


きゅっきゅっ。きゅっきゅっ。


なんどもこすって、ようやく心はまた、きらきらとかがやき出しました。


また、ある年の春のことです。

ルカには、友だちの犬がいました。

そして、ずっとおもいを寄せていた女の子の犬もいました。

ルカは友だちに、その女の子のことをうちあけました。


「ボク、あの子のことがだいすきだ。だから、こんど、気持ちを伝えようとおもうんだ」

「それはいいね! おうえんするよ!」


そういって、友だちは、せなかをたたいてくれました。


けれど、それはウソでした。

友だちはルカにかくれて、その女の子にわるいウワサをふきこみ、彼女の心を彼のほうへむけてしまったのです。

気づいたときには、二人はよりそって、ルカのまえからさっていきました。


「ごめんよ、ルカ。でも世の中は、はやいもの勝ちだからさ」


彼はそういって、わらいました。


ルカは、ふかい井戸のしたに、おとされたような気持ちになりました。

その夜のルカの心は、もう泥よごれどころではありません。

まるで、するどいナイフで切りつけられたように、ふかいキズがいくつもきざまれて、血がにじんでいました。


「いたいよう、いたいよう」


ルカはポロポロと涙をながしました。


もう、みがくのなんてやめようか。


ルカはおもいました。

まじめにいきたって、バカにされるだけだ。

やさしくしたって、ぬすまれるだけだ。

しんじたって、うらぎられるだけだ。

心をきらきらにしていたって、なに一ついいことなんてないじゃないか。

いっそ泥だらけでキズだらけのままにしておけば、もうよごれやキズを気にすることもないじゃないか。


ルカは、その日、心をみがかないまま、寝てしまいました。


次の日も、その次の日も、ルカは心をみがきませんでした。

心はどんどんよごれて、かがやきをなくし、石ころのようにかたくなっていきました。

ルカの目からも光がなくなり、だれを見ても「どうせまた、ボクをだますんだろう」とうたがうようになりました。


けれど、一週間がすぎたころです。

ルカはなんだか、おちつかなくなってきました。

からだのおくのほうが、ムズムズするのです。

まるで、水あびをしないでいるときのような、どうしようもない気持ちわるさが、こみあげてくるのです。


「ああ、もう!」


ルカはたまらずおき上がり、キズだらけになった心をとり出しました。


「いいことは、ないかもしれない。だれも、ほめてくれないかもしれない。でも…」


きゅっきゅっ。きゅっきゅっ。


ルカは手をうごかしはじめました。


「ボクが、いやなんだ。心がよごれていると、ボクが気持ちわるくてしかたがないんだ」


それはもう、お母さんとのやくそくだからというよりも、ルカにしみついたことでした。

ごはんをたべるように、いきをするように、ルカは心をみがかずにはいられないようになっていたのです。


よごれはなかなか落ちませんでした。

うらぎられたキズあとも、すべてはきえませんでした。

それでも、ルカはみがきつづけました。

汗をかき、涙をながし、ていねいにみがきました。


するとどうでしょう。

キズあとはのこっていましたが、ふしぎな色でひかりはじめ、心はまえよりもふかく、しずかな、うつくしいかがやきをもつようになったのです。


「うん。やっぱり、このほうがおちつくや」


ルカはひさしぶりに、ふかくいきをすうことができました。


それからなん年もの月日がながれ、ルカはおじいさんになりました。

すっかり年を取り、走るのもおそくなりましたが、心だけは、みがきつづけていたので、だれよりもきらきらでした。


ある夕ぐれどき、ルカは線路のちかくをあるいていました。

踏切のおとが、カンカンカンカンとなりはじめました。

電車がちかづいてきます。


そのときです。

線路のなかに、何かがいるのがみえました。

それは、まだ小さな子犬でした。

線路のみぞに足がはさまってしまい、うごけなくなって泣いていたのです。


「ママ! ママ! こわいよ!」


電車はもう、すぐそこまでせまっています。

ゴオオオオオというごう音がひびきます。


ルカに、「キケンだ」とか「たすからないかも」といったかんがえはうかびませんでした。

ルカのきらきらな心が、かってにからだをうごかしたのです。


「あぶない!」


ルカは、線路の中へとびこみました。

そして、鼻さきでおもいっきり子犬をはじきとばしました。

子犬は線路のそとへころがり出ました。


ドン!


大きな音とともに、ルカの体はとびました。


いたみはありませんでした。

ただ、しずかさだけが広がっていました。


「ボクは、しんだのかな」


ルカが目をあけると、そこはうつくしいお花畑でした。

じぶんのからだをみてみると、キズついたおじいさんのすがたではありません。

すべすべとした、わかいころのからだになっていました。

そして、胸のうちに、あの心がありました。


これまで、毎日毎日、来る日も来る日もみがきつづけた心。

だまされても、うらぎられても、つらさで泣きながらでも、それでもみがくことをやめなかった心。

その心はいま、まるで夜空の星をすべてあつめたかのように、まばゆいばかりの光をはなっていました。


「おや、なんとうつくしい」


どこからともなく、やさしい声がきこえました。

その声がしたほうから、光のたまがちかづいてきました。

よくみると、それは神さまでした。

神さまは、ルカのかがやく心をみて、目をほそめました。


「たくさんのたましいをみてきたが、これほど、きらきらにみがかれた心は、そうそうみられるものではない」


神さまはルカをやさしくなでました。


「つらいこともおおかっただろう。よごされて、キズつけられて、なげ出したくなる夜もあっただろう。それでも、おまえは、このかがやきを手ばなさなかったのだね」


ルカは、お母さんのことばを、おもい出していました。


『いいかい、ルカ。心はいつも、きらきらにみがいておくのよ』


神さまは、にっこりとほほえみました。


「さあ、お行き。おまえのようにうつくしい心をもったものが行くべきところへ。そこで、おまえのお母さんも、まっているはずだよ」


神さまにだき上げられ、ルカのからだは、ふわりと空へうかび上がりました。

その心のかがやきは、空たかくのぼり、ひとつのあたらしい星となって、いまも夜空でやさしく光っています。


きらきら。きらきら。

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― 新着の感想 ―
心を磨き続けたルカは本当に立派です。 ルカのハートを見てみたいと思いました。 きっと深みのある傷さえも飾りになった美しいハートなのでしょうね。 とても深い物語をありがとうございました!
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