冬の魔王をやっつけろ!
寒い寒い冬の日。お外は雪がチラチラと降り地面を白色に変えていきます。
春斗くんはリビングでミニカー走らせて遊んでいました。
今の春斗くんはレーサーです。サーキットの中を猛スピードで走るレーサー春斗は、ハンドルをしっかり握って大きなコーナーを曲がります。
あっ!?
床のサーキット場は滑りやすくレーサー春斗の運転する車はスピンして壁にぶつかってしまいます。
「いたぁ~い」
壁が柔らかくて助かったと思ったら、突然壁が声を上げて動き出して車がぶつかったところを手で撫ではじめます。
でも壁はもぞもぞと動いただけでそれ以上は動きません。
春斗くんは車から降りてレーサーをやめると、コタツに入って寝ているお母さんの正面に回り込みます。
「お母さん一緒に遊ぼうよ」
「うーん、もう少し暖かくなったらね」
「それっていつ?」
「雪が降らなくなったらかなぁ」
そう言うとお母さんはコタツのお布団を引っ張って体を丸めてしまいます。
「ちぇ〜、お母さんと一緒に遊びたいのになぁ」
春斗くんはつまらなさそうにミニカーを拾うと、丸くなったお母さんを見ます。
目をつぶってうとうとしているお母さんは遊んでくれそうにもありません。
仕方なくつけっぱなしのテレビを見ると、天気予報のお姉さんが日本地図をさしてこう言います。
「冬将軍が到来しました。日本の各地で猛威を振るうでしょう」
「ふゆしょうぐん?」
春斗くんには冬将軍の意味がわかりません。
「ねえねえお母さん。ふゆしょうぐんってなに?」
「んーなんて言えばいいかなぁ。そうだねぇ〜冬で一番偉い人かな? 偉い人だからたくさんの家来を連れて来て雪を降らせたり、冷たい風を吹かせたり、水を凍らせたりさせるの」
コタツお布団に丸まったままのお母さんが答えてくれます。
春斗くんはお母さんが教えてくれた冬将軍を想像してみます。
偉い人だからツノが生えてて、体は大きくて力持ち。
それからそれから、たくさんの家来を連れているのできっと威張っているに違いありません。
「魔王みたい」
将軍はよくわからないけど、魔王なら近所のお兄ちゃんがやっているゲームで見たことがあるので、なんとなく知っています。
春斗くんの頭の中では、冬将軍改め冬の魔王がえっへんと胸を張って威張っています。
「ねえねえ、冬の魔王って強い?」
「冬の魔王? ああそうねすごーく強いよ。お母さんもやられちゃったもの」
「ええっ!? お母さんやられちゃったの」
お母さんの衝撃の告白に春斗くんはとても驚きます。
「お母さんやられちゃったからこうしてコタツに閉じ込められてるの」
なんてことでしょう。お母さんは冬の魔王に負けてコタツに閉じ込められていたのです。
春斗くんは考えます。
そしてすぐに思い立ちます。
「僕がお母さんを助けなきゃ!」
そうと決まればレーサー春斗くんは、今から勇者春斗となってコタツ牢屋に囚われているお母さん姫を助けるため冬の魔王をやっつけに行くのです。
魔王をやっつけるためにはまずは仲間を連れて行かなければなりません。近所のお兄ちゃんがそう言っていたから間違いありません。
さっそくお母さん姫とは反対側に回り込み、コタツのお布団をそっと上げます。
お布団の下から出てきたのは猫のブチ。迷惑そうな顔でチラッと春斗くんを見るとすぐに目をつぶってしまいます。
「ブチはダメだ」
家猫のブチはお外に出ません。それに寒さに弱そうなので頼りになりそうもありませんので今回はお留守番です。
「しかたないからスーパーカーとレッド一緒に行こう!」
勇者春斗は手に持っていた青いスポーツカーのミニカーと、おもちゃ箱からヒーローレッド仮面人形を取り出すとそれぞれ右と左ポケットに入れます。
━━勇者春斗はスーパーカーとヒーローレッドを仲間にした!
仲間もできたところで勇者春斗はさっそく冬の魔王をやっつけにお外へ向かいます。
靴を履いて玄関を開けていざ冒険へ出発です!!
びゅー
冷たい風の攻撃!
━━勇者春斗は大ダメージ!
ブルブル震えながら慌てて家の中へ逃げた勇者春斗は、玄関へ行く廊下にある洋服かけにあるジャンバーを見つけます。
「装備がダメだったんだ。ちゃんとしないと」
勇者春斗はジャンバーを装備しますが、上だけではなんだか頼りありません。
お母さん姫がお出かけ用にと置いてくれていたマフラーと手袋、ニット帽を装備し、靴下も分厚い靴下に履き替えます。
更にシューズボックスの扉を開けると、並んでいる靴の中からスノーブーツを手に取ります。
スノーブーツを装備して勇者春斗の装備は完璧です。
スーパーカーとヒーローレッドは、ズボンのポケットからジャンバーのポケットへ移動して再び出発です。
━━勇者春斗は伝説の鎧を装備した!
びゅー
再び冬の魔王の攻撃!
だけども勇者春斗は目をつぶって耐えます。
ちょっぴりほっぺたが赤くなりましたが、風の攻撃が弱くなったすきに移動します。
お家のお庭を歩くと土がザクザク音をたてます。不思議に思ってしゃがんだ勇者春斗は、土が盛り上がっているのを発見します。
おそるおそる指で突っつくと、土がはがれて下から氷の柱が姿を現します。
「すごーい、土の下が凍ってる」
地面の形をも変えてしまう冬の魔王の力に勇者春斗は驚きます。
立ち上がってふと上を見上げると、屋根の軒下が凍りついてつららが並んでいます。
「冬の魔王が僕の家を凍らせようとしているんだ!」
なんということでしょう、冬の魔王は勇者春斗の家を凍らせて閉じ込めるつもりです。
このままでは勇者春斗の家は凍りついてしまい、家から出られなくなってしまいます。
勇者春斗はお庭にある水道のところへ行くと、夏に遊んだ水鉄砲を探します。
「あった!」
しばらく遊んでいなかった水鉄砲は少し汚れていますが使えそうです。
勇者春斗は水鉄砲を手に入れた!
さっそく水を入れようとしますが、水道の蛇口にはタオルやビニールがぐるぐる巻かれていて使えません。
きっと勇者春斗に水鉄砲を使わせないように、封印したに違いありません。
これでは水鉄砲に水を入れることができないので、つらら攻撃することができません。
「困ったなぁ」
あたりを見回して別の方法を考える勇者春斗はおもちゃの小さなバケツ中にキラキラしているものを見つけます。
「なんだろう?」
小さなバケツ覗き込むと薄い氷がありました。小さなバケツをひっくり返して氷を取り出すと手に取ります。
「うわぁ〜きれい」
太陽の光に当てられキラキラと光る氷に勇者春斗は感激の声を上げます。
「宝石を見つけたぞ!」
━━勇者春斗は宝箱から氷の宝石を手に入れた!
「これはお母さんにあげようっと」
ジャンバーポケットに氷の宝石入れると家の壁の下に棒が落ちているのが目に入ります。
「剣を手に入れたぞ!」
勇者春斗が手にすると園芸で使う植物を支えるための棒は、勇者の剣となります。
━━勇者春斗は勇者の剣を手に入れた!
勇者の剣を手に入れたらこっちのものです。
さっそくつららをやっつけに向かいます。
━━勇者の剣を手にした勇者春斗の攻撃! だがつららには当たらない!
高いところにあるつららに勇者春斗の攻撃が届きません。
困った勇者春斗が辺りを見回すと、エアコンの室外機のカバーにも氷が張って小さなつららがあることに気がつきます。
これなら倒やっつけれそうです。
「えい! えい!」
━━勇者春斗の攻撃! つららは大ダメージ!
つららはポキンと折れて地面に落ちてしまいます。
「勝った!」
勇者春斗は勇者の剣を天に向け勝利を宣言します。このままの勢いで冬魔の王を倒してしまおう! そう思ったときです。
チラチラと降っていた雪の粒が大きくなり、勇者春斗の頭や肩に積もり始めます。
さっきまで太陽が見えていた空は黒い雲が覆い、土が見えていたお庭も雪が積もって真っ白になってしまいます。
勇者春斗は勇者の剣を振って、雪と戦いますが次から次に落ちてくる雪をやっつけることができません。
「ダメだ」
勇者春斗は一人では無理だと考えて仲間を呼ぼうとポケットに手に入れます。
ですがポケットの中に控えていたスーパーカーとヒーローレッド仮面は雪のせいかすごく冷たくなっています。
「早く温めてあげないと」
このままでは二人が凍りついてしまいます。勇者春斗は悔しそうに空を見上げて逃げることにします。
玄関まで走った勇者春斗は勇者の剣を壁に立てかけると、家の中へと逃げ込みます。
雪の残るスノーブーツを脱ぎ、続いて手袋、マフラーとジャンバーを脱ぐと白い雪が玄関の土間に舞います。
さらにニット帽を取ると真っ白な雪がびっしりと積もっています。
「あのままいたら危なかった」
冬の魔王の攻撃から逃げた自分の判断を褒め称えると、ジャンバーから冷たくなったスーパーカーとヒーローレッド仮面を出して洗面所へ向かいます。
お湯で手を洗ってうがいをして、仲間もお湯で洗ってあげます。
温かいお湯で洗われ二人とも気持ちよさそうです。
「そうだ」
勇者春斗は脱いだジャンバーのもとへ戻るとポケットの中から氷の宝石を取り出します。
魔王の攻撃からは逃げましたが、宝ものは手に入れました。
氷の宝石は手で触ると冷たいので手袋を装備して、割れないように慎重に持っていきます。
「ねえねえお母さん」
勇者春斗はコタツのお布団で丸くなっているお母さん姫に声をかけます。
「これ見て! 氷の宝石だよ。お庭で見つけたんだ」
「へえ〜すごい! きれいだね。そのまま置いておいたら溶けるから、ビニールに入れて冷凍庫に入れておいで」
「うん、わかった」
勇者春斗はお母さん姫に言われ台所へ向かうとビニール袋に氷を入れ、冷凍庫の中へ大切に保管します。
「これでよし」
冷凍庫の扉を閉めて満足した勇者春斗ですが、なんだか手がチクチクしてかゆくなってきます。
手袋を外して手を見ると真っ赤になっているではありませんか。
慌ててお母さんのところへ行くと真っ赤になった手を見せます。
「お母さん、手がかゆい」
「霜焼けかな? 温かくしたら治るからコタツに入って」
「はーい」
勇者春斗はコタツのお布団をめくると、迷惑そうなぶちを避けながら中へ中へ入ります。
「温か〜い」
「そうでしょ。ほら、手を温めないといけないからもっと中に入って」
お母さん姫に言われるがままコタツの中へを体を入れると体がポカポカしてなんだかいい気分。
「お外も楽しいけどコタツもいいでしょ」
「うん」
お母さん姫に言われて返事をした勇者春斗でしたが、あることに気づきます。
そう、コタツはお母さん姫を捕らえている牢屋。そこに勇者春斗が入ったということは……
「お母さんもしかして冬の魔王の仲間!?」
「ふふふっもうコタツからは逃げられないからね」
勇者春斗の反対側からお母さん姫の不気味な笑い声が聞こえてきます。
「冬の魔王の仲間め、僕をワナにはめたな」
怒る勇者春斗ですが、コタツから体を少し出すと、すごく寒いではありませんか。
「ううっ寒いっ」
勇者春斗はコタツの牢屋へと自ら戻ってしまいます。
「ダメだ逃げ出せない」
「無理よ〜コタツから逃げれる人なんていないから」
「ううやられたぁ……冬の魔王め、今度は負けないぞ!」
意気込む勇者春斗でしたが、鼻までコタツのお布団の中に入っていては迫力がありません。
外は雪がしんしんと降っていますがコタツの中は暖かくて勇者春斗を眠りに誘います。
うとうとし始めた勇者春斗は必死に耐えていましたが、コタツの牢屋で眠ってしまいます。
━━勇者春斗はコタツの牢屋に閉じ込められてしまった! 逃げ出せない!!
……ゲーム オーバー
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━━このまま寝る? ⇐
大人にとってはなんでもない場所でも子供にとっては冒険の舞台。世界はどんな姿にも変わり自身もまたなんでもなれる、そんな無限の可能性を秘めた子供の視点から見た小さな冒険談です。
大人になっても忘れたくないなと思いながら描いた小さくて大きな春斗の冒険いかがでしたでしょうか?
感想など頂けましたら大変嬉しいです。