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第一王女を探さないで〜隠された愛と男装王女の誓い〜  作者: 国士無双
第2章:王子様、ぼくを探さないで
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情報収集

 15歳になったぼくはザダ校に入学した。

 ぼくが育った田舎には学校がなく、これまでは通信制のスクール授業で勉強していた。そのため、生徒たちと机を並べ、教室で授業を受ける――そんな当たり前のことが、ぼくにとっては夢のような初体験だった。


 それに、この学校では寮生活が必須だと聞いて、少しだけ緊張した。これまでずっとおじさんたちと一緒に暮らしていたぼくが、初めて一人で生活するなんて――自由な反面、心のどこかで寂しさがこみ上げてきた。

 

 でも、同じクラスに、10歳の時からぼくの隣に住んでいるアダムさんと彼の幼馴染で合格発表の日に仲良くなったアンズちゃんがいた。最初から顔馴染みのお友達がいて、心強いなぁと思いながら、新生活初日を乗り越えた。


 一方、初日から出鼻をくじかれた出来事もあった。それは……アダムさん以外にもクラスに()()()複数名()()こと。

 

 まずぼくの右隣はアダムさんだが、そのアダムさんの右隣に座っていた女の子はケイ・クマリーという名前で自ら第4王女だと言っていた。金髪のツインテールにキリッとしたピンク色の瞳という外見で、「アタシは王族よ!」という感じで堂々としていた。彼女の話を聞くと、どうやら彼女のお父さんはお仕事を頑張って一般人から王族まで出世したようだ。大胆なことも言うけど、王女様として家族の仕事を裏でサポートをしてるのだから、エネルギッシュで頼もしい女の子だなと思った。

 

 次に担任の先生がなんと第11王子だった……こちらはかなり予想外だった。でもアダムさんと同様に王族だからと威張るタイプではなく、「教師だから全員平等に接する」と言っていた。そんなぼくは初日から、先生と話す機会があった。いや、ぼくの方から先生がいる職員室に向かったという表現の方が的確かも。

 

 これには理由があって、第10王子で研究者でもあるアダムさんには叶えたい夢があるからだ――研究所設立という彼らしい素敵な夢だ。でも今の10位じゃダメで、9位以内に入らなければ建てることができないらしい。そんな彼がランクを上げる方法はたった1つ。ザダ校で行われる王位戦(おういせん)というイベントで勝利を掴み取ること。その王位戦は王族2人以上じゃないとエントリーができないため、選考段階で参加できる人数がかなり限られている。その上、何かしらの部活に属している必要があるようだ。

 彼は運動が得意ではないみたいで、自らの手で実験部(じっけんぶ)を作りたいと言っていた。ぼくは幼少期から習っていた剣術部(けんじゅつぶ)に入ろうと思っているけど、彼が作る部活のメンバーが集まるのかちょっと心配になった。彼は強引に誘うようなタイプじゃないし、一人の方が楽だと言っていたから。そこで剣術部と実験部の兼部(かけもち)ができたら、ベストな選択肢だと思い、担任の先生に聞いてみることにした。

 

「先生、初めまして。ぼくは1-A組のサラといいます。これからよろしくお願いいたします」

「おぉー! 初めまして。俺はホルム。君、特待生だろう? 頑張り屋さんだね」


 なんと担任の先生はぼくのことを知っていてくれたようだ。いきなり褒められるとは思っていなかったため、頬っぺたがピンク色に染まっているかもしれない。

 

「いえ、そんな!」

「なんて素晴らしい。謙虚(けんきょ)だ! 立派な親御さんの家庭で育ったんだね。親御さんも息子が特待生で、学費免除だから金銭面での負担が減るだけでなく、こんなに人格者とは……」

「ありがとうございます……。先生、御言葉はとても嬉しいですが、恥ずかしいです……」


 そうだ……。先生の言うとおり、特待生だと学費が免除される。生まれてからすぐにお母さんを亡くしたぼくを両親のように育ててくれたおじさんとオーちゃんに、ぼくのお金のことで悩ませたくないと思って、一生懸命勉強してきた。

 王族という身分で王子様なんだろうけど、とても優しい担任の先生なのでホッとする。

 

「あっ、ここに来たってことは……どうした? 何か相談したいことがあるんじゃないか? 遠慮せず言ってごらん」


 ぼくはこの機会を逃すわけにはいかないと思い、部活の兼部(かけもち)ができないか確認した。


「兼部は認められているから、大丈夫だよ。でも2つまでだけどね」


(良かった……これなら、剣術部だけでなく、アダムさんの作ろうとしている実験部にも入れそう!)


「先生、ありがとうございます! すみません、貴重なお時間をいただいてしまって……」

「いいよ。教師という立場だから、生徒の悩みを聞くのは仕事だ。気にしないでいいからな! すごいなぁ……。頑張るのはいいことだけど、無理しちゃダメだぞ。そうだ。そろそろ次の説明しないといけないから、一緒に話をしながら教室へ移動しよう」


 そう言って先生は椅子から立ち上がる。ぼくは先生と一緒に移動した。その時、先生から面白い情報を聞けた。この学校の理事長先生は調理師免許を持っていて、その理事長先生が毎週水曜日に学食で振る舞うカレーがおいしいんだとか。ぼくはカレーが好きだ。食べたい……そう思いながら、教室に戻るのであった。

 

 なお、この時のぼくは全く気づいていなかった。

 のちにアンズちゃんが教えてくれたのだが、職員室に先生といる間、クラスの悪魔族の子たちがケイちゃん・アンズちゃんの女子2人組に睡眠薬入りのアイスティーを飲ませて眠らせようとしてたけど、アダムさんが気づいて未然に防いだらしい。


 恐ろしい……気をつけないといけない。

 ぼくは改めて、身を引き締めようと思った。でも、その話を聞いて、腑に落ちたことがあった。


 入学式初日――一日の終わりに、クラスでの説明会が終わり、アダムさんと男子寮に向かった。各々の部屋に入る直前、「()()()()()()」と彼から忠告された。その一言が妙に重く感じられて、ぼくの胸に不安がよぎった。


 彼の意図がよくわかってなかったけど、女性であること――それだけではない。

 ぼくが第一王女であることを知っているのはこの学校では学校医のオーちゃんだけだ……絶対にバレてはいけない。だからこそ、彼の忠告は正しいし、ありがたいと思った。


 


 そして平和なまま、入学式から1週間が経った。ぼくは女性だとバレることなく、今日も一日男子生徒として、日常を終えた。授業が終わった後、そのまま自室に戻って、すぐ晩御飯の準備を行う。おじさんが色々作れるようにと、入学式初日のお別れの際、スパイスを用意してくれた。なので、今日はトマトチキンカレーを作ることにした。30分ぐらい煮込まないといけないため、その間入学祝いでオーちゃんから買ってもらったノートパソコンを開くことにした。


 早速電源を入れて、とあるSNSソーシャルネットワーキングサービスにログインする。

 ぼくはネットで情報収集している。なぜなら、自分の正体を隠すためにも、どういう人物が【第一王女】がいると信じているのか知りたいと思ったからだ。

 たまたま、そのSNS内で仲良くなり、ぼくも含め4人で構成された【王妃様に感謝し隊】という面白い名前のグループに所属している。全員アイコンがイラストだったり、風景や食べ物の写真だから、彼らの顔や姿を見たことが一度もない。

 

 ぼくは【ララ】という名前で登録している。アイコンは白髪にうさぎの耳が載っている天使の羽が生えた女の子のイラストだ。ぼくから第一王女の話をしたことは一度もなく、少女漫画の考察や作ったご飯の感想を共有している――趣味アカウントで使いつつ、ほとんど見る専といった形だ。

 早速、『新生活、引き続き頑張ります。気合いのカレーです!』と入力して、投稿した。

 

 すると、ラーメンの写真をアイコンにしている【(クレナイ)】さんからすぐ返事が来た。『素敵〜! ララちゃんのご飯、食べてみたい』と嬉しいコメントをしてくれた。紅さんは食べることが大好きだけど、料理は苦手だと言っていた。彼女は、よくアフタヌーンティーの写真をあげている。明らかにお金持ちそうで、貴族か王族かもしれない。

 ネットの面白いところはこうやって、実際に会えることがないであろう身分の方々や異なる種族の人々と話を共有できることだ。紅さんの呟いている内容を見たところ、『外食したいけど、今妊娠(にんしん)してるからおうちでゆっくりしてるわ』と書かれてあった。どうやら妊婦(にんぷ)さんらしい。

 

 次にぼくのコメントを返してくれた人物がいた。彼の名前は【エスプレッソ伯爵(はくしゃく)】だ。アイコンもその名前に相応しく、エスプレッソのイラストだ。彼は好きな本の紹介と尊敬している天使族について、饒舌に呟いている。それに、彼が一番、第一王女についても語っている。『生きているし、天使族ではないか?』と予想している。そんな彼の悩みは、日常生活で多くの人から怖いと言われることらしい。でも、ぼくに『ララ、新生活おめでとう。君のカレーは世界一美味しいんじゃないか?』となぜか大褒めしてくれるのだ。優しい人だと思う。

 

 最後に、『新生活、良きことかな! 幸せな日々が続きますように……』と山の写真をアイコンにしている人物がコメントしてくれた。【老人万華鏡(ろうじんまんげきょう)】という名前で、僕たち3人は『おじいちゃん』と呼んでいる。よく体調を崩しているから心配だ。

 

 全然まとまりのないぼくたちだけど、なんでこんな面白いメンバーが揃っているのか。みんな、王妃様に助けてもらったエピソードがあるようだ。お互いそのエピソードについて、詳細を言ったことがないし、語ったこともない。

 

 なんでぼくがそんなおもしろいSNSを始めたのかについて、語りたいと思う。

 

 王妃様――ぼくのお母さんが亡くなる前に、書いていた手記がつい1ヶ月ほど前に販売された。その時、ぼくは自分のお小遣いで、お母さんの本を密かに買った。いいお話で感動したし、最後のページに『このSNSに感想をぜひ書いてください』と記載されていた。

 登録した後、ぼくはそのSNSで初めて感想を呟いた。『王妃様と話したことはないけど、素敵なお人柄だと思ったし、こうやって本を通じて、出会えることができて幸せ!』と。ぼくが率直に綴った感想を見て、紅さんたちは感銘を受けたみたいで……4人のグループチャットを作ることになり、今に至るといった感じだ。みんなとは楽しいやりとりをしている。

 

 ぼくはコメントをもらって嬉しいなぁと思い、その返信の文章を書くことに夢中だったので、タイマーが鳴っていたことに気付いていなかった。そんな様子を見てカレーが()げてないか心配に思ったのか――ぼくがカバンに付けていたキーホルダーのルルが、元の従魔(じゅうま)の姿にポンッと変化した。そして、「サラちゃん! タイマーが鳴ってるわ。30分()ったわよ?」と律儀に教えてくれた。「ありがとう! ルル!」と即答して、すぐに火を消す。

 

 なぜルルがキーホルダーになっていたのか。それはぼくが天使の従魔を手にしていることを見られてしまえば、天使族で魔力が多い……要するに王族だと疑われるからだ。

 しかし! ルルには素晴らしい能力がある――キーホルダーやぬいぐるみに化けることができるのだ。だから、ぼくのカバンや剣術用の袋にキーホルダーと化したルルを付けることで全くバレないで済むし、普段からぼくの近くでいつも見守ってくれる。


 まさに、一石二鳥である。

 

 ルルは従魔で、かつてはぼくのお母さんに憑いてたが、亡くなってからは森で彷徨ってたらしい。ぼくがその森で回復魔法を使った際、ぼくの魔力に懐かしさを感じながら、引き寄せられて契約した魔物獣(まものじゅう)であるため、何も食べないで生きていける。でも、ぼくの作ったご飯をいつも一口分食べたがるのだ。今日も「わたしにもカレーちょうだいな!」と案の定、言われてしまった。

 

(無論、OK(おk)!)


 ちゃんとルルの分も用意していた。


「 「いただきまーす!」 」


 スパイスを入れて作ったカレーだから、疲れが吹き飛んだ。初めての学校、初めての寮生活――何もかもが初めてで、ぼくは楽しいと思いつつもどこか疲れてしまっていたようだ。


 でもこの時のぼくは気付いていなかった。パソコンを開いていた時に生理が来ていたなんて……。最悪なことに椅子を汚してしまったけど、ぼくには最強の助っ人がいたことを思い出す。最強の助っ人こと最年少で研究取扱者の資格を取った博識なアダムさんに助けてもらった結果、何事もなかったかのように椅子に着けてしまった血の汚れを無事落とすことができたのである。


 色々大変なことが起きても、幸運なのかうまく乗り越えている気がする。まるで天国にいるお母さんが見守っているみたい――そんな気がした!

<余談>

次回、新キャラ登場!


<参考>

このエピソードは、以下の期間に該当します。

ファンタジア・サイエンス・イノベーション:第二部 【本論】第10王子、異世界下剋上の道を選ぶ(※こちらはアダムさんが主人公になります)の【入学式編】〜【部活設立編】

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