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正義の行方  作者: 零。
第一部
3/6

序章.万緑の中の静寂 3

謎というのなら、まだある。


それは、どうしてこんな山奥で暮らすのかだ。

エンマに聞けば曰く、「最近は戦争でどの町も廃れていて、危険です。ましてはこの辺りは国境ですから、麓の町でくらすなど以ての外。いつ卑劣な獣たちが押し寄せてくるか分かりません。目立たないこの場所でくらすのが、一番安全なのです」

なるほど確かに、この弁は一見尤もなように思える。実際今は戦争で国中が疲れ果てている。自分が生きてゆくのが精一杯な者も多いようで、町中では窃盗や強盗が絶えないということも、フィーラは知っている。危険というのも頷ける。

しかしこれはいくらなんでもやりすぎではないだろうか。フィーラには、エンマの弁ではいまいち納得できない。

山奥にある家から麓の町までは、道とよべるような道はなく、当然歩いていくしかない。一番近い麓の町までは、フィーラの足では6時間かかる。これでは朝家を出て、何もしないで帰ってたとしても、もう日が暮れる時間だ。よって町へ行って用事を済ませるには、最低2日は必要なのだ。

その上、重い荷物を運ぶには山道は険しすぎる。一体どうやってこんな場所に家を建てたのだろうかと、不思議に思うくらいだ。材料をそろえるだけでも、随分な日数が必要だろう。その証拠に、フィーラが覚えている限りでは家の中の家具が変わったことはない。少し壊れれば、その都度地道にマグラスが修理して、継ぎ足して使っている。

いくら安全だからといって、こんなところに家を建てる者がどこにいる?不便きわまりないではないか。


決してフィーラはここでの生活が嫌いなわけではない。人の手の加えられていない自然は美しく、山の空気は澄み渡っている。山の中で咲く可憐な花も、その花にとまる虫も、フィーラが5人いても手と手が届かないくらい立派な幹を持つ大木も、心を綺麗に洗ってくれる湖も、ここに暮らさなければ出会えなかっただろう。

でも、ここにいては友達もろくに出来ない。知識こそマグラスの買ってくる本を読んで得ているものの、本での知識は学識的で、面白味に欠ける。


しかも、エンマの言う”安全”にも疑問がある。

抑もこの場所は、人が好きこのんで住むようなところではない。




このリドバンス山脈の頂上を境に東がリディエルシア王国、西がナトリア帝国の領土である。

フィーラが属しているのは東にあるリディエルシア王国。都の王宮に住む王が、この国を治めている。100年近く前に野蛮な獣人から民を守るために始まったとされるリディエルシア王国とナトリア帝国との戦争は、今この国を苦しめる一番大きな要因だ。

尤も、100年近く前に戦争を始めた人たちは、この国がこんな危機的な状況になるとは予想もしていなかっただろう。ナトリア帝国を治める獣人は、頭が悪く、無意味に人を殺す野蛮な種族であると当初は見ななれており、そんな種族の治める帝国はすぐに我等人間の治めるリディエルシア王国の手に下るだろう、と言われていたのだから。

実際リディエルシア王国が徐々に勢力を拡大していた約120年前、獣人たちの反抗は小さく、帝国も動く気配はなかったのだと言う。しかし、王国が帝国の領土への侵略を始めると、途端にその状況は急転した。

帝国が反撃に出たのである。

リディエルシア王国はナトリア帝国軍に苦戦した。早期に終わると見なされていた戦争は、長期戦へと様相を変えていった。どうやら獣人という種族は、人間が思うほど頭が悪くなかったようだ。

そしてその戦争は100年近く経った今も続き、民を苦しめている。


このリドバンス山脈の西側は私達の敵である獣人の土地である。いくら未開の地とはいえ、いつ獣人が紛れ込むとも知れない場所に、まさか家を建てるとは。普通は野蛮な獣人を恐れ、こんな場所には住み着かない。

エンマとマグラスにとっては、獣人など怖くも何ともないのだろうか。

フィーラには不思議で仕方ない。穏やかな暮らしを送る中、フィーラの頭の中にはいくつもの疑問が浮かんでいる。


あれこれと考えながらもいつものように食事を終えたフィーラは、部屋に戻って素早く着替えると、倒れるように夢の世界へ旅立った。




◆◆◆◆◆




「んんー」

フィーラはぼんやりと瞼を開いた。まだ微睡みの中にいる。

あくびをしながら時計を見ると、6時を指している。いつも目覚める時間だ。

のろのろと着替え、部屋を出ると、キッチンの方から声が聞こえる。

「もう朝食は出来ていますよ」

エンマは早起きだ。フィーラが居間に行くときには既に朝食が用意されている。

「うん、いただきます」

フィーラはパンを咀嚼しながら、はたと気付く。

「エンマ。今日マグラスは町へ行ったの?」

いつもは斜め前の席でもくもくと食べているマグラスの姿がない。

「ええ。今日から4日、家を空けるそうです。仕事ですって」

4日というのは、よくある長さだ。滅多にないが、長いときは10日間帰ってこなかった。

何をしているのかは、もちろんフィーラには分からない。エンマも知らないみたいだ。

「そう。じゃあ、剣の練習は休みか」

「はい」

フィーラが剣の練習を楽しみにしていることを知っているエンマは少し困ったように答える。

「平気だよ。今日は本を読むことにする」

笑ってスープを飲みこむ。食器をキッチンへ持っていき、フィーラは足早に部屋を出た。マグラスの部屋の隣に書斎がある。マグラスが町から買ってきた本が、壁一面に並んでいる。マグラスがいるときはどことなく入りづらいのだが、いないとなれば話は別だ。

棚に並ぶ本の中から赤い背表紙の一冊を手に取ると、一人掛けのソファに腰を下ろした。表紙には、”毒の性質と見極め方”と書いてある。この部屋の本はもうほとんど読破してしまっているフィーラにとって、この本はまだ読んでいない貴重な一冊だ。フィーラの持つ知識は全てここにある本と、マグラスとエンマによる講義からのものだ。フィーラは体を動かすことが一番好きだが、その次に好きなのは本を読むことだ。本の中には自分の知らない世界が無限に広がっている。いろんな知識を与えてくれる。

一度読み出したら止まらない。今日もフィーラは夢中になって本を読んだ。


「ふぅー」

最後のページを読み切ると、フィーラは深く息を吐いた。

没頭しすぎたようだ。気づいたら読み出してからもう4時間過ぎている。今読んだ本には、一般的な薬草から世に知られていない毒キノコや毒草、毒をもつ生物について事細かに書かれ、調合の仕方、解毒の仕方まで書かれていた。この本の所持者によっては、かなり危険な内容である。


目線を本から外して首を回す。読み終えた本を傍らの小さな丸いテーブルに置き、椅子に座ったまま伸びをする。本を元の棚に戻し、次ぎに読む本を物色する。右から三番目の棚。フィーラの記憶が正しければ、この辺にまだ読んでいない本があるはずだ。

本を探していると、ドアが開いてエンマが顔を出した。

「フィーラ、お昼ですよ」

もうそんな時間かとフィーラは本棚を物色していた手を止める。

「わかった。今行く」

フィーラはエンマに続いて書庫を出る。

「今日は何の本を読んだのですか」

「毒の本。とっても役に立ちそうな本だった。出来れば使いたくないけれどね。裏の薬草のことも載ってたよ」

「それば貴重な本ですね」

エンマが別段驚いた風でもなく言った。

しかしフィーラの言う裏の薬草、つまりフィーラたちが住むこの家の裏にある庭で栽培されているのことだが、は、普段市場で出回ることのない貴重な薬だ。どんな傷・病気にも効く万能薬と言われ、巷ではその貴重さと相まって、”幻の金色草”と言われている。なんでも日の光を浴びると黄金色に輝くことからつけられた名前みたいだ。実際の色は黄金と言うほどではないが。

「うん。すごく高かったんじゃないかな。ねぇ、エンマもそう思うでしょ?」

フィーラが言うと、エンマはにこりと笑ったが、それが了承なのか、否定なのかはフィーラには判断がつかなかった。



昼食を食べ終わると、フィーラは森へ遊びに行くことに決めた。

1日動かなかったら体が鈍る。


家を出て一番に行ったのはあの湖。湖畔で剣の素振りをした。動けば気分がすっきりする。集中していれば、変な疑問が脳裏をかすめる事もない。

満足のいくまで剣を振ると、全身汗をかいていた。今日は寒くもない。こんなところに人が来るはずもない。フィーラは服を脱いで湖に飛び込む。ひんやりとして気持ちがいいくらいだった。

水に潜って髪も濡らす。ぷはっと息を吐いて頭を出す。

そこで気付いた。体を拭くタオルを持ってきていない。

まあいい。フィーラは気にも止めない。

水から上がり、そのまま服を着た。走っていれば風で自然に乾く。

木の枝に飛び、木から木へ飛び移る。フィーラは山の頂上に行くことにした。頂上にある岩に登れば、この山の全貌が臨めるのだ。

フィーラは30分くらい走り続けた。汗をかかない程度のスピードで。

頂上の付近はぽっかりと開けていて、木が少ない。岩が見えてくると、フィーラは小さく息を吐いた。

大きな岩に登る。


そこから見える景色は、壮大だった。フィーラのいる所から、緑の絨毯のように裾野が広がっている。フィーラは家がある方とは反対の、ナトリア帝国のある方を眺めた。ここから見える山々はナトリア帝国の領土ではないらしい。少数民族の国家の領土なのだとか。フィーラはあまり詳しいことは分からない。獣人に対する知識は、驚くほど少ない。戦争をしている相手であるにも関わらず。

戦争というものもよくフィーラにはよく分からない。戦争という言葉がどういう意味なのかは、知ってる。

けれど、この溢れんばかりの自然からは想像も出来ない。国と国が戦うとは、どういうことなのだろう。なんで戦争なんてするのだろう。たくさんの人が悲しんで、苦しんで、幸せなことなんて一つもないのに。



フィーラは目を凝らして、山々の彼方向こうにある、ナトリア帝国を見ようとした。


でもやはり目の前に広がるのは、緑だけ。

フィーラの見たいものは、何一つ見えなかった。




深い緑に隠されて。


説明が多くて読みにくい。

著者が未熟なので、我慢して呼んでくださるとありがたいです。

アドバイス等ありましたら、参考にします。

誤字脱字報告求む。感想大歓迎。踊って喜びます。

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