狂愛〜ナゲットが届く前に、式を挙げようか〜 ※第一王女→第三者視点
【※お知らせ】物語の進行に合わせて、第一王女視点から第三者視点に切り替わる箇所がございます。
どうして、貴方がここに――。
と言えれば良かったのに、なぜか緊張して、声が出なかった。
ぼくの沈黙を不審に思ったのか、相手はまた楽しげに話しかけてきた。
「この前は泣かせてごめんね。口にソースが付いとるよ」
そう言って、いきなり、ぼくの唇に親指を当てたのは――方言を喋る第5王子。
「うっ……! こちらこそ、ごめんなさい……」
「大丈夫。顔が真っ赤や……かわいいね」
「な!」
ぼくは背けようとしたけれど、顎に添えられた彼の人差し指に逃げ場を塞がれ、動かすことができない。
(何を考えているの?)
意図がわからないから、怖い。
不安に思っていたところ、エバスくんが第5王子の腕を掴み、間に入ってくれた。
「シアンさん。オレもサラちゃんのこと、初めて会ったときは女の子だと思ったんすけど、男の子っすよ。離してあげてください」
「ふっ。エバス、面白いこと言うなー。かわいいからねぇ、遊んでみただけ」
第5王子は悪気がないといった素振りを見せて、指を離してくれた。
そして、ポケットから何かチケットを取り出して、ぼくに渡してきた。
「これ、お詫び。本当にごめん」
申し訳無さそうに頭を下げる第5王子。
その姿を見て、エバスくんが目を丸くしていた。
「こ、これは……?」
「ナゲット無料サービス券。俺、ナゲット大好きやけど、君にあげる」
商品券――この前のニコくんの時と、全く同じ流れだ。
しかも、あのミステリアスな第5王子の大好物が、ナゲット……?
(王子様って、意外と庶民的なのかな?!)
「ふっ……」
面白い一面を知れた感じがして、失礼なことに、ぼくは吹き出してしまった。
「笑っとる。なんかおもろかったんかね?」
「いやー、オレもツボった理由がよくわからないですね」
二人とも、頭にハテナマークを浮かべていた。
(しまった! 何か言わないと!)
そこで、手に持っている商品券を見ると、「15個入り」と書いてあった。
今ここにいるのは、三人。一人あたり5個食べられるから、ここでシェアすればいいかも。
ぼくは立ち上がり、二人の前で宣言した。
「あの、嬉しくて……笑いました! この商品券、ありがとうございます。早速、買ってきます! みんなで食べましょう?」
隣に座っている第5王子が「いや、君一人で食べていいんよ」と制した。
けれど、ぼくは「みんなと食べたいです。買いに行ってきます!」と言って、強引に席を開けてもらい、一階のカウンターへ向かった。
(良かったぁ……あの冷徹で標準語を話す第5王子じゃなくて、ラッキー!)
ぼくは最後列に並んで、順番を待つことにした。
早くナゲットを買って、三人で笑いながら食べて、この緊張感からおさらばするんだ!
そんな淡い期待を抱いていたぼくは、まだ知らなかった。
ぼくが立ち去った直後、二人の間でどんな会話が交わされたのか――。
* * *
サラが階段を降り、姿が完全に見えなくなると、二人の王子の間に、王族子女会議終わりの弛緩した空気が流れていた。
「……で、結局、ザダ校には、第一王女はおらんかったんやろ?」
「はい。オレも健康診断の結果を見ましたけど、そもそも女子の数が少ないし、天使族自体もいなかったんすよ」
「へぇ。ノイラが『結果は見てないけど、やっぱりいないじゃん!』って自信満々やったけど、ほんまにおらんのかぁ〜」
シアンは退屈そうに溜息を吐くと、指の関節をパキパキと鳴らした。
「ところでさ、さっきの子、面白いよな」
「サラちゃんのことっすか?」
「サラ……か。かわいい響き」
その問いに対して、エバスは何も答えず、残ったジュースを一気に飲み干した。
「それより、シアンさん。何も注文しなくて良かったんすか?」
「あー、三階の喫煙所でスッキリしてから食べようと思ってたんよ」
「なるほど。それなら、シアンさんも一緒に、買いに行けば良かったのに」
「まぁ、色々あってな……。いやぁ、他にどうやって、第一王女を特定しようかね?」
シアンは、先ほどまでサラが座っていたソファに残る温もりを、愛おしむように、ゆっくりと指先でなぞった。
その異様な様子を見て、エバスがポツリと呟く。
「シアンさんも、やっぱり『運命』に囚われてるんすね」
「ん、なに?」
「みんな、第一王女様に夢を見過ぎなんですよ。現実は厳しい。運命なんて、都合の良い幻想だ。オレは信じない」
「そう……」
エバスの言葉が引き金になったのか、シアンの纏う空気が一変した。
「第一王女は生きている! 俺は運命を信じて――」
激昂したのか、あるいは何かに耐えかねたのか。
シアンはバタン! と大きな音を立ててテーブルに突っ伏した。
「シアンさん?! 大丈夫っすか?」
エバスが心配して、顔を覗き込もうとしたが、それは叶わなかった。
伏したままのシアンの手が、パチンと乾いた音を鳴らす。
刹那、店内の照明が不自然に明滅した。
周囲の音が吸い込まれるように消え、目に見えない強力な魔力の結界が店全体を包み込む。
ドサリ、ドサリと、周囲の客たちが糸の切れた操り人形のように、机に突っ伏していく。
「ちょっと! 何やってるんすか!」
エバスは怒りに任せて、立ち上がろうとした。
しかし、全身を鉄の鎖で縛られたような圧迫感に襲われ、指一本動かせなくなった。
「ひっ……!」
悲鳴をあげたエバスの視界に、ゆっくりと顔を上げたシアンが映る。
そこにいたのは、冷酷なまでに整った、けれど熱に浮かされたように上気した「もう一人の第5王子」だった。
「俺は二人きりになりたいんだ。邪魔者は眠れ……」
方言を完全に捨て去った彼は、氷のように冷たく、禍々しい魔力を放っていた。
その鋭い眼光に射抜かれたエバスは、抗う術もなく意識を刈り取られ、机に顔を埋めた。
静寂に包まれた二階席。
シアンは優雅に立ち上がり、獲物を狙うような目付きを、階段の方へ向けた。
「おいで、サラ・クラウン。今日こそは、君を俺の婚約者にするから」
シアンは胸ポケットから、高級そうなケースを取り出し、箱の中を確認した。
「このダイヤモンドの指輪、君にぴったりだろうな。今すぐにでも、式を挙げたいよ……」
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次のお話も、どうぞお楽しみに。




