君だけが知る、ぼくの秘密
【※情報】後書きはニコくん(第6王子)視点です。
【※参考】サラちゃんが見た不思議な夢は、第83話『【番外編】第一王女と不思議の国の王子たち?』の内容になります。
不思議な夢を見たせいか、早く目が覚めてしまった。しかも、全身がだるくて、重たい。
(もうちょっと寝たい……けど、このままベッドにいたら、寝坊するかも。それだけは避けたい!)
自分に気合いを入れて、慌ただしく制服に着替える。そして、ザダ校一般科1年A組の教室へ向かった。
ガラッ。
ドアを開けると、教室はシーンと静まり返っていた。
まだ誰も来ていないようだ。
「あっ。一番乗りで着いちゃった……」
始業時間まで、余裕がある。昨日の夜、ルルと一緒に読んでいた少女漫画を取り出して、ページをめくる。本当は続きが気になるはずなのに、どうしてだろう……全く集中できない。
窓の外に目をやり、自分の体調を振り返ってみる。
(お腹が痛いし、体も冷えてる。そのせいか、漫画の内容が頭に入ってこない……)
それに教室の窓から差し込む朝日が、いつもよりずっと眩しく感じる。そのまぶしさに耐えられず、前を振り向いたところ――。
「うわぁっ!」
ぼくの叫び声が、教室中に響き渡った。
いつの間にか、ニコくんは席に着いていたようで、じっとぼくのことを見ていた。
幸い、教室にいるのは、ぼくとニコくんだけ。
「ニコくん?! ごっ、ごめん! ボーッとしてた! おはよう……」
「おはよ」
気づいていなかった自分に恥ずかしさを感じて、手に持っていた漫画で顔を隠す。
(夢の中で、ニコくんが出てきたから……)
それでも、ニコくんはお構いなしに、ぼくの漫画を持ち上げた。
「あっ、恥ずかしいからダメ!」
「オレは気にしない。それより、サラ。もしかして、具合悪いのか?」
「えっ……? そうだね。いつもよりは、疲れてるって感じかな? でも、大丈夫!」
笑って、誤魔化してしまった。見透かされてる気がして落ち着かないけど、ニコくんに心配をかけたくない。
ニコくんも、ぼくの気持ちを察してくれたのか、「分かった。ちょっと出かけてくる」と言って、席を立ち、財布を手に教室を後にした。
(どこに行くんだろう? それにしても……)
「うーん。そんなに、顔に出てたのかな……?」
思わず、独り言を漏らしながら、自分の頬っぺたに手を当てる。
「冷たい……」
思ったよりも手が冷たくて、自分でもびっくりしていたところ、ある人物が教室にやってきた。
「サラ! おはよー! 昨日のバイト、よく頑張ったわね! 今日もアタシと……って、あら?」
ケイちゃんが挨拶と同時に、すぐ、ぼくの手を両手で握りしめていた。
「貴女……体の調子が悪いのね? 手がこんなに冷たいなんて!」
「へっ!」
動揺して、情けない声が出てしまった。
(嘘! ケイちゃんにもバレちゃってる?)
「本当は、今日もバイトのヘルプに誘おうと思ってたんだけど……」
「助けが必要なら入るよ! エプロンも……ちゃんと乾かしたし!」
我ながら、声が裏返るほど慌ててしまった。自分でも驚くくらい。
でも、ケイちゃんの力になりたくて、ぼくの方から話を続けた。
「それに、ぼくは……昨日、シンイさんたちに迷惑をかけてしまった。今日こそは、ちゃんと最後まで働きたいんだ」
「その気持ちは嬉しいわ。でもね、無理するのは絶対ダメよ。昨日より、ずっと顔色が悪いもの……。その状態で働いたら、かえって周りに迷惑をかけることになるわよ?」
ケイちゃんの言う通りだ。
今日無理して、また迷惑をかけるのは――いちばんダメだ!
「ごめんね……ケイちゃん。実のところ、いつもより、体調が良くないんだ……」
「謝る必要はないわ! それに、アタシは第4王女のケイ・クマリーよ? 人員集めなんて、お茶の子――いや、アタシの場合は“コーラの子”さいさいよ♪」
ケイちゃんは太陽みたいに明るい。お茶ではなく、コーラなのは、ケイちゃんの大好物だからだ。
「ありがとう、ケイちゃん」
「どういたしまして! あら、ニコ……珍しい。あんたが、こんな時間に来てるなんて!」
ニコくんは、右手にほうじ茶のペットボトルを持っている。買い物を済ませて、教室に戻ってきたようだ。
「ん……今日はたまたま目が覚めた」
「そうなの〜? ところでさ、誰かバイトやってくれそうな人、知ってたりする?」
(あれ……! 人員集めできるって言ってたけど、案外、難しいのかな?!)
ケイちゃんを見ると、口笛を吹いて、「どうにかなるわよー」という顔をして、何やら誤魔化している。
やっぱり心配だ。人が集まらないなら、ぼくも手伝おうと思っていたけど、杞憂だった。
「ああ、自販機でサラと同じ剣術部の双子に会ったけど、二人とも金欠って言ってた」
「あら! さすが、ニコ! いい情報を聞いたわー! アタシ、双子のところへ行ってくるわー!」
ケイちゃんは、ぱっと顔を輝かせて、勢いよく教室を飛び出していった。
(すごい……行動力の塊だ! しかも、臨機応変……!)
ケイちゃんに感心しながらも、双子なら、「いいよ」と言ってくれるだろうから、ぼくも一安心した。
「良かった……ありがとう、ニコくん」
お礼を伝えたタイミングで、ニコくんがぼくの机にペットボトルを置いた。
「えっ?!」
間違えて置いたのかと思って返そうとしたけど、その前に、「差し入れだから」と大きな手で止められた。
「遠慮するな、サラ。まだ、しんどいようなら、今日オウレン先生に相談した方がいい」
「いいの……? 温かいお茶、嬉しい。助かるよ……ありがとう」
素直に甘えて、すぐに一口飲んでみる。
温かくて、香ばしいお茶の香りが心地よくて……体が冷えているぼくにピッタリな飲み物だった。
(ニコくんって、クラスの中でも一匹狼で怖がられてるけど……。とっても優しいし、本当に頼りになる!)
「決めた! オーちゃんに相談するよ!」
「そうだな。あと、例のが来たら……オレ以外の吸血鬼族には、絶対に会うなよ。バレたくないのなら、絶対に」
「うん、了解……」
ニコくんは、何のことかはっきり言わなかったけど、ぼく自身、ちゃんと分かっていた。
(だけど、その話をされるなんて……恥ずかし過ぎる! 今のぼく、顔……絶対、赤くなってる……!)
「大丈夫か? さっきから、顔が青くなったり、赤くなったりして……」
「大丈夫だよ。ただ、恥ずかしいだけ……」
「デリカシーなくてごめん。だけど、無理するな」
いつものように優しく、ぼくの頭を撫でてくれた。
しばらくの間、照れ隠ししてしまったけど、ニコくんの優しい手のぬくもりに、甘えることにした。
<余談:ニコくん(第6王子)視点>
【オレだけが知る、君への想い】
サラは、艶のある黒髪に、透き通るような青い瞳をしている。
ぱっちりした目で見上げられると、なんて返していいのか分からなくなる。
顔も……その……かわいい。
他にも、漫画に夢中になってるときの真剣な顔とか、照れてるときの表情とか、全部。オレだけが知っているサラの表情だ。
だけど、今日のサラは、いつもとちょっと違ってた。
寝不足か、いや、女性特有のものに悩まされているのかもしれないが……とにかく放っておけなかった。
オレは言葉が得意じゃない。優しい声も、気の利いた冗談も、上手くできない。
だからこそ、困ってるサラには、できる限りのことをしたくなる。
それに心配でもある。
オレ以外の吸血鬼族のやつらに気づかれて、興味を持たれたらどうしようとか。
サラは、優しくて、誰にでも平等で、お人好しすぎる。
だから、誰かに奪われるんじゃないかって思うと――焦る。
オレだけが、知っていたい。
あの表情も、あの声も、あの仕草も……全部。
はぁ。オレらしくもない。
この気持ちは、一体……。




