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第一王女を探さないで〜隠された愛と男装王女の誓い〜  作者: 国士無双
第2章:王子様、ぼくを探さないで
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天使族の血は極上

 ぼくはふと目を覚ました――寝起きで頭がぼんやりしている。なんだか、いつものベッドと感触が違う?

 

 そうだ! ニコくんがここまで運んでくれたけど……今日って授業半日だから、もしかして……!


 授業をサボってしまった!? その考えが頭をよぎり、慌ててシーツを跳ねのけた。けれど、体に力が入らず、またベッドに倒れ込んでしまう。


「うわぁー!」


 ぼくの間抜けな声が響く。すると、オーちゃんが慌てて駆けつけてくれた。


「サラちゃん、大丈夫? 慌てなくていいからね。担任の先生には、体調不良で休むって私から連絡しておいたから、安心してね」

「オーちゃん! ごめんね……いろいろ手配させちゃって」

「謝らなくていいの。それより……さっきの男の子、サラちゃんと同じクラスの子なの?」

「うん……お友達だよ」


 そう答えながら、内心ヒヤリとする。さっき、ニコくんと「内緒(ナイショ)にする」って約束したばかりだ。


(「彼は王子様なんだよ」なんて、オーちゃんには絶対言えない……)


 けれど、オーちゃんの視線が鋭くなる。彼女は何かを察しているみたいだ。


「彼、吸血鬼よね? 何か言われなかった?」

「えっ……?」


 しまった、こう言う時すぐ「何も言われてない!」って言い返さないといけないのに、ふと匂いのことを思い出してしまった。でも、匂いがしていないか聞いてみてもいいかもしれない。


「オーちゃん……その、ぼくって、何か匂いがする?」

「しないから安心して……。彼になんて言われたの?」

「甘いって……」

「……」

 

 流石に「()()()()」は言えなかった。恥ずかし過ぎて。

 

「そうね……。吸血鬼って、血以外の飲食を覚えると嗅覚が鈍るって言われているけど、彼は魔力が強い吸血鬼だから、その影響を受けていないのね。だから、サラちゃんの性別も嗅ぎ分けられたんだと思うわ」

「そっか……。オーちゃんは、あの後ニコくんと何か話したの?」

「少しだけね。彼がサラちゃんのお友達だってことはわかったわ。でも――」


 オーちゃんの表情が一瞬引き締まる。


「サラちゃん、男の吸血鬼には本当に気をつけて。彼らにとって、天使族は“極上”の存在だから……」


 そう言って、オーちゃんは吸血鬼族に関する説明書を手渡してくれた。


 その本には、こう書かれていた。


『吸血鬼は補血を行う際、人間、エルフ、天使の血を好む。特に天使の血は希少で、極上。美味である』


 ページをめくるたび、吸血鬼族の本能や文化についての詳細が記されている。手に取った瞬間、背筋に冷たいものが走るのを感じた。


(だから、「美味しい」って言ってたんだ……! どうしよう! ぼく、天使族ってバレてないかな?)

 

「それとね……吸血鬼にとっては、血だけじゃなくて体液も栄養になるの。本当に危険だから、強引にキスされそうになったら、絶対に逃げて!」

「えっ!? ……う、うん。気をつけるね……」


 その瞬間、更衣室での出来事が脳裏によみがえった。閉じ込められて、キスされそうになったあのとき――。ニコくんはあの場で、本当にぼくを“食べる”つもりだったのだろうか?

 彼の意図はわからないけど、あれは……本当に恥ずかしかった。思い出しただけで、頬が熱くなる。きっと、顔がピンク色になっているのがオーちゃんにも見えてしまったのだろう。


「サラちゃん……本当に気をつけてね。あなたは、とてもかわいいのだから」


 優しい声とともに、オーちゃんはそっとぼくの頭を撫でてくれた。その手の温もりに、一瞬驚きつつも、安心感が広がる。

 才色兼備なオーちゃんから、こうしてアドバイスをもらえるのは、本当に心強い。


 ぼくの中で不安が少しだけ和らいだ気がした。


 

 その後、だいぶ体が動けるようになったため、保健室を出て、寮の自室へ戻ることにした。

 

 早速パソコンを開いて、例のSNS内の【王妃様に感謝し隊】メンバーに相談してみることに。


(オーちゃんとニコくんがケンカしてたから……)


『ボクには仲良しのお姉ちゃんとお友達がいるけど、その2人が今日言い争いをしてたんだ……。ボク、ケンカって苦手なんだ。これからどう対応すればいいんだろう?』


 そう相談すると、すぐに【(クレナイ)】さんから返事が来た。でも、その内容に驚いてしまった。


『ララちゃん、それって、もしかして……三角関係?! 2人ともララちゃんのことが好きなんじゃない?』


 三角関係だなんて――!

 そんなこと、絶対にない。

 オーちゃんは、お母さんみたいだったり、お姉ちゃんみたいな存在だし、ニコくんは趣味友達って感じ。

 

 でも、一瞬だけ「もしそうだったらどうしよう?」と考えてしまった自分が恥ずかしい。


『えぇー! ボクは2人のこと好きだけど、恋愛の好きじゃないんだ。家族や友達として、本当に頼りになるって感じかな?』


 慌てて返信しながら、胸がドキドキしていることに気づいてしまった。紅さんの恋バナ発言は、なんだか妙にリアルで、少しだけ動揺させられた。

 

『こんばんは。ケンカを見ていると心が痛みますよね、わかりますよ。わしも兄弟たちがよくケンカをしてのう……ツラいです』と【老人万華鏡(ろうじんまんげきょう)】のおじいちゃんもログインしたようで、すぐ同調してくれた。


『おじいちゃん、こんばんは! ボクも心が痛むタイプだから、なんだかホッとしちゃった』

『わしもじゃ〜。ケンカを見るのは辛いのう……』


 やさしいおじいちゃんの言葉に、ぼくは少しだけ心が軽くなる。同じように感じてくれる人がいると知るだけで、こんなに安心できるんだ。


 紅さんはそんなぼくたちに的確なアドバイスをしてくれた。

 

『ララちゃんとおじいちゃんの2人はとても優しいんだね。そうだ! 【エスプレッソ伯爵(はくしゃく)】に相談したらどう?』


「確かにー!」とつい現実世界で声を上げてしまった。そんなぼくの発声と共に、通知が来た――エスプレッソ伯爵だ!

 

『こんばんは』


 これには紅さんも『ナイスタイミングだね』と感心している。

 

『喧嘩のような衝突は――内なる感情が絡んでいるからこそ起こる。だから――感情を整理しない限り、対立は続くものだ。ララ。君ができることは、お姉様とご友人に冷静に話し合う機会を提供することだよ。もしくは、少し距離を置いて状況を観察するのも1つの手だ。彼女たちが自分で解決するのを待つという選択も、賢明な判断だろうね』


 なんて的確で冷静なアドバイスなんだろう――しかも、こんなに丁寧に答えてもらえるなんて。ぼくは思わず笑顔になって、お礼を伝えた。


『すごい……! さすがだよ! 素敵な解決策をありがとう、エスプレッソ伯爵!』


『君の悩みなら、いつでも相談に乗るさ』と返ってきたのは、彼らしいちょっとキザなセリフ。だけど、それが逆に嬉しい。


 すると、おじいちゃんもすかさずコメントを入れてきた。


『わしも伯爵の意見を参考にするよ。これで兄弟喧嘩が減ればいいのだがのう〜』


 その言葉に対し、伯爵は淡々と『どうぞ』と返答。やたら冷静な返信が、逆に面白くて、ぼくは思わずくすっと笑ってしまった。

 

『あっ、そろそろ夫が帰ってくるから離脱するね〜』と紅さんが軽やかに締めくくる。旦那さんとの時間を大切にしている彼女らしい言葉に、ぼくは自然と笑みがこぼれる。


 紅さんが伯爵を頼るように助言してくれたおかげで、ぼくは本当に救われた。名残惜しいけど、お別れの挨拶をすることにした。


『ボクもご飯食べようかな! みんなありがとう。また会おうね!』


 エスプレッソ伯爵が『また』と返してくれた。その一言に、どこか安心感を覚える。

 そしておじいちゃんは『ノシ』とかわいらしい絵文字で応えてくれた。


 画面からみんなの名前が消えていく。少し寂しいけれど、心には温かい余韻が残った。


 ぼくもそろそろ、ご飯にしようかな――みんなのおかげで、今日のご飯はなんだかもっと美味しく感じられそうだ。


 ぼくはパソコンの電源を落とし、ぐーっと背伸びをした。更衣室や保健室での出来事があって少し疲れたけど、みんなとは心地よいやり取りができたなぁ〜! そんな余韻に浸りながら、晩ご飯のことを考える。


 外食する気分でもないし、自室で簡単に料理を作ることにしよう。

 冷蔵庫に何があったっけ? そんなことを考えながらキッチンに向かおうとした、その時。


 『ピンポーン』とチャイムの音が部屋中に響いた。


(こんな時間に誰だろう?)


 少し警戒しつつドアを開けると――。

 

 そこには、漫画とトマトを手に持ったニコくんが立っていた。


 「……なんで漫画とトマト?!」


 思わず口にしたぼくの言葉に、ニコくんは悪びれる様子もなく、無言でじっとぼくを見つめていた。

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