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第一王女を探さないで〜隠された愛と男装王女の誓い〜  作者: 国士無双
第2章:王子様、ぼくを探さないで

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幸福という名の殺意〜天使達ノ集イ〜 ※第三者視点【※】

【※注意】暴力・拘束描写あり(R-15:背後注意!)

今回は第三者視点でお送りいたします。

 バイク乗りの服装をした小柄な彼女は、地面に落ちていた青い薔薇を迷いなく踏みつけた。

 

 そして、第5王子と、眠り姫のように眠るサラのもとへズカズカと詰め寄った。


「学会の発表ネタにとっておきたいくらい、面白い見世物だね。ふざけないで!」


 バチンッ――!


 第5王子を鋭く睨んだ彼女は、吐き捨てるように言ったと同時に、王子の右頬を全力で平手打ちした。


「ぐっ……!」


 研究者らしからぬ強烈な一撃に、王子は顔を歪めた。

 

 腕に抱えていたサラを支える手が緩み、その華奢な身体を取り落としそうになった。


 その一瞬の油断を、彼女は逃さなかった。

 空間転移の魔法を編み上げ、サラの身体をベンチへ移動させた。


「遅くなってごめん、サラちゃん。ゆっくり休みな……。私がシアンをボコボコにしとくから」


 彼女は淡緑色の長髪を指先で弄りつつ、「さて、どうしたものかね〜」と余裕のある言い振りを見せた。

 

 一方、王子は嫌悪感を露わにし、漆黒の翼を大きく広げて、押し殺した声で話し始める。


「あんたの名前は……オオバコ、だったか。何しに来た?」

「何しに来た? それはこっちのセリフなんだけど。サラちゃんをどこへ連れ去るつもり?」

「王宮だ。この娘は第一王女。俺の妻にする」


 恍惚とした顔で再びサラに歩み寄ろうとする王子を、オオバコが冷たくあしらった。


「俺の妻にする? はぁ……本当に悪魔族って自己中なんだから。私たち天使族が、そんな暴挙を許すわけないでしょ――」


 言い終える前に、オオバコはバイクの上に置いていたヘルメットを鷲掴みし、第5王子に向かって投げつけた。「よっ!」と、鼻で笑うような、涼しい顔で。


 だが、王子はそのヘルメットを、淡々と片手で受け止めた。

 

「よくも庶民の分際で、王子の俺に対してふざけた態度を取るものだな……」

「へぇ〜。今日のあんたは、方言を話さないんだ!」

「何……?」


 不服そうに眉間に皺を寄せる王子を見て、オオバコは「白々しいねー」と愚痴をこぼし、ズボンのポケットから、閃光手榴弾(フラッシュバン)を無造作に取り出した。

 

「シアン。正直に答えなかったら、これをあんたの顔面に叩きつける。だから、私の質問に答えてくれる?」

「物騒な真似を……。俺は一刻も早く王宮に行きたいんだ。だが、手短に済ませるのなら許そう」


 王子は腕を組み、不遜な態度のまま、質問を待っていた。

 対して、オオバコは心臓を射抜くような鋭い質問を投げた。

 

「あんたが殺したんでしょう? レンゲ様を」


 その問いは、サラの母であり、亡き王妃に関する内容だった。

 

「レンゲ」の名が出た途端、王子は動揺を隠せず、明らかに呼吸が乱れていた。


「あれ〜? 呼吸数が増えてるね。隠しきれていないよ、シアン。あんた、あの事件を境に、不自然な方言を使い始めたよね。それまでは、今みたいに澄ました話し方をしてたくせにさ?」

「違うッ! 俺()殺してない!」


 必死の抵抗とは裏腹に、王子の背後の翼は力無く項垂れていた。

 オオバコはその隙を逃さず、冷徹に言葉を重ねた。


「『()()殺してない』って言ったね。もしかして、現場で見ていたの? レンゲ様が事切れる瞬間と――犯人の姿を」

「これ以上、聞きたくない! ()()()の邪魔をするなァアアアッ――!」


 怒りが沸点を突破し、王子の額に血管が浮き上がった。


 忿懣遣る方ない表情をした王子の魔力に呼応し、オオバコが踏み潰したはずの青い薔薇が、ドロリと、粘りつくような赤いリボンへと変質していく。

 

 そのリボンは毒蛇のようにうねりながら、獲物(オオバコ)を狙って、音もなく動き出した。


「はぁ、声がデカすぎ……うぉっ!」


 リボンが生き物のようにオオバコの手足を縛り上げ、閃光手榴弾を握る手ごと、彼女の自由を奪い去った。


「最悪……っ! って、あんた! ちょっと……!」


 オオバコは悪態を吐きながら、絡まった呪縛のリボンを振り払おうと必死に踠く。

 

「話しかけるな。俺には時間がないんだ。第一王女との結婚を、貴様も反対するというのか」

「当たり前! レンゲ様は王宮を嫌がってたんだよ! 娘にまで同じ目に遭わせたくないって! 私は、サラちゃんにだけは辛い思いをしてほしくないんだ!」

「そんなの関係ない。俺がサラを幸せにすればいいだけの話だ。俺たちの未来を拒む邪魔者はいらない――お前を殺す!」


 完全なる殺意――王子は容赦なく、オオバコの首にも、ギュッとリボンを巻き付けた。


「ヴぅっ、……!」


 首を締め付けられ、オオバコは呻き声を漏らす。

 それでも、王子は魔法を緩めず、なおさら魔力を注ぎ込んだ。


「くっ……どうして……。そのリボン……ソヨウ様の、……魔法……っ」

「その名前を言うなぁ! 俺は、母さんに見て欲しかった! 第一王女と結婚式を挙げて、俺が幸福を掴み取る姿を……っ!」

 

 黒い翼を大きく広げて、王子は哀しき凶行を完遂しようとしていた。

 

 オオバコは死を覚悟し、瞳を閉じる。

 

『レンゲ様、ごめんなさい……!』と。


 しかし。


「やめなさい、シーちゃん!」


 凛とした、透き通った声が路地裏に響き渡った。


 その響きに郷愁を覚えた王子は驚愕して、魔法を反射的に解除してしまった。


 縛り上げていた赤いリボンが、あっという間に解けていく。

 

 直後、拘束を解かれたオオバコは、「ソ……さま、ありがと……」と呟き、そのまま地面に崩れ落ちた。

 

「俺のことをシーちゃんって呼んでくれた……。いるのか、お母さん!」


 王子――シアンは縋るような声をあげ、光が差し込むベンチの方へ勢いよく振り返った。

 

 だが、そこにいたのは。

 愛らしい姿をした真っ白なウサギの従魔――ルルだった。

シアンのお母様「ソヨウ」の名前の由来は、生薬の「紫蘇葉」から来ています。

花言葉は『力が蘇る』・『善良な家風』

次回もお楽しみに。

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