汗ばむ素肌に触れる第6王子 ※第一王女→第6王子視点【※】
【※注意】第6王子によるスキンシップ表現あり(R-15:背後注意!)
ニコくんの唇がぼくのおへそに触れそうだ。
ぼくは逃れたくて、必死に言い訳を探しながら、時間を稼ぐことにした。
「ダメだよ! ぼく、汗かいてるからっ!」
「知ってる、緊張してるんだろう。太ももに汗の雫が……」
「ぁっ……!」
突然、ニコくんが硬い親指でぼくの汗を拭った。そのなぞる感触がむず痒くて、甘い吐息が漏れてしまった。
(ヤダ! こんなことになるなんて……)
「もう! ニコくんのイジワル!」
ぼくが頬をぷくっと膨らませて顔を背けても、ニコくんは構わず、ぼくの手をぎゅっと握った。
「イジワルなのは仕方ないだろ。君が可愛いからな」
「えぇっ!」
やっぱり変だ。さっきから、ニコくんらしくない。
優しそうな目をして、『可愛い』だなんて。
シナモンシュガーみたいに、脳が活性化されそうな甘いセリフにドキドキする。ぼくの心臓がもたない。
(ぐぬぬ。今のところ、ニコくんが主導権を握っている。ならば、ぼくの方から提案すればいいよね!?)
「ニコくん、休憩しよう?」
「却下。ごちそうを目の前にして、休むわけがない。サラ、いただきます」
両手を合わせ、企んだような顔をしている。
「やっ! ま、待って……!」
ガラッ――!
ぼくが叫んだと同時に、部室のドアが開いた。
「サラ、お待たせ! オウレン先生にサラの制服もらったよ!」
「ごきげんよう、サラ!」
アンズちゃんとケイちゃんが慌ただしく更衣室に駆け込む。アンズちゃんはもう学ランではなく、ケイちゃんと同じく、いつもの制服を着ていた。
ナイスタイミング……と言いたかったけれど、今のぼくはチアガール衣装のまま、ニコくんにおへそをじっと見つめられている。どう考えても、怪しすぎる状況だ。
「えっ! ニコくん、サラに何してるの?!」
アンズちゃんが目を丸くする一方で、ケイちゃんは鬼の形相で睨みつける。
「ニコ、あんた! サラは女の子よ! もっと優しくしなさいッ!」
ケイちゃんの指摘に、ニコくんはむっとしてアンズちゃんに言い返した。
「アンズ。サラが女の子だと、オレたち以外にバレたら、どうするつもりだったんだ?」
「ごめん! だって、私はウエストが合わなかったんだもん! ていうか、そもそも……なんでチアガール衣装があったの?!」
アンズちゃんが首を傾げると、隣のケイちゃんが真っ先に挙手して答えた。
「アタシの会社で必要なの! あるスポーツイベントでチアガールを募集していてね。このザダ校のクリーニング屋さんが衣装制作もやっていると聞いて依頼したのが、ちょうど届いたから、このロッカーに入れておいたの」
ケイちゃんの説明に、アンズちゃんは「なるほど……よくわからないけど、ケイちゃんはすごいってことだね!」とパチパチ拍手した。ぼくもボンボンを揺らして一緒に拍手すると、ケイちゃんがぼくの前に歩み寄った。
「いやー、こうして見ると素敵な衣装ね! まあ、サラが可愛いからね。でも、ちょっと太もものあたりが汗ばんでるわ。通気性はどうかしら?」
忘れていた。
ケイちゃんは猪突猛進。
容赦なく、ぼくのスカートをめくった。
「見ちゃダメ――!」
あまりの恥ずかしさに叫びながら、慌ててスカートの裾をおさえたけど、間に合わなかった。
いつもは平然としているケイちゃんの目が、大きく見開く。
「サラ……! 貴女、下着はボクサーパンツなの?!」
(あぁあああ! 終わった! ぼくの下着事情、お友達にバレちゃった!)
女性だとバレないように、普段はシンプルなボクサーパンツを履いている。
まさか、お友達に見られるなんて……本当に恥ずかしい。
「だって、男子生徒として在籍してるから……」
「あっ、そうよね! バレるわけにいかないものね」
ケイちゃんの発言を聞いたアンズちゃんは「えらいよ。本当に男の子として頑張ってきたんだね……」と涙目になりながらも、「あっ! バイト行かなくちゃ! サラ、はいっ!」と制服を差し出してくれた。
「アンズちゃん、ありがと。着替えるから、入ってこないでね!」
みんなを部室に追いやり、一人で更衣室へ。チアガール衣装から学ランに着替えて、最後に頭のリボンを外すと――いつもの自分に戻っていた。
さっき、みんなが「可愛い」と言ってくれて、正直すごく嬉しかった。
髪も、本当は伸ばしたい。
可愛いものが大好きなのに……。
(はぁ……やっぱり男装してる方が落ち着くなんて……)
少しブルーな気分のまま着替えを終えて部室に戻ると、ニコくんが一人で鍵を手にしたまま、椅子に腰掛けていた。
「ニコくん、待ってくれたの? ごめん! アンズちゃんはバイトだよね、ケイちゃんは?」
「ケイもアンズのバイト先に行った。カフェ勉をするって」
「そうなんだ」
「それより、元に戻ったんだな……」
ニコくんはぼくの髪を指差して言った。
「うん。さっき、アンズちゃんが魔法で伸ばしてくれて、すごく嬉しかったけど、この長さの方が慣れてるから……」
「そうか。疲れただろ、寮まで帰ろうか……お嬢さん」
「オジョウサン?!」
いきなりのお嬢さん呼びに、キツツキのように片言で言い返す。そんなぼくをよそに、ニコくんはぼくの腰に手を添え、丁寧にエスコートしてくれた。
「安心しろ。君と二人でいる時だけ、そう呼んでる。だから、身分とか男装のことなんて気にするなよ」
ニコくんの顔に陰りが見える。その短い言葉の裏に、第6王子としてのプレッシャーがあるのかもしれない。普段は表に出さないけれど、こうして言葉にしてくれる時もある。なんだか、“親友”の意外な一面を垣間見た気がして、嬉しかった。
「わかった、気にしない! だから、ぼくとこれからも仲良くして……」
「あぁ」
「でも! さっきみたいなのは、お友達同士でしちゃダメだからね?」
両手の人差し指でバツマークを作って「ダメ」と表現する。なのに、その上からぼくの指を握るニコくん。
「オレはそこから先の関係……いや、今はいい。帰ろうか」
「うん!」
二人で男子寮へ戻った。一言も話さなかったけれど、この時間は気まずくなく、むしろ心地良かった。
(ぼくも、君と一緒にいる時は、自分らしくいられる気がするよ)
その想いは、胸の内にしまい込んだ。
* * *
寮に戻り、自室にこもった。
忘れられない。あの露出の多い姿。
白い素肌が汗に濡れて、艶めいて見えた。
あぁ、噛みつきたい。
吸血鬼としての本能が騒ぎ、喉が渇いたように熱くなる。
「君が可愛い」
その一言で片付けたが、甘い匂い、汗ばむ白肌、柔らかな身体つき……全部、オレを狂わせる。
誰にも見せるな。オレ以外に、絶対触れさせるな。
君の素肌も、そのおへそも、流れる血も……オレだけの『ごちそう』だ。
王族の縛りなんて、クソ食らえだ。
全てを敵に回しても、オレは欲しいものを奪う。
(だから、逃げるなよ。サラ)
【余談:ガールズトーク】
アンズちゃん「ねぇ。ケイちゃん、さっきのサラ……やっぱ可愛いよね! チア衣装、本当に似合ってた! だけど、人間にしては体毛が全く生えてなくて、すごく色白だったね」
ケイちゃん「そうね。隠してるのが、本当にもったいないわ。あっ、今度サラを下着屋さんに連れて行きましょ。そうねぇ、レースとかリボン付きのパンツが似合いそうね……」
アンズちゃん「えぇ〜! サラ、照れるだろうなぁ。でも楽しそう。ていうか……ケイちゃんは気づいた? ニコくん、サラのこと好きだよね。異性として、サラのことを意識してそう」
ケイちゃん「ふふっ。ニコのあの目つき、“大好き”って書いてあったわよ。独占欲ダダ漏れ。一匹狼だけど、とてもわかりやすいわ」
アンズちゃん「えー! 王子様と貴族令嬢が付き合うのって素敵。結婚式、呼んでもらおうかな?」
ケイちゃん「いいわね。でも、結婚まではわからないわよ。この国は女性が少ないのだから。サラはもしかしたら、他の王子様に目を付けられているかもしれないわ」




