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第3話「雨の日のきつねうどん」

山の朝。

ぽつ、ぽつ、と屋根を打つ音が聞こえる。

やがて、しとしとと細い雨が庵を包み、空気にやさしい湿り気が広がった。


「くこさま〜……お外、まっしろだぁ。」

ふーちゃんが縁側から外を見上げる。

霧が深く、木々の枝が霞んで見える。

九尾のくこは薪の火を整えながら、にこりと微笑んだ。


「こういう日はね、体の芯から温まるものを食べるのが一番。ふーちゃん、うどんを打ちましょうか。」


「うどん!? あの、のびるやつ!?」



狐のまかないレシピ③:雨の日のきつねうどん


材料(2人分)

・うどん(生またはゆで)……2玉

・油揚げ……2枚

・だし……600ml(昆布とかつお)

・醤油……大さじ2

・みりん……大さじ2

・砂糖……小さじ2

・青ねぎ……少々


作り方

1.鍋にだしを温め、醤油・みりん・砂糖で味を整える。

2.フライパンで油揚げを軽く焼き、香ばしくしたら、だしの一部で軽く煮て味を含ませる。

3.別の鍋でうどんを茹で、湯を切って器に盛る。

4.だしを注ぎ、味を含ませた油揚げをのせる。

5.最後に刻みねぎを散らす。


くこのひとこと:


「焦らず、しみこませる。油揚げの中にも、人の心にも、味はゆっくり染みるの。」



外の雨は次第に強くなり、軒先の風鈴がちりんと鳴る。

その時――庵の戸が、こんこん、と叩かれた。


「こんな日にお客さん?」

ふーちゃんが首をかしげる。

くこが戸を開けると、そこに立っていたのは――

びしょ濡れの黒猫だった。


「……ごめんください。道に迷ってしまって……」

声は人のもの。だが、その瞳は夜の闇を映すような金色だった。

くこはためらいもせず、手ぬぐいを差し出した。


「どうぞ入りなさい。冷えたでしょう。」



囲炉裏の火がぱちりと鳴る。

ふーちゃんは慣れない手つきで猫の毛を拭いてやる。

「おねーさん、毛がふわふわだね!」

「ふふ、あなたも尻尾が立派ね。」


温かい香りが部屋に広がる。

だしの湯気、油揚げの甘い匂い――。


「はい、召し上がれ。」

くこが差し出した椀には、湯気の立つきつねうどん。

猫の妖は、箸を持つ手を少し震わせながら一口すすった。


「……やさしい味ですね。」

「それはね、雨の日の味。」くこが微笑む。

「誰かの心が冷えた時は、温めてあげるのが庵のしごとなんですよ。」



食後、黒猫の妖は深々と頭を下げた。

「……昔、この山でお世話になった狐さまがいました。あの方の味に、少し似ていました。」


ふーちゃんが首をかしげる。

「その狐さまって、もしかして――」


くこは静かに湯呑みを持ち上げ、雨音の向こうを見つめた。

「ええ、あの頃、まだ尾が三つしかなかった頃にね。」


外では、雨がやみ、霧の向こうにうっすらと光が差していた。

庵の前の小川に、ふたつの影が映る――

狐と、子狐と、濡れた黒猫の影。


その夜、くこ庵の屋根の上で、狐火が三つ、静かに灯った。

まるで、誰かが懐かしい昔話を思い出したように。


第4話「初雪の豆腐みそ汁」

――冬の朝、庵に届いた白い便り。

雪の香りと、あの日の約束が、心を溶かしていく。

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