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第一王女を探さないで〜隠された愛と男装王女の誓い〜  作者: 国士無双
第2章:王子様、ぼくを探さないで
112/112

偽りの王子たちは、薔薇姫に触れる【※】

【※注意】スキンシップ表現等あり(R-15:背後注意!)

 コウモリからヒトの姿に変わった第3王子が、目を閉じたまま、ぼくに寄りかかってきた。

 

(む、無理! 何も着てないなんて!)

 

 ぼくの鎖骨の辺りに、王子様の鼻が触れて、くすぐったい。


「いやぁっ……」

「いい匂い。俺様は夢を見てるのか? 女の子とお家デート……やわらけぇ!」

 

 匂いを嗅がれたと思ったら、いきなり前から抱きしめられた。


「きゃぁあああ!」

「へぇ、かわいい声。女の子と一緒にいるなんて、贅沢な夢だ〜」


 腕をがっちり掴まれて、身動きが取れない。


「待って! 苦しいから、離して!」


 ぼくの叫びに、寝ぼけた王子様が手を伸ばし、口を塞いだ。


「静かにしろよ……お嬢さん。キスしてもいいのかよ?」

「んー!」


 必死に首を横に振ると、王子様は喜色満面の笑みを浮かべた。


「いい子だ。ご主人様もいないし、この後、俺様が独り占めする……じゃあ、おやすみ」


 そう言って、再び眠りについた。


(ど、どうしよう! 信じられない!)


 相変わらず、距離が近過ぎる。

 王子様の呼吸が肌に当たるだけでなく、体温までもがじんわりと伝わってくる。


(貴方の言うとおり、現実じゃなくて、夢なのかな……? ねぇ、誰か――)

 

 その時、危機を察したルルが目を覚まし、顔を真っ青にして、ぼくのもとへ飛んできた。


「サラちゃん、大変! 王子様に捕まってるじゃない! 何が起きてるの?!」

「ルル! プランケットにコウモリがいたみたいで、いきなり、この姿に変わったんだ!」

「大丈夫?」

「大丈夫じゃないかも。全然抜け出せない。力が強すぎて……あっ!」


 ぼくは、キーちゃんが教えてくれた情報を思い出した。


『第3王子はコウモリの従魔を所有している』


「そうだ、ルル。この第3王子は、コウモリの従魔が化けているんだ!」

「あぁ……なんてこと! うーん、ダメだわ……」


 ルルが王子様の首を後ろから引っ張るけれど、起きる気配すらしない。


 本当なら、魔法を使って、今すぐにでも離れたい。

 なのに、身体を押さえつけられていて、魔力がうまく出せない。


(困った。こういう時、どうしたら?)


 ぼくの焦りは、ルルにも伝わってしまった。

 ルルは眉を寄せて考え込んでいたが、何か閃いたように、パッと顔を上げる。


「サラちゃん、大丈夫よ。助けを呼んでくるわ! わたし、知ってるの。こういう不審者対応が得意な人物を!」


 ルルは羽音を立てながら、部屋の鍵を掴み、ベランダの方へ飛んでいく。

 

「えっ? どこに行くの?」

「すぐ戻るわ! 助けを呼んでくるから!」


 ベランダを開けたかと思うと、すぐに窓を閉めて飛び去っていった。

 

 ルルは自由に動けるのに、ぼくは身動きが取れないまま。

 ちなみに、従魔だった第3王子は、ぼくに抱きついたまま、幸せそうに爆睡していた。


「うーん、従魔が人の姿になれるなんて。どうして、そんなことができるの?」


 起こさないように、一人で呟いていたら、上から誰かの影が落ちてきた。


「これは一体……何してるんだ?」


 寝息しか聞こえない部屋に響く、深みのある声。

 かろうじて、自分の頭を上げてみると、そこにいたのは――眠たそうな顔をした、ぼくの親友だった。


「ニコくんっ! 助けて……重くて抜け出せないんだ!」

「あぁ……すぐに助ける」


 ニコくんは、第3王子の額に指を当てた。

 親指と人差し指でそっと触れたかと思うと――。


栄和(ロン)


 麻雀(マージャン)用語を低く囁き、デコピンを放つ。


 勝負あり、と言ったところだろうか。

 

 目を閉じたままの第3王子の身体が、みるみるうちに、茶色い毛並みに変わり、元の小さなコウモリの姿に戻っていく。軽くなったと同時に腕の拘束が解け、ぼくはようやく身動きが取れるようになった。


「すごい! デコピン一発で決まった! 何したの?」

「“ロン”って言えば、コイツは戻る」

「へぇ! 麻雀用語で効果が出るんだ。あはは……」


 魔法のキーワードが、麻雀用語だなんて。そのギャップが面白くて、ぼくはつい笑ってしまった。

 

 しかも、初めて知った情報だった。吸血鬼族のニコくんは、普段は言葉を使わずに魔法を操るけど、従魔に対してだけは声を出して命令しないといけないらしい。


 ぼくが笑っているのを見て、ニコくんは少しだけ目を見開いた。

 

「サラ、麻雀を知ってるんだな」

「うん! あっ、この子をどうしよう……」


 コウモリの従魔が「ずっと夢の中にいてぇ……」と寝ぼけている。

 ぼくが恐る恐る声を掛けようとしたら、ニコくんが先に、従魔の首裏を指でつまみ上げた。


「コイツは一旦、オレの部屋で預かる。すぐ戻るから」

「あっ、ありがとう!」


 ニコくんはぼくの言葉に無言で頷くと、従魔と共に姿を消した。

 その背中を見送ってから、ぼくはルルの方を振り向く。


「ルル、ナイス判断! 本当にありがとう」

「サラちゃん、どういたしまして。あら、可哀想に……怖かったわね」


 ルルが急いで、ぼくの背中をさすってくれた。

 なぜなら、ぼくが涙を浮かべながら、震えていたからだ。


 この震えの原因は、わかっている。

 三分の二は――裸の第3王子に抱きつかれた羞恥。

 残りの三分の一は、従魔が人に変わる瞬間を目にした恐怖。

 

 それでも、その涙は頬を伝う前に止まった。

 震えも、すぐにおさまった。

 

 助けてくれたニコくんが、ノックして、ぼくの部屋に戻ってきてくれたから。

 さっきは瞬間魔法で現れたけれど、今度は律儀に玄関からだ。


 眠たい中、助けてもらったのに、ぼくが泣いて、また困らせるのは絶対にダメ。

 実際、ニコくんは口を「ム」の形にしていて、ちょっと機嫌が悪そうだった。


「助けてくれてありがとう。眠たいのに、ごめんね」

「謝らなくていい。それより、アイツに何された?」

「えっ?」


 ニコくんは玄関の鍵を閉め、ぼくが座っているソファの方へ歩み寄る。

 隣に腰を下ろし、ぼくの着ている服を指差した。


「今の君は、誰が見ても女の子にしか見えない。その服、アイツに着せられたのか?」

「違うよ。このお洋服は、オーちゃんが去年プレゼントでくれた大切なものなんだ」

「ふーん……。じゃあ、アイツは君のその姿を見て、何て言ってた?」

「あのコウモリの子、寝ぼけてたから、ぼくのことを認識してないよ。でも、“ニコくんみたいに、自由に生きたい”って言ってた。どうしたんだろう?」


 ぼくの脳裏に、あの言葉が蘇る。

 

(“吸血鬼族の男に戻れたら”――あの子は、元々、吸血鬼だったのかな? それに“地下室に行かないと”って言ってたのは……!)


 ぼくの中で、ひとつの答えが出た。

 第3王子は二重人格なんかじゃない。

 月曜と水曜に会ったのは、従魔の方だったんだ。

 

(でも、なんで、従魔に地下室を調べさせてたんだろう?)


 やっと、謎が解けたと思ったのに、また新しい疑問が浮かんでしまう。

 

 だが、そんなぼくの思考を、ニコくんが遮った。両手で、ぼくの目を覆ってきた。

 

「うわぁ! 何するの?!」

「君は何も知らなくていい。今日のことは忘れろ。何も考えるな」


 とても冷淡な言い方。

 その突き放すような響きに、胸がちくりと痛む。

 さっきまで泣かないと決めていたのに、もう我慢できなかった。


「わかってる……。ぼくがプランケットを回収する時に、ちゃんと確認すればよかったんだ……」


 鼻が赤くなり、涙声で言葉が詰まりながらも、事情を伝えると、ニコくんが手を離してくれた。

 けれど、その手は離れてすぐに、ぼくの背中をゆっくり撫でる。

 

「悪い……言いすぎた。責めるつもりはなかった。ただ、他のヤツが君に触れたのが、許せなかったんだ。だから、オレにも……触れさせてくれ」

「ぁっ……!」


 どうしよう。

 前から、ぎゅうっと抱きしめられた。

【※余談】

作中の「三分の二と三分の一」は、麻雀の和了比率(ロン:ツモ=2:1)から来ています。

サラちゃん自身、「羞恥(他人由来)=ロン」「恐怖(自己由来)=ツモ」に重ねています!

次回もお楽しみに。

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