王族子女会議〜それぞれの誓い〜 ※第三者→第一王女視点
3月。来月から新学期が始まる季節だ。
ここは新生ナイテイ王国――男女比が1000:1、圧倒的に女性が希少な国だ。
さて、その中心にそびえる王宮の会議室では、王族子女たちによる重要な会議が開かれていた。
この会議は月に1度開催される。参加権があるのは第1〜9王子と第1〜3王女の計12人だけ。
その上、今ここに揃っているのは第1から9の王子――男しかいない状態だ。
第3王女は児童であるし、体が弱くてなかなか参加できない状態が続いている。第2王女は今年か来年に産まれる予定で――第1王女は産まれた時から行方不明になっていた。流石に15年も経っているため、亡くなってるのではないかと思うのだが……。
大体、この会議で行われるのは王女らの生存状況と各々の近況報告を王子同士で話し合うだけだ。
同じような流れで今回も会議が開催されるだろうと思っていたところ――なんと会議室に、大忙しでなかなかお目にかかれない現国王こと魔王が現れた。
なぜ魔王なのか?
――今の王様は悪魔族だからである。
いつもは雑然としている会議も、魔王様が現れるや否や、場の空気が凍りついたかのように静まり返った。その圧倒的な存在感に、誰も声を発することができなかった。
そんな中、魔王様は王子たちを前に第一王女に関する驚愕の声明を告げた。
「皆、久しぶり――元気だったか? 私がここに来たのには理由がある――私の娘である第一王女のことだ。彼女はいまだに見つかっていない。しかし、私と亡き王妃の間で生まれた希望の娘だ……生命力は強いはずだし、生きていたら15歳だ。この国で15歳になれば、どこかしらの学校に通うだろう――私の娘であれば、なおさら有名な学校に通い始めることだろう。そこで、みんなにお願いしたいことがある。学校や街、どこでもいい――第一王女のアザを持つ娘を見つけたら、教えて欲しい。見つけた者には……将来、この国の王になって欲しいと思う、順位に関係なく……。そして、私の娘と結婚することを許可する」
その声明を聞いた瞬間、王子たちは驚きを露わにし、思わず全員が息を飲んだ。
それぞれの胸中にさまざまな感情が渦巻く――野心を抱く者、困惑する者、そして不安に苛まれる者。誰一人として冷静ではいられなかった。
そんな静寂を破ったのは、この会議で最年長の第5王子、30歳のシアン・デーモンだった。彼は冷静を装いながらも、鋭い質問を投げかける。
「国王陛下、そのお考えは……特例に当たるのではないでしょうか? 私も第一王女様は生きていると信じていますが、彼女を特定する資料や写真はお持ちでしょうか?」
「写真は1枚もない。なぜなら、彼女はレンゲが帰省している時に生まれた子だ。レンゲは水難事故で亡くなってしまい、その時、娘は行方不明だと言われた……。だから、私は娘の顔を一度も見たことがないのだよ」
「そうでしたか、失敬。王妃様は……確か天使族でしたっけ?」
「そうだ。レンゲは天使だから、私の娘は……天使族である可能性が極めて高い」
「御意……私は社会人なので彼女に会える機会はなかなかないと思いますが……。まぁ、今の王子たちは第一王女様と年齢が近い子も多いので、見つけられると思いますよ。王族同士は惹かれ合うって言いますしねぇ……」
「あぁ……私も信じているよ。皆、よろしく頼む」
そう言って、王は王子たちに頭を下げて、退出した。
現国王はいろんなことを試すタイプで……保守的な悪魔族の中では臨機応変で融通が利くタイプであるため、悪魔穏健派と言われている。そんな国王だが、彼の統制力には強みがあり、第一王女を探すことは絶対命令だ。
今は亡き王妃様との間に生まれた第一王女様――顔はわからないけど、生きていたらかわいいお嬢様ではないだろうかとみんなで予想をし始めた。そして、王になれるだけでなく、その第一王女と結婚もできるなんて……男として、最高の幸せではないかとさらに話は盛り上がった。
『さて、第一王女――貴女は生きているのだろうか。もし生きているのであれば、今、どこにいるのか。否、どちらにせよ、必ず貴女を見つけ出し、次期王として即位する。そして、稀少な天使族の血を引く貴女を妻に迎える』
上位の王子たちの目には、そんな強い執念が宿っていた。互いを睨みつけるその鋭い視線には、競争心だけでなく、相手を蹴落とそうとする冷たい野心が滲んでいる。
この国では女性が少ないゆえに、第一王女との結婚は熾烈な争奪戦となる。
そのため、会議に参加した誰もが実感していた――第一王女との結婚は、単なる婚姻関係にとどまらず、権力そのものを手にすることだと。
普段とは異なる張り詰めた空気が会場を支配し、異様な緊張感の中、会議は静かに幕を閉じた。
一方その頃、とある森の片隅にて。
ウサギにニンジンを与えながら、彼いや彼女は心の中で何かを葛藤しているようだった。
……ぼくは来月からザダ校に進学する。男子生徒として。
もし王宮で育てられていたのなら、どんな制服を着ていたんだろう――その夢想に胸が高鳴ることもある。けれど、それは決して叶わない。なぜなら、ぼくは王女であることを隠し、男として生きる道を選ばざるを得なかったのだから。
それに自分が第一王女だと知られたら――すべてが終わる。だから、どんなに窮屈でも、18歳になるまでは男としての仮面を被り続けるしかない。
(そして、誰にも……絶対にバレてはいけない。たとえ、王子様から執拗な追跡を受けて、心が押し潰されそうになっても)
お母さん、ぼくたちを信じて。きっと、この偽りの日々にも意味があると信じてる。
ここまでが第一章になります。
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次回から新章スタートです!