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第一王女を探さないで〜隠された愛と男装王女の誓い〜  作者: 国士無双
第2章:王子様、ぼくを探さないで
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第6王子との不思議なひと時

 どうしてニコくんがぼくの部屋を知っているのだろう?

 一瞬そんな疑問が頭をよぎったけど、それを追及する前に、「ニコくん、どうしたの?」とまずは彼の目的を聞いてみることにした。


「さっきは乱暴にしてすまなかった――これ、差し入れ」


 そう言って、ぼくに漫画とトマトを手渡す。なぜか彼の手が冷たくて、思わず「きゃあ!」と驚いた声を上げてしまった。


「ニコくんの手、冷たい! どうしたの?」


「ん……大丈夫。冷え性なだけ」と言って、彼は隣の部屋に入ろうとしていた。


(えっ。もしかして、ニコくんってお隣さんだったの?)


「まっ、待って! お腹空いてないの? このトマトで、ミネストローネ作れるけど……」


 しまった……! ぼくはオーちゃんに『吸血鬼には気をつけて』って言われていたのに、ご飯のお誘いをしちゃった。


「空いてる……」

「じゃあ、食べる?」

 

「いいのか? お部屋に入って」と彼は問いかけながら、一歩グイッとぼくの方へ近づいてきた。その動きは思った以上に力強く、驚きで思わず後ずさりしそうになる。なぜなら、彼の体はとても大きくて……一瞬で圧迫されたかのように感じた。


「いいよ。でっ、でも……! ぼくとの約束を守って! ぼくの部屋に入っていいけど、さっきみたいなことはしないって約束して……」

「わかったよ、オウレン先生にも注意されたから」


『そうだったんだ……』と思いながらも、彼をぼくの部屋に案内した。

 

「そのソファに座って待ってねー! 今から作るね?」

「わかった……」


 ニコくんが素直にソファへ腰を下ろしたのを確認して、ぼくは急いでキッチンに向かった。待ってる間に退屈しないよう、近くに置いてあった漫画を渡したけど、彼は特に反応せず黙々とページをめくっていた。


 ――やがて、ミネストローネが完成した!

 

 テーブルに置くと、ニコくんは静かにそのミネストローネを見つめて、スプーンを手に取る。


「どう?」

「美味しいよ」


 短い言葉だったけど、その一言に思わずホッと胸をなでおろす。「よかった〜!」と笑顔で応じると、彼がふいに目を上げて言った。


「おかわりあるか?」

「もちろん!」

 

 ぼくは「おかわりあるか?」と聞いてくる彼の様子を見て、ちょっと笑ってしまった。10歳の時に体験したエピソードを思い出した――アダムさんも確か、蜂に刺されてアナフィラキシーで倒れた後、だんご汁をいっぱいおかわりしてくれたんだよね。


 ニコくんもアダムさんと同様に王子様だし、クールなタイプだけど、もぐもぐ食べている姿を見てると、ぼくと同い年なんだと思っちゃう。


「実は……」と珍しくニコくんから、声を掛けられる。

 

「どうしたの?」

「2点相談したいことがある。1点目はバイクの免許を取ったから……見に行きたいと思ってるんだけど、そういうのに詳しい人物っているか? 2点目はどこか部活に入ろうとは思っているけど……あんまり参加しないでも良さそうな部活ってある?」


 たまたまアダムさんのことを思い出していたけど、まさか「バイクに詳しい人物」で登場するとは。後、部活もアダムさんが「幽霊部員でもいいから、入ってくれそうな人がいたら紹介して」と言っていた。


(なんて偶然なのだろう!)


 ぼくは彼の相談に即答する。


「いるよ! ぼくの隣に座っているアダムさんがバイクのこと詳しいから、一緒に来てくれないか聞いてみよっか? 部活もアダムさんが募集してたかも。それも聞いてみるね?」

「いいのか……色々ありがとう」

「うん、どういたしまして……。免許取ったんだね。すごい!」


 そうだ、アダムさんが言ってた。16歳以上じゃないとバイクは乗れないって。

 つまり、彼は4月に誕生日を迎えてすぐ免許を取ったのかもしれない。


「ニコくんって、誕生日いつなの?」

「4月3日……」

「そうなんだね! あっ。ところで、オーちゃんとは仲直りしたの?」


 ふとぼくが寝ている間に何が起きたのか気になって、ざっくり聞いてみることにした。


「……()()()()()?」


(あっ、しまった。つい愛称で呼んでしまった!)

 

「オウレン先生のことだよ?」と補足すると、彼は「ふぅー」と息を吐き出し、どう答えるべきか悩むような仕草を見せた。


 しばらくして、彼の方から、ぽつりと口を開く。


「まぁ、君が女性だとバラすようなことはしないと誓ったさ」

「そっか……」


 ぼくは一安心した。ケンカしてたのだろうけど、あの後、冷静にやり取りをしていたのかもしれない。


 

 彼は「食べたから、帰る」と言って、玄関の方へ向かっていった。見送りでついて行ったら、ふとニコくんの方から話しかけてくれた。

 

「仲がいいんだ。オウレン先生と……」

「うん! だって、ぼくのことを育ててくれたから」

「そうか……()()()ご両親は、生きているのか?」


 彼が静かにそう尋ねた瞬間、胸が少し締めつけられる。

 エルフのオーちゃんとぼくの間に、血の繋がりがないのは、誰が見ても明らかだから……。


 だけど、ぼくは第1王女で、ニコくんは第6王子――王族の彼に、本当のことなんて言えるわけがない。ぼくが言えるのは、濁した回答だけだ。


「わからない……」


 そう呟くと、彼はじっとぼくを見つめてきた。その視線があまりに真っ直ぐで、思わず続けてしまう。


「でも、オーちゃんたちがぼくにとって、家族だから。それでいいんだ!」


 自分でも不思議なくらい、自然にそう言えた。

 ぼくが出した答えに、彼も少し意表を突かれたようだったが、しばらくして彼はリラックスした表情に戻る。


「ふーん。まぁ……その気持ち、分かるかもな」

「えっ?」


 珍しい。あまり他人の話に同調するタイプじゃないのに――どうしたんだろう?


「オレは第6王子って立場に、特別なプライドなんて持ってない。正直、王様になりたいとも思わないしな。要するに、君が言いたいのは、自分が大事だと思うものを軸にすればそれでいいってことだろ?」


 予想外の言葉に、一瞬だけ息が詰まる。


(わぁ……ニコくんがこんなに語るところ、初めて見た。いつも無口なのに、こんなに話すなんて!)


 驚いたことに、彼の本音を少しだけ垣間見た気がする。

「王様になりたいとも思わない」――彼は、欲や野心よりも、自分に正直でいたいタイプなのかもしれない。


 でも、人生は一度きりだ。ぼくも、彼がどう自分らしく生きていきたいのかを尊重したいと思い、ウンウンと大きく頷いた。


「じゃあ」


 短くそう言って、彼は部屋を出て行こうとする。だけど――ふと立ち止まり、ぼくの方を振り返る。

 そして、らしくない微笑みを浮かべながら、彼はそっとぼくの耳元に近づき、低いけどいつもより優しい声でつぶやいた。

 

「オレは一般科でよかった――君といると、時間が早く感じる。一緒にいるだけでも、十分楽しい。またオレと遊んで……」


 そう言って、彼は隣の部屋に入って行った。


(まさか、こんな少女漫画みたいな甘いセリフを耳元で言われるなんて……!)


「そういうセリフは……男だと偽っているぼくではなく、素敵な女の子に言うべきなんだよ?」――そう返せたらよかったのに。だけど、彼がさっきまでここにいたという余韻が、まだ心から離れなくて……ぼくはドアの前から動けなかった。


 一方、ニコくんがいなくなったのを確認したタイミングで、ルルがぼくのところへやってきた。


「あら、サラちゃん。耳まで真っ赤になってるわよ」と言われて、思わず顔を覆った。


 言わなくても分かってる……。自分のほっぺたが熱を帯びているのは、嫌でも感じていたから。


 ぼくは、そんな赤みをどうにか抑えたくて、そっと手を頬に当てる。


 ……それでもぼくの余熱はなかなか引かなかった。

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