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第一王女を探さないで〜隠された愛と男装王女の誓い〜  作者: 国士無双
第2章:王子様、ぼくを探さないで

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秘密の男装生活と恋愛観

 今日は日曜日!

 ぼくは日用品をまとめ買いして、自室に戻ろうとした時――寮の廊下で、ニコくんとばったり出会った。


「ニコくん、ヤッホー!」


 声をかけると、彼はチラリとこちらを見る。


「あぁ……」

 

 どうやら彼は疲れている様子だった。ぼくはそんな彼をみて、思い当たる節があったため、小声で尋ねてみる。


「もしかして、例の会議が今日あったの?」

「正解……正直疲れた」


 そう言って、ニコくんは大きなあくびをした。


(やっぱり! 当たってた……)


 ぼくはふと思い出す。

 先週、ニコくんには色々助けてもらった。それに、確か「遊びに行こう」って約束もした。

 今週の火曜日は、先生同士の懇親会があるみたいで、授業は半日で終了する。


(ちょうどいいタイミングかもしれない!)

 

 ぼくの方から、提案してみる。


「あのさ、ニコくん。明後日の火曜日、遊びに行かない?」

「行く」


 彼は即答だった。


「じゃあ、一緒に行こう。よろしくね?」

「こちらこそ」


 最初は疲れた顔をしていたけど、遊びに行こうと誘ってみたら、ニコくんの目が少し嬉しそうに輝いた気がした。


(良かった〜。審議会も無事終わったし、明後日は思いっきり遊ぼうー!)

 

 

 火曜日の朝――とうとう今日がやって来た!

 ぼくは、ルルと一緒にピザトーストを食べていた。チーズがとろけて、香ばしい香りが広がる中、ルルはぼくの嬉しそうな様子を見て、クスクス笑う。


「サラちゃん。今日が楽しみで、楽しみで仕方なかったのね?」

「ルル! だって、アダムさんの退学が無事に取り消されたんだよ! ニコくんが手伝ってくれたからね。それに、今日は本屋に行って、ニコくんは新作の漫画とゲームを予約するんだ! ぼくは……気になる少女漫画を買おうと思っているよ」

「本当に、少女漫画が大好きなのね?」


 ルルはぼくが入れた紅茶を優雅に飲みながら、突然、こんなことを聞いてきた。


「ねぇ。サラちゃんは、少女漫画の主人公のような恋愛体験をしたいって思うタイプ?」

「えぇっ?!」


 予想外な質問に、飲んでいた牛乳を吹き出しそうになる。


(危ない! 天井に穴が開きそうなくらい、斜め上の発想だ!)


「あら! 牛乳がっ! 制服にこぼれちゃうわよ?!」とルルがすかさず、ぼくの手を支えてくれた。

 

「ありがとう、ルル。でも、体験するのは無理だよ!」


 そう言って、ぼくは()()()着ている()()()に手を当てる。


「だって、ぼくは男子生徒として、この学校に通っているのだから。それにほら! 学ランを着て、髪も短くしてるから、どう見ても男にしか見えないでしょう?」


 軽く自分の髪を触る。


(うん、完璧な男装。第一王女だって、バレないように、色々工夫しているんだ……!)

 

「そうね……。男性というよりは、男の子って感じだけどね。まぁ、剣術でダン先輩と対等にやり合っているから、誰も女の子とは思わないでしょうね……」

「ルル! ぼくとダン先輩の対戦を見てるんだね? そうだよ! だから、安心し――」

「で・も・ね!」


 ぼくがルルを安心させようとした瞬間、彼女はピシャリと言葉を遮った。


「ニコくんは、貴女の匂いですぐ女性と見抜いたでしょう?」

「あぁっ!」


 ルルの言う通りだ。指摘されてしまい、思わず声を上げる。


「貴女が一生懸命、工夫を凝らしているのは知っているわ。だけど、本当の性別は女性である上に、第一王女様なの。野心家な王子様たちであれば、貴女のその『第一王女』という価値()()を求める場合もあると思うの――王になりたいってね。彼らは、今も必死になって、貴女を探しているはず」

「……そうだね。第2王子であるダン先輩だけでなく、第5王子も結婚って、言ってたから……わかってる」


 ぼくはため息をつきながら、凹んでしまった。

 

 ……どうやらルルは、ぼくのことを本気で心配してくれているみたい。その上、何か思い当たることがあるみたいで、さらに慎重に言葉を選びながら話を続けた。


「レンゲ様は恋愛することもなく、結婚したと日記に書いていたでしょう? 王宮では、少女漫画の女の子(ヒロイン)のような、自由な恋愛はできないわ」

「大丈夫だよ、ルル。ぼくは、王族にはならない。だけど、今のぼくは王族だから……恋愛するつもりは、一切ないよ」

「サラちゃん……」


 お母さんが残してくれた日記。

 それが、ぼくの生き方の指針になった。

 だからこそ、ぼくは成人するまでは、男として生き抜いてみせる。


 ルルは、そんなぼくの強い意志を感じ取ったのか、何か言いたそうにしながらも、言葉を探しているみたいだった。


「あっ。でも、成人したら……恋愛はしてみたいよ。今は恋愛できないから、少女漫画で気分を味わってるだけなんだ……」


(なんか恥ずかしいこと、言っちゃったかも……)


 ルルに「幼稚だ」と思われるかもしれない。いや、ぼくはすでに、ニコくんから言われてしまった。


『少女漫画の知識は豊富なのに、君自身は()()()なんだな……』


 ――あの時の、ニコくんの声が脳裏に浮かぶ。


「うぅ……!」


 ぼくは思い出して、手で顔を隠す。


「ごめんなさい、言いすぎたかも……わたし」


 ルルは申し訳なさそうに、そっとぼくを覗き込む。だけど、彼女は何も悪くないし、むしろ心配してくれた。ぼくは、ふと冷静になって、考えてみる。


(少女漫画の世界って、ありえないことの方が圧倒的に多いよね?!)

 

 実際、このピザトーストを見て、思い出した定番ネタをルルに共有する。


「あっ! でも、少女漫画の世界って、現実には起こらないことの方が多いと思うんだ! だって……ぼくがこのトーストをくわえながら、『いっけないー! 遅刻、遅刻!』って言いながら走ったとしてさ。誰かとぶつかる確率なんて、ほぼゼロだよね?」

「そっ、そうね……」


 ルルは、ぼくの持論に苦笑いしている。でも、それでいい。


「なぜなら――ぼくは、そんな風に慌てて食べるより、ルルや大切な家族・お友達と、ちゃんと座ってご飯を食べたいから!」


 そう答えると、ルルはふいに目を潤ませた。


「ルル?」

「……ごめんなさい、ちょっと感動しちゃったの」


 ルルはもふもふした小さな手で、そっと自身の目元を拭っていた。

 

「ごめん! ルル、何か泣かせるようなことを言った?」

「嬉しいわ。『わたしと一緒にご飯を食べたい』だなんて。従魔として、こんなに幸せなことはないわ……」

「えっ、気にしないで? ぼくもルルがいてくれて、本当に幸せだよ」

「うぅっ……。涙が止まらないわ……。でもね、ひとつ思ったことがあるわ。サラちゃん、貴女は少女漫画の主人公というより……少年漫画の主人公タイプかもしれないわね」

「えっ! 本当に!? そう言われると嬉しいかも。やったー!」


 ぼくが両腕を突き上げて喜ぶと、ルルは大爆笑した。朝からワチャワチャしてるけど、きっと楽しい一日が始まる―― そう思っていた。


 だけど、それは大きな間違いだった。

 この日、ありえないことが次々と現実になってしまったのだから。

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