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第一王女を探さないで〜隠された愛と男装王女の誓い〜  作者: 国士無双
第2章:王子様、ぼくを探さないで

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運命の花嫁を探して〜審議会の決断と王子の誓い〜 ※第2王子視点

 翌日、わたしと父上は審議会の会場には入らず、入り口付近で様子をうかがっていた。最初は順調に進んでいるように思えたが、突如として校長の怒声が響き渡った。

 

()()()だと……? なぜそんな不審なものを学校に持ち込んでいるのか!」

「これには訳があります! 第4王女のケイを、第9王子によるいじめから守るために、やむを得ず用意したものなんです!」


 珍しく、アダムくんが強い口調で訴えていた。


(これは……切羽詰まっているな……)


 焦るアダムくんを見て、第9王子のメタノはニヤリと口元を歪めて笑った。まるで、ここぞとばかりに形勢逆転を狙っているかのような、あくどい笑みだった。


「えー、俺がAクラスで直接いじめた証拠なんてないけど? ホルム先生、どう思います?」


 すかさずメタノが問いかけると、第11王子のホルム先生は、首を横に振りながら、平然とした顔で答えた。

 

「俺はメタノ様がAクラスに入った姿を一度も見たことがありません」


(なんてことだ……彼もしらばっくれた!)


 場内がざわつき始める。やがて校長は、威圧的に言い放った。


「……投票を開始する」


 その様子を見て、父上がわたしの肩に手を置き、低い声でつぶやいた。

 

「いやー。メタノって子、陰湿な言い方をするね。これはまずいな。ダン、資料を持ってるな?」

「はい、父上。行きますか?」

「行こう」


 父上は迷いなく、扉を押し開ける。


 バンッ!


 静まり返る会場。全員の視線が、一斉にこちらへと向けられる。

 だが、父上は物怖じするどころか、堂々と胸を張り、大きな声で名乗った。


「ご無沙汰しております。バク・オーガーです。ダンと一緒に参加させてもらっても良いかな?」


 公爵であり、王家に連なる存在――バク・オーガーの名が響くと、全員が一斉に頭を下げる。


「突然お邪魔してすまない。早速本題に入るので、顔を上げてください」


 父上の言葉に従い、皆が緊張した面持ちで顔を上げる。

 一方、父上はアダムくんの方を見据えて、口を開いた。


「アダムくんは立派な研究取扱者けんきゅうとりあつかいしゃだ。皆さん、彼を誤解しているようだね――」


 その声は重く、威厳に満ちていた。

 

 ……ほんのわずかな時間で、審議会の状況を把握し、最適な一手を打つ。

 それが、わたしの父上、バク・オーガーなのだ。


「ダン、研究施設用のプールに設置された監視カメラの映像を出せるか?」

「はい、父上」


 わたしはプロジェクターを取り出し、手早く操作を始めた。


(これらの証拠は、サラとニコが頑張って集めてくれたんだ。アダムくん、君を助けるからな――)


 パッと映像が映し出される。最初に流したのは、第9王子メタノと第11王子ホルム先生が研究施設用のプールで打ち合わせをしている映像だ。続いて、偽りの王族子女会議の招待状を映し出し、それを作成した証拠となるファイルの画面を提示する。そして――次の映像が流れた途端、会場の空気が凍りついた。

 

 悪魔族の男子生徒たちがアイスティーに睡眠薬を混ぜる決定的な瞬間。さらに、屋上からケイさんの頭上に水をかける場面。悪意に満ちた数々の行為が、次々と証拠として突きつけられていく。


(……なんという下劣な行為だ)


「ケイさん……本当に(つら)かっただろう?」


 思わず、わたしは彼女に声をかけていた。

 ケイさんはゆっくりと頷いたが、堂々とした口調で話す。


「えぇ……でも、アタシの悩みに実験部のアダムたちが親身に相談に乗ってくれて、本当に助けてもらいました。それに、盗聴器を仕掛けたのも、アタシを守るために設置してくれたんです!」


 ケイさんは強い。アダムくんに対しても、フォローまで入れてくれた。


(ここまで来たら――絶対に勝たせてもらう!)

 

「だが、盗聴器を使用するのはやりすぎだと思うのですが?」


 教頭が、ケイさんの足元をすくうように、「盗聴器」という単語に食いつく。しかし、それすらも、父上の思惑通りに物事が進んでいた。


「あぁ、()()()()()()()()()()()のことかな?」


 父上は余裕のある表情で、話を続ける。


「あれは、アダムくんと同じ研究取扱者であるオオバコさん、そして第5王子の公認のもと用意したものだ。さらに、王立科学院(おうりつかがくいん)から正式な許可証も発行されている。この場で問題視する必要は全くない」


 その言葉とともに、父上はゆっくりと昨日わたしに見せてくれた許可証を提示した。


(――これで決まった!)


 実際に、わたしたちがかき集めた証拠を突きつけたことで、校長と教頭の考えは大きく変わった。そして、運命の「退学処分」について、ついに投票が始まる。


「これより投票を始めます。アダム・クローナルの退学を取り消すことに賛成の方は、挙手をお願いします!」


 そう教頭が告げた後、判定者5名全員の手が、一斉に挙がった。


(良かった……。アダムくんは退学処分を免れた!)


 一方、第9王子と第11王子については、謹慎処分が下された。


(当然だ……メタノは本当にひどい。これで反省してくれるといいんだが……)


 さて、無事に審議会が終わった。父上はこれからOB・OG会へ向かう予定で、わたしは生徒会の仕事をこなしながら、その集まりが終わるのを待ち、今日は一緒に実家へ帰ることになっている。


 会場を後にしようとしたその時――アダムくんが、わたしと父上の方をまっすぐ見つめていた。


「お二方、大変ありがとうございました。本当に感謝申し上げます」


 彼は深々と頭を下げた。

 知的な研究者――そんな印象の強い彼だが、研究所を設立するという夢を叶えたいという内なる情熱が、言葉の端々から伝わってきた。


「アダムくん……久しぶり。大きくなったね。相変わらず研究熱心だと聞いているよ。お礼なんて必要ないさ。困った時は、大人に頼るものなんだから」


 その言葉には、アダムくんの本心をしっかり理解しているような、父上らしい包容力があった。わたしは一応、父上がここに来た経緯を補足した。


「父上、ありがとうございました。でも運が良かったです。今日はザダ校でOB・OG会が開かれていたので……それで父上がこちらにいらっしゃったんです」

「そうだったんですか?!」


 ケイさんは驚いて、目を見開いていた。

 

「あぁ、あと10分で会が始まるからね。そろそろ抜けるよ。みんな、元気で。ダン、後で会おう。楽しんでくるよ」

 

 そう言い残し、父上はキッパリとした足取りで去っていった。その後、わたしは生徒会室で仕事を終わらせ、父上との待ち合わせ場所である校門へと向かった――。


 

「ダン、お疲れさん」


 父上が、冷えた炭酸水を手渡してくれた。そのペットボトルを受け取りながら、ふと、ある出来事を思い出す。


(そういえば……この左手に巻いている包帯。前に炭酸水が吹きこぼれたとき、サラがすぐに助けてくれたんだよな……)


 そんなことを考えていたら、父上がわたしの顔を不思議そうに覗き込み、こう問いかけてきた。


「もしかして……ダン、好きな子がいる?」

「えっ」

「昨日言ってただろう、かわいい後輩がいるって。どうなんだ、その子。白いウェディングドレスが似合いそうかい?」

「あぁー……」


 サラは男だ。だけど、肌が白くて、華奢で、かわいい顔をしているから――意外と花嫁姿は似合うかもしれない。


(はっ! しまった! わたしは何を想像してるんだ……?! サラ、すまない。こんなわたしを許してくれ……)


「父上、大変申し訳ない。その後輩は剣術部の男子生徒です。わたしと同じく剣術検定1級を持っています」

「そうかぁ〜。ダンにも春が来たかと思ったが……」


 父上は残念そうに肩をすくめたけど、すぐに、にこっと笑ってくれた。


「なら、やっぱりダンのお嫁さんは()()()()()だな! それに、強くて面白い後輩もいるとは……青春だねぇ!」


 父上の満足そうな笑顔を見て、わたしも微笑む。


 そうだ、わたしはこれからも努力する。

 将来、素直で優秀なサラを部下にし、必ず君を手に入れる。


 皆はこう言うんだ。

「第一王女は行方不明で、もう見つからない」と。


(可哀想に……)


 だからこそ、君は誰よりも幸せにならなければならない。

 そのために、わたしが君を迎えに行く。そして、絶対に離さない。

 どんなに君が『探さないで』と拒んでも、何度だって迎えに行く。

 

 だって、君はわたしの手で幸せにするべき運命のお姫様なのだから。

 

 だから、待っていてくれ……愛しの第一王女様。


 いつか、花嫁となった君のベールを、この手で誇らしく持ち上げるその日まで――。

審議会のお話がとうとう完結しました。

別作ですが、ファンタジア・サイエンス・イノベーションの方だと、アダムさん視点でのストーリーが見れます!(退学処分編にて)


次回はとうとう上位の王子たちが集結します!

お楽しみに。

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