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第一王女を探さないで〜隠された愛と男装王女の誓い〜  作者: 国士無双
第2章:王子様、ぼくを探さないで
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第一王女と『結婚する』

第2王子【ダン先輩】回です。

 今日の放課後は剣術部の活動をして、ちょうどその活動が終わったところだ。

 みんなで部室の掃除をしていたところ、ダン先輩は、ぼくがポケットにルルのキーホルダーを入れていたのに気づいたようで……。つい先輩から聞かれてしまった。


「そのうさぎのキーホルダー。サラ、君はうさぎが好きなのかい?」

「うぅ……好きですっ!」


 女々しいと思われるかもしれないけど、ぼくは好きだから正直に好きと言った。

 先輩はぼくの返答に、笑顔でこう提案してくれた。


「かわいいうさぎさんだ! そうだ。実はいいカフェを見つけてな……。そのお店では、うさぎをモチーフにしたチョコレートのお菓子が食べられるんだ。もしよければ、明日一緒に行ってみないか?」

「うさぎにチョコレート?! 行きたい()()!」


(どうしよう! 大好物なものに囲まれるなんて! 嬉しすぎて、つい即答しちゃった……しかも噛んじゃうなんて!)


 そんなぼくの慌てた様子を見て、ダン先輩は微笑んでくれた。近くで見ていた部員の双子も、ニヤニヤしながら会話に参加する。


「おいおい、サラちゃん。落ち着けって!」

「でも分かる、うさぎのチョコなんて聞いたら、サラちゃんのテンションは爆上がりでしょ! それに、サラちゃんは部長と師弟関係の“弟子(でし)”側だもんね〜」

「行きたい弟子(でし)ってこと?! ハハハ!」


 双子は漫才を始めたようだ――阿吽(あうん)の呼吸で、ぼくのことを弄りながらもフォローしてくれた。


(言われてみれば……確かに、ダン先輩はぼくにとって、お師匠様みたいな存在だ!)


 双子の軽口に苦笑いしつつ、ぼくは心の中で納得してしまった。

 

 その後、掃除を終えたぼくたちは、そのまま解散することに。

 別れ際、ダン先輩から提案があった。


「明日の放課後、裏門で待ち合わせしよう!」


 ぼくは「はい! では、また明日〜!」と元気よく挨拶をしてから、自室へ戻った。

 

 剣術部でしっかり身体を動かしたせいか、少し汗をかいてしまった。


(ふぅ……やっぱり、運動した後のお風呂は最高だよね!)


 そう思いながら、急いでお風呂に向かい、湯気たっぷりのお湯に浸かる。疲れた体がじんわりとほぐれていくのがわかる。

 お風呂から上がると、ルルがいつもの従魔スタイルで部屋に待機していた。今日はなんだか耳がピンと立っていて、機嫌が良さそうだ。


「ルル、どうしたの? 何かいいことでもあったの?」

「だって〜、第2王子のダン先輩が『かわいいうさぎさん』って言ってくれたのよ! 嬉しいわ〜!」

「そっか! 確かにそれは嬉しいことだよね。ダン先輩の言葉って、特別感があるし!」


 そんなぼくの回答に、ルルは得意げな表情をしながらも、急に真剣な顔になってこう言ってきた。

 

「もちろん、明日楽しんで欲しいけど……ダン先輩に正体がバレたら、その場で()()()()()()()と思うぐらいの気持ちでいないとダメよ!」

「ええっ、また婚約の話?! そんな大げさな……」


 レモンをかじったような酸っぱい顔で忠告するルルに、ぼくは苦笑しながらも、その助言を受け止めて、明日が来るのを楽しみにしていた。


 

 翌日の放課後――校舎を出て裏門に向かうと、すでにダン先輩が待っていた。夕日に照らされたその姿は、少し疲れているように見えたけど、笑顔は優しく穏やかだった。


「お待たせ、サラ。準備はいいか?」

「はい! ダン先輩、行きましょう!」


 ぼくたちは並んで歩きながら、ダン先輩が教えてくれたカフェへ向かった。

 途中、ダン先輩が少し申し訳なさそうに話を切り出した。

 

「サラ、実はカフェで過ごした後、どうしても外せない予定があって、30分ほど抜けることになるんだ。その間、本屋とかで待ってもらってもいいか?」


 先輩の申し出に驚きつつも、ぼくはすぐに返答する。

 

「大丈夫ですよ! 気にしないでください。ぼく、本屋さんも好きですし!」


 ほっとした表情を浮かべるダン先輩を見て、なんだか頼られている気がして嬉しかった。

 

 そして、いよいよカフェの前に到着した。

 木の温かみが感じられるドアを開けると、店内には甘いチョコレートの香りがふわりと漂い、うさぎをモチーフにした可愛らしい飾りが目に飛び込んできた。絵本の中の世界みたい……思わず自分の頬が緩む。

 早速、目を輝かせながら店内を見渡していると、ふとガラスケースの中に視線が吸い寄せられた。そこには、うさぎをモチーフにしたチョコレートケーキが飾ってあった。つややかなチョコレートのグレーズが光を反射し、ケーキの表面にはまるで絵画のように細工された小さなうさぎの形。


「ダン先輩、ぼく、このケーキが食べたいです!」


 その美しさに心を奪われたぼくは、興奮を隠せず勢いよく声に出した。

 先輩は「君は本当にうさぎが好きなんだね」と笑いながら、「じゃあ、わたしはこのオードブルセットの『うさぎマッスルスペシャル』にしようかな?」と、あっさり決めたようだ。


(かわいいうさぎのカフェなのに、なんで『うさぎマッスルスペシャル』なんて名前の商品があるんだろう……?)


 ぼくはニコニコ笑いながらメニューを見た。でも、ふと目を下にやると、小さな文字が視界に入った。


『うさぎマッスルスペシャルは筋肉質な彼氏さんやカップルにおすすめです』


(うわぁ! 恥ずかしい……。カップルじゃないけど、先輩と2人でここに来ちゃった!)


 顔が熱くなったぼくは、小さな声で「ケーキをお願いします」と店員さんに頼むのがやっとだった。

 一方、ダン先輩は堂々としていて、「店員さん、この『うさぎマッスルスペシャル』をお願いするよ。それと、会計は全部わたしで」とスマートに頼んでいた。

 

(会計は()()わたしで?!)


「あっ、先輩! ぼく、自分で払います……」と慌てて言うぼくに、「いや、わたしが払うよ。わたしから誘ったんだから」と、さらっと返す先輩。

 

「でも……」

「いいんだ。こういう時は、先輩を頼るんだよ」

 

 そう言いながら、先輩は優しくぼくの頭を撫でてくれた。手のひらがそっと触れるたびに、安心感と同時に心臓が高鳴るのを感じる。


「うぅ……ありがとうございます……」

 

 言葉を絞り出しながら、ぼくの顔は熱くなるばかりだった。


(どうしよう……これ以上顔を見られたら、きっと真っ赤なのがバレちゃう!)


 ぼくはつい目線をそらしてしまったけど、先輩の手の温もりがまだ頭に残っていて、思わず胸がきゅっと締め付けられるような気持ちになった。


 無事に注文を終えたぼくたちは、テーブルに座って料理が来るのを待っていた。しばらくして、運ばれてきた料理を目にすると、思わず歓声を上げてしまう。


「すごい……どれも美味しそうですね!」

「うん、見た目も可愛いし、期待できそうだ……」


 ぼくがキラキラした目で眺めていると、ダン先輩が微笑みながら提案してきた。


「サラ、わたしの料理も少し食べてみたら?」

「じゃあ……ぼくのケーキも半分こしませんか?」


 二人とも、どこか遠慮がちに提案してしまったせいか、つい笑い合ってしまう。それがなんだか楽しくて、ほんの少し緊張が解れた。

 実際に食べてみると、どれも美味しくて、料理をシェアする手が止まらない。ふと顔を上げると、先輩も満足そうな表情を浮かべていた。


「やっぱり、一緒に食べると美味しさが倍増しますね!」

「そうだな、君と食べると特別に感じるよ」


 先輩の言葉に、ぼくの頬は自然と熱くなった。

 料理を楽しむというより、先輩との時間が特別なものに思えて――気づけば、ぼくたちはあっという間に完食してしまっていた。

 

「あぁー、おいしかった! あの、約束の時間まで少し時間があると思うので……うさぎのグッズを見てもいいですか?」


 ぼくは、昨日の夜、パソコンでカフェにグッズが売ってると調べていた! せっかくの機会だから、何か買ってもいいかもと思っていた。先輩はすぐに「もちろん」と答えてくれた。


 早速、ショップコーナーを見たところ、うさぎのかわいいぬいぐるみキーホルダーを発見した。一目惚れしてしまう。


(かわいい! ほしいかも!)


 だけど、セット売りみたいで、犬のぬいぐるみキーホルダーが付いてるようだ……。じっくり考え込んでいるぼくの様子を見て、先輩が横から声をかける。


「どうした?」

「このキーホルダーが気になって! でも、セットでワンちゃんもいて。ぼくは……」

「なるほど」


 そう言って、なぜか先輩はそのセットをレジまで持って行く。

 

「店員さん、わたしがこれを買うから、犬とうさぎを別々に分けてもらってもよろしいだろうか?」

「えっ!」


 ぼくは驚きを隠せなかった。

 だけど、先輩はすでに店員さんとやり取りをしていて、その店員さんが丁寧に分けてくれている。なぜかうさぎの方はかわいくラッピングされていた。


「サラ――どうぞ。これ、わたしからのプレゼントだ」

「えっ、いいんですか……?! ダン先輩、ありがとうございます!」


 先輩が手渡してくれたのは、ぼくが一目惚れした可愛らしいうさぎのぬいぐるみキーホルダーだった。

 小さなうさぎが柔らかく微笑んでいるデザインで、まるで先輩の優しさが形になったようだ。


「君とお揃いなのがうれしいんだ。わたしの方はワンちゃんのデザインだけど、剣術の袋につけようかな?」

「じゃあ、ぼくも剣術の袋につけます! プレゼント、本当にありがとうございます。すっごく嬉しいです!」


 ぼくは何度もキーホルダーを眺めながら、心の中で小さくガッツポーズをした。

 

(やったー! ダン先輩とお揃いなんて……こんな幸せ、あっていいのかな?)


 そんなやり取りをした後、ダン先輩が私用で30分ほど抜けることに。

 

「少し離れるけど、集合時間に戻るから本屋に行っておいで」

「はい! 行ってきまーす! ダン先輩、行ってらっしゃい!」


 ぼくは本屋さんへ向かい、気になっていた漫画を手に取り、時間を気にせずゆっくりと眺めていた。


(先輩は王族関係の案件かな……? いつも忙しそうだけど、そんな中、ぼくを誘ってくれるなんて、親切……)


 そう思いつつ、のんびりと過ごしていたら、あっという間に集合時間が近づいてきた。ぼくは先輩との待ち合わせ場所へ急いで向かうことにした。


 待ち合わせ場所はドレス屋さんの入り口付近。ショーウィンドウには、色とりどりのドレスが並んでいた。

 ドレスなんて、実物をじっくり見るのは初めてだった。


 ふと目に留まったのは――真っ白なウェディングドレス。

 結婚式で花嫁が身にまとう、まさに夢のような一着だ。


(ぼくも成人したら、女性として生きていく。いつか誰かと結婚して、あのドレスを着る日が来るのかな……?)


 気づけば、そのドレスに見とれてしまっていた。レースや刺繍が繊細で、眩しいほどに輝いている。


「サラ、待たせたね」

 

 はっとして振り返ると、いつの間にかダン先輩が立っていた。

 

「そのドレス、気になってた?」

「――あっ、ダン先輩。おかえりなさい。えっと、その……少しだけ見てました」


 慌てながらも、正直に答えるぼく。だけど、次の瞬間、先輩から予想外の質問が飛び出した。


「そうか……。君には好きな人がいるのか?」

「えぇっ!? ぼくのことですか?」


 突然の恋愛話に、思わず声が裏返る。


「あぁ、君のことだよ」

「いないです!」


 思わず即答してしまったぼくに、先輩は少し微笑むと、静かに自身の話を始めた。


「そうか。わたしも今は恋人がいない。でも……探している女性がいるんだ」

「探している?」


 少し首をかしげたぼくに、先輩は真剣な表情で続けた。


「――行方不明の()()()()様のことだよ。君も噂くらいは聞いたことがあるだろう?」

「……あっ」


 その言葉を聞いた瞬間、ぼくの胸がざわついた。思わず視線をそらしてしまう。


(どうしよう。まさか、こんな形で自分の話題が出てくるなんて……!)


 (あせ)る気持ちを隠しきれない。でも、冷静に考えてみれば――。


(そうだ。ダン先輩は第2王子なのだから、『第一王女』に興味を持つのは当然だよね……)


 そう考えつつも、ぼくは先輩の質問に答えた。


「はい。彼女がまだ行方不明なのは……」


 その言葉を聞いた先輩は、ふっと優しい笑みを浮かべながら、静かに語り始めた。


「実はね……君が待っている姿を見ていた時、わたしもこの飾られているドレスを見て、彼女のことを思い出したんだ。あの子はどこかで生きている。そう信じているんだ。でも、誰にも見つけてもらえないなんて、あまりにも可哀想だろう?」


 言葉を紡ぐ先輩の目には、どこか遠くを見つめるような切なさが浮かんでいた。


「彼女が無事にどこかで保護されていたらいいのだけど……もし見つけられたら、わたしは彼女のことを抱きしめて、思いっきり愛したいと思う」


 先輩の優しい声。まっすぐで力強い想いが、ぼくの心に深く響いた。


『あの子はどこかで生きている』――そう肯定してくれる彼の言葉が、ぼくを少しだけ安心させてくれた。


(でも……『思いっきり愛したい』だなんて……?)


 思わず興味が湧いて、ぼくは尋ねてしまった。


「先輩……『愛したい』って、それはもし第一王女様を見つけたら……どうするつもりなんですか?」

「あぁ。見つけたら、わたしは彼女と――」


 そこで先輩は一呼吸置き、目を閉じて覚悟を決めたようで、言葉を続けた。


「『()()()()』」


 その言葉を聞いて、ぼくは思わず固まってしまった。


(『結婚する』……? そんな……)


 ルルが言っていた「()()()()()()()」という言葉の意味が、頭の中でくっきりと形を持ち始める。


 ダン先輩は、本当に御伽話の王子様のようだ。正義感に溢れていて、強くて優しい――。

 だからこそ、ぼくは絶対に言えない。


(『その第一王女は目の前にいますよ?』なんて言えるわけがない!)


 もし言ってしまえば、ぼくは先輩に王宮へ連れて行かれる。そして、花嫁として彼と結婚することになる……。


 そんな未来なんて、考えたくもない。


(ぼくのことを弟のように可愛がってくれる先輩と、結婚だなんて――!)


 鼓動が速くなっていくのを感じながら、ぼくは必死に自分の中で結論を出す。


(これ以上、第一王女の話をするのはやめよう。絶対にダメだ!)


 そう心に決めたその瞬間――。


「おや、ここにいた……」


 背後から、低く落ち着いた声が響いた。

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