第10話 冬至のかぼちゃ汁
冷たい風が山を渡り、木々の枝が白く凍りついていた。
空は早く暗く、まだ夕方だというのに庵の周りはもう薄闇に包まれている。
囲炉裏の火だけが、ぽっと橙色の光を灯していた。
「くこさま……今日、いつもより夜が長いね。」
「ええ。今日は“冬至”だからね。」
「とうじ?」
「一年のうちで、一番夜が長くて、昼が短い日。
でもね、今日を境に少しずつ“光が戻ってくる”の。」
くこは笑って、ふーちゃんの頭を撫でた。
「だから、冬至のごはんは“太陽を呼ぶ料理”なのよ。」
「たいようを呼ぶ?」
「そう。“かぼちゃ”のこと。」
狐のまかないレシピ⑩:冬至のかぼちゃ汁
材料(2人分)
・かぼちゃ……200g(皮つきのまま一口大に切る)
・玉ねぎ……1/2個(薄切り)
・だし……400ml
・味噌……大さじ2
・みりん……小さじ1
・油揚げ……1/2枚(短冊切り)
・少々のゆず皮
作り方
鍋にだしを入れ、玉ねぎとかぼちゃを入れて煮る。
かぼちゃがやわらかくなったら、みりんと油揚げを加える。
火を弱めて味噌を溶かし、軽く煮立たせる。
器に盛り、ゆず皮を浮かべて香りを添える。
くこのひとこと:
「かぼちゃの黄色は太陽の色。
光を食べて、心までぽかぽかにするんだよ。」
ふーちゃんは湯気に顔を近づけて、鼻をひくひくさせた。
「ん〜……あまい匂い。なんか、なつかしい。」
「それはね、夏の太陽の香り。
かぼちゃは、夏の光をいっぱい浴びて育つから。」
くこは湯気の向こうで目を細めた。
「こうして冬に食べるのは、“来年も元気でいられますように”って願いが込められてるの。」
「……じゃあぼく、このお汁ぜんぶ飲んだら、ずっと元気?」
「ふふ、そうね。でも、元気のもとは“ありがとう”の数かもしれないわ。」
ふーちゃんは少し考え、こくりと頷いた。
「じゃあ、今日の分のありがとう、くこさまにあげる!」
「まぁ、それはうれしい贈り物だね。」
外では、雪が静かに舞い始めていた。
ふーちゃんは障子を少し開けて、白い世界をのぞく。
「くこさま、雪も光ってるよ!」
「そう。闇の中でもね、光は消えないの。
人も妖も同じ。信じていれば、きっとまた明るくなれる。」
ふーちゃんはその言葉を聞きながら、湯気の立つお椀を抱えた。
「……ぼく、このお汁、山の動物たちにも分けてあげたいな。」
「それはいい考えね。冬はみんな寒いもの。」
ふーちゃんは湯呑みを小さな桶に分け、庵の外へと駆け出した。
冷たい風に頬を赤くしながら、木の根元にお椀を置く。
リス、野ウサギ、鳥たちが興味深そうに顔を出す。
「これ、太陽のスープだよ。あったかいよ!」
動物たちがちいさな舌でかぼちゃを舐める。
その瞬間、雪の上に金色の光がふわりと広がった。
くこはその光景を縁側から見て、そっと目を閉じた。
「……冬至の夜に灯る光。それは“分け合う心”なのかもしれないね。」
ふーちゃんが戻ってくると、髪には雪の粒がいくつも光っていた。
「みんな喜んでた! きっと来年も元気でいられるね!」
「ええ。あなたのおかげで、庵も少し明るくなったよ。」
外では雪がしんしんと降り積もり、囲炉裏の火がゆらゆらと揺れる。
夜の静けさの中、ふたつの影が寄り添っていた。
そして、窓の外には――
金色の狐火がひとつ、雪の上にぽっと灯る。
その光は冷たい夜を照らしながら、
“春への道”をやさしく指していた。
第11話「春待ちの花茶」
――雪解けの頃、庵に届く一輪の花と一通の手紙。
冬を越えた心に、やわらかな香りが広がる“はじまりの章”。




