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第一王女を探さないで〜隠された愛と男装王女の誓い〜  作者: 国士無双
第1章:お母さん、ぼくたちを信じて
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偽りの少年、真実の王女

 夕方――玄関から誰かの声がする。


「ただいまー。兄さん、サラちゃんがどうかしたの?」とエルフの女性ことオーちゃんが帰ってきたようだ。早速、おじさんのいるリビングへ移動していた。


「オウレン!ごめんね、お仕事中に電話して」

「大丈夫よ。それより、私たちのサラちゃんがおかしくなったって……どうしたの?」


 オーちゃんはぼくの様子が心配で、慌てて帰ってきたようだ。ぼくはルルと一緒に、2階の自室からリビングへ向かう。そして、オーちゃんに聞いてみた。

 

「オーちゃん、おかえりなさい。オーちゃんは見える……?」


 ぼくの頭にルルがちょこんと座っている。ルルは律儀に「はじめまして」とオーちゃんに挨拶をする。

 するとオーちゃんも「はじめまして。あら……久しぶりに従魔(じゅうま)を見たわ」とルルの方を見て、挨拶を返していた。


「本当だ。ルルの言った通り、オーちゃんには見えてるし、聞こえるんだ!」


 ぼくとオーちゃんだけが見えていて、ルルの声も聞こえるが、おじさんは何が起きているのか全くわからないようだ。オーちゃんがおじさんに対して、現在の状況も踏まえて助言する。

 

「兄さん、不安にならないで。見えないし、聞こえないかもしれないけど、従魔は危害を与えたりしないわ」

「そうなんだね。やはり人間には見えないのかい……?」

「そうね、見えるのは……わたしのような()()()や魔力が強い()()だけね……」


 不思議に思った。なぜなら、ぼくは当てはまっていない気がして……。思った疑問を直接聞いてみることにした。

 

「どうしてぼく()見えるの?! ぼくは王族じゃないし、エルフでもないのに……」

 

 「サラちゃん……」とオーちゃんは困り顔でどう返事をすれば良いのか悩んでいる。

 

 おじさんはぼくの肩に手を当て、こう話しかけた。


「オウレン、今日伝える時が来たんだ。サラちゃん……これから言うことに衝撃を受けるかもしれない。2つの事実を言うことになるけど、覚悟はあるかい?」

「ぼくは(おとこ)だから覚悟はできてるよ! おじさん、教えて?」


 おじさんは真剣なまなざしでぼくを見つめた。ふと、悲しげな表情が一瞬浮かぶ。やがて、静かな声で話し始めた内容は、ぼくの心を大きく揺さぶるものだった。


「まず、君は男じゃない。()()()だ……」

「え……! だって、ぼくは……」

「そうだね。サラちゃんのお母さんから遺言で……保護する間は男の子として、育ててほしいと言われたんだ」

「保護する間だけなの? いやだ! ぼくはこの家にずっといたいよ!」


 もしかして、ぼくはこの家を出る日が来てしまうのか……。


(それに、お母さんが遺言で『男の子として生きてほしい』って言ってたのには何か事情があるのかな……?)

 

「それは僕だけでなく、オウレンも同じ意見だ。しかし、君の()()のお父さんは生きている。君を探してるかもしれないし、君を見つけたら例の()()に連れて行くだろう……」

王宮(おうきゅう)ってお母さんが嫌がってた場所だよね……。ぼくは、お母さんが王宮のことを嫌いなのは、王宮へ行った時、何か嫌な思いをしたからだと思っていた。おじさんは僕のお母さんのことだけでなく、お父さんのことも知ってるの? おじさんはお母さんとどういう関係だったの?」

「あぁ……。君のお母さんは元々貴族出身で、僕たちの家の近くに別荘があって、そこで住んでいたんだ。僕たち家族ととても仲が良かった。そうだね、単刀直入に言うと――サラちゃん、さっきパソコンでレンゲを調べていただろう?」


 なんでいきなりレンゲ様の名前が出てくるのか不思議だが、もしかしたら、さっき、おじさんに調べている画面を見られたのかもしれない。何も悪いことはしていないため、正直に調べたことを自白する。

 

「うぅ……調べてたよ……。でもそれがどう関係してるの?」

「実は、僕とレンゲは旧知の仲だったんだ。だからこそ、君に本当のことを言う。レンゲは君のお母さんだ」

「うそっ……?!」


 信じられない、レンゲ様がぼくのお母さんだなんて……。


 すると、ルルが「やっぱりね……」と涙を流しながら、ぼくの頭をヨシヨシする。

 

 一方、ぼくはレンゲ様がお母さんと知って、とある推測を聞いてみる。

 さっき、調べた時に見てしまった――ぼくの本当のお父さんについて。

 

「じゃあ、ぼくのお父さんって……?」

「現国王様。そして君は――国王の娘、第一王女様だ」


第一王女(だいいちおうじょ)』――その言葉が、胸に突き刺さる。


 王妃様が亡くなった直後に行方不明となった、あの第一王女。ずっと(うわさ)だけで誰も見つけられなかった存在。

 

 まさか、()()()()()()()()()()だったなんて……!


 信じられない。

 

 ぼくのこれまでの人生が、すべてひっくり返るような気がした。

 男として生きてきたぼくに、この事実はあまりにも重すぎた。


 でも、1の数字に見覚えがあった……。


 ふと、ぼくは着ている服の隙間から、自分の胸を(のぞ)く。

 左胸にある――1の数字と王冠、そして天使の羽根が描かれたアザ。このアザは、産まれた時から消えずに……ずっとある。

 

 それに……ぼくは、自分の体に起きている変化に戸惑っていた。

 おじさんたちには言えなかったけど、自分の胸が(ふく)らみ始めていることに気づいていた。

 

 男なのに、どうして?――ずっとそう思っていた。


 だけど、もしぼくが「女性」なら、この変化は説明がつく。

 胸が膨らむのも、体の違和感も、すべて……。


(でも、どうして今になって――?)

 

 そう不安に思いながら、ぼくがジッと胸にあるアザを観察している様子を見て、オーちゃんが教えてくれた。

 

「サラちゃん、数字に見覚えがあったのね。胸のところにアザがあるでしょう。それは人間()()()()()にしか現れないし、そのアザは消えないのよ」

「そうだったんだ……いつもゴシゴシ擦っても、消えなかったからずっと気になってた……ぼくはどうすればいいの?」


 突然事実を知ってしまい、これからどうなってしまうんだろうという恐怖心で、涙が溢れてしまう。

 おじさんは優しくぼくを諭す。

 

「サラちゃん……驚かせちゃってごめん。それに、今まで色々制約させてしまった。レンゲは王宮の生活が合わなかったらしい。でも、レンゲはレンゲで――君はサラちゃんだ。亡きレンゲの言いなりになる必要はない。サラちゃん自身が、王族のところに帰りたいと思ったら、遠慮せず言うんだ」

「いやだよ……。ぼくは行かない! ぼくにとっては、ここが家族で、おじさんたちと別れたくないよ……」


 お母さんが(つら)いと思っていたところに、自分も行くなんて想像ができない。それに、生まれてからずっとここで育ってきたぼくにとって、違う環境に行きたいなんて、ちっとも思っていなかった。泣きながらも結論を出したぼくの答えに、おじさんも安堵している。

 

「そうかい……ありがとう。サラちゃんから他に知りたいことはないかい?」

「あっ……そのぼくは人間じゃなくて、天使族なのは……お母さんも天使族だったから? ルルが言ってたんだ。ぼくのところに来る前、お母さんのところにいたこともあるんだって。それでぼくを見た瞬間、レンゲ様に似てるって言ってた……」


 なんで自分自身が天使族なのかちゃんとわかっていなかった。でも、お母さんが天使なら……。

 その質問については、オーちゃんが答えてくれた。


「そうね、サラちゃんのおっしゃる通り、あなたのお母さんも天使族よ。そして、あなたやあなたのお母さんに従魔(じゅうま)()いているのは――二人とも魔力が強いから。そもそも、従魔は()()の王族しか所有していないの。なぜなら、上位の王族家って魔力が強すぎる余り、人間が気を失ってしまうみたい。それを防ぐだけでなく、魔力をコントロールするために、獣魔へ魔力を与えて、抑えているって感じよ」

「そうなんだ……『魔力』って、その魔法が使える『能力』とは別なんだっけ?」


 ぼくはおじさんがよく「魔法っていいよね〜、ぼくはその能力がないみたいで……」と呟いていたので気になっていた。

 

「能力は人間が魔法を使えるかの指標ね。人間には魔力がない。だから、人間で能力があっても、魔法を使うときは言葉を発する必要があるの。他の種族は魔力があるから、不要なんだけどね……」

「つまり、本当のぼくは天使族だから唱える必要はないけど、もし今後人間として王女とバレずに生きていくのなら……言葉を発した方がいいってことになるよね?」


 そうだ。ぼくは18歳まで、『()()生まれの()使()族の()性』ということを隠して、『()()()()で育った()()()性』として過ごしていければ、王女とバレることはない。

 

 そう思ったから、確認してみた。すると、オーちゃんはぼくの手を握りしめた。

 

「サラちゃん……なんて賢いの! そういうことになるわ、さすがね。でも、あなたの進む道は、隠さないといけないことが多くて……大変かもしれない。だからこそ、困ったときは私たちに相談して!」

 

「そうだ、僕もサラちゃんにできることなら、なんでも助けるからね」とおじさんも一緒に、後を追って味方してくれた。


 ぼくは一人じゃない――大好きなおじさんとオーちゃんがいる。

 

 今日聞いたことは正直理解し難いところもある。

 でも、二人がいる……それだけでも心強かった。「うん!」と返事をした後、3人で仲良く晩御飯を食べることにした。


 このまま穏やかで幸せな生活が続きますように――そう願いながら。

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