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第2話

「はいはいはい! 皆さん、静かに! 静粛にぃっ!」

 マイクが悲鳴のようにハウリングする。耳が痛い。誰かが叫び、誰かが笑い、観客席からは早くもお祭り騒ぎの声が飛ぶ。

「本日は――『モルック・ワールドカップ in 山梨』へようこそ!」

 司会の中田が満面の笑みで手を広げる。その背後の山々に、夕日が沈みかけ、赤い光がグラウンドを血のように染めていた。

「いやぁ、まさかこんなに集まるとは……感無量です。さすが優勝賞金1,000万円。ええ、皆さん、気合い入ってますね。車で来られた方も多く……まずは皆さんに“ぶどうジュース”を振舞いました」

 ざわつく観客。数人が怪訝そうにグラスを覗き込む。

「え? 味が変? あはは、勘違いでしょう」

 中田の笑みがどこか引きつる。

「さて、そもそも“モルックのワールドカップ”は海外でやるもの、って意見もありますね。許可は取ってるのか、とか。ですが皆さん、何を言ってるんですか。これは普通のモルックじゃない――“アルティメット・モルック”です。アルティメット!」

 沈黙が会場を包む。風がざわめき、葉が舞う。

「ルールを説明します。試合時間は30分。決着がつかなければ延長です。最初の5分はビール、10分からワイン、15分で日本酒、20分からウイスキー原液に突入――」

「……飲む、ってどういうことですか?」

 観客席から声が漏れる。

「もちろん、宣言に外れたチームの誰かが飲むんです。ジョッキで、全力で」

 中田はにやりと笑う。

「試合中の水分補給は禁止。トイレも禁止。勝負を放棄したら、即失格。負けたチームは――その試合の酒代、全額負担です」

 観客の顔から笑みが消える。汗をぬぐう者、目をそらす者。中田はそれを愉快そうに眺める。

「ちなみに、ピンの中に一本だけ“ウコンドリンク”を混ぜてあります。倒した者はそれを飲む権利――命綱です。ただし、一試合につき一本。誰か一人しか救われません」

 誰かが息を呑む。悲鳴と笑いが同時に交錯する。

「……は? ふざけんな? 帰る? あはは、いやいや、帰れませんよ」

 中田の声が急に低くなる。

「さっきのぶどうジュースには、アルコールが入っています。法定値を超える量です。今、車で帰れば――捕まりますよ?」

 静寂、笑い声、叫び声が入り混じる。もう誰も落ち着けない。

「さぁ、諦めてください。逃げ場はありません。ここは山梨――ぶどうと酒と、そして勝負の地です。これより、アルティメット・モルック……開始ぃぃぃぃっ!!!」

 照明が点滅し、グラウンドの影がゆらぐ。

 鐘が鳴る。最初の木片が夜気を裂いて転がり、観客席から悲鳴と歓声が同時に湧き上がった。


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