ずっと、ここに8
ずっと、ここに8
直哉の会社は24時間営業のレストランだが、直哉は店長であるので、ほとんどは朝8時頃お店に出勤し、夕方6時には店を出て家に帰る生活をしていた。
店では、ほとんど店長室にいて、仕入れの管理や会計、売り上げの集計、本部への連絡、バイトの時間の組み合わせなどの事務仕事が主だった。
たまに、店のホールの様子をそっと陰から見て、客の反応をみていた。
夕食は、ほとんど近くのスーパーで弁当を買ってきて食べていたが、正直それには飽きていた。
イタリアンレストランの店長が、毎晩、弁当だとは何かさもしい気がしていた。
しかし、今日からトモコが家で食事を作ってくれている。
昨日、ちょっとした出来合いのものでトモコが作った食事は美味しかった。
もしかしたら、彼女は料理のセンスがあるのかもしれない。
今日は何を作っているのだろう。
直哉は、久しぶりの家庭料理を楽しみに思って帰途についた。
「ただいま」
直哉は玄関を開けて、大きな声で言った。
「おかえりなさい」
トモコの声だ。
「もうすぐ食事ができます。ちょっとだけお待ちください。よかったら、お風呂が沸いていますので。食事の前にお入りになりますか?」
直哉はそのように言われることがとても新鮮に感じた。
「ありがとう。お風呂に入ってくるよ」
直哉はトモコの提案に従った。
「ビール、冷やしておきますね」
トモコは味噌汁を作りながら直哉に言った。
テーブルにはメンチカツとポテトサラダ、豆腐と揚げの味噌汁、炊き込みご飯が用意されていた。
直哉はこんなに料理を作ってくれて、素直にうれしく思った。
それにメンチカツは直哉の大好物だ。
トモコは直哉にビールを注いでくれた。
ビールを一気に飲み干してから「いただきます」と、直哉はまずメンチカツを口に入れた。
アツアツの肉汁が口の中に広がり、香ばしい匂いが鼻に抜けた。
「美味い、これは美味い、こんなに美味しいメンチカツは食べたことがない」
直哉は思わず言った。
「お口に合ってよかったです」
トモコの顔はまだ大きな絆創膏で隠されているが、褒められて目が輝いていた。
「私もいただきます」
トモコもメンチカツを一口食べた。
「ホントだ、美味しい。私もこんな美味しいメンチカツ食べたことがない」
二人で大笑いした。
「洗濯も掃除もしていてくれたんだね、ありがとう、でも無理しなくていいよ」
直哉はトモコのケガを気遣った。
「ありがとうございます。でも大丈夫です」
「二階の奥の部屋はトモコさんが自由に使っていいよ」
「はい、すでに使わせてもらっています」
トモコが冗談交じりに微笑んだ。
それから、直哉は毎日、寄り道をせずにまっすぐ家に帰ってきた。
そして、毎日、トモコの料理を堪能した。
何を食べても、本当に美味しかった。
そして、二人の間の会話が日に日に盛り上がっていった。
しかし、トモコの記憶は戻らなかった。