ずっと、ここに7
ずっと、ここに7
どのくらい寝ていたのだろう。
こんな想定外のことが起きてだいぶ疲れたんだな。
直哉は天井を見て思った。
そういえば、あの女性はどうしただろう。
起き上がり、階段を上がっていった。
掃除機をかけている音がする。
あの女性が掃除をしていた。
「あ、すみません。勝手に掃除機使わせてもらってます」
「いいけど、体調大丈夫?」
直哉は大きな絆創膏で覆われている顔を見た。
「休んだら、少し元気になりました。ありがとうございます」
「ところで、あなた、名前は?」
「トモコと言います。苗字が思い出せない‥」
トモコは頭を抱えた。
「そのうち、思い出すさ」
「お礼に掃除、洗濯、食事を作らせてください。お願いします。終わったら出て行きます」
トモコは掃除の続きを始めた。
二階の掃除が終わり、一階の掃除を始めた。丁寧に拭き掃除までしてくれて、見違えるように綺麗になった。
そして、溜まっていた洗濯もしてくれた。
「冷蔵庫の中のものを使ってもいいですか?」
「あまり何もないけど、いいよ」
冷蔵庫の中には、卵と少しの野菜と缶詰くらいしかなかったと思う。
トモコは慣れた手つきで料理をしはじめた。
綺麗に皿に盛り付けてくれた。
「一緒に食べていいですか?」
トモコは心配顔だ。
「もちろんいいよ。かえって、ありがとう」
もう、夜になっていた。
二人でテーブルで向かいあって、食事をした。
卵と野菜を炒めて、それにサバの缶詰を混ぜて、絶妙に塩、コショウを混ぜあり、これだけの具材でこれだけ美味しい料理を作れるトモコに感心した。
「うまい!」
直哉は思わず声が出た。
「よかった!お口にあってよかったです」
トモコが笑顔になったようだ。
顔に大きな絆創膏がしてありハッキリとは分からないが、よく見ると澄んだ目をしており、鼻が高く、整った顔をしているのが分かった。
「トモコさん、何があったんだろう?」
「それが思い出せないです。なんで私、ここの家で寝ていたのだろう」
食事が終わり、トモコは食器を洗い、丁寧に拭いて、食器棚に戻した。
「今日はありがとうございました。私はこれで失礼します」
トモコは直哉にお辞儀をした。
「でも、トモコさん、行く所ないでしょう。もしよかったら、しばらく思い出すまで、二階の部屋にいてもいいよ。その代わり、掃除、洗濯、料理をしてくれるかな」
直哉は提案し、自分のお人よしの面が出たと思った。
素性の分からない人を預っていいのか。
しかしトモコは警察に言うのを嫌がっているし、今更言ったところで自分にも何か疑いがかけられるかもしれないと思った。
二人とも大人だし本人同士が良ければいいだろう。
「いいんですか。助かります。一生懸命、家のことします」
「よし、じゃあ決まりだね。よろしく」
直哉は正直良かったと思った。
タダで家事をしてくれるとは自分も助かる。