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第5章 太宰かぶれ症
大学一年生の春休み。修一は太宰作品を読み返す内に、いわゆる太宰かぶれ症に陥った。
暫くの間、なよなよした軟派な学生に変身した。
田舎者の修一が白色の革ジャンを着て恥ずかしげもなく、都市にある大学に通学をはじめた。
太宰小説を読むうちに田舎者のコンプレックスが取れたのかも知れないと振り返った。
変な自信と言うか、小説から読み取った内容を演技するということを真似し出した。
同時に、今までの真正直な生き方への疑問が芽生えた。世間からの価値観に懐疑心が生じ始めた。
大学一年間は一心不乱で学問に取組み優秀な成績を残した。
しかし、それが何の価値があるのだろうかと思うようになった。
即ち学問に打ち込むだけが、真の人生だろうかと言う疑いの兆しが生まれる契機を太宰文学が与えていた。
この太宰かぶれ症の所為でもって、修一に心境の変化が起こった。
二年生の夏までの短い期間だったが、学校帰りに落第した二年先輩の大竹とたびたび喫茶店に通った。
大竹とコーヒーを飲みながら彼の芳しくない体験的自慢話しを聴かされた。
修一はそれに興味を抱いた。心がざわめく体験を有する生活を過ごした。
今から思えば実に他愛のない堕落であったが、専攻の工学系の学問に身が入らない
半年間、異性に関心を寄せて過ごした。




