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第一王女を探さないで〜隠された愛と男装王女の誓い〜  作者: 国士無双
第2章:王子様、ぼくを探さないで

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少女漫画のような優しい世界

 昨日は、バイト終わりのアンズちゃんをみんなで待ってから、一緒に寮へ戻った。

 アンズちゃんはやっぱり忙しかったみたいで、かなり疲れていた。


(アンズちゃん、無理し過ぎてないか心配。頑張り屋さんだから……)


 そう思いつつも、ぼくも1週間の疲れが溜まっていたので、お風呂に入ったあと、すぐ眠ることにした。


 さて、今日は土曜日。寮を出たぼくはバスで移動し、無事におじさんの家へ辿り着いた。


「ただいまー!」


 元気よく挨拶をして、中に入ったところ、なぜかおじさん以外の男性の靴が置いてあった。


(あれ……? お客さんかな?)


 不思議に思いながらリビングに向かおうとしたけど、どうやらおじさんは誰かと打ち合わせ中。

 ドアに手をかけたところで、ちょっとだけ会話を立ち聞きすることにした。

 

「ぷろていんダニー先生! 次回の話ですが……シコンちゃんはどうしてもバニーガールにならないといけないんですか?」

「?!」


(ぷろていんダニー先生?! 誰のこと? でも、シコンちゃんって名前、知ってる! そうだ……ニコくんが好きな漫画のキャラだ!)


「シコンちゃんはね〜、狼男のエースくんを助けるために、動物の格好にならないといけないんだよ〜! この設定は外せないんだ! 今の時代、萌え要素は必須だからね〜!」


 おじさんが、まるで飾り切りの椎茸のようなウキウキした目で、楽しそうに語っていた。


「そうですか……。バニーガールなら“萌え”も入ってますもんね。わかりました、私のほうで説得してみます。いま若い子の間で、シコンちゃん、かなり人気ありますから」

「それは嬉しいね〜。ご飯もだけど、誰かが喜んでくれるって、いいもんだよね〜」

「はい。ではまた来週、これにて失礼いたします。……って、あれ?」


 いつの間にか、お客さんがぼくの目の前にいた。いきなりのことで、思わず声が裏返る。


「あっ、あの……!」

「初めまして、『少女漫画Hello(ハロー)』編集部の者です。お邪魔しました〜」


 お客さんはそう言って、颯爽と去る。


 でも、ぼくは聞き逃さなかった!


(『少女漫画Hello(ハロー)』って、有名な雑誌だよね……。どうしておじさんと漫画の話をしてたんだろう?)


 気になったぼくは、リビングへ向かった。

 すると、おじさんはぼくの姿を見るなり、なぜか慌てはじめた。


「さっ! サラちゃん! おかえりなさい! い、今からご飯つくるよ! ちょっと待ってね!」


 こうやって早口になる時、おじさんは決まって何かを隠している。しかも、さっきのお客さんは“編集部の者”って言っていた……。


「おじさん、さっきの編集者さんと、何の話をしていたの?」

「いや、サラちゃん、それはね……えーっと……」


 なぜかテーブルの紙を慌てて封筒にしまおうとするおじさん。


 でも、ぼくは見逃したくなかった!


「見せてー!」

「あっ、ちょ、まっ――」

 

 おじさんは急いで紙を封筒に戻そうとしたものの、手が滑って――。


「あぁっ!」

「うわぁあああ!」


 ふたり同時に驚いた声をあげる。

 そして、舞い上がった紙の一枚が、ぼくの顔にピタッと張り付いた。


(……なにこれ?)


 恐る恐る紙を顔からはがして見てみると――そこには、丁寧に描かれた漫画の原稿が!


「これって……!」


 ぼくはじっくり見てしまう。


 そこに描かれていたのは、うさぎのようなコスプレをしたシコンちゃんが、狼男のような、ニコくん似の青年にお姫様抱っこされているシーンだった。


(か、かわいい……! だけど、少女漫画でこの衣装って攻めすぎじゃない!?)


 しかも、こんなラブラブな場面を見るとは思っていなかったから、顔が赤くなってるかもしれない。


(……だけど、どうしておじさんがこんな原稿を持ってるの? それに、“ぷろていんダニー先生”って、もしかして――!?)


「サラちゃん……」


 おじさんは、なにやら覚悟を決めた表情をしていた。


「ど、どうしたの? おじさん……」


 ぼくもざわ……ざわ……しながら、同じく覚悟を決める。


「実は僕……漫画家の活動をしてるんだ」

「えっ?!」

「シコンちゃんは、僕が作ったキャラクターなんだ」

「えー?!」

「僕、いい歳したおじさんだけど……少女漫画家になったんだ」

「えぇー!」


(まさか、こんな身近に、少女漫画の作家さんがいたなんて――!)


 なんて返事をすればいいのかわからなかった。

 それに、ぼくはまだ、おじさんの描いた漫画を読んでいない。


 でも――お友達のニコくんが、この作品をすごく気に入っていたことは、しっかり覚えていた。

 だから、そのことを伝えることにした。


「おじさん、ぼくのお友達がね、この漫画を読んで、主人公のシコンちゃんがすごく魅力的だって言ってたよ! だから……頑張って。ぼくも応援してる」

「サラちゃん……優しいね。しかも、お友達がそんなふうに言ってくれるなんて……本当にうれしいよ」


 おじさんは、照れ笑いしたあと、声をひそめる。


「ちなみに、このことは……ぼくとサラちゃん、二人だけの秘密にしてくれるかい?」

「もちろんだよ!」

「ありがとう。じゃあ、お礼にサラちゃんの大好物、瓦そばを作るよ! その間、2階でゆっくり休んでて」


 瓦そば――おじさんの得意料理だ。

 牛肉、錦糸卵、ネギに、香ばしい茶そばを合わせた、最高に美味しい一品。


「わーい! おじさん、楽しみにしてるね!」


 うれしくなって、ぼくは2階の自室へ移動した。

 窓を開けて、山と海の景色を眺める。お気に入りのこの場所で……。


 すると、キーホルダー姿だったルルがいつのまにか従魔の姿に戻っていて、窓辺にちょこんと座りながら、ぼくに話しかけてきた。


「サラちゃん、まさかおじさんが、あのシコンちゃんの産みの親だったなんてね……!」

「うん、びっくりしたよ……」

「ってことは、()()()()のシコンちゃんのネタを考えたのも、おじさんってことよね!」

「うぅ……!」


 メイド服――その言葉で、つい思い出してしまった。


(ニコくんにメイド服を着せられた、あの事件を……)


 ぼくが羞恥を覚えている中、ルルは追い打ちをかけるように話を続ける。


「わたしが思うに、サラちゃんってザダ校に入ってから、女の子の服を着る機会が一気に増えたわよね? 一般科の女子生徒の制服に、メイド服! そして……ウェディングドレス!」

「うわぁああ……!」

「どれもとっても似合ってたわ。この流れだと、次はバニーガールかしら?」

「ば、バニーガールって……?」

「あら? おじさんも話してたじゃない。シコンちゃんが着てた、あのコスチュームよ!」


(シコンちゃんが着てたってことは……)


「さっきの……あの漫画のシーンのこと……?」

「そう、それよ!」

「……!」


 さっきのシコンちゃんの姿が、頭に浮かんでしまった。

 白いウサ耳に、白いもふもふのうさぎの尻尾。それだけなら、まだいい。

 でも――ボディスーツは、体のラインが全部わかってしまうタイプだった。


(そ、そんなの……ぼくが着るなんて……!)


 想像しただけで、顔が真っ赤になっていくのがわかった。


「む、無理だよ! あんな服装、ぼくにはできない……!」

「そう? って、顔が真っ赤よ、サラちゃん!」

「だ、だって……恥ずかしいんだもん……」


 恥ずかしさに耐えきれず、ベッドのそばに置いてあったうさぎのぬいぐるみを手に取り、顔を隠した。


 そのタイミングで、1階からおじさんの声が響いてくる。


「サラちゃーん! 瓦そば、できたよー!」

「……はーい!」


 気持ちを切り替えるように立ち上がり、階段を降りてリビングへ向かう。


 テーブルの上には、おじさん特製の瓦そば――牛肉、錦糸卵、ネギが彩りよく盛り付けられた、あたたかい料理が待っていた。


 一口食べただけで、心までほぐれるような、やさしい味。


「本当に……おいしい。この味、大好き……!」

「良かった〜!」


 おじさんは、ぼくが食べる様子を見て、嬉しそうに笑ってくれた。


(やっぱり、ぼくはこの家で生まれ育ったんだ。このままずっと、こんな生活を続けられたら……)


 そして、成人したら、王女ではなく、ただの一人の“女の子”として生きていけたら――。


 そんな願いを込めながら、ぼくは最後の一口まで、しっかりと味わった。

<余談:心の声>

サラちゃん(おじさんが少女漫画家だったこともビックリしたけど、確かに、ニコくんがその漫画を読んで、「この作者なら、次回、面白い展開にしてくれる」って言ってたかも……)

ルル(私が思うに、シコンちゃんのモデルは、レンゲ様だと思うのよね。サラちゃんはレンゲ様の娘。つまり! ニコくんが読んだら、またサラちゃんに着させるんじゃないかしら? ニコくん、むっつりさんだから。ふふっ、今後が楽しみね!)


<余談:おじさんのペンネーム名の由来>

おじさんの名前はニボルさんですが、彼の名前はある薬名が由来です。

その薬の作用機序が抗PD-1抗体薬です。

そこから、Protein Danny【ぷろていんダニー】と(作者が)アレンジした形になります。

ペンネームに“Protein”を入れたのは、「タンパク質=命の材料」という調理師として働いてきたニボルさん(おじさん)の信念から。


次回もお楽しみに!

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