一匹狼と猫の従魔 ※第一王女→第三者視点
【※注意】従魔のイタズラ・膝枕などの表現有り
「ニコくん! あの、話したいことがあるんだ!」
お昼休みになるやいなや、ぼくはニコくんのもとへ駆け寄り、そのまま屋上へ向かった。幸いなことに、ぼくたち以外、誰もいない。2人並んでベンチに座ると、ニコくんが先に口を開いた。
「どうした、サラ?」
「えっと……助けてほしいんだ!」
ぼくは先に結論を述べてから、彼に要件を伝える。
「アダムさんが、このままだと退学になっちゃうかもしれない。それで……」とオーちゃんから聞いた話をそのままニコくんに共有し、何か知っていることや参考になりそうな証拠がないか、尋ねたところ――。
「難しいな。証拠って言うと、監視カメラの映像が一番なんだろうけど。特別科の一部の生徒にしか、確認することが許されていないだろうし……」
「そんな……」
(特別科ってことは、王子様じゃないか……! ぼくは頼めない……。オーちゃんやルルに、王族との接触は避けた方がいいって言われたのだから)
ぼくは何か他にいい証拠がないか、必死に考えてみた。けれど――何も思い浮かばない。
(どうしよう……このままだと、何もできずに終わってしまう!)
焦るぼくの横で、ニコくんがふと何かを思い出したようだ。軽く指を鳴らした。
「あっ……確実に提供できる証拠が、1つあるな。それなら、すぐに用意はできる」
「えっ! 本当に?」
「でも、その証拠は君が女の子の格好をした日に起きた出来事と相関性がない。王族子女会議前に起きた話だから……」
「王族子女会議?」
「あぁ、参加権があるのは第1〜9王子と第1〜3王女の計12人だけ、というふざけた会議だ。アダムとケイにはその権利がない」
(うわぁ……。王族って大変! そんな会議があるんだ……。息苦しそうだし……)
「……そういうのって、めんどくさ……あっ!」
慌てて口を両手で隠したけど、時すでに遅し。ニコくんにどうやら聞かれてしまったみたいだ。だけど、ニコくんは怒るどころか、むしろ同意してくれた。
「君の言う通り、めんどくさいさ。でも、参加するしかないんだ」
「そっか……王族は大変なんだね」
「あぁ。オレと君は、あまり拘束されるのが好きじゃないからな」
「えっ、なんでわかるのー? ……あっ、そうだ! ご飯にしようよ! 今日のお弁当、サンドウィッチにしたんだ! 楽しみー!」
ぼくはお腹が空いていたことに気付き、そのままお昼ご飯を食べることにした。るんるん気分で、うさぎのイラストが描かれたお弁当箱のフタを開けようとしたその瞬間――何かがぼくたちの目の前に突然現れた!
「にゃおー!」
(ん?! 猫の鳴き声?)
いや、正確に言うと――猫ではなかった。
見た目こそ黒猫だけど、背中には悪魔の羽根。それに、悪魔のツノをイメージしたラベンダー色のニット帽をかぶり、ふわふわと宙に浮いている。
(もしかして……ルルと同じ、従魔――?!)
その猫の従魔は、じーっとぼくのサンドウィッチを見つめて、食べたそうにしている……。そんな熱いまなざしを向けられてしまい、ぼくは一口サイズに切ってあげることにした。すると、その猫の従魔は小さな口で、ゆっくりと食べ始めた。
「サラ……甘やかさない方がいい」
ニコくんが、呆れた顔で指摘する。
「でも……この子、よだれを垂らしているから、すごく食べたかったんだと思う。もしかして、ニコくんの従魔?」
「オレのじゃないし、初めて見た。猫は……」
「そうなんだ。ぼくも、ルル以外の従魔は初めて見るなぁ〜」
ちなみにルルは、今ぼくのポケットの中。キーホルダーの姿になって、おとなしくしている。
一方、このネコちゃんは堂々と従魔の姿のままでいる。ゆっくりとサンドウィッチを食べ終わると、満足げに尻尾をふり――突如、ぼくの胸に顔を埋めてきた。
「えっ……!?」
「にゃにゃーん!」
ふわふわの毛並みが、制服越しに伝わってくる。まるで赤ちゃんみたいな甘え方だ。ルルと同じようにモフモフしていて、確かにかわいい。かわいい……んだけど……。
(近いよー!)
ぼくは一応、学ランを着ているけど……それでも距離が近すぎて、なんだか気まずい。
「ネコちゃん、気持ちはわかったから、ここで横になろうね?」
優しく言い聞かせながら、そっと引き離そうとするが――逆効果だった。なんと、両手でぼくの胸をペタペタ触ってきたのだ。
(ま、まずい! あんまり触られると、巻いているサラシがズレちゃう! ズレたら、胸の膨らみがバレてしまう――!)
どうしようかとぼくが悩んでいると、ニコくんは無言でその従魔の首裏をひょいっと掴み、魔法でどこか遠くへ飛ばしてしまった。
「あっ、ネコちゃんは……?」
「適当に移動させた。大丈夫だろ」
「そ、そう……」
ぼくが安心したのも束の間――ニコくんはぼくをじっと見て、ぼそりと呟いた。
「やっぱり、オレの言う通りだった……甘やかすと、ああいう目に遭う」
「だって……可哀想だったから……」
「んじゃ、オレも……」
そう言って、ニコくんは突然、横になり、ぼくの膝の上に頭を乗せてきた。
「えっ!? に、ニコくん! 何してるのー!?」
(な、何この状況!? これって、俗に言う膝枕!? 少女漫画でしか見たことないよ! 恥ずかしすぎる――!)
思いっきり動揺してテンパっているぼくをよそに、ニコくんはいつもの表情でさらりと答えた。
「その理屈だと、オレのことも甘やかしてくれるんだろう?」
「へっ?」
「君との貴重な昼休みを、あのネコに取られた。だからオレは可哀想だ」と涼しい顔で言い放つ。
(ニコくんったら、頓知が効きすぎてる……。でも!)
「ダメだって……! 他の人に見られたら、勘違いされちゃうよ!」
「心配無用だ……鍵をかけてるから、誰も入ってこない」
「わかったよ……」
はぁ……。最近のぼくはすっかり、ニコくんのペースに押されっぱなしな気がする。
(それにしても、膝枕だなんて……ニコくんって、意外と甘えん坊なのかな?)
そう思うと、無理に離すのもなんだか可哀想な気がして、このままの状態でいることにした。
「そうだ、本題に戻るが――アダムの件で、敵の証拠はあるのか?」
「あぁ……!」
やっぱり聞かれてしまった……。『敵である人形をボコボコにして、何も証拠がありません!』なんて、到底言えない……。
「なんてな……。君が回復魔法を使う前、男子更衣室に入ったら、敵の跡形もなくなってたからな。どうせ、ボコボコにしたんだろう?」
(完全にバレている……!)
何もかも見透かされてしまったと思い、自身の思考が止まってしまう。そんな固まっているぼくの様子を見て、ニコくんはふと、ぼくの顔に手を伸ばしてきた。
「んっ……!」
思わずピクッと肩が震えて、瞼をギュッと閉じてしまう。
「面白い……。すぐ顔に出るんだな」
「そっ、そうだよ……仕方ないじゃないか! それに……ニコくんも今、笑ったね……?」
そう言って、ぼくもニコくんのほっぺたにポンと触れる。
(って、あれ……?! ぼくたち、親友のはずなのに……。この状況、万が一、誰かに見られたら、絶対勘違いされない?!)
そんなことを思いつつ、授業5分前のチャイムが鳴る。
「あっ! そろそろ行かなくちゃー! ニコくん、早く起きあがって!」と声をかけ、膝枕の状態からなんとか解放してもらった。ぼくは解放されたので、ほっと胸を撫で下ろしていたけれど、なぜかニコくんは……ほんの少し不機嫌そうだった。
その時、とある音楽室にて――。
「にゃあ〜!」
「あっ! ロキ……。どこに行ってたの?」と声をかけながら、彼はロキを左腕で抱き上げたが――。
「……あれ? 口周りにパンくずがついてる……」とピアノの楽譜を右脇に抱えたまま、ロキの顔をじっと見つめる。そして、少し不機嫌そうに呟いた。
「……誰だ? おれのロキにご飯を食べさせたのは……」
彼はそうぼやいたものの、ロキの方は嬉しそうに喉を鳴らしていた。
「ふぅん……。なんか機嫌がいいなぁ。そんなに美味しかった? もしかして――第一王女様に会ったとか? ……なんちゃって」
ニヤニヤしながら軽い冗談を飛ばしたところ――ロキはまるで主人の問いかけに応えるかのように、はっきりとした声で言葉を発した。
「だいいちおうじょ、すき。にゃー!」
「おぉ……すごい! 言葉を喋った! しかも、初めての言葉が『第一王女、好き』とはねぇ……」
驚きつつも、彼は面白がるように、ロキの頭を軽く撫でる。
「じゃあ、ロキ。おれが第一王女と結婚しよっか?」
「けっこん! だいいちおうじょ! にゃんにゃーお!」
ロキの無邪気な声が響く――。
「そっか……ロキがそこまで言うのなら、仕方ないな。おれの妻にするよ――第一王女を」
まるでひとりごとのように、けれどどこか本気にも聞こえる声で呟く。そして、ロキを抱えたまま、静かに特別科の男子寮へと姿を消した。
<余談>ニコくんは、むっつりさんです!




