第8話 月見のお団子
秋の夜。
空気はすっかり冷たく、虫の声が静かに山に響いていた。
空には、まんまるの月。
白く澄んだ光が、くこ庵の屋根を銀色に染めている。
縁側にはくことふーちゃん。
二人の間には湯気の立つ急須と、笹の葉を敷いたお皿。
その上には、まるいお団子が十五個、ころころと並んでいた。
「くこさま〜、なんで十五個なの?」
「ふふ、それはね、満月の夜が“十五夜”だからよ。
ひとつひとつがお月さまの数……って昔の人は考えたの。」
ふーちゃんはお団子をじっと見つめ、ひとつを指先で転がした。
「まんまるで、きれいだね。」
「そう。丸いものにはね、“円”の意味があるの。
出会いや縁、絆の形なのよ。」
狐のまかないレシピ⑧:月見のお団子
材料(2人分)
・白玉粉……100g
・水……約90ml
・きなこ……大さじ2
・砂糖……大さじ1
・みたらしあん(しょうゆ大さじ1、砂糖大さじ1、みりん小さじ1、水50ml、片栗粉小さじ1)
作り方
白玉粉に水を少しずつ加え、耳たぶくらいのやわらかさにこねる。
まるく丸めて、沸騰したお湯でゆでる。浮かんできたらさらに2分。
冷水にとって冷まし、水気を切る。
きなこをまぶすか、みたらしあんをかけてできあがり。
くこのひとこと:
「まんまるにするコツはね、焦らず、やさしく“撫でるように”。
形よりも、気持ちが映るんだよ。」
くこが団子をひとつ手に取って、ふーちゃんの口元に差し出す。
「はい、どうぞ。」
「わっ……あまい!」
ふーちゃんの目が輝いた。
「もちもちしてて、お月さまみたい!」
くこは笑って、お茶をすすった。
「昔ね、この庵の前の丘で、“月見祭り”をしてたのよ。
人も妖もみんな集まって、お団子を分け合ってた。
月を見ながらね、来年も笑って会えますようにって。」
「……ぼくも、お祈りしていい?」
「もちろん。」
ふーちゃんは胸の前で手を合わせ、目を閉じた。
「……くこさまと、ずっといられますように。」
くこはその小さな声に、ふっと微笑んだ。
「ありがとう。
でもね、縁ってね、“祈り”よりも“信じる心”で続いていくの。
月は毎月欠けても、また満ちるでしょう?
それと同じよ。」
夜風が吹き、すすきの穂がさらさらと揺れた。
庵の外では、小さな灯りがふたつ、ふわりと浮かぶ。
狐火が、まるで月のかけらみたいにゆらめいていた。
ふーちゃんが空を見上げ、ぽつりと言った。
「ねぇ、くこさま。
お月さまって、どうしてそんなに遠いの?」
くこは少し考えてから、やさしく答えた。
「きっとね、“みんなの願いを一度に聞くため”に遠くにいるのよ。
でも、離れていても、ちゃんと見てるわ。」
ふーちゃんはにっこり笑い、満月に向かって手を振った。
「じゃあ、ぼくの“ありがとう”も届くね!」
くこは目を細めて頷いた。
「ええ、きっとね。
そして、私たちの心も、あの月のように――
何度でも満ちていくの。」
月は高く、夜は静かに。
庵の前に並ぶ十五の団子が、白く光を反射していた。
その横で、ふーちゃんがくこの肩にもたれかかる。
くこはその頭をそっと撫で、空を見上げた。
「……満ちて、欠けて、また満ちる。
それが生きるってことかもしれないね。」
庵の軒先で、鈴虫が一声鳴いた。
そして、その音に呼応するように、
ひとつの狐火が月の下で、まんまるに光った。
第9話「秋風と栗ごはん」
――山の色が変わり始めるころ。
くこの“おすそ分け”が呼んだ、懐かしい再会の物語。




