貴女は亡き王妃様と瓜二つ ※第一王女→第三者視点
今日は日曜日。
今のぼくは、おじさんの家にいる。
午後4時から剣術部の打ち上げがあるけれど、その前に、お昼過ぎから一人で自主稽古をしようと決めていた。
(ぼくの身体じゃ力がなくて、王子様たちには敵わなかった……。魔法は好きだけど、得意なのは天使族ならではの回復魔法。人間だと偽っている今は使いづらいし、そもそも攻撃には向いていない……。でも、剣術なら――! 剣術だけは、絶対に裏切らない!)
「ごめん、おじさん! 今から学校に行くね。ごはん、すっごくおいしかったよ! また食べに帰ってくるから!」
そう言って、バスで出かけようとしたそのとき、おじさんに声を掛けられる。
「待って、サラちゃん! せっかくだし、車で送ってあげるよ!」
――そんなわけで、今のぼくは車の助手席に座っている。
おじさんが運転席でハンドルを握りながら、ザダ校の正門へ向かって走ってくれているところだ。
「おじさん……ありがとう」
「いいんだよ。珍しいね。今日は何かイベントがあるの?」
「うん、剣術部で稽古して、そのあと打ち上げがあるんだー!」
「楽しそうだね?」
「楽しいよ! 面白い双子がいるし、あと……」
あぁ……思い出してしまった。
この前、ウェディングドレスを着たとき、ダン先輩に、あのベールを外されそうになったことを。
(そうだ……。今日の打ち上げ、ダン先輩も来るんだ。なんだか、ちょっと怖い……)
「……サラちゃん、大丈夫?」
おじさんが、ちらっとこちらを見ながら、心配していた。
「あっ……!」
(ダメだ、こんな顔してたら、また心配かけちゃう……!)
「ごめん、おじさん。えっとね、剣術部にすごく強い先輩がいて、まだ一度も勝てたことがないんだ。でも、好きなことだから、コツコツ頑張れば、きっと勝てると思うんだ。だから、稽古、頑張ってくる!」
前向きな言葉を口にしながら、自分自身を鼓舞する。
けれど――おじさんは、尚更、心配そうな表情をしていた。
「サラちゃん、無理してない? 剣術が好きで続けてるなら、それでいいんだ。でももし、“頑張らなきゃ”って思い詰めているようだったら、少し肩の力を抜いてもいいんだよ。どんなサラちゃんでも、僕はずっと応援してるから」
「おじさん……。うん、ぼくは剣術が大好きだから、大丈夫。きっと……」
おじさんの優しい言葉に、胸が軽くなる。
それなのに――なぜだろう。
おじさんはぎゅっと、ハンドルを握りしめていた。
「やっぱり、サラちゃんはレンゲに似てるね」
「……え?」
「ごめん、変なこと言って。でも……サラちゃん、お母さんにそっくりだよ。まっすぐで、頑張り過ぎちゃうところ」
(お母さんと、似てる……?)
そういえば――あのとき、花嫁姿になったぼくを見たキーちゃんも、「王妃様の娘だ」と言ってくれた。
最近、ぼくのお母さんのことを知っている人たちは、みんな、口をそろえて「似てる」と言うようになった。ぼく自身は、どんなお母さんだったのか、日記と写真でしか知らない。
(だけど、お母さんがぼくを産んでくれて、おじさんとオーちゃんが育ててくれたおかげで、こんなに楽しい人生を送れている。ぼくは幸せ者だ……)
そう思いながら窓外の景色を眺めていると、ちょうど雲の切れ間から陽射しが差し込み、その光の中から目的地が見え、無事に辿り着いた。
「着いたよ。気をつけて、行っておいで〜」
おじさんは穏やかに話しながら、助手席のロックを外してくれた。
「うん、ありがとう! おじさん、またねー!」
ぼくは勢いよくドアを開けて、笑顔で手を振った。
「おじさん、行ってきまーす!」
「サラちゃん、行ってらっしゃい」
おじさんも窓を開けて、ぼくと同じように、にっこりと手を振ってくれた。
その親切心で、胸がいっぱいになる。
(ぼくは、おじさんの家で育ってきて、本当に良かった!)
でも、気づいていなかった。
そんなぼくたちのやりとりを、じっと見つめていた“誰か”の存在に……。
――校舎のレンガ塀の角に、ひとりの青年が立っていた。
ザダ校の正門近くで、1台の車が止まった。日曜の学校にしては……珍しい光景。
不審者の可能性も考慮して、距離を置きながら様子をうかがう。
運転席の窓から顔を出したのは、穏やかで人がよさそうな中年の男性。
教師という感じではない。車からは降りず、誰かに手を振っていた。
その視線の先――校舎へ向かう一般科の男子生徒。
剣術袋を背負い、ウサギのぬいぐるみのキーホルダーを揺らしながら、同じように手を振り返していた。
「おじさん、行ってきまーす!」
――おじさん?
(ん……? “お父さん”ではないのか?)
「サラちゃん、行ってらっしゃい」
その中年男性は、彼のことを「サラちゃん」と呼んでいた。
親戚なのかもしれない。けれど、彼と全く似ていない……。
それに、“ちゃん付け”で呼ぶのは、どこか不自然に思えてしまった。
そういえば、彼の生い立ちを詳しく知っている生徒は少ない。
剣術部だけでなく、一般科でも話題に上ることはほとんどない。
いつも優しくて、天真爛漫な後輩。
でも……あの笑顔の裏に、誰にも言えない事情があるのかもしれない。
(何かを隠しているのか、サラ……)
青年は珍しくため息をつき、視線を落とした。
だが、その直後――スマートフォンの着信音が静寂を破り、その青年の意識を現実へと引き戻した。




