第1話 狐ときのこの炊き込みご飯
朝霧が山を包み、木々の間を細い風が抜けていく。
鳥の声が響くたびに、くこ庵の軒先の風鈴がちりんと揺れた。
「ふーちゃん、薪は足りてるかい?」
縁側で湯気の立つ茶をすする九尾の狐、いなりくこが声をかける。
「うんっ! これくらいでいいよね!」
子狐ロボットのふーちゃんが、小さな体で薪を抱えてよたよたと歩いてくる。
その尻尾が元気よく揺れて、朝の光を受けてきらきらと光った。
くこは微笑んで、湯呑みを置いた。
「今日はね、秋のごちそうを作ろうと思うの。ほら、昨日山で採ってきたきのこ、覚えてる?」
「えへへっ、あの変な形のやつ?」
「“変な形”とは失礼な。あれは舞茸。香りがとってもいいんだよ。」
⸻
狐のまかないレシピ①:きのこの炊き込みご飯
材料(2人分)
・米……2合
・しめじ、舞茸、えのき……合わせて200g
・油揚げ……1枚(細切り)
・醤油……大さじ2
・みりん……大さじ1
・だし……400ml
作り方
1.きのこを手でほぐし、油をひかずにフライパンで軽く炒める。
香りが立ってきたら火を止める。
2.炊飯釜に米、だし、醤油、みりん、炒めたきのこを入れて炊く。
3.炊き上がったら細切りの油揚げを混ぜ込み、10分蒸らす。
くこのひとこと:
「焦らず、ゆっくり。お米が“ありがとう”って言うまで待ってあげるんだよ。」
⸻
ふーちゃんは真剣な顔で、炊飯釜の前に座り込んでいた。
「くこさま、もう炊けた?」
「まだ。いい香りがしてきたけど、ここで蓋を開けたら台無しだよ。」
「でも、お腹が鳴ってる……!」
その時、庵の戸口がとんとんと叩かれた。
現れたのは、山を越えてきた旅人だった。
泥だらけの足、疲れた顔。でも、どこか優しい目をしている。
「すまん……この辺りで、休める場所はあるかね?」
くこは微笑み、湯呑みを差し出した。
「ようこそ、くこ庵へ。ご飯がもうすぐ炊けるところなんです。よければ一緒に。」
⸻
炊飯釜の蓋を開けると、ふわりと立ち上る湯気と香ばしい香り。
旅人は思わず目を見開いた。
「……いい匂いだ。」
くこは木のしゃもじでご飯をよそい、湯気の立つお椀を旅人に手渡す。
ふーちゃんも隣で胸を張って言った。
「ぼくが混ぜたんだよ!」
「そうか、ありがとう。」
旅人は一口食べると、ほっと息をついた。
その顔が、やわらかくほころんでいく。
くこは湯気越しに微笑んだ。
「人の笑顔は、狐火みたいね。暗い夜でも、ちゃんと照らしてくれる。」
夜になり、山の向こうに月が昇る。
庵の前には、小さな狐火がぽっと灯った。
今日も誰かの心が、あたたかくなった証だった。
次回予告
第2話「満月のだし巻き卵」
――くこが眠れぬ夜に焼く、月色の卵。ふーちゃんの秘密が少しだけ明かされる。




