第7話 風鈴とかき氷
夏の山。
蝉の声が遠くで鳴き、木々の葉が陽に透けてきらめいている。
くこ庵の縁側には、風鈴がひとつ。
ちりん、と風に揺れて、透明な音を響かせた。
「くこさま〜、あつい〜〜!」
ふーちゃんが床にぺたりと寝転がる。
尻尾もぐったり、耳もだらんと下がっている。
くこは笑いながら、団扇で風を送った。
「ふふ、夏が来たね。こういう日は“冷たいまかない”を作りましょう。」
「冷たいの!? そんなのあるの!?」
「ええ。“かき氷”っていうの。」
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狐のまかないレシピ⑦:風鈴とかき氷
材料(2人分)
・氷……適量
・いちごシロップ……大さじ3
・練乳……大さじ2
・あずき(お好みで)……大さじ2
・ミントの葉……少々
作り方
1.氷を削る(ミキサーでも可)。
2.器に盛り、いちごシロップを回しかける。
3.練乳とあずきをのせ、ミントを飾る。
4.風鈴の音を聞きながら食べる。
くこのひとこと:
「涼しさはね、味だけじゃなくて“音”と“風”にもあるんだよ。」
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庵の外から、小さな足音が近づいた。
「ごめんくださーい……」
声の主は、山道から迷い込んだ人間の少女だった。
白い浴衣に、手には小さな鈴のついた扇子。
「迷っちゃって……のどが、かわいちゃって……」
くこはにっこり笑い、ふーちゃんに目配せをした。
「ふーちゃん、もてなしをお願い。」
「ぼ、ぼくが!?」
「そうよ。今日のまかないは“ふーちゃんの氷”にしましょう。」
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ふーちゃんはあたふたしながら氷を削り、シロップをかけた。
ちょっと不器用で、シロップが端によってしまう。
でも少女は、そのかき氷を見て笑顔を浮かべた。
「わぁ……お花みたい。」
「おはな?」
「うん。真ん中の白いのが花びらで、赤いとこがつぼみみたい。」
ふーちゃんは顔を真っ赤にして、尻尾をぱたぱたさせた。
「え、えへへ……ありがと。」
少女はひと口すすると、目を閉じてうっとりとした。
「……冷たいけど、あったかい味。」
「それはね、ふーちゃんの心が入ってるから。」
くこがそっと笑った。
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風が吹き抜け、風鈴がちりんと鳴る。
夏の光の粒がふたりの間を揺れながら、どこか懐かしい香りを運んでいった。
少女は立ち上がり、深く頭を下げた。
「ごちそうさまでした。
また……この庵に来てもいいですか?」
「ええ。夏の音を聴きに、いつでもおいで。」
少女が去ったあと、ふーちゃんはぽつりと呟いた。
「……ぼく、はじめて“ありがとう”って言われた。」
くこは優しく頷いた。
「それはね、料理人になった証拠だよ。」
庵の前では、夕暮れの風が吹き抜ける。
風鈴がひとつ鳴り、氷の器が光を反射する。
その瞬間、小さな狐火が涼やかに灯った。
第8話「月見のお団子」
――秋の夜、庵に集う影たち。
満月の下、くことふーちゃんが語る“願いのかたち”の物語。




