第4話 初雪の豆腐みそ汁
山の朝。
外はしんと静まり返っていた。
いつもの鳥の声も、風の音さえも、白い世界に包まれている。
「くこさまっ! お外、真っ白だよーっ!」
ふーちゃんが玄関を勢いよく開け、雪の粉をまき散らす。
尻尾にはふわりと雪が積もり、まるで綿菓子みたいだった。
「ふふ……やっと降ったね、初雪だよ。」
くこは薪をくべながら、囲炉裏の火をそっと見つめた。
火の粉がひとつ舞い上がり、天井に消えていく。
「冷たい朝はね、まず“味噌の香り”で目を覚ますんだよ。」
「みそ? あの、しょっぱいやつ?」
「そう、それをお湯に溶かすと、不思議と心まであたたかくなるの。」
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狐のまかないレシピ④:初雪の豆腐みそ汁
材料(2人分)
・木綿豆腐……1/2丁(さいの目切り)
・長ねぎ……1/2本(斜め切り)
・わかめ(乾燥)……小さじ1
・だし……400ml(昆布とかつお)
・味噌……大さじ2(合わせ味噌がおすすめ)
作り方
1.鍋にだしを入れ、中火で温める。
2.沸騰直前で火を弱め、豆腐・ねぎ・わかめを加える。
3.味噌を少しずつ溶き入れ、ひと煮立ちさせないように火を止める。
4.器に盛り、好みで七味を少々。
くこのひとこと:
「味噌は“心”みたいなもの。溶かすんじゃなくて、ゆっくり寄り添わせてあげるんだよ。」
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ふーちゃんは、湯気に顔を近づけて鼻をひくひくさせた。
「わぁ〜……いいにおい。ふわふわしてる。」
「ふふ、雪みたいでしょう。」
くこは笑って、木のお椀をふーちゃんに手渡した。
ふーちゃんは一口すすり、ほっと息をつく。
「……あったかい。お腹だけじゃなくて、胸もポカポカする。」
くこはうれしそうに頷いた。
「昔ね、私がまだ若かった頃。師匠狐がね、冬の朝に必ず味噌汁を作ってくれたの。
“あたたかさ”っていうのは、料理の中にも、人の中にもあるんだって。」
「くこさまにも師匠がいたの!?」
「ええ。とっても厳しくて、でも優しい狐だった。……もうずっと前に、雪の中へ帰ってしまったけれど。」
ふーちゃんは小さく尻尾を下げた。
「そっか……さみしくない?」
くこはしばらく黙って、湯気の向こうの白い窓を見つめた。
「……不思議とね、雪が降るたびに思い出すの。
“ちゃんと食べてるか”って声が、どこかから聞こえてくるようで。」
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その時、外で“ひらり”と何かが舞った。
ふーちゃんが窓を開けると、白い封筒が雪の上に落ちている。
拾い上げると、封には小さく狐火の印。
「これ、くこさま宛て……?」
くこが受け取り、そっと開くと、中には小さな紙片。
そこには、墨でこう書かれていた。
『雪の朝に、味噌の香りを忘れるな。
——三尾より。』
ふーちゃんが目を丸くした。
「師匠さまからだ!」
くこは、ほんの少しだけ目を細めて笑った。
「ふふ……やっぱり、見てるのね。どこかで。」
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その日の昼、雪は静かに降り続いた。
庵の前には、ふーちゃんが作った小さな雪だるまが並んでいる。
ひとつは耳の長い雪狐、もうひとつは小さな子狐の形。
くこは湯気の立つ味噌汁を盆に乗せ、縁側へ運んだ。
「はい、師匠にもお供えしなくちゃね。」
雪の上に湯気が溶け、白い世界にやさしい香りが広がる。
その匂いはまるで、遠い日々の記憶を呼び覚ますようだった。
庵の前に、ふわりと狐火がひとつ灯る。
それはどこか、懐かしい“笑顔の形”をしていた。
第5話「春告げのおいなり寿司」
――冬を越え、庵に春風が吹く。
ふーちゃんが初めて自分だけの料理を作る日。
そのおいなりには、師匠から受け継いだ“約束の味”が込められていた。




