夏休み初日、最高で最悪の再会
テスト期間を終え、ついに夏休みが始まった。
みんなと切磋琢磨した結果、1-A組は一人も赤点を出さずに済んだと、キーちゃんが嬉しそうに話していた。
しかも、実技試験の対策を頑張ったおかげか、キーちゃんの担当科目である『魔法家庭学』で、なんとぼくは満点を取ることができた!
(いや、本当に良かったー!)
せっかくの夏休みだし、アダムさんたち実験部のみんなと遊びたいところだけれど……。
70点未満の科目は十日間の補習が必須。アダムさん、アンズちゃん、ケイちゃんの三人は、魔法家庭学で引っかかってしまったらしい。ニコくんは補習対象外だけど、今日はあいにく外出予定があると言っていた。
そこで、おじさんの家に帰ろうかな、なんて名案が浮かんだものの、おじさんは趣味の草野球大会の合宿中。オーちゃんも学校医の仕事で忙しいみたい。
そうなると、最後に思いついたのが、剣術部の活動だ。
部室に向かい、ホワイトボードのスケジュール表を確認したところ、双子のシロくんとクロくんは実家に帰省中。ダン先輩も『王族子女会議のため不在!』と力強い筆跡で書かれていた。
(ニコくんの外出って、この会議のことだったんだ!)
腑に落ちたと同時に、結局、剣術部の部室には誰もいないことが判明した。
「残念……。あっ、せっかくだし、掃除でもしていこうかな!」
しっかり戸締りを確認し、部室を清掃することにした。
それから、一時間が経過した頃。
「やったー! 終わったー!」
綺麗にした達成感と共に、どうしようもない空腹感を覚えた。
(お腹空いちゃった……。お昼、どうしようかな?)
部室から出て、空を見上げる。
今日は晴れ。
驚いたことに、フライドポテトみたいな形の雲がぽっかりと空に浮かんでいる。
その雲を見て、ぼくはあるお昼ご飯を食べたいと心に決めた。
「そうだ! ポテトとハンバーガーを食べよう!」
思い立ったが吉日!
学校を出て、商店街のファーストフード店へ向かった。
本当はルルの分も合わせてテイクアウトするつもりだったけれど、お店に入ったところで、後ろからトントンと肩を叩かれた。
「えっ?」
「サラちゃん、だよな? 久しぶり!」
振り向くと、目の前にいたのは、特別科の制服を着たエルフの青年――第8王子のエバスくんだった。
「エバスくん、お久しぶり!」
「よっ! サラちゃん、ここで食べる予定?」
「うん!」
「それなら一緒に食べようぜ。オレが奢る!」
「えぇっ?!」
エバスくんがぼくの両肩に手を置いて、「この前、姉ちゃんを助けてくれただろ! そのお礼!」と、立て板に水の如く、捲し立てる。
「本当にいいの?」
「当たり前だろ?お互いテスト頑張ったもんな!」
エバスくんはドヤ顔でモニターのメニュー画面を見つめ、どれにしようか悩み始めた。
その間に、ぼくは、ベルト通しのルルキーホルダーに軽く触れて、心の中で謝る。
(ルル、ごめん。あとでテイクアウトするから、待ってね……)
すると、ルルは羽を一度だけ横にパタリと動かして、「いいわよ」と承諾してくれた気がした。
「おーい、サラちゃんはどうする? 好きなの選んでいいぜ。 遠慮するなよ!」
「じゃあ……」
ぼくが頼んだのは、スパイシーチキンバーガーとLサイズのフライドポテト、それにオレンジジュース。
エバスくんの言う通り、テストを頑張ったご褒美として、ポテトは奮発してワンサイズ大きくしてみた。
二人で二階のテーブル席へ移動し、出来立てのハンバーガーセットをテーブルに広げる。
「わーい! エバスくん、ありがとう!」
「気にしないでくれよっ! 食べようぜ」
「いただきます!」
早速、お気に入りのスパイシーチキンバーガーを一口パクリ。
ブラックペッパーが効いたチキンにシャキシャキのレタス。その上にピリ辛のソースが絡み合って、口の中で絶妙なハーモニーを奏でている。
「うーん! 美味しい!」
「だろ?」
無言でバクバクと食べ進めていき、気づいた時には、お互いドリンクだけが残っていた。
「すげぇ。サラちゃん、結構食べるんだな!」
「だって、ぼくは普段、剣術部で活動してるからね?」
手を紙ナプキンで拭いた後、ソファに置いていた木刀袋を見せると、エバスくんは「あっ!」と思い出したようにポンと手を打った。
「そういや、剣術部ってダン先輩と同じ部活か。今日会議で会ったけど、相変わらず忙しそうだったぜ。第2位ともなると大変だよなぁ。その点、オレは第8位っていう、最高に気楽で、なんだかんやで美味しいポジションだから、ラッキーなんだけどさ。それにしても、あの会議はだるいけどな!」
エバスくんが愚痴をこぼし始めた、その時。
「あれ? エバス、お疲れさん」
背後から、感情のこもっていない声がした。
聞き覚えのある、けれど一番聞きたくない声。
(あぁ……嫌な予感しかしない)
心臓の音が耳元まで響き、指先がサーッと冷たくなるのが分かった。
恐る恐る後ろを振り返ると、そこには、ぼくやダン先輩にひどいことをした、あの王子様が立っていた。
(うわぁ……目が、合っちゃった!)
「おっと、君は――」
彼はニヤリと笑うと、逃げる隙も与えず、グイッと距離を詰めて、ぼくの隣に座った。
同時に、鼻につく煤臭いタバコの匂いが、ツンと押し寄せてきた。




