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第3話

「どうだ中田?」

「ええ、田中さん、見ての通りですよ……」

 会場は、文字通りの地獄絵図になっていた。

 赤ら顔でヨロヨロとピンを狙うおじさんたち。

「おい、倒せるかこれ……!」

 手が震えてジョッキを落とす大学生。

「うわぁぁ、トイレ行きたいけど無理ぃぃ!」

 仲間同士で酒の押し付け合いをするおば様たち。

「いいから飲めって! あんたの番だろ!」

「いや、私もう……うぇっ」

 ジョッキが宙を舞い、ビール、ワイン、日本酒、ウイスキー原液がグラウンドを飛び散る。まさに現代版デスゲームであった。

「さすがにやりすぎじゃないか? 中田」

「何を言っているんですか。全員、ホテル送り決定です。そして……でも見て下さい。あいつら、とても楽しそうにしているじゃないですか」

 確かに、泣き叫ぶ者、酔って寝転ぶ者、棒を振り回して暴走する者、ピンを蹴飛ばす者……。

 しかし、皆どこか笑顔だ。狂気と楽しさが混ざり合っている。

「そうか?」

「ええ。普段から真面目に働いている社会人ばかり。だからこそ、休みだって真面目に生きてしまう。遊ぶ選択肢すら真面目なんですよ。図書館とか美術館とか茶道とか。どうせフェスとかビーチとかにも行かない連中。だからこそ、こういうイカれたイベントで、本当の息抜きをさせてあげる。こういう姿勢が今の日本には大切なんです」

 田中は頷く。納得しているのか、困惑しているのか、表情が読めない。

「……でも、誤算もありますね」

「誤算?」

「思った以上に、酒カスどもが強いんですよ」

 中田は会場を指さす。そこには、普通のモルックのルールなど微塵も理解していない連中が、狂気のようなテンションでひしめいていた。

「俺の脳みそはアルコールでできている」と豪語する天才東大教授の九田。白衣はシワだらけ、眼鏡はずり落ち、手にはなぜか温めたウイスキーの瓶。ピンを狙うより先に、自分の靴を倒して喜ぶ奇行の天才。

「アル中カラカラ教信者チーム」。全員が赤い顔で、奇声をあげながら回転し、棒を振り回す。倒れるピンよりも、まず自分同士でぶつかり合う。互いのジョッキを奪い合い、口から泡を吹き出す者もいる。

「歌舞伎町のホスト軍団」は、光るネックレスと厚底靴で参戦。ヘアセットを崩さぬよう必死に投げるが、棒は宙を舞い、ピンを蹴飛ばす代わりに隣の敵の頭を直撃。倒れるピンよりも、倒れたホストの笑顔に歓声が上がる。

 スペインからの刺客は、マントをひらめかせ、剣士のように棒を振り回す。だが振りすぎて自分が後ろに転倒。倒したピンよりも自分が倒れる回数の方が多い。

 中国の怪しい観光客は、なぜかパンダの着ぐるみ姿。ピンを倒すよりも、踊りながらジョッキを持ち替え、隣の酔っぱらいに絡む。途中で棒を放り投げ、ピンの代わりに観客席のジョッキを破壊するという、誰も予想できない暴挙に出る。

 彼らはモルックのルールなど理解していない。狙うのはピンではなく、ジョッキであり、仲間であり、時には自分自身の足である。

 だが、不思議なことに——酒の力とカオスの法則により、勝ち進む者がちらほら現れる。

「まったく、こちらは賞金なんて用意していないのに、このままだと……決勝前につぶれてもらわないと困るんです」

 田中が目を細める。

「どうする中田?」

「この中田に秘策あり。任せてください」

 中田は低く笑った。手には、光り輝く瓶が握られている。


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