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第2話 今の自分は

 転生、と言い切ってしまったが、今の自分の状態が本当に転生したものであると断言は出来ない。


 


 全て理解したと言っても、それはあくまで現在の俺、いやこの肉体の持ち主に関して、そしてこの世界に関してのことである。


 


 ただ、この状況を表すなら、転生したと言う他ないとは感じている。そうでなければ、この現実離れした現象に説明がつかない。


 


 恐らく、前世の俺ーー記憶にある地球の日本で生きていた自分ーーは交通事故か何かで亡くなり、この世界のこの肉体に魂が宿ったと考えるしかないのだろう。




(輪廻転生、いやこれまで何回も繰り返したかは分からないけど、別の肉体に魂だけが引き継がれる、こんな現象が本当に起こり得るんだな)


 


 と、このように自分がなぜ全く違う身体になり、見知らぬ場所にいるのかは一先ずは理解出来た。




(いや、ていうか理解は出来ても、とても素直に納得出来る話じゃないんだけど…)


 


 だが、それでもある程度冷静に事態を受け止めていられる理由も分かる、それは……




(この世界で、この男の子として生きてきた記憶も確かに存在するからなんだろうな)




 先程の一瞬にも満たない時間の中で得た、今の自分の記憶。それが確かなものか、普通は疑うものなのかもしれないが、物心ついた時から今まで、およそ十年分もの記憶があれば、本物と思うのも仕方ないだろう。




 今の自分の名前はラース・フェルディア。十三歳。フェルディア伯爵家の次男で、所謂伯爵令息というものだ。


 伯爵という言葉から分かる通り、今の俺は貴族の生まれらしい。


 


 この世界は元居た地球とは、世界観が大きく異なる。前世のイメージで言えば、中世ヨーロッパのようなものだろうか。


 とはいえ、ある要素によってこの世界は部分的には地球よりも発展しているし、前世の常識では考えられないようなものも存在しているため、一概にイメージ通りと言える訳ではない。




 さて、ラースの話に戻るが、俺が先程「とんでもない男」と思ってしまったことにも、しっかりとした理由がある。


 




 この子は悪童なのだ、それも手が付けられないほどの。


 傲慢、高慢、不遜、横柄、浅慮と悪い表現がどれも当てはまるような性格をしている。


 


 とはいえ、まだ子供であるため、別に犯罪を犯しているとか日常的に暴力を振るっていたなどという訳では無いが、それでも自分の言うことが絶対だと思っていたり、貴族以外を人として認めない発言をしていたりと好き勝手しているため、周りの人間ほぼ全てから嫌われている。


 


 叱られて治るような性格をしていないため、厳しく躾けようとしてはいるが、親も相当手を焼いている。


 


 


 ラースの親に関しては、非常に清廉潔白で誠実な性格をしており、家の者や街の人間達からも慕われている。


 そんな親に育てられ、なぜこのような悪童になってしまったか理解に苦しむが、それが今の自分だというのだから、尚更気が重い。




(なんでよりにもよって、この子に転生したんだ…)




 ちなみに、なぜこのようにじっくりと考え事をしていられるかというと、


 あの後、体調が悪いのでもう少し休んでいるという旨をあの女の子に伝えて、下がってもらったためだ。




 その時、女の子が戸惑い、不審そうな表情をしたが恐らく俺の雰囲気がいつもと違ったためだろう。


 だが、早く考え事をしたかったため、少し強引に部屋から出てもらった。




 今なら彼女のこともはっきりと分かる。


 彼女の名前はアンナ、ラースの専属メイドであり、ラースのことを嫌っていない数少ない人物の一人だ。




(……いや、それも記憶の中のラースへの接し方から判断しただけで、本心では嫌ってるかもな)




 しかし、実は彼女は自ら志願してラースの専属メイドとなった。そのことからも、仮に心の中では嫌っているとしても、他の人間ほど酷くはないだろう。




 


 


 


 と、ここまで今の自分、ラースにまつわる様々なことを考えてきた。


 自分が恐らく転生し、水無瀬令人は死に、ラースの肉体に魂が宿ったということで無理矢理にでも納得はした。………したのだが、




(俺は、令人なのか…ラースなのか…どっちなんだろう、どっちとして生きていけばいいんだろう)




 肉体は紛れもなくラースであり、そもそも世界が違う。なら、ラースとして生きていく? 


 しかし、そう簡単に割り切ることなど出来ない。


 


 


 別に前世に未練があるという訳ではない。


 水無瀬令人は至って普通の青年で、普通の人生を送っていた。


 親不孝をしてしまった両親や友人達に申し訳ない気持ちも確かにあるとは言え、正直、死んだということに関しては、自分でも驚くほどにあっさりと割り切れた。




 しかし、だからと言って、では新しい世界で生きていこうとは思えない。


 ラースの記憶があるため、この世界で生きていくことに関しては、一先ず問題ないだろう。


 問題なのは、俺の心持ちの話だ。




(いっそ、この状況を他の人に打ち明けてみるか?)




 




…………いや、やめた方がいいだろうな。


 


 少し考えてみたが、その選択肢だけは無いと判断した。


 生まれ変わって転生するなど、荒唐無稽過ぎて信じられない話だろう。俺だって、自分が経験していなければ、とても信じられることではない。


 


 


 それに、そもそもラースは嫌われている。まともに取り合ってくれる人間などいないだろうし、相談出来るような相手も居ない。




 むしろ、今までの悪行を有耶無耶にしようと、嘘をついていると思われ、今以上に嫌われる方が現実味がある。


 


 また、別の人間の人格が宿るなどラースの記憶から考えても聞いたことのない話のため、気味悪がられる可能性もあるし、下手をすれば異端な存在として扱われるかもしれない。




 と、少し考えただけでもこれだけのデメリットが思い浮かぶ。水無瀬令人のことに関しては、極力人に知られない方が良いだろう。




 


 


 色々考えた結果、自分がどうしたら良いか余計に分からなくなった気もするが、


 




 だめだ、考えても全く納得の出来る答えが見つからない。




(………それもそうか、死んで生まれ変わるなんて普通あり得ないことなんだから)




 


 


 と、そんな風に真面目なことを考えていたはずだが、




(お腹が空いたな……)




 今後のことを考えなければならないはずなのに、欲求に抗えない単純な身体に呆れてしまう。




 しかし、丁度いいタイミングだったのかもしれない、これ以上考え込んでも意味は無さそうに思えたし、いつまでも部屋に引きこもっている訳にもいかない。




(アンナさんに声を掛けるしかないか……)




 ラースはフェルディア伯爵家の中でも、皆が住む本館には居ない。親が罰を与える意味も込めて、ラースだけを離れに住まわせている。そして、そこに専属であるアンナも一緒に住んでいる。




 ラースの食事はいつもアンナが用意してくれていたため、今もアンナを探すしかない。




(自分で用意しても良いけど、既に用意してくれてたら申し訳ないからな)




 何はともあれ、まずは部屋を出なければ始まらない。

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