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第一王女を探さないで〜隠された愛と男装王女の誓い〜  作者: 国士無双
第2章:王子様、ぼくを探さないで

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青い薔薇と、魔王に愛された王女【※】

【※注意】身体的な接触表現あり(R-15:背後注意!)

 涙を流しても、何も解決できない。

 だからこそ、このまま引き下がるわけにはいかなかった。


「違う! ぼくは王女じゃない! 男だし、未成年だから、貴方とは結婚できない!」


 少しでも時間を稼ぐため、第5王子がぼくに指輪をはめる前に、必死で拒絶の理由を口にした。


 意外にも、第5王子は納得して、動きを止めた。


「確かに、俺は君の身体を見ていない。ならば、ここで確かめさせてもらおうか」

「確かめるって……?」

「そこで聞きたいことがある。どこに第一王女のアザがある?」


 突拍子もなく、それでいて、核心を突く質問だった。


(アザの場所なんて答えられるわけない! 今は、お店の人たちを救い出すことが最優先だ!)


「何を言ってるんですか? それよりも、この結界を解除して!」

「質問に答えないとは。そもそも、君は男じゃないだろ? もし、男だと言うのなら、ここで脱いで――全部」

「なっ……!」


 身構えてしまった。

 さっきは剣術で攻撃できていたのに、今は剣が入り口に刺さったままだ。

 

 取りに戻りたいけれど、動いてしまえば、次はどんな目に遭わされるのか……。

 想像するだけで、体が凍りつく。


「すぐ脱げないってことは、やっぱり男じゃないんだろう。仕方ない、俺が脱がせる――」

「えっ!」


 彼の骨張った指先が制服のファスナーに触れ、冷たい金属の擦れる音が鼓膜に響く。


「やだぁっ! 下ろさないで!」


 恐怖に耐えきれず、強く目を閉じて叫んだ瞬間――不意に、肌を刺すような威圧感がぴたりと止まった。


 恐る恐る目を開けると、第5王子が不機嫌そうに背後を振り返っていた。


「なんで、ここにいるッ!」

「それは、こちらのセリフです! 未成年の少年に、ファーストフード店でプロポーズをするなんてっ! TPOをわきまえてください!」


 そこにいたのは、オーちゃんと同じ尖った耳に、長い銀髪――ルーさんだ!

 

 ルーさんは怒りをあらわにしながらも冷静に、第5王子に白いポピーの花束を突きつけ、強引にその香りを吸わせていた。


「ぐっ……! 何をした?」

「このお花はポピーです。僕が魔法で細工を施したから、今の貴方は体を動かすことができない! 無論、その傲慢な魔力も封じさせてもらいました」


 ルーさんが言い終えると同時に、店全体を覆っていた結界がパリンッ! と音を立てて、霧散していく。

 

 第5王子は床に膝をつき、「くそっ……」と悪態を吐きながら、なおも執念深く抵抗していた。


(良かった。ルーさんが来てくれて……!)

 

 すぐにお礼を伝えたかったけれど、ルーさんは引き締まった表情で、ぼくに指示を出した。

 

「サラさん、この魔法は数分しか持たない! 救助は僕がするから、急いで逃げて! 話はあとで!」

「ルーさん、お願いします……!」


 ぼくはルーさんの言葉に甘え、入り口に刺さった剣を引き抜いてから、店を飛び出した。


(うぅっ、荷物は……後で回収すればいいよね?)


 とりあえず、男子寮に戻ろうと、死に物狂いで走り続けて十数分――。


「はぁっ……! こんなことになるなんて……!」

 

 口内に鉄の味が広がり、体が焼けるように熱くなったぼくは、珍しく弱音を吐いてしまった。

 

 さっきの第5王子とのやり取りで、心身ともに本調子じゃない。

 その上、どんよりした曇り空に気分まで沈んでしまい、このまま男子寮まで走り切れるのか怪しかった。

 

(ダメだ、足がもつれそう……)


 限界を迎えたぼくは、人気のない路地裏に身を潜めた。

 そこには、なぜかポツンとバイクが一台置かれていた。


(まぁ、誰もいないから、いいよね?)


「ちょっとだけ休憩しよう……」


 バイク近くのベンチに座り込んで、呼吸を整える。

 

 誰もいないのを見計らって、ルルがいつもの姿に戻り、ぼくの頭を優しく撫でた。


「よく乗り越えたわね。わたしのサポートなしで、本当に頑張ったわ」

「ルル……でも、ぼく、バレてしまった。言われてしまったんだ……」


「泣かないで、()()()()」という第5王子の言葉。


 認めたくないその言葉が、呪いのように耳にこびりついて離れなかった。


 また涙が溢れてしまった。


「サラちゃん、今はルーさんたちを信じましょう。ダン先輩の時のように、あの方言を話す彼に戻してくれるわ。大丈夫、何があっても、わたしがずっと隣にいるから」

 

 温かい励ましに「うん……」と頷くと、ルルはキーホルダーの姿に戻った。

 

(確かに、クヨクヨ悩むのはダメだ!)


 気持ちを切り替え、ぼくは木刀を手に立ち上がった。

 

 ちゃんと男子寮へ戻ろう、と決意した――その時だった。


 ヒュゥルル――と、どこからか、楽しそうな口笛が聞こえ始めた。

 同時に、路地裏が濃灰色の霧に包まれ、視界が奪われる。


(何が起きたの?)


 本当はすぐ逃げ出したい。

 だけど、霧のせいで、一寸先も見えない。

 

 ぼくは慌てて、バイクと壁の隙間に身を隠した。


 すると、口笛が止んだ。

 それでも、霧の向こうから、ヒュゥウウと風が通り抜けて、ある人影が浮かび上がる。

 

 コツ、コツッ……。

 

 まるで、どこかの魔王様のように、堂々とした足取り。


 ぼくは、この足音を知っている。

 

 さっきのように攻撃すればいい。

 

 誰もが、そう思うはずだ。

 

 けれど、さっきとは比べものにならないほど、禍々しい魔力が渦巻いている。


 こんなの勝てるわけがない!


 恐怖で、ぼくは顔を隠すことしかできない。


(あぁ、なんて無情なの……!)


 足音が、目の前で止まった。


「あぁ、見つけたよ。可愛い俺の花嫁。俺と遊ぼう」


 霧の中で、彼が差し出したのは――【青い薔薇】。


「君にこの青い薔薇をプレゼントする。さぁ、一緒にウェディングドレスと夜会用のドレスを見に行こうか……」


 その声は、甘くて、不思議と心地良い。

 一瞬、怖さを忘れそうになった。


(貴方を受け入れたら、この逃走生活から解放されて、本当の「女の子」になれる……?)

本エピソードの後半、シアン殿下の登場シーンはシューベルトの『魔王』がモチーフです。


三連符のピアノが刻む激しい馬の足音、執拗に追いすがる霧、そして「一緒においで」と囁く魔王の誘惑。


逃走生活の果てに、彼女は「第一王女としての未来」を差し出し、ある『魔王』様の手を取ってしまうのか。


その結末を、ぜひ最後まで見守っていただければ幸いです。

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